表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

金儲けの方法教えます

トントンとドアをノックする音が聞こえた。

「そうぞ」と言いかけたとき、ドアが少しだけ開き、その位置で止まった。部屋の中を覗き込むような男の顔が現れる、金色に染めた髪の毛、日焼けした顔。目が合うと人懐こい笑みを浮かべた。そこからほとんど音もたてずに軽快に動いてドア閉めた。紺のストライプのセットアップでパンツの裾は短く足下はグッチのビットローファー。左の手首にはロレックスのデイトナと薬指の太い指輪、白のTシャツにシルバーのネックレス。身に着けているものだけでぼくや岩田さんの何倍だろう。

「お待たせしてすいません」その声は太く、表情は自信に満ち溢れている。少しも悪びれた様子もなく笑顔を崩さずに歩いてくる。

「芝濱純也、通称しばじゅんです」そういって右手を差し出した。

「内野悟です、はじめまして。お噂はかねがね」ぼくも立ち上がって右手を差し出す。

「参ったなあ、はは、はじめましてと言われてしまいました…」しばじゅんは僕の目を見て言う。

「失礼しました、どこでお会いしてますか?」

「とりあえず座りましょう」しばじゅんはニコッと笑う。

 握手した手を放しておたがい椅子に座って向き合った。

「いやいやいや、5年前といえば大昔ですよ」しばじゅんが先に口を開く。手は離しても、主導権は離さない。「忘れられて当然です、あの頃のオレは、まあたぶん人様になんの印象も残せない人間でした、今は少し派手にしてます」

「いやあ、かなり派手ですよ、よく似合ってます」

「それはどうも」口調はそっけないが、褒められるのを待っていたかのように目元が緩む。

「どこでお会いましましたか?」

「オプションのセミナーに行きましたよ、日本橋の」

「ああ、5年前なら日本橋の会場はよく使ってました、ありがとうございます、覚えてなくて…、申し訳ないです」

「セミナーのあと内野さんにお願いしましたよ、弟子にしてくれませんかって、…断られましたけどね」

「ああ、あの時の…」そう言いながら、少しドキッとした。

「思い出してくれました?」

「すいません、お顔を記憶してなくて…」

「まあ、気にしないでください、それだけ印象に残らない顔ですよ、カッコいいと言われて嬉しいです」

「…でも確か、お名前が違いますよね?」しばじゅんのフォローの上手さに圧倒されながら、ぼくはどうにか記憶をたぐりよせる。「お名前だけは記憶にとめたつもりなんですけど…」

「しばじゅんはツイッターネームです。まあ、過去は捨てました…。落語の芝濱が好きなもので、…お好きですか、落語は?」

「いえ、あまり聞いたことがなくて…」相手の興味をひかない話題を持ち出してしたら、ぼくはバツの悪さを感じるだろう。でも今は相手が持ち出した話題に興味がない自分の側にバツの悪さを感じている。

「いいですよ、落語は、最後は落ちがつきますからねえ、サゲともいいますけど、まあ、上げ相場も最後は落ちるか下がるかして終わります、ハハハ、…芝濱っていうのは古典落語の中でもかなり有名な演目でしてね、まあ、年の瀬にかける話なんですけどね、どこが好きかっていえば、あぶく銭で楽をするのではなく、楽をするために一生懸命働くっていうところかなあ、こうやって切り取ってしまうと落語らしくないまっとうな話に聞こえちゃいますけどね、まあ人情噺ですから」

「人情噺ですか…」

「ああ、すいません、どうでもいい話をしてしまいました」しばじゅんの話し方はやけに芝居がかっている「まあせっかく落語が話題になったので訊きますが、結局のところ誰も弟子にしてないんですか?」

「弟子なんて、そんな…、最初で最後ですよ、弟子にしてなんて言われたのは」

「まあ、断って正解でしたね、どう考えても面倒くさいだけですからね、弟子なんて…、相手がどんな人間かもわからないし、自分も弟子でもとって上納金でももらおうかって考えた時期もあったんですけどね…、まあ、それよりも…、自分で商材売った方が儲かりますよ」

「すごい売れ行きらしいですね」

「あらぁ、ご存知なんですかあ?」しばじゅんの声のトーンは明らかに上がる。

「岩田さんから今聞きました」

「ああ、なんだ、…彼は性格な数字知らないですよ、どのくらい売れたのか調べたみたいですけどね、…それより、今回は内野さんにお礼を言わせていただこうと思いましてね、それで彼につないでもらったんです、…それにしても、…こういうイベントは主催した方が儲かるのでしょうね? 自分でやってみようかなあ? どうです、内野さんもやってみたらいかがですか? 最初は持ち出しでしょうけど、…まあ2,3回やればコツがつかめてそのあとは楽できると思いますよ、それが辛抱できるかですね、最初から結果求めちゃダメです…いかがですか?」

「そういうこと簡単に言えるのがすごいです…、そういうビジネスのセンスがぼくにはないですから」

「ああ、そうそう」答えもせず、相槌も打たず、ただ会話にブレーキをかけるかのように喋るスピードを落として、しばじゅんは両手を叩いた。パーンと乾いた音が部屋に響く。

「お礼の話をするつもりでした。すみません。すぐ話が脱線するのはオレの悪い癖です。だから人前で話すときは、ちゃんと台本を書いて入念にリハーサルします。そうしないと話がどこに行くか自分でもわからない、落ちがつかなくなりますから…、今日こうして登壇できるのも5年前にセミナーで内野さんとお話しできたおかげですよ。あれがなければ、確実に破滅への道を歩いてました、いやあ、危なかった。内野さんのおかげで確信に至りました、…言ってる意味わかりますか?」

「いえ、ちょっと…」

「こう教わりましたよ、相場は自分でやるものではない、人にやらせてアドバイス料をもらうものだ」しばじゅんの両目には相手の首を縦に振らせ威圧感がある。ぼくは思わず目をそらせた。「銀行や証券会社には投資のプロなんてほとんどいないじゃないですか? いるのは投資のアドバイスのプロばかり、そしてその数少ない内野さんのような投資のプロでさえも、結局はアドバイスをする方を選ぶ、…それはなぜか? …まあ、真実はいつもシンプルですよ」

彼は右手の甲を左の手のひらに打ちつけた、パーンと響く音をミュートさせるように左手が受けとめた自分の右手を掴み撫でまわした。首を傾けて下から覗き込むような目つきをして、こちらの気持ちを推し量るようなためを作り、そして言った。「自分で儲けることがいかに難しいか、いや、実はほとんど不可能だと気がついた…、ということですよね?」

無意識の自分がどんな反応をしているのか、見ているはずのしばじゅんは無邪気な子供のように喋り続ける。

「ああ、別に責めてないですよ、だってそうじゃないですか、難しさを確信するためには経験が不可欠で、その経験に辿り着けるのはひと握りの人間だけです。誰もが失敗すると聞かされても、自分だけはどうにかなると都合よく考えるのは、徹底的に物事をやったことがない人間の得意技です。一方で、相場なんて張ったことのない人間が口にする、あんなものは儲からないという知ったかぶりが、真実だったりもする。…まあ、自慢にもなりませんけど、オレはありとあらゆるテクニカルの方法を試しました、それこそ徹底的にやりましたよ。簡単なところから話せば移動平均線は何を使うか、単純移動平均か、指数移動平均か、加重移動平均か、1本使うか、2本か、3本か…、3本使うとしたら9,14,21移動平均でいいのか、他にあるのか、5分足、15分足、30分足、1時間足、4時間足、日足…、あらゆるデータをとってバックテストしました、RSI、MACD、ボリンジャー、パラメーターを変えたジグザグ、思いつく限りあらゆるテクニカルとその組み合わせを試しました。失敗するたびに、経験値が上がっている、と自分に言い聞かせました。神社にお参りして願いが叶わないとき、お賽銭が少なかったとか、方角が悪かったとか、見当違いな分析をして喜んでる人間と一緒でしたよ。…そうそう、特定の時間帯だけに有効な手法はないか、それも考えました。早朝の逆張りと東京の仲値は結果的にプラスになりましたけど、まさか銀行のディーラーがそれだけで儲けてるわけでもないだろうし、それならロンドンやニューヨークのディーラーはどうやってるんだ…もしかしてオプションを利用してるのか…、まあ、そんなことを考えていた頃に内野さんのセミナーを見つけました。…ちょうど自分の中では一つの仮説が膨らんでたんです、でもその時はその仮説を否定したかった、まさかとは思う一方で、いやいや、そんなはずはない、と一生懸命打ち消けそうとした、信じたくないものを見たくない、という感覚でしょうね、…その仮説が確信に変わった瞬間が、セミナーで話す内野さんの姿を見たときです。相場で勝ち続けるなんてそもそも無理、他人にアドバイスしてお金をもらった方が確実…、オレの理解は正しいですよね?」

「まあ…」ぼくは言葉を濁す。痛いところをつかれてしまった。あの頃はちゃんと儲かっていたけれど、今はしばじゅんの言う通りだ。きっとこれからも。

「だってそうでしょう? 他人にやり方を教えるくらいだったら、自分でガッツリ稼ぎますよ、どうして教える必要があるんです? インセンティブなんてどこにもないじゃないですか? 元銀行のディーラーと言いながら本を書いてる人の多いことが、相場では儲からないということを証明してますよね? だからあの場所で内野さんに質問させていただきました。インターバンクのディーラーはどうやって毎日儲けるんですか、って」

「そうでしたね」

「答えは覚えてますか?」

「たぶん…、ディーラーというのはポジションを作って儲けるものだと思われがちだけど、一番の仕事はマーケットメイクで顧客にプライスを出すこと。その顧客のタマをさばいてカバーで収益を上げるのがまずは基本で、時には顧客のタマで即死することもあるけど、カバーで安定したと収益を上げられれば、あとはアイデアがある時だけポジションを取ればいい。もちろんそれもはずれることもあるけど最後は帳尻が合えばいい…、ぼくはずっと同じことを言ってるつもりだから…」

「その通りです」しばじゅんはニッコリと笑う「つまりマーケットメイクをしているから儲けられる」

「フローがありますからね」

「で、そのフローをさばきながら一日中常に売ったり買ったりしている、だから相場が上がるのか下がるのかの感覚が掴めるようになる」

「まあ、それもなんとなくですよ、説明しろと言われてもできない」

「必ずしも自分で相場を張って儲けているわけじゃない?」

「そういうことになりますね…」

「そこで確信しました、銀行のディーラーを辞めてしまった内野さんは、もう相場では勝てない、同じやり方はできませんからね。だからセミナーやったり、マーケットのコメントを書いてお金を稼いでいる、相場で勝ち続けられるのならこんなチマチマした仕事はしないでしょう…」

 何と答えたらよいかわからなかったが、まあ図星だ。

「勘違いしないでくださいよ、内野さんを貶めようなんて気はこれっぽっちもないです、その反対、最初に言った通りですよ、内野さんには感謝してもしきれない、相場を張っても儲からない、それこそが自分の求めていた答えなのですから、それに、内野さんはとても正直な人です、それは大きな長所だと思いますよ、敵を作ることはないでしょうね」

だからやってこれたのだと思う、…そう言いかけて言葉をのんだ。そんな時期もあったけど、今はもうやっていないのだから、「やってこれた」という言葉はそぐわない。

「それでオレも辞めたんですよ」しばじゅんが続ける。「相場なんて張ってる場合じゃない、こんなことをしても結局最後は時間とお金を無駄にして終わる。内野さんを見習って、相場で儲けたいと思う人間からお金を取った方がいい、でもその具体的な方法がわからない、だから弟子入りしようと本気で思いましたよ、…でも、断られた、しかたないから自分で考えました。そこで行きついたのが商材です。ものすごくパフォーマンスの良い投資手法を教える商材を作ればいい。そこを徹底的にやりましたよ。今自分がこうしていられるのは、誤った道から救い出してくれた内野さんのおかげです」

「ぼくは何も…、しばじゅんさんが自分で成し遂げたことです、ツイッターのフォロワー5万人というだけでもすごいのに…」

「5万にいたところで実際に商材を買ってくれるのはわずか500人。コンバージョンレート1パーセントじゃあビジネスとしてどうかと思いますよ、今日のセミナーの目標はコンバージョンレートの改善、盛り上げてその気にさせて買ってもらう、まあ。そうじゃなかったらセミナーやる意味ないですよ」

「本当にすごいと思います、値段だって30万もするのに…」

「今日はニュー・バージョン持ってきましたよ、パーフェクト・トレードMAX-AI」

「AIですか…」

「値段は50万です」

「ええ!」

「そんなにビックリしないでくださいよ、いいですか、30万の商材と50万の商材の両方を出されたら、どちらがいいものだと思います? 高いものの方がいいと思うに決まってるんです、人間の心理なんてそんなものです、高いほど売れるんです」

「なるほど…」

「オレが参加した内野さんのセミナーは3万だったけど、あれも30万にしたらもっと人が集まるかもしれませんよ」

「それはないでしょう…」

「試してくださいよ、3万円で十人集めるより、30万円で二人集めた方が楽じゃないですか、売り上げ倍になるし」

「すごいビジネスのセンスですね、ぼくにはとても…」

「何を遠慮してるんです? やらない理由がオレにはわからない、相手は数百万どころか数千万稼げると本気で信じてる連中ですよ、30万も50万も変わらない、20万円の差でもっといいものが手に入るのなら安い買い物だと信じてらえる、値段を上げることでリピーターの需要も喚起できる」

(大丈夫なんですか…)そう言いかけて、また言葉を飲み込み、代わりに言った。

「一つ訊いてもいいですか?」

「どうぞ、どうぞ、ウェルカムです」

「相場で絶対に儲かる方法はないと言いましたよね?」

「ええ、ありませんね」

「それなのに、しばじゅんさんの商材を使うと儲かるのですか?」

「買って試してみます? そうだなあ、…内野さんなら30万に割引しますよ」

「いえ、ぼくはいいです…」

「ハハハハ」しばじゅんは声を上げて笑った「ハハハ、よかったあ、本当によかった、内野さん、買いますって言われたら軽蔑しようかと思ってましたよ、いらないですよねえ、そりゃそうだ、ハハ、ハハハハ、そんなキョトンとした顔しないでくださいよ、ハハ、内野さんは正直だなあ、いい人だ」次の瞬間、しばじゅんはさっと笑うのをやめた。そして続けた。「種明かしをしましょう。簡単なことですよ。過去6か月程度の値動きを徹底的に調べて、どこでどうトレードしていたら勝てたか分析して、フィッティングさせるんです。そしていかに早く商品として出せるかが勝負です。相場なんて少しずつ変わっていくじゃないですか。過去のデータを分析して上手く行っても、の後も勝ち続ける保証はまったくない、当たり前のことです。使い始めた瞬間から、ゆっくりと今までのようには勝てなくなり、そして突然大きく負ける。これの繰り返し。だから定期的に改良版と銘打って新しいのを出せばいいんです。だって、目的は商材を売ることですよ。永遠に使えるような素晴らしい商品ができてしまったら、新しい商品買ってもらえないじゃないですか。リピーターを作らなかったらビジネスなんて成り立たない。リピーターの心を掴むには、夢を見せればいいんです。まあ、AIと名前をつけたからには、一応ディープラーニングはさせてますよ。もちろん自分に技術があるわけじゃないけど、できる人間は世の中にいくらでもいます。一番大変なのは口が堅い人間を探すことでしょうね。まあ、人間がやろうが機械がやろうが、過去6か月のデータしか見てないんだから結局は同じです。最初はうまく行っても続くわけがないんです、数十年に一度のはずの出来事が毎年のように起こる世の中ですから」

「すごいですね…」

「すごくないって話をしたつもりですけど」

「そうじゃなくて…、そこまで徹底できるのがすごいです」

「ああ、…褒めてもらってます?」

「褒めてますよ」

「嬉しいなあ、…まあ、世の中には楽をしようとする人間が多すぎますよ。『投資で失敗する人はたくさんいるけど、失敗する人はそもそも知識がない、あなたのように知識と人生経験が豊富な方だったら買わないようなろくでもない商品を選んでしまう』なんてもっていき方をすればある程度の確率でちゃんと引っかかる。『今までの人生のご経験を投資に生かさないなんてもったいない』と囁けばすぐにその気になる。自分の会社でしか通用しないスキルだけに頼って給料もらってきた人間が、退職後にそれまでの経験や知識を生かしてお金儲けできると思いますか? そんな甘い話は世の中にありません、…ああ、もちろん内野さんならよくご存じでしょうけど、相場の世界に絶対はありませんよ、ごく稀にうまく行く人はいる、でもその確率がどれほどわずかであるかも知ろうとせず、自分ならうまくやっていけると考える愚かない人々がどれほど多いことか、そういう人たちはどうせ何をやったところで損をする、まあ、投資なんてやってはいけない人なんです、オレの商材に数十万突っ込んでそれが授業料になればほぼ最小の損失で撤退できますよ。オレはちゃんと世の中の人の役に立っていると思いますよ。だいたいモノを売るってそういうことじゃないですか、売る時に、幸せそうに見える一瞬だけを切り取って見せればいいだけの話です。買う側はその一瞬が永遠に続くと勘違いするんですよ。たとえ騙されていることに気づかれても、楽しませて夢を見続けさせれば、文句なんか言われませんよ。騙されてもいいから、楽しませてほしい、それがあの人たちの願いです。だって人間は誰かが作ったものを消費することでしか楽しめないんですから、まあ、彼らがやりたいのは金儲けではなく消費ですよ、金儲けにつながるかもしれないという幻想に包まれた消費です。パワースポットに行って何もいいことがないからって誰が怒ります? 誰も文句を言わない、それどころか、ああ、ここじゃない、自分のパワースポットは他にある、って勝手に次に乗り換えてくれるんですよ、彼らが欲しいのはご利益じゃない、パワースポットに行ったという事実。なんのご利益もないパワースポットだって行けば満足ですよ。商材を買うのもこれとまったく一緒です」

「そんなこと僕に話していいんですか?」

「内野さんはご存知のことじゃないですか? そもそもオレのセミナーに来るのは、雲の動きが予想できる、と信じてるおめでたい人たちです。いいですか、雲がどう発生し、どこにどのくらいの雨を降らせ、どう消えるのか、無数の要因が重なるから正確な予想なんてできないんです。できたら災害なんて起こりませんから。でも、彼らは科学的に不可能なことでも、商材を買えばできるようになると信じている。まさに雲をつかむような話です。でもね、月の動きはわかるんです。次の満月がいつか、これは予想ではなくて計算で分かります。できもしないことをしようとするのは愚かです。まあ、オレは月の軌道のようにわかっていることにしか頼りません。ツキの頼ろうとする人間の運は簡単に尽きますからね、…ねえ、内野さん、最後の10分でいいからオレのセミナー聴いてくれませんか。整理券ないと入れないはずですけど、係の人に話し通しておきますから。…申し訳ないですけど一番後ろで立って聴いていただけたら、終了5分前に内野さんを紹介させていただきますよ。フォロワーがつぶやきますから、知名度は上がりますよ。次回は30万のセミナー用意してください、きっとうまく行きますよ、まあ、絶対はないですけど」しばじゅんはロレックスを見ずにスマホを取り出して時間を確認した。「ああ、ちょうどいい時間、では、打ち合わせがあるのでそろそろ」

しばじゅんは立ち上がり右手を差し出した。ぼくも立ち上がり軽く手を握ると、ギュッと握り返された。ああ、なるほど、自己主張できる人間はこうなのだ。自分を印象付けるのがとてもうまい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ