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王家からの手紙



 孤児院の問題も無事に解決して、翌日の王都新聞には『黒騎士ゼスと正義の伯爵令嬢リーシャ・アールグレイスの活躍』という見出しで、孤児院での出来事の一部始終が乗った。


 お兄様は花が咲いたような嬉しそうな顔をして「取材を受けたんだよ、リーシャ。君のことを話すのと、ついでにアールグレイスホテルグループの紹介もしておいたからね。また儲かってしまうなぁ」と言っていた。


 嫌な予感を感じながらも学園に向かうと、さっそくミランダ様が駆け寄ってきた。


「聞きましたわ、見ましたわ、リーシャ! すごいですわ、お手柄ですわ!」

「ミランダ様、恥ずかしいので……!」


「恥ずかしがる必要はありませんのよ。リーシャのお手柄で、悪の神官たちを一網打尽ですわ!」

「私は一網打尽にしていませんよ、一網打尽にしたのは王太子殿下です」


 王太子殿下、ゼフィラス様。確か、二十五歳だったかしら。

 独身。婚約者はなぜかいない。ひと目見たら忘れられないような端正な顔立ちをしていらっしゃって、スタイルもいい。


 以前の私はクリストファー以外の男性についてはあまり興味がなかったので、詳しいことはよく知らない。


 クリストファーやミランダ様のように公爵家に生まれていれば、王家と繋がりもあったのでしょうけれど。

 私は王太子殿下と親しく話せるような身分でもないし、孤児院のことについて、お礼を言うこともできない。


「ぜ……王太子殿下ですのね」

「ゼフィラス様ですね」

「ええ、ゼフィラス様。そして黒騎士ゼス……また一緒にいましたの?」


「たまたま……」

「ふぅん、へぇ、ふぅん」


 ミランダ様が何かしら意味ありげな視線を向けてくる。


「たまたま、偶然です。冒険者ギルドに職場見学に行ったら──」

「リーシャ! 見たよ。すごいじゃないか、新聞に載るなんて」

「リーシャ様すごいです」


 朝から聞きたくもない声が聞こえて、私は走って逃げたくなった。

 けれど、そういうわけにもいかない。だってここは教室で、卒業まで後一週間とはいえ一応ホームルームなどはあるのだから。


「正義の伯爵令嬢。言い得て妙だな。庶民とともに孤児たちを助けるなど、そんな危険なことは、可憐でか弱いシルキーにはできないだろうが、君ならできる。君は昔から強かったからな」


「北地区なんて、貧民街、とても歩けません」

「黒騎士ゼスなど有名ではあるが出自も不明なただの冒険者だろう? そんな男と二人で歩くなんて、さすがはリーシャだ」


「クリストファー様を私にくださって、すぐに次の出会いを求められるなんて、リーシャ様はお強いですね。尊敬します」


 案の定、声の主はクリストファーとシルキーだった。


「君がこんなに早く立ち直ってくれて安心した。やはり君は、俺とシルキーを祝福してくれているのだな」


「嬉しいです、リーシャ様。私、クリストファー様にはじめて出会った時にすぐに恋に落ちました。クリストファー様も一緒の気持ちだったのですけれど、リーシャ様の手前隠すしかなかったのです。でも、よかった」


 さらっと衝撃の事実を言われた。

 つまり、一年生の時から。三年間も、私は浮気をされていて、気づかなかった……?


 心に重しをつけられて、海に沈められた気分だ。


「今、職場見学と聞こえたけれど、働く場所を探しているのか、リーシャ」

「もう卒業まで一週間しかありませんのに、お可哀想、リーシャ様……」


「そうだ。ベルガモルド公爵家の侍女になるといい。リーシャなら大歓迎だ」

「あぁ、それは嬉しいです。リーシャ様、私のお世話をしてくださいますか?」


 バキッ! と、大きな音が響いた。

 ミランダ様が持っていた扇をへし折った音である。


「私のリーシャに近寄るのはやめてくださいまし。爽やかな朝が、台無しですわ」


「ミランダ、リーシャは俺の幼馴染だ」

「リーシャ様は、私のお友達です」


「……リーシャ、帰りますわよ」


 ミランダ様が私を庇ってくれている。他の生徒たちが、何事かと私たちを遠巻きに見ている。


「クリストファー様、シルキー。私はあなたたちとは──」


 もう関わらないと、挑むように二人を睨み付けながら私は言おうとした。


 立場的にはもちろん、私は言い返してはいけない。

 もし何かあれば、お兄様や家族に迷惑がかかるかもしれない。

 婚約者の立場であれば意見もできたけれど、もうそうではないのだ。


 でも、このまま言われっぱなしというのはいけない。アールグレイス伯爵家の名前に傷がつくし、何よりもミランダ様一人を矢面に立たせるのは間違っている。

 これは、私の問題だ。


「皆、席についてくれるかな。出席を取るよ」


 私が言い返す前に、シグルスト先生が教室に入ってきて言った。


「それからリーシャ。君に王家から手紙が届いている。後で僕の部屋に来るように」


 王家、という言葉に教室にいる生徒たちがざわついた。

 私は一体なんの手紙だろうと内心首を傾げながら、クリストファーたちから視線を逸らす。


 先生が来たので、これ以上の会話はできない。

 ミランダ様が私に「先生、いいタイミングですわ。後一歩遅かったら、浮気男に殴りかかっているところでしたのよ」と耳元で囁いた。



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