イタズラかおかしいな?
『TELLLLLLLLL……』
コール音が鳴ったのは、トモダチとパーティーをしてきてベッドにダイブした直後だった。
パーティーとはいえ未成年、お酒など入っていないし、カレシカノジョになってるヤツラとは違ってオレには夜通し語り合うような相手も居ない。
「はい、もしもし」
『あっ、せんぱぁい』
少し高く軽い声。
バスケ部のマネージャーをしてくれてる、後輩の三瀬衣里だった。
友人たちからは『イリちゃん』と呼ばれ愛されている。
でも、オレにはずうっと図々しい態度や、からかいを含むコトが多く、どうにも『ちゃん付け』で呼ぶ気にはなれなかった。
『はっぴーはろうぃーん☆ トリック・オア・トリートっす~☆』
「おー、はっぴーはっぴー、ってさっきも言ってたろ」
『知らないうちにワタシのコトだけ忘れてるかも知れないじゃないっすかー、せんぱぁいは忘れやすいからあ~☆』
ちなみにさっきまで集まっていたのは『バスケ部友人会』によるハロウィンパーティー。
その中でイリは女子バスケ部の主将たちに抱き付かれていた。
むさ苦しい男バスより女バスのマネージャーをやって欲しい、という意味もあったろう。
それくらいイリはマネージャーとして有能だった。
部員の得手不得手を見抜き、先生にポジションや作戦の提言もする。
基礎メニューの不足してる部員にはテクニカルなアドバイスもする。
参考になるプレーなど、動画サイトからピックアップしてSNSで共有したり、と内外に渡っての世話焼きにより、彼女が部に入ってから、ウチの部は急成長した。
「うるっせ。オレは気合いでプレーが輝くタイプなんだよ」
『知ってますって、でも根性論じゃ基礎体力は育たな…… いや今日はそんな話をしたいんじゃなくってですね~……? というかハロウィンっすよ。ホラホラ?』
……?
ハロウィンだから、何だ?
オレには意味が解らない。
「どーゆーコトだ、ちゃんと説明をしろ」
『だッ、だから……! トリック・オア・トリートってもう言ったじゃないっすか!』
「お、う?」
『イタズラか、お菓子か、です!』
「……は? 電話の向こうで話してて、お菓子なんて渡せねえだろうが」
コイツはまた、何を言い出したのか。
いつものからかいだろう、とオレは声を低くし怒りをあらわにしていた。
『地が出ちゃってますう、こわ~い☆ でもでも、お菓子がダメならもう、イタズラされるしかないっすよお☆』
「電話の向こうからのイタズラなんか、デタラメ言うくらいしかねえし、どってコトもねえさ」
『……デタラメ、つまり、ウソっす、よね。今日はハロウィンだから、イタズラを選んだんっすから、ワタシっからのイタズラを、受け止めるしかないんす。ちゃんと、聞いててほしいっす……!』
何を言ってるんだか解らないが、パーティーでちょっとはしゃぎすぎたオレはベッドに寝転んだままイリの高い声を聞いていた。
「……んで?」
『せんぱ、い。ハロウィンですからね? 悪戯ですからね? ……好き、です、せんぱぁい!』
「……は? おいちょっ……!?」
『すき、です。すき…… 先輩好き、すきすきすき、好き! だいすき!』
右耳から脳へ向けて送り込まれる情報に頭が混乱する。
シゴデキなマネージャーのイリが、いつも悪態とかからかいばかりのイリが、オレを?
あっ、いや、悪戯なんだった、本気にしちゃダメだ…… イタズラだよな?
『好きなん、です……! ですから! ずっと一緒に…… カノジョにして、くださ……い!』
電話じゃあいつもの、丸顔だけどツリ目で生意気そうなイリが見えない。
小さくて毛並みの良い猫みたいな、普段のおすまし気な雰囲気と違いすぎて、なんだか大切に扱いたくなる。
「イリ…… それって、けど、本気……?」
でも、ソレを確かめるように問い掛けると、彼女はいつもの、生意気のカタマリみたいな声に戻っていた。
『はいっ、イタズラ終わりッ!』
「……お、おう。じゃあ、今のは、デタラメ、だよな?」
『ハロウィンっすよ、せんぱぁい☆』
それでいい、と思う自分と、もしも、イリが言った告白が本気なら、と疑う自分が居て、繰り返し疑う自分が大声を上げている。
繰り返し、もっとちゃんと話さなきゃいけない、そう思うのに。
『……じゃあ? せんぱぁい、お休み、なさい……』
イリが話を終わらせようとしてる。
なんだか泣いてるように感じ、オレは。
「ハロウィンは、もう三分前に終わってたぞ」
『あっ、あっ、うう、そ、そうっ、すね……!』
オレはこの事実に照れ、そして恥ずかしがるイリの声に『合っていた』という安堵を覚えた。
つまり『ハロウィンが終わってからの告白』だから、デタラメじゃない。
ウソじゃないキモチを、彼女は伝えていた。
「カノジョに…… なってくれるのか? オレはこんな、かなりお調子者だし……」
『ナメないでください?』
「イリ?」
『ワタシ先輩をずうっと見てましたからね? 入学前から、ワタシがもっと小さくて可愛い頃からチビッ子バスケで活躍するあなたを、見てきたんす…… 忘れっぽくてガッツがあって、集中力ハンパない、キラキラしたせんぱぁいがあっ…… すきなんすぅ……!』
彼女は、地域こそ少し離れていたが、お兄さんもバスケをやっているという繋がりから昔も関わっていた。
だから呼び捨てにしてたし、絡むのも当たり前かなと思っていた。
思ってきた。
でも、こんな、こんなに思われていただなんて知らなかった。
……いや、知ろうとしなかったんだ。
「イリ? さっきは、無神経だったと思う。ごめんな。日常的にからかわれてたから……」
『そ、それはワタシも悪いっすから。それで、あの、彼女には、ちゃんと、してもらえそうっすか…… ね?』
彼女にとって初めての恋かも知れない。
オレは、その恋を受け入れていいのだろうか。
……いいや、良い悪いじゃない。
オレはイリを好きになっていた。
生意気だけど的確なアドバイスをしてくれた、年上だからとか気にせず提言する姿勢に、目を奪われていたんだ。
「年下なのにカッコいい女の子だなあと思ってたけど。これからはイリと一緒に生きてく。オレの彼女になって欲しい」
『……はいっす!』
彼女の笑顔は見えなかったが、まぁいい。
笑顔は改めて、明日会ってから見るコトにする、それだけだ。
『……でもワタシと生きていくとか、ちょっと重たくないっすか?』
「そう決めたんだ。だからしょーがねーだろ」
『そうっした。熱血せんぱぁいでしたもんね。ちゃあんとオツキアイするっすよ♡』
この電話は、終わるのが惜しくてイリが寝てしまうまで続いてしまった。
翌日は彼女が寝坊して、ちょっと複雑で、でも確かにしあわせな顔をして笑ってくれたのだった。
《おわり》
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