第八話「警察の登場」
支配人が通報してから10分程経った後、近くの交番に勤務する警察官2名がきた。支配人と健一が簡単に状況を説明すると、年配の警官の方が鍵穴を確認した。
「確かに…これはピッキングの跡だな…」
それを聞くと、一緒に来た若い警官の表情も強張る。
「とにかく中を確認しよう。支配人さん、この部屋のマスターキーはありますか?」
「一応、持ってきています」
年配の警官に聞かれると、支配人はマスターキーを取り出す。
「君たちは…この部屋に宿泊している先生の…生徒さん?」
若い警官が確認するように質問する。どうやら、支配人が先に状況を説明していたようだ。
「そうです。ひょっとしたら先生が病気で倒れてあるかもしれないと心配で、支配人さんの案内でここまで連れてきて貰ったんです。そしたら、このピッキングの跡が」
健一が答える。
「で、その先生も連絡が取れないと…。支配人さん、先生さんの安全を確認する上でも、部屋の中を確認しましょう。これから、私が呼び鈴を押して、声がけをします。それでも応答がない場合には、マスターキーでドアを開けてください」
「わかりました。警察の方が立ち会うというこでしたら、それで問題ないです」
「では、行きますよ」
年配の警官はそういうと、呼び鈴を鳴らした。
「すいません、警察です。開けてください」
年配の警官が何度かノックしながら言うが、やはり応答はない。
「返事はないな…。じゃあ、支配人さん、よろしくお願いします」
「わかりました」
支配人はそう言うと、ドアに近づき、マスターキーを鍵穴に挿入して、それを回転させた。
ガチャンと鍵が外れる音が聞こえる。
「あきました」
「開けますよ〜」
年配の警官はそう言いながら、ドアノブを回す。そして、ゆっくりとドアを開いた。
「こ、これは!!」
年配の警官は部屋の中を見て驚いた。健一達も部屋の中を見る。部屋は荒れていた。机の棚も全て開けられ、読書灯も床に倒れている。さらに衣服も散乱しているが、明らかにナイフか何かで引き裂かれた状態だ。
「君達は入らないで」
部屋に入ろうとする健一と美咲達を若い警官が止める。年配の警官は部屋に入る。部屋は一般的なビジネスホテルと同じ間取りで、入り口横に浴室とトイレ、そして入り口から奥に進むと机、その横にベットがある。テレビは壁に掛けてある。
年配の警官は浴室まで確認した。
「誰もいないな」
年配の警官はポツリと呟く。
「だが、これは明らかに事件だ。すぐに本署に連絡し、応援を呼べ」
「はい」
指示を受けた若い警官はそう言うと、無線機を取り出す。年配の警官は健一達の方に近づく。
「君たちからも話を聞かせて貰っていいかな?」
「はい」
美咲が答える。彼女はそれ以上の反応はできなかった。ただ、目の前の現実を受け入れることができなかったのだ。そして、彼女も恩師の安否に深い懸念を抱くようになった。
その後、神田警察署から刑事と鑑識が到着し、捜査が始まった。桂川先生の部屋の前には規制線が貼られた。幸いにもまだチェックイン時間の前だからなのか、2人の他に人は見物人はいない。
「先輩、これからどうしますか?」
健一が呟く。2人は規制線の外で立っていた。刑事達からは、後ほど話を聞くことになるかもしれないので、ここで待機していてほしいと言われている。
「ああ、そうだな…」
美咲は何も答えられなかった。全ては彼女の対応できる範囲を遥かに超えていた。桂川先生の無断欠勤という話が、一気に事件性を帯びたのだ。
(こんなの高校生の手に負える話ではい。まず、どうすればいい?大倉茗荷谷高校に連絡して明日以降の行事全てキャンセルして貰うべきか?いや、そんなこと考えている場合か?学校に連絡するべきか?というかこのまま東京にいて良いのか?神戸に帰るべきか?)
美咲は色んなことを考えるが、結論を出さない。そんな時、2人の刑事が部屋から出てきた。
「それ、本当か?」
1人の刑事が相方に聞く。
「ええ、さっき本店からそのように連絡を受けたと課長が…」
2人は少し困惑しているようだ。そして2人は健一達の方を向くと、2人に近づいた。
「えっと、亀岡さんと西岡さん?」
刑事の1人が確認するように聞く。
「はい」
美咲が答える。
「申し訳ないんだけどね。2人に詳しく話を聞きたいから、ちょっとついてきて貰える?」
「はあ、良いですけど」
「わかった。じゃあ、車のあるところまで案内するから」
刑事はそういうと、規制線の外側に出る。
「えっと、ここから出るんですか?」
美咲が聞く。
「うん、ちょっと署まで来てほしいんだ。気にしないで。別に君たちのこと何か疑っているわけではないから」
刑事は安心させるように言った。健一は違和感を感じた。2人はあくまでも第一発見者。ピッキングの跡を見つけた経緯や桂川先生との関係さえ聞けば、警察はもう2人に用はないはずだ。その程度の話ならここで聞けるだろう。
(何か…あるのか?)
健一は何とも言えない不安な気持ちを抱えながら、刑事について行った。




