表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ聖女は王子の寵愛を拒絶する〜静かに暮らしたいので、溺愛されても困りますっ〜  作者: 雨野 雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/43

33.英雄の眼差し


 レオナルドの話を聞き終えたリズベットは、必死に頭の中を整理していた。


「情報が多すぎて……何が何やら……」


 自分の瞳の秘密。そして、命を狙われる理由と、その黒幕。

 大聖女の真相と、レオナルドとアールリオンの因縁。


 どれもこれも驚くべき事実ばかりで、動揺と混乱が止まらない。


(でも、今は――)


 リズベットは頭をふるふると振り、すぐに思考を切り替えた。


 今は何より、グレイのことだ。


「アールリオン家を襲撃しているのは、グレイ、ですね?」


 確信めいてそう言うと、レオナルドは深刻な表情で頷いた。


「ああ、恐らく。あいつは、アールリオン家を文字通り潰すことで、リズの問題にカタをつけるつもりなんだと思う。だが今のあいつの状態では、公爵にたどり着くどころか、アールリオンの衛兵を倒し切るのも難しいかもしれん」

「なんでそんなこと、勝手に……!」

 

 焦り、不安、怒り。いろんな感情が渦巻き、握る拳に思わず力が入る。


 グレイは何も言ってくれなかった。何も教えてくれなかった。


 たくさん刺客が襲ってきていたのに、彼は一人でそれを片付けていた。

 こちらに心配をかけまいとしてか、何も起きていないふりをして、平気なふりをして。


 全部一人で抱え込んで、ボロボロになるまで戦って、一人で全部勝手に決めて、一人で勝手に消えて。


 次に会ったら、文句のひとつでも言わないと気がすまない。


 ――でも、これも全て自分のせいだ。


 自分が弱いから。自分で自分の問題を解決できるほどの力がないから。


(……グレイが死んだら、どうしよう)


 昨日、グレイが出ていった日、どうして無理矢理にでも引き止めなかったのだろう。彼の様子がおかしいとわかっていたのに。


 グレイは誰よりも強くて、負けたところなど見たことがない。だからこそ、彼が死ぬところは全く想像できなかった。


 でももし、もし本当にこの世からいなくなってしまったら――。


 そう思うと、恐怖で足がすくむ。目の前が真っ暗になりそうだ。


 リズベットが俯いていると、震える拳をレオナルドがそっと握ってくれた。青の瞳がこちらを射抜くように覗き込んでくる。


「リズ。絶対に助けよう。公爵家の衛兵は俺に任せてくれ。リズは、グレイの治療を」

「……はい!」


 英雄の言葉に勇気づけられ、リズベットは心に巣食う恐れを振り払う。


 本来の力を取り戻した今、どんな傷でも治す自信があった。あとは、彼が命尽きる前にたどり着けるかどうかだ。


(待ってて、グレイ。今助けに行くから……!)




* * *




 馬車から降りたリズベットは、その光景に愕然とした。


 アールリオン家の広大な庭には、おびただしい数の衛兵が転がっている。全てグレイが倒したのだろう。これほどの私兵を抱えられるほど、今のアールリオン家は栄華を極めているらしい。


 そして、庭の奥にある荘厳な屋敷は、燃え盛る炎に包まれていた。


 嫌でも十三年前のあの事件を思い出す。家族全員が殺されたあの日の夜も、屋敷は真っ赤に燃えていた。


「そんな……グレイ……グレイ!!」


 リズベットは屋敷に向かって叫んだ。


 あの中にいたら、もう助けられない。脳がそう理解した途端、頭からサーッと血の気が引いていく。


 しかし、絶望するリズベットとは異なり、レオナルドは至って冷静だった。


「リズ。少し下がっていてくれ」


 彼は落ち着いた声でそう言うと、徐ろに手を挙げ、天にかざした。


 するとどうだろう。雲一つない夜空に、雨雲がみるみるうちに形成されていく。それも、屋敷の上だけに。


 気がつけば、太く長い柱のような雨雲が、今にも落ちてきそうなくらいパンパンに膨れ上がっていた。こんな光景見たことがない。天候を操れる魔術師など、この世にどれだけ存在するだろうか。


 そして、レオナルドが勢いよく手を振り下ろした途端、バケツを引っくり返したような豪雨が屋敷に激しく打ち付けた。


 バチバチバチと大きな音が響き渡り、耳をつんざく。リズベットは思わず耳を両手で塞ぎ、そのあり得ない光景を呆然と眺めていた。


(これが、英雄の力……)


 屋敷を包んでいた炎は次第に小さくなっていき、雨雲が消える頃にはすっかり鎮火していた。幸い消火が早かったためか、屋敷は焼け落ちることなく、外壁もしっかりと残っている。


 これなら中に入って、グレイを探し出すことが出来そうだ。


 こちらを振り返ったレオナルドは、これくらい朝飯前だというように涼しい顔をしていた。そして、強く、頼もしい英雄の眼差しが、リズベットに向けられる。


「行こう、リズ」

「はい!!」


 そうして二人は、アールリオンの屋敷へと足を踏み入れていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もし気に入っていただけましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

↓欲しがり妹に婚約者を取られた秀才令嬢が教え子から溺愛されるお話
妹に婚約者を取られたので独り身を謳歌していたら、年下の教え子に溺愛されて困っています

↓陛下と離婚するために国取りする最強王妃のお話
愚鈍で無能な氷姫ですが、国取りを開始します 〜さっさと陛下と離婚したいので、隠してた「魔法の力」使いますね?〜

↓婚約にまつわる謎を解いていくミステリー
婚約破棄の代行はこちらまで 〜店主エレノアは、恋の謎を解き明かす〜

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ