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三か月後の彼らたち 1

その後の彼らです。イレインが少し癖強めです。

癖強めの人物が好きだということを、最近気づいてきました‥。

明日、投稿の分で多分終われると思います。お昼の予定です。


「あの方々まだ、夫婦になってらっしゃらないと思うわ」

「‥え?」

久しぶりに婚約者であるイレインが遊びに来て、二人で庭園にティーセットを持ち出しお茶を楽しんでいるところだった。一つ年上の婚約者の発言にアルフィレオは驚いた。

「それ、ひょっとして兄上たちのこと?でも、もう結婚して三か月も経っているから‥夫婦だと、思うけど」

イレインは難しい顔をしてクッキーを小さく割って口に入れた。この婚約者は年が上なだけでなく、いつも冷静でアルフィレオや他の学院生たちとは違ったものの見方をすることがある。イレインの事を賢しげだと言って批判する者たちもいたが、本当に賢いんだからいいじゃないかといつもアルフィレオは反論し、友人知人たちはお前は尻に敷かれているからな、と言い返して終わりのパターンが多かった。

イレインは勉強が好きだった。本人曰く、「知らないことを知らないままで死ぬのが嫌だ」ということだった。イレインは歴史の古いトアレルッテ侯爵家の一人娘である。侯爵夫妻が年を経て得られた子どもだということで随分可愛がられて育ったようだ。アレスティードにもしもがなければ、アルフィレオはトアレルッテ侯爵家に婿入りすることになる。そのためアルフィレオ自身も一生懸命勉学に励んでいたが、イレインの知識欲は常にアルフィレオを上回っていた。だがアルフィレオはとても素直な性格で、そんなイレインをただただ尊敬するばかりだったのでトアレルッテ侯爵夫妻もかなりアルフィレオの事を気に入っているようだった。

イレインは栗色の髪を一房、指に巻きはじめた。これはイレインが何か考える時の癖である。アルフィレオはそうやって考え事をしているイレインを眺めるのが好きだった。

「アルフィーはもう閨教育は受けたの?」

突然の爆弾発言に思わずぶーっとお茶を噴き出してしまった。イレインにかからなくてよかったが、アルフィレオのシャツはびしょ濡れになった。「あらあら」と言いながらイレインがナフキンで拭ってくれる。アルフィレオは顔を真っ赤にして二の句が継げない。

「ね、ね、ね、」

「閨教育よ。私も去年教わったからアルフィーも今年かなあと思ったの。座学?実地?」

「座学のみです!!」

ここははっきりさせておかねばならない、とアルフィレオは叫んだ。イレインはくすっと笑ってアルフィレオの顔まで拭ってくれた。

「じゃあ、わからないかな‥私の従兄がね、一か月ほど前に結婚したの。それで今二人で屋敷に滞在しているのよ」

「‥ね、閨教育と何の関係があるの‥?」

イレインは悪戯を仕掛ける子どものような顔で笑う。

「閨をともにした二人にはね、独特の空気感があるわ。信頼というか安心というか。もちろん甘い雰囲気もあるけど、わかるのよ。‥‥でも、アレスティード様とサイーシャ様にはそれがないと思うの」

アルフィレオは目をぱちぱちと瞬かせた。兄と義姉はとても仲がいい。特に兄の義姉に対する態度は優しいを通り越して激甘だと思うのだが。

「もちろんお二人が表面的なご夫婦だという意味ではないわ。特にアレスティード様はサイーシャ様にべた惚れね。それは見ていればわかるの。‥でも‥まだ閨をともにはされてないんじゃないかしら」

僕もイレインにべた惚れだよ、と続けようとしていたアルフィレオの舌が絡まった。結婚式を終えて既に三か月も経っている。兄夫婦は互いに思いあって結婚したように聞いていたが‥貴族の結婚は恋愛であれ政略であれ、後継者問題が必ず付いてまわる。だから新婚のうちは子どもができやすいこともあって、仕事などにも結構休みなどの融通を聞かせてもらえる事もある程だ。‥なのに、三か月も、まだ何も致していない‥?

「だ、大問題じゃない??」

「そうね」

イレインは冷静に答えて、少し冷めた紅茶を飲み干した。そしてじっとアルフィレオを見つめる。

「このまま、アレスティード様たちが閨事をしないのなら後継者なんてできないわ。‥そうすると私とアルフィーの子どもを養子にあげなくちゃならなくなるかもね」

アルフィレオは思わず立ち上がった。

「レンと僕の子どもをあげちゃうなんてやだよ!」

「まあ、それは一つの可能性よ。‥でもアレスティード様たちの問題は直接私たちの問題にもなり得るわ。アルフィーにはそれを知っていてほしかったの」

「そ、そうか‥」

アルフィレオはこの三か月余りの兄の事を思った。どう見てもサイーシャにべた惚れで、サイ―シャの歩いた地面にだってキスできそうな勢いだ。‥‥だが、サイーシャはどうだろう。いつも兄の過剰な愛情表現に戸惑い、恥ずかしがり、困っているふうだった。

「‥‥レン、どうしよう、サシャ姉上は兄上の事嫌いじゃないけど‥そんなに好きじゃないのかも‥?」

「あー。やっぱりアルフィーから見てもそう思えるのね」

今は侍女も侍従も下がらせてあるので本当に二人きりしかいない。遠慮のない意見を交換するにはもってこいの場所だった。


イレインは目の前の婚約者を見つめた。カラエン家の男はみなひねたところがあると思っていたが、アルフィレオは奇跡的にとても素直だ。自分のような一風変わった女であっても馬鹿にすることなく、ちゃんと尊重してくれる。身分のつり合いなどから組まれた政略的な婚約ではあったが、イレインはアルフィレオをとても愛していたしアルフィレオもイレインへの過剰な愛情を隠さなかった。

自分も今年十六になった。恐らく自分が十八になったらアルフィレオの卒業を待たずに結婚するだろう。このかわいらしい男を自分のものにできるその瞬間を、イレインは心待ちにしていた。

だがどうも義兄夫婦の雲行きが怪しい。来たる二年後の自分たちの結婚に向けて、不安定要素はできるだけ排除しておきたい。素直でかわいい婚約者は疑いもしていなかったようだが、ようやくこの危機的状況に気づいてくれたようだ。

「アルフィー、ちょっと私たちで頑張って‥サイーシャ様をアレスティード様に堕としてしまいましょう」

「うええ!?お、堕とすって‥」

過激な言葉に再び絶句して顔を赤らめているアルフィレオをよそに、イレインはうんうんと唸りながら髪の毛をくるくるとゆびに巻きつけ続けていた。



三か月、経ってしまった。

未だキスのひとつもできないまま、三か月だ。手ごわい手ごわいとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。謎に父親が「初夜はまだかい?」とプレッシャーをかけてくるしサイーシャはかわいすぎるけど接触はなかなかさせてくれないしで、アレスティードは悶々としていた。

意識、はしてもらっていると思う。声をかければ顔を赤くしてこちらを見ているし、肩を抱いたら身体ががちんと固まっている。男として見てもらえていない訳ではないと思う。

‥‥どうすればいいのだろう。

この三か月、サイーシャを観察し続けてきた。本当に経営経済の学問が好きで、実地でそういう事業などに関わる事が好きだ。父フォンティールと事業や投資の話をしている時のサイーシャは凛としていて、思わず見とれてしまうほどだ。

だが、本当に恋愛ごとに免疫がないらしく、甘い雰囲気に持っていこうとするとわかりやすくおろおろしている。そして話題を反らされる。


キスしたいのになあ‥‥。いや、それだけじゃなく‥‥


はあ~~とアレスティードは深いため息をついた。自分だってこれが初恋で、別に恋愛に慣れているわけではない。ただサイーシャを愛しいと思う気持ちが止まらない。だから甘い言葉は次々出てくるし手は自然とサイーシャの方へ伸びる。

だが、それにサイーシャはなかなか応えてくれない。

いつまででも待てる、と気持ちを爆発させた時には思ったが、あの時の自分に言ってやりたい。

蛇の生殺し状態になるぞ、と。

カイザがこっそりサイーシャの侍女であるナタリアに聞き込みをしてくれたところ、どうもサイーシャは兄にも容姿をけなされてきた上、美しい姉と比べられることも多々あって非常に女性としての自己肯定感が低く、恋愛に疎いらしい。「恐らく初恋もまだだったのではないかと思います:」とのことだった。

初恋同士って、嬉しい‥なんて言っている場合ではない。これだけ毎日かわいい美しい好きだと言っているのに、いまだサイーシャの自己肯定感が上がらないとはどういうことだろうか。自分の言葉は軽くしか受け止められていないのだろうか。

一応、かなり心を込めて真実の事しか口にしていない筈なのにな‥とアレスティードは思った。


そこへ、今夏休み中であるアルフィレオがドアをノックし、「兄上、入ってもいいですか?」と声をかけてきた。執務も煮詰まっていたところではあったので「いいぞ」と声をかける。

「兄上、今少しお時間ありますか?‥あの、イレインも一緒なんですけど」

「おお、珍しいな。別に構わないぞ、何か話があるのか?」

アレスティードは二人を中に招き入れ、ティーセットを出し手づからお茶を淹れてやった。何やらアルフィレオの方が顔を赤くして緊張気味に見える。イレインはいつもと変わらず顔にあまり表情が出ていない。

「あ、あの、兄上、」

「どうした?何か困ったことでも起きたか?」

「アレスティード様、お願いがあって参りました」

イレインが口火を切った。そのようなことを言ったことは一度もないイレインだったので、少なからずアレスティードは驚いた。

「あ、ああ、何だ?」

「この夏休みの間に、私とアルフィーをカラエン領の別荘に連れて行っていただきたいのです。出来ればアレスティード様とサイーシャ様も一緒に」

‥‥ん?

「‥それは‥構わないが‥急にどうしてだ?」

「私がアルフィーを好きすぎて休みの間離れて過ごしたくないのです」

全くそんな様子には見えないイレインが淡々と話す。横ではアルフィレオが顔じゅうを真っ赤にして身悶えている。

これは、ふつう男と女が逆じゃないのか‥?と思ったアレスティードだったが、サイーシャの影響もあって(いやそんな先入観を持つのはよくないな)と考えた。

カラエン兄弟は素直なのである。

「ありがとうございます。二人だけだとあらぬ噂が立つやもしれませんので、アレスティード様達とご一緒していただけると助かるのです」

「なるほど‥」

いつの間にか、弟たちの方が「あらぬ噂」を立てられるかもしれないようになったのか。

自分はあらぬ噂どころか結婚までしているのにいまだ何もないがな‥

アレスティードの意識が遠いところに行こうとしているのを知ってか知らずか、イレインは言葉を続けた。

「でも、噂がたってもいいんですけど。私はアルフィーを愛していますしいずれ結婚しますし。とにかく学院がある時はあまり会えませんから、できるだけ一緒にいたいのです。それにサイーシャ様とももっとお話ししてみたいですし」

イレインはそう言って話を終えた。横で真っ赤になってうつむいていたアルフィレオが、ようやく話し出した。

「‥‥あの、兄上、それでもしよかったら、三日後くらいから出かけられないかなって‥で、できるだけ早く、行きたい、から‥でも、兄上がお忙しかったら全然大丈夫だけど!」

弟よ、行きたいのか行きたくないのかどっちなんだ。そう思いながらしどろもどろになっているアルフィレオの顔をじっと見つめると、またアルフィレオは所在なさげに顔を伏せた。

これは、イレインに何か言われてきたんだな。そう悟ったアレスティードだったが、特段それが自分たちの不利益になることでもあるまいと思って承諾した。

「ただ日程はもう少し待ってくれ。領政の方はともかく、騎士団との兼ね合いがあるからな。‥わかり次第アルフィーに伝えるからその時はお前がイレイン嬢にお伝えしろ」

「あ、ありがとう兄上」

「アレスティード様、お忙しい中にご無理を申し上げてしまい、申し訳ございません。でも嬉しいです、ありがとうございます」

イレインはゆっくり立ち上がって綺麗なお辞儀をすると、そのまま部屋を出ていった。アルフィレオも「ありがと兄上!」と言い残しあたふたとイレインの後についていく。

「あいつらも独特な夫婦になりそうだな‥」



「レン、レン!な、なんかとても恥ずかしかったんだけど、あ、あれで大丈夫??」

「え、何が?」

すたすたと歩くイレインの後を歩きながらアルフィレオはもごもごと言った。

「な、何か、さ、ぼ、僕たちがいちゃいちゃしたい、みたいなふうに聞こえた、から‥」

「え、そうだけど?」

アルフィレオはぴたりと立ち止まった。顔だけでなく首筋まで真っ赤になっている。足音が聞こえなくなったので振り向いたイレインは、そんなアルフィレオを見て可愛いなあとしみじみ思った。表情には全く出ていないが。

「え、え?え、結局どうするの‥?別荘に行ったら僕たち‥」

「いちゃいちゃするのよ」

またもやアルフィレオは息ができなくなったらしい。その顔に片手を当てて、イレインはにやりと笑った。

「アルフィーも、覚悟がいるわね?」

そう言って、すり、とアルフィレオの頬を親指で撫でるとすぐにまた踵を返して歩きだした。

アルフィレオは、時々とても妖艶に見えるイレインにどきどきしながらその後を追った。





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