第六話「ホテル」
数分もすると、サエがグループLINEにホテルの住所と名称を投稿した。生徒会メンバーのグループLINEだ。
「場所は水道橋みたいです」
健一は言う。
「とりあえず、私達はこのホテルに行こう。そこに桂川先生がいないかと確認に行かないとな」
そう言うと、美咲は立ち上がった。健一もそれに続いて立ち上がる。
「そういうわけでして、今日の会議に関しては一旦延期させてください。この度は本校の先生が原因でこのようなことになり、誠に申し訳ありません」
美咲は頭を下げた。
「いやいや、亀岡会長たちが悪いわけじゃないんですから、頭を下げてください」
橋本は困惑した表情で言う。既に御手洗先生は応接室を出ていた。彼もこの後用事があるからだ。教員が誰もいない以上、今日の会議を予定通りに開催することはできない。
「そうだよ~。亀岡さんたちは悪くないんだから、誤らないでよ~」
有田も橋本に同調する。
「そうだとしても、これは大倉灘高校の不手際です。学校の生徒会長として、謝罪させてください」
美咲は言う。
「本当に気にしないでください。それよりも、桂川先生の件は心配ですね。一昨日お見かけした際には、無断欠席するような方には見えなかったのに」
「そうだよね~。とても真面目そうな先生って感じでしたし」
「皆さんは既に桂川先生と会っているんですか?」
健一が聞く。
「一昨日、桂川先生がこちらに見えられて、御手洗先生と打ち合わせをした後、生徒会室にお越しになったんです。その時、私達生徒会役員も挨拶をさせて頂きました」
広川が言う。
「とにかく、早くホテルに行ってあげてください。ひょっとしたら先生も病気で寝込んでいるって可能性もありますし、僕たちも心配ですから、様子を見てあげてください」
橋本のその言葉を聞いた後、2人は応接室を出て、学校の外へと向かった。外の人通りはまばらだ。
「会長、あそこにいるのって・・・・・」
校門を出た後、西岡は道路の反対側を指さした。そこには新幹線で見た青いスーツを着た男がいたのだ。
「あの男・・・・・何でこんなところに・・・・・」
美咲も不安そうな表情を浮かべる。しかし、健一達の視線に気が付いた男はすぐにその場を去っていった。
「なんか気味が悪いですよね。桂川先生の無断欠席といい、あの男といい・・・・・」
「ああ、だがとりあえず今はホテルに向かおう」
「そうですね」
2人はそう言うと、茗荷谷駅まで歩いて行った。
丸ノ内線で後楽園駅まで向かった2人は、駅から水道橋駅まで歩いて行った。目的地のホテルは水道橋駅沿いの建っている真新しい建物だった。ホテル内に入ると、大きなスーツケースを持った外国人観光客達がたくさんいた。そんな外国人観光客達の間を通り、2人はフロントにたどり着くと、ホテルスタッフに、自分達が大倉灘高校の生徒であることを話す。
「大倉灘高校様ですね。確かにご予約は頂いております」
女性スタッフは言う。
「そうですか、ちなみにですが、1名は既に宿泊しているはずです。ひょっとして私達の部屋の鍵もその人に既に渡していたりしますか?」
美咲が聞く。
「いいえ、ルームキーはあくまで宿泊日当日にならないと、お渡しできませんので。一応、桂川様からは、本日ホテルのルームキーを受け取る旨の話を伺っておりますが、まだ受取にはいらしていませんね」
それも当然だと、健一は思った。
「そうですか、あの・・・・・桂川先生を呼び出して頂くことは可能でしょうか?」
健一はそう言うと、これまでの事情を手短に説明する。
「そうでしたか・・・・・。では、一旦お部屋の方を呼び出してみます」
女性スタッフはそう言うと、デスクにある受話器を取り、内線電話をかけ始める。しかし、しばらくするとそれをすぐに置いた。
「呼び出してみましたが、お出になりませんね。一旦チェックインをして頂き、また、時間をおいて再度フロントから内線電話をさせて頂くということでどうでしょうか?」
「あの・・・・・桂川先生の部屋を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
健一が聞く。
「おい、西岡」
美咲は小声でとどめる。
「申し訳ありません。他のご宿泊客様の部屋番号をお教えすることはできません」
女性スタッフは言う。
「規則はわかります。でも、僕たちは先生が心配なんです」
健一は真剣な表情で、女性スタッフを見る。
「実を言いますと、先生は心臓に持病を抱えているんです。以前も学校で倒れて、大変なことになっているんです。今回もひょっとしたらホテルの部屋の中で持病が発生して、倒れている可能性だってあります」
「そ・・・・そうなんですか?」
女性スタッフの顔色が変わる。
「ですから、部屋まで行って、先生が無事なのか確認したいんです!!お願いします」
「少し、お待ちいただいてもよろしいでしょうか。責任者に確認いたしますので。一旦、そこのソファーに座って、お待ちください」
女性スタッフはそう言うと、フロントの奥の事務室へと消えた。
「あんなことを言っていいのか?」
フロントを離れ、ソファーに座ると、美咲が厳しい視線を健一に向ける。
「桂川先生が持病を持っているなんて、ウソまでついて・・・・」
「先生がどうなっているか心配なんです」
健一は言う。
「先生は・・・・無断欠席なんてする人じゃありません。絶対、何かあったんです」
健一は言った。




