悪役令嬢に拾われた従者の下僕的報告書 〜お嬢様は宿敵を皆殺しにするそうです〜
――――血の海だ。
僕は、初めて血の海を血の海として見た。
……何言ってるんだ僕?
ちょっと気が動転してしまっているな。
あれだ、血の海という言葉は知っていたけれど、その血の海を見たのは初めてだったんだ。いや、そもそもだ、人生で一度でも見るようなことってあるんだろうか?
「あら、血の海なんて、何度も見たわよ? 前世で」
――――前世。
僕のお嬢様は、前世がある。前世の記憶がしっかりと残っているから、今世はその記憶で復讐しまくるのだそう。
普通はお嬢様の頭を疑うだろう。『前世』や『記憶』があるはずかないと。
だが僕は、拾われた八年前に嫌というほどに実感していた。
子爵家の四男として生まれた僕は、わずか九歳でその命を落とすはずだったんだ。お嬢様と出逢わなければ。
◆◆◆◆◆
「あ、ここにいたのね」
「…………だれ?」
父は子爵。母は子爵家の使用人。
認知はされていたものの、子爵夫人の子供たちである兄三人とは扱いが全く違った。
僕は、三人から酷いいじめを受けていた。
服で見えない場所を殴る蹴る、なんてことは当たり前。
最近は、一番上の兄が社交界で手に入れてきたとかいう怪しい薬を飲まされそうになることが増えていた。
高熱に魘されたり、胃がひっくり返るほどに吐き続けたり、腹を下し続けたり…………延々と続く苦しみを味わい続けていた。
兄たちがキツネ狩りに呼ばれ、僕も可哀想だから参加させてあげたいと父親に言い募っていた。
どうせまた森の中であれやこれやと悪辣にいじめ続けるのだろう。
そう思っていた。
狩り場には子供だけで行っていい場所と、大人だけしか行けない場所など、細かな決まりがある。
兄たちに無理矢理連れてこられた子供用の狩り場と大人用の狩り場の際で、急に目眩がした。
また毒を盛られてはたまらないと、今日は味の分かる水しか口にしていなかったのに。
「やっと効いたか」
「兄上、どうします?」
「しばらく放置してまた見に来るか。野生動物に襲われている姿が見たい」
兄たちの会話で、僕は僕の人生がここまでなのだと覚った。
――――もう、いいか。
身体から力を奪い去り、全身を弛緩させる薬を僕に盛ったらしい。いったいどこで手に入れたんだろう。いったいどこで盛られたんだろう。
まぁ、そんなこと、どうでもいいか。
兄たちが僕の側を立ち去ってくれたので、ぼぉっと抜けるような美しい青空を眺めていた。
やっと静かになった。
いい天気だな、死ぬのに丁度いいかも。なんて、思った時だった。
ザクザクザクと枯れ葉を踏む足音が聞こえてきた。
野生動物がやっと来てくれた、これで終われる。と思っていたら、野生動物とは全く違う透き通った春風のような声が聞こえた。
「あ、ここにいたのね」
「…………だれ?」
「私? デュボワ公爵家のレジーヌよ」
――――公爵、令嬢?
「早く起き上がりなさい。身体は少し動くようになっているはずよ」
「え?」
「急ぎなさい。ヤツが来るわ」
ヤツって誰なんだろう?
なんで身体が動くようになっているって分かるんだろう?
そもそも、身体が動かなくなっているのも、なんで分かるんだろう?
疑問が尽きなかった。
でも、真っ赤な髪に真っ赤な瞳の美しい女の子に『急げ』と頭を叩かれたから、『従わなきゃ』と本能的に思った。
ヨタヨタと立ち上がった瞬間だった。
大きな声で笑ったり、何かを言い合って騒ぎながら三人の兄たちが、こちらに近寄ってているのが見えた。
「お嬢様、逃げて」
「……まだよ」
何がまだなのか分からない。兄たちに見つかったら、何を言われるか、何をされるか分からない。だって兄たちは、社交界で女の子たちに何か酷いことをして、泣き寝入りをさせているらしいから。
「なっ!? おい、お前! 何をしている!」
「え、なんでもう立ち上がってんだよ。結構入れたはずだぞ?」
「なあ、あの女、どこかで見た覚えがないか?」
ああ、遅かった。兄たちに気付かれてしまった。
「…………今よ! 早く走って!」
「え? へ?」
赤髪のお嬢様に腕を引かれ、足をもつれさせながら走った。
僕たちの真横を、真っ黒な塊が凄いスピードで通り過ぎて行った。はじめは何か分からなかった。でも、兄たちの叫び声で分かった。
「グ、グリズリーだ!」
「やめろやめろやめろやめろ! こっちに来るなぁぁぁ!」
「ぐぎゃ………………ゴフッ……だずげ………………」
後ろを振り返ろうとしたが、お嬢様に命令された。振り向かず、だだ真っ直ぐ前を向いて走れと。
「私に従いなさい。いい?」
「はい――――」
いつの間にか手を握りしめ合い、全力で走っていた。森で狩りを楽しむ大人たちが休憩用に使っている場所までたどり着いて、助けを求めた。
大人たちは、おおわらわだった。
武器を持ってあの現場に向かう者、近くにいる人たちに注意喚起する者、女子どもたちがいる森の入口まで逃げる者。
父は、腰を抜かしてその場にへたり込んでいた。
「ふふっ。ドキドキしたわね?」
ドキドキというか、普通に死ぬ勢いだったんだけど、お嬢様はとても楽しそうに、煌々とした顔で笑っていた。
「なんで、助けてくれたの?」
お嬢様が「誰にも内緒よ」と教えてくれたのは、理解が及びそうにない話だった。
お嬢様は前世を覚えていて、この世界は前世を繰り返している途中なのだとか。お嬢様は二十歳で死ぬらしい。両親や王太子殿下や評議会が決定を下し、国王陛下の許可によって。
そして、今回の出来事は、お嬢様が未来を大きく変えることに決めた事件だったのだという。
本来なら僕は熊に一番最初に襲われるはずだったらしい。それは何となく分かる。だってお嬢様が言わなければ、あの場から動こうとは思わなかったから。
その時は、僕は襲われたものの、一命を取り留めていたらしい。
そして兄たちが襲われている現場にお嬢様が現れた。熊が彼女に向かって行こうとした瞬間、一命を取り留めていた僕が……僕だけがお嬢様を庇って熊の前に立ち塞がったらしい。
「諦めたような笑顔で、『貴女は生きて』と言われたのよ。年下の男の子である君に。私の最低で最悪な人生の中で、君だけだったの。私を命掛けで守ってくれたのは」
本来の物語では、僕が熊に襲われて絶命している最中に、一番上の兄がお嬢様の手を引いて走り出した。走りながら『あんたのせいで弟たちは皆死んだ。あんた曰く付きの公爵令嬢だろ? 城で見た覚えがある。助けてやったんだ、しっかり恩返ししろよ?』と言い放ったらしい。
「…………長兄はそういう人ですね」
「ええ。本当に最悪な男だったのよ。でも、清々したわ!」
春の野原でも見たような晴れやかな笑顔でそう言い放ったお嬢様は、一転して宵闇の魔女のようにニタリと嗤った。
「この世界では、自由に生きるわ。死んでいい者には醜く死んでもらうの。生きていてほしい者は、側に置いて大切にするわ。君みたいに」
この日から、僕はお嬢様の従者になった。
◇◇◇◇◇
熊事件から一ヶ月が経ち、家でのあれやこれやが落ち着いて、正式にレジーヌお嬢様のお屋敷で生活することになった。
公爵令嬢なのに、なぜか僕の家よりも小さい屋敷に住んでいた。しかも、山奥の。
建物の周りは、要塞かと思うほどに厳重な塀と柵に覆われていた。
「いらっしゃい、シリル! 待っていたわ。ここが私の王国よ」
緩やかにウェーブした真っ赤な髪と水色のデイドレスの裾を揺らし、とびきりの笑顔で両手を広げて迎えてくれたレジーヌお嬢様は、両手首には幾重ものブレスレット、首からは様々な宝石が付いている少しクラシックなデザインの重たそうなネックレスをぶら下げていた。
「どうしたの? あっ、この格好ね?」
お嬢様はネックレスをツンツンと指差すと、苦笑いしていた。
ジュエリーの試着かと思ったが、違うらしい。「ダサいし、重たいのよね」と言いながら、屋敷の中に入るよう手招きしてきた。
屋敷には老齢の執事と四十代の侍女がいた。使用人は二人だけで、僕で三人目なのだとか。
小さなサロンに通され、お茶とケーキを出された。
「どうやら、君は私の能力を知らないようだから、教えておくわね――――」
お嬢様には野生動物を呼び寄せる能力があるらしい。
小さなものから大きなものまで。
あの、熊のように…………。
あの日の狩りは、来賓を招いての大掛かりなパーティーだったため、獲物が少なくなることを懸念した宰相が、お嬢様を森に投入したのだとか。
「このじゃらじゃらを着けていないと、動物が集まるのよ」
「え……」
「気持ち悪いでしょう?」
お嬢様が寂しそうに笑った。僕はそんなことが言いたかったんじゃない。
あの日、お嬢様は普通にデイドレス姿だった。
じゃらじゃらしたものなんて、着けていなかった。
お嬢様におびき寄せられてしまうのなら、お嬢様も襲われてしまうじゃないか。なんでそんな危ないことをさせるんだろう。
思ったことをそのまま口に出してしまった。
「っ……」
お嬢様の顔が、くしゃりと歪んでしまった。なにか言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれないと思って、慌てて謝ろうとしたら、小さな声で「ありがとう」と言われた。
「私は、襲われにくいの。基本的には皆すり寄ってくるだけだから。でも、今回みたいに興奮しているときは、関係ないのよね…………ただ、襲う優先順位は、多分下なのよ。そのせいかしらね? みんな、私は襲われないと思っているのよ」
「それでも……」
それでも、女の子にそんな危ないことをさせるのは納得が出来なかった。
貴族の大人たちは良くわからない。いい人もいれば悪い人もいるのは当たり前だけど、人の命をなんとも思っていないことが多すぎる。
ノブレス・オブリージュなんて言葉を守っている人はいるのかな?と思ってしまうほどに、この国の貴族たちは落ちぶれている気がする。
それは……ほんの一部の人たちだけだと思いたかったけれど、現実は、もっと酷かった。
お嬢様の従者になって半年。
少しづつこの国の歪さが見えてきた。
お嬢様の父親である公爵は、用がある時は手紙を寄越す。
「お手紙が届きました」
「ありがとう、シリル」
お嬢様に手渡すと、ため息を吐きながら乱雑に封筒を開け、ちらりと目を通した後くしゃりと丸めて暖炉に投げ入れた。
「今度は何と?」
「来月の頭に国賓が来るから、夜会に参加し、献上品のライオンを目の前で手懐けろって」
「……ライオンを…………」
お嬢様とともに暮らすようになって、それは可能だろうなと知っている。
じゃらじゃらと着けているものは『防魔具』と呼ばれている。あのジュエリーたちがあれば、野生動物たちは無駄に近付いてこない。が、お嬢様からは近付けるし、手懐けられる。
「行かれるのですか?」
「そうね…………行かないわ。だって、その場で毒を盛られて国賓が死ぬもの」
「え?」
「それなのに、なぜか動物を使って私が殺した、ってことにされるのよね。私をね、傷つけると動物たちが何をするかわからないから、誰も手出しできないの。そして、他の国にもそれを通達しているのよ、この国の下劣な王は」
意味が分からなかった。
そもそも、なぜ国賓が殺されるのかも。
「国賓がね夜会の二日前に、この国の姫様と恋に落ちるの。でも外に出したくない王は、その相手を殺すのよ」
「……え?」
「きっとあの王なら、私がいてもいなくても、殺すから行かなくていいでしょ?」
お嬢様は面倒臭そうに溜め息を吐いて、日記を書き始めた。
これはお嬢様の『会話終了』の合図。
お嬢様は、日記を書くことを大切にしている。
前世との違いや変えようとしても変わらなかったことなどを書いているらしい。
この屋敷に来た時に、僕も日記を書くように言われていた。その日にあったことや、感じたことをしっかりと書くようにと。いつかなにかあったときに役立つからと。
夜会の不参加は、当日に体調不良で押し通すとのことだった。
そして、翌月、大衆紙に『夜会で国賓の男が酔って大暴れし、ライオンを使って王女殿下を襲ったので、その場でやむなく処刑された』と大きく記載された。
このときのお嬢様の呆れたような顔で「ほらね?」と言いながら、暖炉に新聞を投げ入れた姿が、何故かとても印象的だった。
お嬢様の従者になって三年。
お嬢様は何かにつけ僕と話そうとする。それは、僕がイレギュラーな存在だかららしい。
執事も侍女も、前世にいたし、最後まで忠誠を誓っていてくれたそう。だけど、僕は本当は死んでいたから。僕がどう思ってどう動くのか見ていたいのだそう。
「お嬢様は、今世では前世で押し付けられたりした罪を避けていますよね?」
「ええ」
「なのに、五年後は必ず起こるんですか?」
「ええ。必ず起こるわ。だから、いまこうして少しずつずらしているのよ」
お嬢様は、五年後に死ぬ。
少しずつ未来の着地点をずらしているのだと言うけれど、なんで大きくずらさないのだろうかと思っていた。
「大きくずらしたら、未来が大きく変わりすぎて、目的を達成できないわ」
「目的、ですか?」
「ええ。とっても素敵な目的よ」
妖艶に微笑んだお嬢様は、十五歳とは思えないほどに大人びた顔をしていた。
◇◆◇◆◇
お嬢様の従者になって、八年。今年はお嬢様が死ぬ予定の年だ。
お嬢様は年末に処刑されるらしい。
「シリル、始まったわよ。ほら」
お嬢様に手紙を投げ渡され、慌てて受け取った。
投げ渡されたのは公爵からの手紙。それには、『陛下から許可が降りた。今年中に子を産め』と書いてあった。
「――――え?」
お嬢様の能力は、女児に引き継がれるらしい。
二十歳となり、命令に背くようになっていたお嬢様を処分することが、内々に決まったのだろうと、お嬢様が興味がなさそうに話した。
「……相手は?」
「王太子殿下よ」
「………………ソレの子を産むんですか?」
「シリル、そんなに怖い顔をしないでちょうだいよ」
お嬢様に言われて、気付いてしまった。
僕は、お嬢様を慕っている。それは、主従でもあり、女性としてでもあるのだと。
「申し訳ごさいません」
「どうしようか迷っているのよね」
「…………何を、ですか?」
声が一段と低くなってしまった。
お嬢様は苦笑いをしながらレターデスクからソファに移動し、僕に横に座るようにと言った。
意味が分からなくて、ただ真横に棒立ちしていると、「命令よ。座りなさい」とピシャリと言われてしまった。背中がゾワゾワする。
「もう。怒られないと従わないんだから。私の下僕はワガママね」
「げ、ぼく…………僕は……じ、従者です」
「あら? シリルの日記には『もっと命令されたい』って書いてあったけど?」
「っ――――!?」
日記は、従者になった日から書くようにと言われていた。毎日欠かさず書いていた。
そして、それは有事には中を見るとお嬢様に言われてはいた。八年前のあの時死ぬはずだった僕の未来だけが大きく変わっているから、と。
でも、今まで見られることなんてなくて、すっかり忘れていた。
色々な事を日記に吐露していた。
「みっ……見たんですか!?」
「あはははっ。シリルったら真っ赤になって! かわいいわね」
可愛いと言われた。
悔しいのに、それがゾワリとするほどに嬉しくて、気持ちがいいような感覚。
「君は、本当に、下僕としての素質が凄いわ」
「っ………………」
「いいから、座りなさい」
「はい」
お嬢様の横に座ると、柔らかな石鹸の匂いがした。
腹の奥底が疼く。
「悩んでるの。前世の王城でね、男の子を産んだの」
男の子には能力が引き継がれない。だから、産まれた瞬間に殺されたのだという。そして、その瞬間に心が死に、力が暴走した。
野生動物が王都内に大量出没し、平民貴族関係なく襲いまくった。
被害はあまりにも甚大で、公爵夫妻と王太子殿下が恐れおののき、評議会で話し合われ、国王の命令の下に、処刑されたのだという。
「あの子に罪はなかったのにね」
「また、産んであげたいからですか?」
「いいえ」
お嬢様は、きっぱりとそう言った。
「復讐の理由を人のせいになんてしないわよ。これは、私の戦いなの。私が傷付けられたから、私が宿敵の命を奪うの。でも協力者は必要だからね。シリルを巻き込んでいいか確認したかったのよ」
ここまで来ておいて、巻き込まれたくないなんて思うはずがないのに。お嬢様は思ったよりも慎重派だったんだなんて、新たな面を見つけて、一人で勝手にときめいていた。
「シリル」
「っ、はい」
「子供を産むなら、貴方の子がいいわ。そして、絶対に今度は死なせない」
「っ――――!?」
「あははははは!」
お嬢様が、真っ赤な髪を揺らし、真っ赤な瞳を細め、頬を真っ赤にして、大笑いした。僕の顔が真っ赤だと笑いながら。
「…………お産まれになったのは、男の子です」
前世とは違い、お嬢様は公爵家で子供を産んだ。
前世と同じで、子供は男の子だった。
前世とは違い、産まれたのは僕の子供だ。
「チッ、男児か。殺せ――――」
お嬢様は、公爵のその命令を聞いてから、とても美しく微笑んだ。
「そう来ると、思っていましたわ。さようなら、お父様」
お嬢様は美しい笑みをたたえたまま、枕の下からナイフを取り出して、公爵の胸を一突きした。
そして、そのナイフを暖炉の火の中に投げ入れた。
「やっぱり、これは覚醒だったのね……」
「何がですか?」
「今なら、野生動物を意のままに操れるわ」
子供を産んだことにより、その子を守るために能力が強化された可能性があるのだそう。だが、前世では心が壊れたことにより、ちゃんと記憶出来ていなかったのだという。
僕は産婆を脅し、へその緒や胎盤などの処理をしっかりとさせた。
お嬢様は、僕たちの息子をしっかりと抱きしめると、立ち上がり歩き出した。
「お嬢様、無理はいけません」
「バルコニーで、この家の終焉を見守るだけよ」
バルコニーに出たお嬢様の肩に、慌てて厚手の毛布を掛ける。
テーブルとイスを用意し、座るように促した。
――――血の海だ。
僕は、初めて血の海を血の海として見た。
……何言ってるんだ僕?
ちょっと気が動転してしまっているな。
あれだ、血の海という言葉は知っていたけれど、その血の海を見たのは初めてだったんだ。いや、そもそもだ、人生で一度でも見るようなことってあるんだろうか?
「あら、血の海なんて、何度も見たわよ? 前世で」
公爵家の屋敷内だけで、動物たちが暴れ回っていた。
狼だろうか。公爵家の執事が庭で喉を噛み切られている。
「さて、ここからは、未来が大きく変わるわね。私は何が何でも復讐を遂行するけど?」
「承知しております」
バルコニーの床に片膝をついて、頭を垂れる。
僕はお嬢様に命を救われた。僕はお嬢様の従者だから。この命は、お嬢様のもの。
「うふふ。貴方のその下僕的な感覚、大好きよ。あの日記も。時々見せてね?」
「っ――――はい」
お嬢様の妖艶な微笑みを見て、背中と腹の奥がゾワゾワとするんだから、どうしょうもない。
これからも、下僕的日記を書き続けよう。
そして、お嬢様に報告書として提出しよう。
「さぁ、新たな未来のために、宿敵は皆殺しにするわよ?」
「はい。どこまでもお側に――――」
―― fin ――
読んでいただきありがとうございます!
ブクマや評価などなどしていただけますと、作者のモチベになりますですヽ(=´▽`=)ノ