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ウワサのモリヤ  作者: コトサワ
9/48

VS

変な帰り方にならずにすんで 本当に良かった。なんとかオレの心が戻って、暗くない普通の会話ができて、そんな中 雨がすっかりやんだ。

モリヤが 「長く引き止めてしまったね」と言って でも「帰って」とは言わなくて 「又 次の雨には来てくれる?」と言った。オレは 必ず来るよと答えた。

雨が先かな? それとも日曜が先に来るかな?

雨はやんでいても 月も星もまだなくて モリヤは送るよと言ったけど オレはやっぱり断った。気をつけて歩けば大丈夫。転ばないで帰れる。

別れ際まで やっぱりモリヤの顔は見えなかったけど にっこりしているのは感じた。にっこり「又明日ね。」と言った。そしていい匂い。オレも うん明日、と言って森の家を後にした。

ホッとしていた。もしもあの時、モリヤに放り出されたまんまに帰ってしまっていたら ずっとずっと胸が痛くてたまらなかっただろう。後悔して後悔して 眠れなかったかもしれない。例え寝ても ずっと悪夢を見続けるとか。

本当に良かった。

そう思って帰った。


なんだか心がぐったりしていて 死んだように眠ってしまった。

次の日 目が覚めると口が腫れていた。変な顔になっている。おもしろいけど いろいろと笑えない。マスクをして学校に行った。

教室に入ると すぐに湧井さんがやって来て

「カゼ?」

と聞いた。

「いいや。ちょっと口が腫れてしまって。隠してる。」

オレは正直にそう言った。湧井さんだから。

「口が腫れてるって? なぜ?」

「転んでぶつけてしまった。」

「見せて。」

オレはマスクを取った。笑うかなと思ったけど 湧井さんは笑わずに 目を見開いた。

「どこで転んだの。中、切れてるんじゃないの?」

「うん。でも口の中だし たいしたことない。」

「たいしたことない顔じゃないよ。モリヤの家で転んだ?」

「うん。段差につまずいて。」

「‥‥‥倒れたんじゃないの?」

湧井さんが 恐い顔になった。オレは 笑顔になった。

「ううん! 違う。聞いて湧井さん、昨日寝なかったし 倒れなかった! 大丈夫だったよ‼」

「本当? 転んでるけど… あ‼?」

湧井さんが オレの手をとった。左右二つとも。

「何! これ⁉」

「あ‥‥」

手首にアザができていた。モリヤに強くつかまれたところ。これも 朝起きて顔洗った時に気が付いて びっくりした。まさか、こんなになってたとは。

「これは 転んでできたアザじゃないね。何?」

「えーと…」

「モリヤにやられたのね?」

やられただなんて。

「えーとね、モリヤも転んだんだ。」

「はあ?」

「それで、モリヤが倒れたと勘違いして慌てたオレを制するために、オレの手首をつかんだんだ。その時のアザ。」

「はあ??」

と湧井さんがもう一度言った。

「水本を制するために手首を持っただけで どうしてそんなアザになるのよ? おかしいでしょう!」

「あの… すごく オレが慌てて… 救急車呼びにいこうとしてしまったので… かなり強く 止められて…」

「それにしてもよ‼」

そう言って湧井さんは オレの手を持ったまま、じっとアザになっているところを見た。

「こんなひどい… 限度を超えてるわよ。」

「…オレが驚いて 興奮しすぎたんだよ。」

「だから それにしてもよ。」

包帯を巻いてこようかとも ちょっと考えたんだ。だけどそうすると リストカットした感じに見えてしまう。しかも両手…。それはそれでセンセーショナル。

「大丈夫。痛くないし。多分オレ アザになりやすいんだ。」

「そんなこと ないでしょう。」

恐い顔。又 心配させてしまった。

「抗議してくる!」

と湧井さんが言った時に、始業のチャイムが鳴った。良かった。湧井さんは

「後で行くからね!」

と言って 自分の席に戻った。


次の休み時間、湧井さんが教室を出る前に 小川くんがやって来た。

「水‥‥」

オレの前に来て声をかけようとして 一瞬止まった。

「何?」

オレはマスクをしていた。

「どした? カゼか?」

「‥‥まあ。」

オレは 曖昧に返事をして もう一度、何?と聞いた。

「いや、それが…」

と言いかけて

「なんだこれは‼」

とオレの手を ぐいと持った。

「痛い」

思わずオレが言うと

「そりゃ痛いよ。なんだよこれ?」

しげしげ手首のアザを見て

「あ! こっちの手もじゃないか! なんだよ? 説明しろ!」

湧井さんもそばに来た。

「モリヤにやられたのよ。」

「! 違う‼」

「違わない。」

「ほんとか? モリヤがやったのか⁉」

「だから違う!」

「違わないでしょ! モリヤがひどくつかんで そうなったんだから。」

「つかんで…って おまえ… つかんだぐらいで こんな…」

ケンカみたいな 大騒ぎだ。

「痛くない。たいしたことない。」

オレは小川くんの手を振りほどいて、両手を背中に隠した。

「今さら隠したって 一緒でしょうよ。」

湧井さんがあきれたように言った。

「オ、オレが慌ててパニックになってたのを、モリヤが止めてくれたんだ。手首をつかんで。モリヤは思いのほか 力が強いんだよ。」

「…おまえ まさか」

小川くんも 恐い顔になった。

「まさか モリヤにキスマークつけた時に、反撃されたのか?」

「キスマーク⁉」

と言ったのは オレと湧井さんと同時だった。

「何よそれ!」

「今 隣は キスマークの話で持ちきりだ。」

「だからキスマークって何よ?」

「モリヤのここに…」

と小川くんは、自分の鎖骨の辺りを指さした。

「アザがあって、それを見付けたやつがいて 騒いだんだ。何だこれは、と。」

「転んでぶつけたんでしょう。」

と湧井さんが怒ったように言った。

「ところがモリヤが 又もや発言した。」

「‥‥なんて?」

と湧井さん。オレは黙ってた。

「ああこれは、水本の歯の跡だ、と。」

「えっ⁉」

この声はオレ。思わず立ち上がった。

「どこへ行く。…本当なのか?」

「小川くん、見た?その傷、ひどいことなってた?」

「わざわざ見に行ってない。けど キスマークなんて言うぐらいだ。小さいアザだろうよ。」

「オ、オレ、見てくる…」

「待て!」

小川くんはオレの肩をドンと押して座らせた。

「だから今行ったら えらいことになる。やめとけ。…ほんとにキスマークをつけたのか?」

「まさか‼」

「じゃあ何?」

と静かに聞いたのは 湧井さん。

「ぶ、ぶつかったんだよ オレ、転んだ時に…。歯が当たって どこに当たったって何度聞いても、大丈夫だからって教えてくれなかったんだ。」

「服で見えなかったのね。服の上からだったのね。そんなところよ。みんなバカじゃないの。モリヤも何を言うのよ!」

「…だから アピール」

と小川くんが言った。モリヤがアピールなんてするわけないのに。

「で?」

と小川くんが言った。

「水本の言う、その "転んだ"っていうのは "倒れた"ってことか? 倒れた時に、キスマーク付けちゃったのか?」

「違う‼」

もう オレは必死。

「倒れてない! 昨日は寝てもないし、倒れてもいない! 大丈夫だったんだ! 本当だ!」

「‥‥そう‥。でも」

小川くんは 真面目な顔をしてそう言って オレのマスクを顎へずらした。

「傷を隠してたな?」

「‥‥‥」

「水本は、モリヤの家に行く度 傷が増える…」

「…! それは‼」

「モリヤのせいではないと?」

「そうだ! く、口の傷なんて オレが勝手に転んで、モリヤは被害者だ! オレの方からぶつかったんだ!モリヤは悪くない。悪いのはオレの方!」

「ではこっちは?」

小川くんは又オレの 手をつかんだ。

「これは 水本が被害者だろ。」

被害者‼ 違う‼

「違うよ! 小川くん! モリヤが悪いんじゃない! オレがっ これはオレが わけ分からなくなってたから モリヤが止めてくれたんだ! 実際 痛いのも分からなかったし というか 痛かったかどうかも 覚えてもない。モ、モリヤに アザがあったとか言わないで。口が腫れてたのも言わないで お願い…。」

「‥‥‥あのなあ、水本‥‥」

チャイムが聞こえた。

「くそ 時間切れ。次も来るからな。水本、待ってろ。」

小川くんは走って出て行った。湧井さんは何も言わず、黙って自分の席に戻る。オレも黙って次の授業の用意をした。

‥‥‥キスマークだって…。本当に下品…。 モリヤ、やっぱり 傷になってたんじゃないか…。‥‥いや? キスマークって… 傷ってほどでもないのかなァ? 小川くんの言う通り‥‥?


でも、次の休み時間、小川くんは来なかった。

「隣 行ってみる?」

とオレは湧井さんに言ってみたが

「やめとこう。見てごらん。」

と湧井さんが 廊下側の窓を指差した。鈴なりに隣のクラスの連中が覗いていた。大騒ぎで。オレはマスクを外さない。手首のアザも 手を机の中につっこんで 見えないようにしていた。鈴なり連中は、絶対変なウワサのタネを見つけに来てるんだから。


結局、次に小川くんが来たのは 昼休みだった。

オレの机の前に 椅子を持ってきて座って、周りを眺めて言った。

「こっちのクラスは静かだなあ。」

「静か?」

「ああ。隣なのに。向こうはうるさいぞ。ホント大騒ぎ。騒ぎに巻き込まれて さっきは教室を出られなかった。」

「巻き込まれたって?」

と 聞いたのは湧井さん。湧井さんも椅子とお弁当を持ってきて、オレの横に座った。

「もう今や 水本とモリヤだけの話にとどまらない。モリヤが俺と浮気して、そのあと水本とよりを戻したが、今度は水本と俺があやしいとか。すごい三角関係に発展してる。」

「なんで? 小川くんは湧井さんと付き合ってるの、みんな知ってるのに。」

「うーん。バカなりに ほんの少し配慮かな。女子は傷付けまいという。湧井はウワサから省いてるんだろう。」

「ホントにバカね。」

と湧井さんは言った。でも 湧井さんが下品なウワサに巻き込まれるのは、オレも嫌だ。巻き込まれなくて良かった。

「で、モリヤは何か言ってるの?」

と湧井さんが聞くと

「いいや。歯が当たった発言の後は 黙して語らず、だ。ただ、超色っぽく笑ってるよ。」

「いやらしい。」

オレは黙っていた。

「水本、弁当は?」

小川くんが聞く。オレはまだ、両手を机の中に入れていた。

「アザが見えるから。」

「今さらじゃないのか?」

「水本、いい物をあげよう。手を出してごらん。」

湧井さんがにっこりして言った。

「何?」

とオレが聞くと、テープみたいなものを見せた。

「バレー部の女子に貰ってきたの。テーピング。」

「テーピング…? どうするの?」

「手首に巻いてあげる。アザがみえなくなる。且つ、肌色だから目立たなくて良い。」

「ありがとう 湧井さん。」

本当に嬉しい。湧井さんが ゆるく巻いてくれた。ほんとに目立たなくなった。良かった。

オレは お弁当を食べるためにマスクを取った。湧井さんは、じっとオレの顔を見た。

「今日の放課後、私が話をつけてくる。」

「つける話なんかないよ。オレが湧井さんに言ったことが全てだから。」

「どうして こんなに酷くつかんだのかをモリヤに聞くのよ。」

「‥‥だから… だから オレを止めるには、それぐらいの…」

「そうかな?」

もちろん 湧井さんは納得しない。小川くんは、二人の会話を聞きながら もくもくとお弁当を食べている。

「例えばね、水本。私だったらと思ってごらんよ。私がモリヤの家に遊びに行ったら 次の日、口はメチャクチャに腫れてるわ、両手首にひどいアザがあるわ、おまけにそのアザは モリヤが握ってつけたって言ったら、どうよ?」

「‥‥それは… 心配するけど… でも、モリヤは女の子をそんな乱暴につかんだりしないと思う…」

「でも水本はつかまれてるんじゃない。」

「オレ女の子じゃないし…」

「男とか女とか そういう問題じゃないでしょ。」

「‥‥‥」

「水本 こういうのは?」

小川くんが言った。

「湧井が 俺のウチ遊びに来た次の日、口が腫れて、俺につかまれてついたアザが両手首に。」

「ええ?‥‥」

「それはDVだ。」

「‥‥!」

DV‼

「この状況はそうだろ。一般常識だ。湧井は否定する。私が悪いの 小川くんは何も悪くないわ、と。」

「それは確実にDVね。」

「‥‥‼」

湧井さんまで…。

「泣いたってダメ。」

「‥‥‥泣いてない。」

「水本だって 湧井と俺バージョンで考えたら、そう思うだろ。」

「…お、思わないっ。小川くんはそんなことしない。」

「バカ。そういうこと言ってんじゃないだろう? 水本にだって分かってんだろ?」

「…………分からないよ。オレ、バカだし。」

「もう~~~。しょうがないなあ水本は…。」

小川くんが ため息をつきながら言った。

「とにかく、俺がモリヤと話す。」

「え⁉」

「今日は私が行くってば。」

「そんなキケンな男のところに 湧井を行かせられるか。」

小川くんはそう、真面目な顔で湧井さんに言って オレを見た。

「水本、反対しても俺は行くぞ。」

「反対するよ。小川くんは又、DVだろとか言うんだろう。」

「言わないよ。」

「前もそう言ってた。でも言っちゃったじゃないか。」

「モリヤの方から言ってきたんだって。今回だって、DVだと思ってんの? と聞かれたら 違うのか? と俺は言うね。」

「そんなの いやだ!」

「水本の嘘つき」

と言ったのは湧井さんだ。

「オレ、嘘なんかついてない!」

「だって 前に水本、自分は常識人だって言ったわ。」

「‥‥‥言ったよ? オレ 常識あるもん。」

「だって 誰もが常識と思うことを、水本は今 違うと言ってるのよ?」

「ええ‥‥??」

「水本は 嘘つきで常識もないと、認めるのかな?」

「‥‥‥オレ‥‥もしかしたら常識はないかもしれないけど… う、嘘はつかないよ。」

「うん。なら オレが行こう。それでいいよな?」

「??」

なんか話がこんがらがって 分からなくなってしまった。何が "なら" なのか??

「私も行かせてよ。小川くんは色香に迷うんでしょ?」

「いや、湧井は行かないでくれ。」

いつになく 小川くんは真剣な顔。

「なぜよ。」

「モリヤは危険だ。俺は本気で湧井には行ってぼしくない。これはお願いなんだ。」

「‥‥‥」

「たのむ。」

と小川くんが言った。湧井さんはしばらく考えていたが、やがて

「‥‥分かった。小川くんは、ホントに大丈夫なの?」

「おう。大丈夫だ。」

‥‥‥モリヤがキケン‥‥ どうしてそんなことに‥‥‥

小川に怒られる とモリヤが言っていた。もう水本を家によぶなと、二人で出かけるのもとんでもないと言われるかも、って言ってた。

「オレ、」

小川くんと湧井さんが オレを見る。

「オレ、ピクニック行くんだ 今度の日曜モリヤと。」

「ピクニック?」

「行くんだ。約束した。絶対行くんだ。」

「怖いなァ。樹海に置き去られるんじゃないの?」

湧井さんのセリフは 冗談なのか本気なのか分からない。

「今日の話次第だな。」

「そんなの どんな話になったって、オレは行くんだ。」

「そうか。話をするのはいいってことだな。」

「‥‥‥」

「ちゃんと話して 納得したら、何も反対しやしないよ。水本も ずっと後付けられたりしたくないだろ?」

「? 誰に?」

「俺と湧井に。」

「ぴ、ピクニック?」

「ピクニックも モリヤの家も。ストーカー並みに。」

「そ、そんなの されたくないに決まってる‥‥」

「じゃあ 話してくるよ。前も話、してんだ。心配すんな。」

‥‥なんの心配か…

何がなんだか分からない。毎日がとても 穏やかでなくなっている。気持ちがとてもそわそわして 尋常でなくなってしまう…。


放課後、オレは席に座ったまま ボンヤリしていた。湧井さんが 席にやって来て言った。

「クリームソーダ飲みに行こうよ。」

オレが顔を上げると

「家に来てもいいんだよ。」

と言って笑った。

「オレ‥‥」

常識人だからって なんだかもう言えない。

「ごめん。」

と 湧井さんが にっこり謝った。

「昼休みに嘘つきって言ったこと、謝る。水本は嘘つきじゃないよ。なんとしてでも説得したかったから あんなこと言った。ごめんね。」

「う‥‥」

「お詫びに クリームソーダ、おごったげる。行こう。」

オレもにっこりして 湧井さんを見た。マスクしてるから、目だけしかにっこりしてるの 分からないけど。

「おごってくれるんなら フルーツパフェにしようかな。」

オレが笑って言うと 湧井さんは

「なんだと⁉」

と ふざけて言った。オレが立ち上がった時 教室がざわめいた。

「水本」

「!」

モリヤが来た。

驚いた。オレは思わず両手を後ろへまわした。湧井さんは 黙ってモリヤをにらんでいる。

「水本、ちょっと妙なウワサが耳に入ったんで。」

「み、みょうなウワサ…? モ、モリヤがウワサなんか気にすんの、珍しいね…。」

オレが手を後ろへやったままそう言うと、モリヤはオレの顔をじっと見て

「カゼひいた?」

と聞いた。

「いや、うん ああ、大丈夫…」

曖昧な返事しかできない。

「妙なウワサ…て 何?」

オレが聞くと

「うん… 水本、手を出して。」

とモリヤが言う。

「‥‥手? なんで?」

ドキドキしてきてしまった。

「それよりウワサって何? 何が気になるの?」

「‥‥‥」

「小川くんは?」

と湧井さんが言った。

「放課後 モリヤに話があるって言ってなかった?」

「言ってたよ。トイレ行ったんで ぼくもその間にちょっとだけ水本に 確かめたいと思って。」

「な、何を?」

廊下側の窓には 又もや人が鈴なり。大騒ぎになっている。

「モリヤ!」

小川くんが飛び込んできた。

「ちょっと待ってろって言ったのに。」

「用があったんだ。」

「話があるんだ。行こう。」

「その前に用をすませる。水本 手を出して。」

「だ、だからどうして…」

「出してくれないと用がすまない。」

「よ、ようって何…」

オレはおそるおそる手を出した。テーピングしてるから アザは見えない。

「そのテープは何? アザになってるの?」

「う… ほ、ほんの少しね‥」

「見せて。」

「ダメよ!」

湧井さんが、割って入った。

「私がせっかく巻いたのよ。テーピングは高いのよ。絶対はずさせないわ。」

モリヤは湧井さんを見て ちょっと微笑んだ。

「モリヤ、行くぞ!」

小川くんがモリヤを引っ張った。モリヤは今度は小川くんを見て

「小川は 水本のアザを見た?」

と聞いた。

「見たよ。大丈夫だ。行くぞ。」

モリヤはふっとため息をついて もう一度オレを見て、そして小川くんに

「分かった」

と言って 二人で教室を出て行った。

鈴なりの窓辺のやつらは もうギャーギャーと大騒ぎ。二人を冷やかしながら ついて行くやつもいれば、オレに向かって

「追いかけなきゃ、水本‼ 又 モリヤ盗られちゃうぞ⁉ 小川に又やられちゃうぞ!」

と叫ぶ者も有り。でもオレは なんの反応もできず、ただ立ち尽くしていた。

「水本」

湧井さんが そっと横からオレを呼んだ。

「モリヤも もう行っちゃったから。私たちも帰ろう。」

「う…」

「ねえ」

「‥ん?」

「モリヤって いっつもあんな感じ?」

「え?」

「もっとおとなしいイメージだった。…今も、たくさん喋ってたわけじゃないけど ちょっと押しが強いって言うか… 引かない感じがあったね。」

「‥‥‥」

「水本が すごく押されてる感じだったから、つい口を出してしまった。」

「うん… ありがとう。アザ、見せたくなかった。」

「私は見せてやってもいいと思ったんだけどね。」

「え?」

「こんなひどいことになってるんだ 自分で見てごらんよって。責任感じてもらわなきゃ、と私は思ったんだけど。」

「ううん。見せたくない。モリヤの責任じゃないもの。それでなくても モリヤはすぐ自分のせいだと思ってしまうんだ。」

「ほんとう? そうなの?」

湧井さんは疑わしそう。

「ほんとう。‥‥あ、どんなウワサか 聞けなかった。」

「すぐに伝わってくるよ。ウワサなんだから。水本、行こう?」

「‥‥うん。」

オレたちは、大騒ぎの廊下を抜けて 校舎を出た。今日もすれ違う生徒たちが、オレたちを振り返る。湧井さんは 変なウワサには巻き込まれなくても、注目の人だ。

オレは 振り返る生徒たちと同じように湧井さんの横顔を見た。

キレイな人なのだ。

キレイなのにサバサバした性格で、しかもとても可愛らしい。こんなにステキな人が、なんでオレと仲良くしてくれるんだろう。改めて そんなことを考えると、奇跡だよなァ。

「うん?」

と湧井さんがオレを見た。

「にやにやしてる…」

「え⁉ オレ?」

湧井さんは オレの背中をバンとたたいた。

「もー! 水本のそういうところが好き。」

「ええ?」

「何笑ってるんだ? さっきまであんなに元気なかったのに! 言ってごらん?」

かわいい笑顔でバンバン背中をたたいてくる。

「ええ?? オレ 笑ってた? いてて。湧井さんのこと考えてたんだけどな。」

「お? 私のこと考えて なんでニヤニヤすんの? あーっ やらしいこと考えてたな?」

「えっっ やらしいことなんか考えてないよ‼ キレイな横顔だなーと思ってただけだよ。」

「またまたー」

湧井さんは 嬉しそうに笑った。

───水本のそういうところが好き ‥‥だって。どういうとこだかは よく分からないけど 好きだって。へへへとオレは笑った。

「また笑ってる。」

湧井さんも笑う。二人で 笑いながら歩いていった。


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