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第1話

 どんどんどん、と扉を叩く音。

 何回も何回も続いたので、夢じゃない、と寒い廊下をぶるぶる震えながら出てみたら。


「お願い! メアリ、うちの人から匿って!」


 そう言って友人のライザが夜、着の身着のままでうちに飛び込んできた。


「どうしたんだい? おや、コートベリさん」

「ああ、貴方、とにかく毛布を」


 私は夫にそう言うと、ひどく冷たくなった彼女の背に自分の羽織っていたショールを回し、そのまま居間へ連れていった。

 灯りと暖炉を点けて、長椅子に座らせた後、私はキッチンへ行って温かいミルクに蜂蜜を混ぜたものを作ってきた。

 こういう時メイドが通いなのは少し辛い。

 それでもそれすら居ない彼女の家よりはずっとましなんだわ、とふと思ってしまい、少しばかり自己嫌悪。


「はい、ゆっくり呑んでね」


 こくこくとライザはうなづくと、すっぽりかぶった毛布の隙間から出した両手でカップを包み込む。

 見ているから、と合図したので、私は寝室に一旦戻り、改めて暖かい服を上に羽織った。


「落ち着いた?」


 ライザはうなづいた。


「本当にどうしたの? こんな寒い日に、こんな時間、しかも貴女、こんな格好で……」

「私…… 逃げ出してきたの、夫のところから」

「え」


 私は夫と顔を見合わせた。


「コートベリは変わってしまったの」



 彼女、ライザ・コートベリは私の学校時代の友人だった。

 実家は名家の方だったが、決して裕福ではなかった。

 末流なのだ、と彼女からは聞いていた。

 名家は名家だし、本家は大金持ちと言える方だとは思うけど、そこからはみ出してしまったのが、彼女の両親だったのだと。


「お母様はお祖父様の勧める縁談を断固断ってお父様と結婚したの。私はそれが間違ってるとは思わないわ。だって今私の家は、いつも笑いが絶えないもの」


 家族は両親と上に兄と二人の姉、彼女は末っ子だという。

 父親は庶民向けの学校の教師をし、母親は家事万端を自身でこなしていると。そして無論彼女達きょうだいも手伝っているのだと。


「私ね、私もそういう家庭を作りたいと思ってるの。好きなひとと」


 そう言っていた。

 そんな彼女は学校を卒業したのち、資格を取って寄宿女学校の教師になった。

 雇ってくれる学校が実家から離れていたので、彼女は下宿することになった。

 ところがそれから程なくして、姉の結婚式に家族で出かける際に、馬車が事故に遭い、家族全員を亡くしてしまった。

 彼女は結婚式の馬に別の方向から既に到着していたので、事故のことを知った時、向こうの一家と共に泣き崩れたという。

 彼女は一人教師をして生きてきたが、そのうち私の結婚を知らせる手紙と共に文通という形で友人同士の交際が再開した。


「今度は貴女の式に呼んでね」


 そう言うと、彼女は寂しそうな表情になった。

 家族を持つのが怖い、ということだった。

 また無くすのが怖いとも。

 そんなことは無い、と言っても彼女は頑固だった。

 どれだけ彼女が家族の死で気持ちの多くを持っていかれたのかと思うと私まで苦しくなる程だった。

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