第九話「警察署での取り調べ」
2人を乗せた車は神保町駅近くにある神田警察署についた。8階建ての大きな建物だった。2人は警察署につくと、会議室に通された。
「しばらくここで待っていてね」
刑事はそう言うと、会議室を出た。
「先輩、これどういうことなんですかね?」
健一は聞く。
「わからん、しかし私達を警察署まで連れていくということは何か重大なことがあるのかもしれないな」
美咲は困惑しながら言う。
「まさか・・・・私達何か疑われているのか?」
美咲はハッとした表情で言う。
「それはないと思いますよ」
健一は美咲を安心させるように言った。
「なぜそう言える?」
美咲は怪訝そうに質問する。
「前に師匠から聞いたんです。警察は本気で疑っている人間から話を聞くときは取調室に通すと。そして、相手が2人いる場合には、別々に話を聞くそうです。そうすれば、お互いの話の矛盾点があった時に、落としやすくなるというので・・・・・」
「なるほどな・・・・・」
美咲は少しだけ安堵した表情を見せる。そんなことを話していると、ドアがノックされた。
「はい」
美咲が言うと、会議室に2人組の男たちが入ってきた。1人は50代後半くらいの男だ。そしてもう1人は20代後半の男だ。2人ともパリッとしたスーツを着ている。美咲達を警察署に連れて来た刑事たちが安物のジャンパーを着ていたのとは対照的だ。
「亀岡美咲さんと西岡健一さん・・・・ですね?」
若い男が聞く。
「はい」
美咲が答えると、男は少しだけ表情を崩した。
「どうも、間山と申します。こちらは私と一緒に事情聴取を担当する才川です」
「才川です」
間山がそう言って、相方の方に手を向けて紹介すると、才川はぶっきらぼうに挨拶する。
「今日はごめんなさいね。変な事件に巻き込まれて混乱しているところ、警察署まで来てもらって」
「いいえ、それでその・・・・事件の犯人はわかったんですか?」
美咲は聞く。
「う~ん、まだ捜査を始めたばかりだからね。ただ、窃盗事件とみて、捜査はする予定だよ」
間山は愛想よく答える。
「今回なんだけど、君たちに聞きたいのは、あの部屋の宿泊客である桂川さんと君たちの関係なんだ」
「ホテルでも警察の方に話しましたが、私達は桂川先生の教え子です」
「そうなんだね。それで・・・・・なんで今回は東京に?」
「先生は生徒会顧問なんです。私達は生徒会役員で、今日は東京の系列校を訪問する予定でした」
「そうなんだ。ところでなんで先生の部屋を訪ねたの?ホテルの支配人さんによると、君たちが頼み込んで、ホテルの部屋の前まで案内したって話だけど」
「それは・・・・・先生が系列校に来ていなかったからです。さらに既に出席しているはずの研修会にも不参加と聞いて、それで心配になって・・・・・」
健一はそう答えると同時に違和感を感じた。間山も才川もメモを一切取っていない。
(これは・・・・本題ではないということか?)
今、話している話はすでにホテルで警官にも話した話だ。つまり、2人は警官から既にこの内容を聞いているが、あえて同じ質問をしているのだろう。そう考えれば、メモを取らない理由も納得できる。
(何のために?本命の質問が何か悟られないために?)
健一は色々考えるが、答えは出ない。
「ところで・・・・君たちにとって先生ってどんな人?」
間山が聞く。
「先生は・・・・・とても良い先生です。優しく面倒見も良く、そして仕事もできる。我々生徒会にとっても大切な先生です」
「そうなんだね」
「刑事さん、先生とは連絡取れましたか?先生、ずっと連絡つかないんです?事件が起きた以上、部屋の宿泊客である先生にも警察から電話していますよね」
健一が少し強い口調で聞く。
「こちらからも何度か電話をしました。しかし、お出になりませんね」
才川がボソッと言う。
「そう・・・・ですか」
健一は少しがっかりした。
「ところで・・・・・」
才川はそう言って、再び口を開いた。
「お二人は先生から何か預かっているものはないですか?」
才川は鋭い視線で二人を見る。
「何か・・・・とは?」
美咲が怪訝そうに尋ねる。
「なんでもいいんだ。例えば書類とかUSBとか・・・・・」
間山が言う。
「いいえ・・・・・。西岡、何か先生から預かっているものはあるか?」
美咲が横に座る健一の方を向き、尋ねる。
「いいえ・・・・」
健一もきっぱりと否定する。すると、間山は少し落胆したような表情をみせた。
「そうか・・・・。ありがとう。じゃあ、そろそろ事情聴取は終わりにしようか」
間山が言った。明らかに美咲達に興味を失っている雰囲気だ。
「一応、何か思い出したことがあったら神田警察署にご連絡ください。今日はどうもありがとうございました」
間山はそう言うと、席を立った。彼は部屋を去ろうとしたが、立ち止まり、再度健一達の方を振り向いた。
「ところで・・・・・一つ聞きたいんだけど、二人は未成年だよね?一応、誰か大人の人に君たちを迎えに来て貰う必要があるんだけど、誰かいるかな?」
間山が聞く。
「そ・・・・それは・・・・・」
美咲は困惑した。本来、二人の保護者は桂川先生だが、肝心の桂川先生が行方不明だ。二人の両親は神戸にいるし、学校の先生方も神戸にいる。大倉茗荷谷高校は他校なので、そこの先生方を呼び出すわけにはいかない。
「先輩・・・・・もう師匠しかいないんじゃないですか?」
健一が言う。
「馬鹿を言うな!!」
美咲は即座に否定した。
「けど、東京で僕たちが知っている大人というと師匠だけですよ。師匠にお願いしましょう」
「しかし・・・・・」
美咲はやはり困惑気味だ。
「君たち、師匠というのは?」
間山が怪訝そうに聞く。
「あの・・・・亀山先輩のお兄さんのことです。東京に住んでいるんで」
健一が答える。
「しかたない。兄に来て貰うか・・・・」
美咲はため息をつくと、そう言ってスマホを取り出した。




