第七話「鍵穴の異変」
「お客様、支配人でございます」
フロント近くにあるソファーに座っている2人に中年のスーツを着た男性が近づいて、こう話しかけた。
「お忙しいところ、ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」
美咲はそう言って、支配人で頭を下げる。
「いいえ、先生が心配だというお客様のお気持ちは当方としても理解できるものです」
支配人は言う。
「こちらとしても状況はわかりました。本来、個人情報保護の観点から、他のお客様の客室をお教えすることはできないんです」
「はい、先ほどもそう言われました」
「しかし、今回のご状況を伺う限り、確かに心配な状況ではあるかと思います。そこでなのですが、支配人である私が桂川様のお部屋まで伺い、お声がけをさせて頂ければと思うのです。そして、その際にはお二人にも同行して頂くということでいかがでしょうか?」
「いいんですか?」
美咲が驚いた表情を見せる。
「はい、幸いにもお客様のお部屋も桂川様のお部屋も大倉灘高校の名前で予約をされておりますので、あなたたちが桂川様の関係者であることは確認が取れております。但し、本来これは規則に反する行為です。こちらとしてもお部屋に伺う前に、お客様方の身分証を確認させていただきたいのですが・・・・」
「もちろんです」
健一はそう言うと、ブレザーの胸ポケットから生徒手帳を取り出す。美咲も生徒手帳を取り出した。支配人はそれを確認する。
「一応、こちら後ほどコピーを取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
健一は言う。
支配人の案内で、2人はホテルの4階まで上がっていった。
「こちらになります」
エレベーターを降りると、支配人が案内する。そして目的地である部屋にたどり着いた。403号室だ。ドアには「Do not Disturn」と書かれた札が掛けてある。今時のホテルでは珍しく、部屋の鍵は錠前のようだ。
「では、呼び鈴を鳴らしてみます」
支配人はそう言うと、ドア横の呼び鈴を鳴らす。
「お客様、フロントでございます。いらっしゃいませんか?」
支配人はそう言うと、何度か扉をたたく。しかし、応答はない。
「返事はございませんね」
「あの・・・・さすがに部屋の鍵を開けて頂くというのは・・・・・」
美咲はダメ元で聞く。
「正直に申し上げて、今の現状では難しいですね。例えばチェックアウト時間を過ぎてお出にならないということなら、できなくはないのですが。いかんせん、病気で倒れているという確証もないので・・・・」
支配人は申し訳なさそうに言う。
「わかりました。どうもお手数おかけして申し訳ありません。先生と連絡が付くまで、自分たちの部屋で待つことにします」
美咲はそう言うと、エレベーターの方に向かおうとする。しかし、健一はその場を動かない。
「西岡?」
美咲は怪訝そうに、健一に声を掛ける。健一はドアの鍵穴をジッと見つめる。
「先輩・・・・・・。これ、警察呼んだ方がいいと思います」
「突然何を言うんだ!!」
美咲が予想外の言葉に驚く。
「お客様、それはどういうことでしょうか?」
支配人が怪訝そうに尋ねる。
「先輩、これを見てください」
健一はそう言って、鍵穴を指さす。美咲も腰をかがめて、鍵穴をジッと見つめる。鍵穴の周りには不自然なひっかき傷がいくつかあった。この不自然な傷を認めた後、美咲の呼吸が止まった。
「先輩、多分これピッキングの後です」
「本当だ!!前に兄さんが見せてくれた資料集に乗っていたピッキングの痕跡と同じだ」
美咲も驚いて言う。そして支配人の表情も一気に変わった。
「そ・・・・そんな・・・・・」
支配人は少しパニックになっているようだ。
「支配人、今すぐ警察に連絡してください」
「わ、わかりました!!」
支配人はそう言うと、慌ててエレベーターの方に走っていった。




