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崖の上の最強賢者

――賢者アルトは、ただ退屈していた。


風が強く吹き荒れる崖の上、小さな家がポツンと建っている。その中で、一人の青年が木製のテーブルに肘をつき、盛大にあくびをしていた。


彼の名はアルト。この世界「エリュシオン」で最強の賢者と称される男だ。だが、彼の表情はどこか満たされないように見える。


孤独な最強の賢者

「魔王を倒してから、何年経ったっけな……」


アルトは椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。魔王討伐――それは3年前の話だ。そのとき彼は「全属性魔法の制御」「魔力の無限再生」「次元操作」といった途方もない力を使い、魔王を跡形もなく消し去った。


その後、英雄と称えられた彼は、大陸中の国々から求婚や勲章、財宝などを送りつけられた。しかし、彼はそれらをすべて断った。


「最強なんて肩書き、実際持て余すだけだよな……」


人々は彼を神のように崇めたが、その反面、彼に近づこうとはしなかった。最強であるがゆえの孤独。アルトは崖の上に家を構え、人里離れて暮らすようになった。


唯一の相棒――ティオ

「アルト様、何度も同じことを呟いてますけど、それ飽きません?」


テーブルの向かいに座っているのは、アルトの唯一の話し相手、幼いドラゴンのティオだ。体長は猫くらいで、鱗は黒く、金色の瞳が知恵の深さをうかがわせる。


「そりゃ飽きるさ。だってほかにすることがないんだから」

「自業自得ですよ。『世界を救った後は引きこもる』なんて言って、崖の上に隠れるなんて」

「隠れるしかないだろ。力を制御してるだけで、近くの村は魔力過剰で野菜が全部巨大化したんだぞ?」


ティオはため息をつきながら、鋭い爪でテーブルをコツコツと叩いた。


「それにしても、もう少し人間らしい楽しみを見つけたらどうです?」

「例えば?」

「……畑仕事とか?」


アルトは思わず吹き出した。「最強賢者が鍬を持ってる図なんて、誰も見たくないだろうな」


崖の上に訪れる足音

そんな冗談を言い合っていると、外から足音が聞こえてきた。


「ん?」


ここは崖の上の隠れ家だ。普通の人間が簡単に来られる場所ではない。興味を引かれたアルトは扉を開けた。


そこには、一人の少女が立っていた。


少女との出会い

少女の姿はひどく傷ついていた。ボロボロのマントをまとい、息を切らして立ち尽くしている。顔には泥がつき、痩せ細った身体は何日も食べていないように見える。


「すみません……助けてください……!」


そう言うと、少女はその場に崩れ落ちた。


アルトは驚きつつもすぐに駆け寄り、彼女を抱え上げる。


「おいおい、大丈夫か?」


彼女は薄く瞼を開け、か細い声で言った。


「村が……モンスターに……壊され……」


それだけ言うと、意識を失った。


「おい、しっかりしろ!」


少女を助ける

アルトは急いで家に少女を運び、ベッドに寝かせた。彼女の体を覆っていたボロ布を外し、傷を調べる。足や腕には裂傷がいくつもあり、顔には無数の引っかき傷が残っている。


「アルト様、これは……」

「村のどこかでモンスターに襲われたんだろうな。近くに生き残りがいるかも」


アルトは彼女の傷を癒すために右手を掲げ、静かに呪文を唱えた。淡い金色の光が少女の体を包み込む。


「……ふぅ、これでなんとか持ち直すだろう」


少女の名はアリス

翌朝、少女が目を覚ました。


「ここは……?」


「俺の家だよ。助けてほしいって言って倒れたのは君だろ?」


少女は怯えた様子でベッドから身を起こすと、目をこすりながら言った。


「……ありがとう。助けてくれて……私、名前はアリスっていいます」


「アリスか。で、君が言ってた『モンスターに壊された村』ってのは?」


アリスは震えながら話し始めた。彼女の村は、2日前に突然現れた「影の巨人」と呼ばれるモンスターに襲撃されたという。村の住民はほとんどが犠牲になり、彼女はかろうじて逃げ延びたらしい。


「お願いです、賢者様……どうか、残った村の人たちを助けてください……」


アルトの決意

アルトは腕を組んで黙り込んだ。ティオが小声で耳打ちする。


「アルト様、行くんですか?」

「行くさ。ここまで来て助けないなんてのは、性に合わないからな」


そしてアルトは、優しく微笑みながらアリスに言った。


「分かったよ。俺が村を救ってやる」


アリスの瞳に光が宿る。その瞬間、アルトの退屈だった日々に、小さな変化が生まれたのだった。


次回予告

「影の巨人現る――賢者アルト、再び動き出す」

力を隠していた最強賢者が、少女の願いに応え村を救うべく旅立つ。だが、その裏には巨大な陰謀が――。



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