第五話「神戸にいるサエ」
「はあ~。何とかまとまったわ」
京極サエはため息をつきながら廊下を歩いていた。2人は学校の制服を着て、廊下を歩いている。ここは神戸にある大倉灘高校の本館2階だ。
「サエ、本当にごめんね。本当なら今だって東京に行くはずだったサエを神戸にとどめるようなことになっちゃって」
彼女と同じ空手部の同級生、葉山知恵は謝った。空手部は最近作られた新しい部活だ。そのため、一年生のサエが部長を務めている。そして葉山は副部長である。サエが生徒会役員になってから、葉山が実質的に部長となっていたが、今回のようなもめごととなるとやはり部長であるサエが出るしかない。
「ううん、知恵。私こそいつも部長の仕事押し付けちゃってごめんね」
サエはむしろ申し訳なさそうに言う。
「そもそも無理があったのよ。東京から帰った翌日に特訓に参加するなんて。むしろ、東京行きを断る理由ができて助かったわ」
それはサエなりの気遣いであった。そんなことを話していると、彼女のスマホが鳴った。
「はい、京極です。ああ、西岡君」
サエの表情は少し明るくなる。
「ええ・・・・ええ・・・・。えっ!?桂川先生が行方不明!!」
電話で、桂川先生の蒸発を聞かされたサエは驚く。
『そうなんだ。それでサエに頼みたいことがある』
電話口の健一が言う。
『何?私にできることだったらなんでも言って』
サエは真剣な表情で言った。
『校長先生に、桂川先生と僕たちが泊まることになっているホテルの場所を確認してほしんだ』
「そっか。ホテルの場所は今日桂川先生と大倉茗荷谷高校で落ち合った後に聞くことになっていたもんね。でも、校長先生が、桂川先生が予約したホテルの場所知っているのかな?」
『今回の東京遠征は学校の経費で負担することになっていて、桂川先生も出張扱いのはず。だから、事前に出張経費の申請で、ホテルの詳細を学校に提出しているはずなんだって先輩が言うんだ』
「わかった。すぐに校長先生に確認してくる」
サエはそう言うと、すぐに電話を切った。
「ごめん、知恵」
「いいよ。もうどうせ今日は終わったし、この後なんて部室で事務仕事があるぐらいだから」
葉山は笑顔で言った。
「ありがとう」
サエはそう言うと、少し急ぎ足で校長室へと向かった。
「どうぞ」
校長室の扉をノックすると、男性の声がする。サエは扉を開けた。そこには60代初老の恰幅のいい男性がいた。
「校長先生」
「おや、君は確か生徒会の・・・・・」
「生徒会書記の京極サエです」
「おお、そうだったね。君たち生徒会の活躍ぶりは先生方からも聞いているよ。まあ、座って」
「いえ、本日は緊急の要件があって、参りました」
サエは校長の執務机の前に立ち、要件を伝える。すると、校長の顔色が一気に変わった。
「それは本当なのかね?桂川先生が向こうの学校に現れていないというのは?」
「ええ・・・・・東京にいるせんぱ・・・・・亀岡会長と西岡副会長が言っているので、本当かと。この件、東京からは?」
「いや、まったく。まあ、わかった。こっちでも大倉茗荷谷高校に連絡して、事実確認をしてみる。しばらく待っていてくれ」
そう言って、サエにソファーへの着席を促すと、校長は電話をかけ始めた。どうやら、どこかに電話をしているようだ。
「はい・・・・そうですか。どうも、お手数おかけしました」
校長は電話を切る。
「今、大倉学園本部の研修担当にも確認してね。確かに桂川先生は、研修を欠席しているね」
「校長、先生は出張申請の際に宿泊するホテルの詳細も出していませんか?それを教えてほしいんです」
「わかった。今、確認してみるよ」
校長はそう言うと、パソコンを起動し、確認を始めた。




