プロローグ
「東京にある系列校との交流会ですか?」
西岡健一は目の前にある資料を見ながらそうつぶやいた。健一は大倉灘高校1年生で生徒会副会長だ。
「その通り。この大倉灘高校の系列校が東京にもあるのだ。その系列校の生徒会と今回交流会を開くことになったのだ」
そう言って、健一の目の前に座る女生徒が答える。彼女は亀岡美咲、大倉灘高校2年で生徒会長だ。大倉灘高校は神戸市灘区にある名門校だ。美咲達は昨年10月の生徒会長選挙に勝利し、新生徒会の役員となった。
「しかし、見た感じだと向こうは5人くらい出席するんですか。うちは会長と僕、それに京極を含めても3人ですからバランスが悪いですね」
健一は微妙な顔をする。今は12月、学期末である。美咲達新生徒会執行部の人数は3人だ。会長の副会長は選挙で選任されるが、書記や会計は会長が任命権を持つ。美咲は健一のクラスメイトであった京極サエを書記に任命したが、他の役職は空席のままにしている。
「まあ、そこはあまり気にしなくていいから」
そう言って、美咲の隣に座る女性は答える。彼女は桂川先生、この大倉灘高校の音楽教師であり、生徒会顧問である。彼女は去年学校に赴任してきた新人の女性教師である。
「去年、この大倉灘高校を運営している大倉学園が東京の私立高校を合併したのよ。新しく系列校になった学校と交流がないのもどうかという話になってね。それでまずはとりあえず生徒会で交流しましょうっていう話になったみたいで」
桂川先生は経緯を説明する。この大倉灘高校を運営しているのは学校法人大倉学園だ。この学校法人の本部は神戸にあるが、昨年東京の学校法人を吸収合併した。そしてその東京の学校法人が運営していた学校が、茗荷谷高校だ。大倉学園はこの学校の運営を引き継ぎ、今校名を大倉茗荷谷高校としている。
「へえ、そんなことあるんですね。神戸の学校が東京の学校を吸収するなんて・・・・・」
健一は感心したように言う。
「まあ、けど生徒会のお仕事とはいえ、タダで東京旅行できると考えたら、悪くないですよね」
健一の隣に座る少女がこう言う。彼女が生徒会書記京極サエ。空手部にも所属しているスポーツ少女でもある。
「まあ、東京では3泊4日日間過ごすことになるけど、基本的には向こうとの交流行事がメインになるから、あまり観光はできないんと思うけど、終わった後いくつかの観光名所には行けると思うわ」
桂川先生は言う。
「ただ、当日なんだけと、東京には君たち生徒会役員だけで言ってもらうことになるわ」
「え、先生はいかないんですか?」
健一が驚いたように言う。
「ううん、私も交流会には出るんだけど、君たちよりも早めに東京に行くことになりそうなのよ。だから東京で現地集合になるわね」
「そうですか、よかったです」
健一はほっとしたような表情を浮かべる。そんな様子を美咲とカナ子は複雑な表情で見ていた。
「じゃあ、今日の生徒会執行部の会議はこれで終りだな。各自、東京出張の準備を進めておいてくれ」
美咲はそう言うと、みんな席を立つ。
「先生、校舎裏の花の水やりですが、今日は僕がやりますよ」
健一が桂川先生に声を掛ける。
「ありがとう。でもいいわ。あれは私がやっておくから。それよりも西岡君は風紀委員会への報告書を出してくれる?」
「は、はい。わかりました。報告書はもうできているので、これから出しに行きます」
健一はそう言うと、生徒会室を出て行った。東京に行くのは終業式後の23日だ。2週間後のことだ。




