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アルゼウス様との探索



 祈りを終えた私たちは、大神殿奥に向かう。

 閉ざされた門を神官の方が開けて通してくださる。


 門を抜けると、すぐにアルゼウス様が私たちの元へと現れた。

 アルゼウス様は金の髪と青い瞳の女神のように美しい方で、華奢で小柄な体つきをしているので、女性のようにも見える。

 

 白い神官のローブを着ていて、長い髪は三つ編みにされて肩から胸にかかっている。


「お待ちしておりました、お二人とも。ようこそお越しくださいました」


「アルゼウス、時間を作ってくれて感謝する」


「アルゼウス様、お忙しいなかお時間いただき、ありがとうございます」


 私はスカートを摘まんで礼をした。

 ゼフィラス様は軽く会釈をして、アルゼウス様は臣下の礼を行った。


「殿下に会いたいと言われれば、時間などいつでも作りますよ。それにリーシャ……ではなく、リーシャ様も。学園では、学友でしたが、こうして殿下の婚約者としてのあなたと会うのは、変な感じですね」


「アルゼウス様には、学園でお恥ずかしい姿を見せてしまいました」


「自分を恥じる必要はありません。僕はあなたには落ち度はないと考えています。それよりも、リーシャ様。ゼフィラス様と共に神殿の不正に気づいてくださりありがとうございました」


「あぁ……あのときの」


 メルアの孤児院の話だろう。

 あのときはゼフィラス様の采配で、不正をしていた神官たちと孤児院のシスターたちが捕縛されたのだった。


「恥ずかしいのはこちらの方です。神官たちの行動全てを、僕や父が把握しているわけではありません。日々の仕事に追われて、目が行き届かないことが多くあります。……孤児院については、今後はもっと気をつけて、神官たちを監視していきますね」


「それは私も同じだ、アルゼウス。全ての不正をただすことはできないだろうが、極力悲しむ民を減らすことができればいいなと思っている。リーシャと二人でなら、今よりももっといい国になるはずだ」


 ゼフィラス様の言葉に、私も頷いた。

 信頼を向けられているのが分かる。できる限り、こたえたい。


「頑張ります。微力ですが――あぁ、ごめんなさい。間違えました。堂々と振る舞わないと行けないのでした、私」


「そのままでいい、リーシャ」


「そのままでいいと思いますよ、僕も。親しみやすいですから」


「そうでしょうか……」


「僕など、よくコップの水をこぼします。懺悔を聞いている最中に居眠りをすることもあります」


「アルゼウス様が、居眠りを?」


「ええ。懺悔というのは、長いときもあれば短いときもありますが、ほとんどが世間話です。旦那さんの愚痴とか、嫁姑問題とか、皆さん愚痴を言ってすっきりしていくのですよ。中には深刻な悩みもありますが、一握りです」


「まぁ……そうなのですね」


「そうなのですよ。だから、時々眠くなってしまいます。申し訳ないことなのですが」


 苦笑しながらアルゼウス様が言う。


 懺悔とはもっと深刻なものかと思っていたけれど、夜寝るときに甘い物を食べてしまったという懺悔も、あながち間違っていないのかもしれない。


「リーシャ、母上に何か言われたりされたりしたら、すぐに私に教えてくれ。あの人が君を傷つけないか、心配だ」


 ゼフィラス様が心底心配そうに言うので、私は首を傾げた。


「エルナ様は、とても優しいですよ」


「強引でお節介で子供っぽいところがある。無神経なことを言うかもしれない」


「では、困ったときはゼフィラス様に相談しますね。でも、とてもよくして頂いています」


 過去のことがあり、ゼフィラス様はエルナ様への苦手意識が消えないのだろう。


「リーシャ様、懺悔室もいつでも開いていますからね」


「ありがとうございます、アルゼウス様」


「懺悔室でアルゼウスと二人きりになってはいけない、リーシャ」


「ふふ、はい。わかりました」


「殿下は案外、嫉妬深いのですね。知りませんでした」


 そんなことを話しながら、私たちはアルゼウス様の案内で、大神殿の奥へ奥へと進んでいった。


 手前にある礼拝堂の奥はまるで迷路のようになっている。

 外観と同じく、内装にも様々な彫刻があしらわれていて、天井や壁には色とりどりの絵画が描かれている。


 迷い込んだら戻れなくなってしまいそうなぐらいに入り組んだ通路を進んだ奥に、階段が現れる。


「この先は、地下に繋がっています。過去の資料についても、外に出せないようなものは皆、地下の記録庫にしまわれているのですが、ランブルク家の中でも限られた者と、国王陛下しか入れないという決まりがあります」


「私はまだ国王ではないが」


「殿下の戴冠式はもうすぐですし、構いませんよ。それにリーシャ様も」


「私もいいのですか?」


「父と話し合い、問題ないと判断しました。孤児院の一件や、遊覧船での行動を鑑みるに、リーシャ様は正しい方です。情報を悪用はしないでしょう」


「はい。そのつもりです」


「では、いきましょうか」


 地下室に降りるために、アルゼウス様はカンテラに炎を灯した。

 昼間でも薄暗い地下室の階段は、暗闇に向かって続いている。


 少し、怖いような気がした。


 足元に気をつけてと、ゼフィラス様が手を引いてくださる。

 私は手を引かれるままに、階段に足を降ろした。



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