第一話「新神戸駅」
山陽新幹線の新神戸駅は、健一たちが通う大倉灘高校から地下鉄西神・山手線で20分ほどのところにある。のぞみなどの優等列車も停車する駅ではあるが、かなりコンパクトな駅である。六甲山の近くにある駅なので、駅の外に出ると少しのどかな雰囲気がある。
「亀岡先輩、おはようございます」
新神戸駅の新幹線改札口の前に旅行鞄を持った美咲がいたのを発見し、健一はあいさつした。健一も旅行鞄を持っている。しかし、2人は今日は学校の制服を着ている。
「おはよう、ずいぶん早いじゃないか」
「なんとなく早起きしちゃいまして。会長こそ早いじゃないですか」
「まあ、実をいうと私もそうなんだ」
2人はスマホで時刻を確認する。現在の時刻は8時50分、2人が乗るのぞみ東京行きが新神戸駅を発車するのは9時42分だ。
「まあ、あれならさっさと入って、改札内にあるカフェで東京着いた後の打ち合わせでもしようではないか」
「そうですね」
健一は美咲の提案に同意する。2人は切符を財布から取り出すと、それを改札口に挿入し、入場した。
カフェはかなり混んでいたが、それでも2人は座席を確保することができた。東海道・山陽新幹線というと、普段はビジネス客ばかりのイメージだが、今日は家族連れや若い男女、高齢者が多い。おそらく関東への観光だろう。
「ところで西岡、ここから本日の目的地である大倉茗荷谷高校までの経路を教えてくれ」
美咲がそう支持を出すと、健一はスケジュールの書いた予定表を取り出す。
「ええっと、この後9時43分発の新幹線に乗ると、12時24分には東京駅に着きます。そして東京駅から地下鉄丸ノ内線にのって、茗荷谷駅に着くのは12時55分です。大倉茗荷谷高校につくのは13時になります」
「うむ、ありがとう。では今日から4日間の予定を教えてくれ」
「まず、14時から、向こうの高校の生徒会と初顔合わせを行います。本日の予定としては、それぞれの自己紹介と記念品の贈呈です」
「記念品は、私が理事長から預かっている」
「そうですね。本日は16時には解散して、ホテルに向かいます。このホテルには既に桂川先生が宿泊していますので、大倉茗荷谷高校につきましたら、先生から僕たちが使う客室の部屋番号を聞いて、ルームキーを受け取ります」
「わかった。明日以降の予定は?」
「24日は大倉茗荷谷高校の生徒会長と一緒に、大倉茗荷谷高校の校長の表敬訪問。そして夜には大倉茗荷谷高校生徒会主催のクリスマスパーティーが開かれます」
「ほう、豪勢だな」
「ええ、どうやらこの学校の伝統みたいです。場所は学士会館だと聞いております」
「先輩は、ゲストとしてスピーチもあります。僕の方で原稿を作っておいたので、これを読んでください」
「ありがとう」
「そして25日ですが、この日は大倉茗荷谷高校生徒会の案内で、浅草見物をすることになっております。そして26日17時12分ののぞみで東京駅を出発して、神戸に帰ることになります」
よどみなく話す健一を、美咲が感心した表情で見る。
「西岡もすっかり副会長が板についてきたな」
「やめてくださいよ。先輩と比べたらまだまだですよ。それにいつも桂川先生にも助けられっぱなしだし」
「そんなことはないぞ。京極だってお前のことをかなり頼りにしているみたいだし」
「どうなんですかね・・・・・」
そう言った後、健一は思い出したような表情をする。
「そう言えば、京極は大丈夫なんでしょうか?空手部の件・・・・・」
健一は少し、不安そうな表情を見せる。本来、この東京遠征には京極サエも一緒に行くはずであったが、彼女は急遽神戸に残ることになってしまった。それは昨日、彼女が部長をしている空手部で部員同士のいさかいが起きたからだ。元々年末年始に特訓を予定していた。そんな特訓間近に部内で大きな問題が起きた以上、部長がそれを放置して東京に行くわけにもいかず、彼女は急遽不参加となったのだ。
「まあ、京極もあれで責任感がある。きっと彼女がうまく収めるさ」
美咲がそう言うと、健一の表情も柔らかくなった。
「そうですね。大丈夫ですよね」
(相変わらずの仲間思いだな・・・・・)
美咲は彼のそういうところが好きだった。彼女はそんなことを再認識していた。
「先輩、そろそろ出ましょう。新幹線の時間が近づいています」
時計を見ると9時33分だった。2人は飲みかけのコーヒーを急いで飲むと、店を出て行った。




