第二話「新幹線の中の男」
定刻通りに山陽新幹線のぞみは東京に向けて出発した。2人は指定席に書かれた座席番号を頼りに座席を見つけ、それぞれ席に座った。美咲が窓側の席、そして健一が通路側の席である。
「ところで西岡、今日の昼ごはんはどうする?」
「そうですね。東京に着くのがちょうど12時代ですからね。大倉茗荷谷高校への移動もありますし、車内で済ませましょう。一応、駅弁を買っておきました」
健一はそう言って、駅弁の一つを美咲に渡した。
「ほう、よく私の弁当の好みがわかったな」
「前に師匠から・・・・はっ!!」
美咲の表情が険しくなる。
「ほう、兄とは・・・・頻繁に連絡を取り合っているのか?」
「ええ・・・・・まあ・・・・・」
「まったく・・・・・」
美咲はため息をついた。彼女の兄は推理小説家として、今は東京に住んでいる。美咲は決して兄のことが嫌いなわけではないが、彼への言葉は厳しい。
「たった一回賞を取ったぐらいで作家気取りになるとは。しかも、高校生に自分のことを『師匠』なんて呼ばせるとは・・・・・大作家にでもなったつもりなのか」
「あ、あの僕が勝手に師匠と呼んでいるだけですから!!」
健一は慌てて弁明する。健一は推理小説が好きだ。そして彼の夢は推理作家になることである。美咲の兄とはとても仲が良く、今ではSkypeで頻繁にやり取りをする仲なのだ。
「ところで先輩・・・・・。せっかく東京に来たんですし、お兄さんのところには顔を出さないんですか?」
「行くものか!!」
彼女は少し強い口調で言う。
「あの兄の前に立つと、どうしてもイライラしてしまうのだ・・・・・」
「はは・・・・そうですか」
健一は苦笑する。
「ところで・・・・・桂川先生は大丈夫ですかね?」
健一は心配そうに言う。
「大丈夫とは?」
「じ・・・・実は昨日何度か電話を掛けたんです。ただ、つながらなくって・・・・・」
「そ・・・・それは何でかけたんだ?」
美咲は少し不安そうに聞く。それは決して彼女が桂川先生のことを心配しているからではなかった。
「そ・・・・その。東京遠征の予定の最終確認と、神戸から何か持っていた方がいいものがなにか聞くためですよ」
健一は慌てながら言う。
(もうばれているぞ。お前が桂川先生のことが好きなのは・・・・・)
美咲は複雑な心境になった。
「せ、先輩!!僕手洗いに行って来ますね!!」
この話題を打ち切りたい健一はそう言うと、席を立ち、洗面所へと歩いて行った。
「先輩」
洗面所から戻ってきた健一はそう、美咲に声を掛けた。他の人に聞こえないよう、小さな声で話している。
「どうした?」
ただ事じゃないことを察した美咲も、小声で話す。
「あの、右斜め後ろに座っている青いスーツを着た若い男って、先輩の知り合いですか?」
「いや、そんなことはないぞ?」
「あの・・・・・洗面所から戻ってくる時に見えたんですけど・・・・・あの男、ずっと先輩のことを見ているんです」
「何、本当か!!」
美咲がそう言って、後ろを振りむく。確かに青いスーツを来た若い男がいた。長身で、中々のイケメンだ。しかし、美咲が振り向いた瞬間、彼は視線をそらした。
「さっきの話、本当なのか?」
「はい、あの男のことが気になって、洗面所を出てからデッキにとどまっていたんです。それでドアのガラス越しに客室内を見ていたんですけど、あの男はずっと先輩のことを見ていました」
「ストーカー・・・・・とかか?今までそういうのを認識したことはないが・・・・・」
「先輩、念のためですが、僕の傍を離れないでください。安全第一ですから」
「わかった・・・・・」
健一はそう言うと、席に座り、周囲を警戒するように、周りを見回した。新幹線は既に名古屋を出発し、静岡を通過していた。健一たちは徐々に東京へと近づいていた。




