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ウワサのモリヤ  作者: コトサワ
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色めく

友情でも愛情でも、好きな人と仲良くなるのは嬉しいことなのに、どうして心は幸せ一色にならないのでしょうか。水本の心の円グラフの過半数は幸せで占めて欲しいと作者は願う。

梅雨入りした。

天気予報が そう発表したその日、明け方から雨が落ちてきていた。朝になっても空が暗い。

ふとんから出て窓辺に行って オレはしばらく茫然と雨を見ていた。

雨がオレをドキドキさせる。


足元を濡らしながら登校した。

変なウワサが立ってしまったが (オレがモリヤを押し倒して、モリヤがオレにおちてしまった、ってやつ) モリヤが否定しなくていいと言うから、そのままになっている。

教室に入って席につくと 湧井さんがそばにやって来た。

「おはよう水本」

「おはよう。」

湧井さんはその後黙ってオレの顔を見た。しばらく見た後

「雨ね。」

と言った。

「うん。」

とオレ。

「どうしたの。嬉しそうじゃないね。」

「…そんなことないよ。雨は嬉しい。だって」

「モリヤの家に行けるから?」

「そう」

と言ってオレは笑ったが どうも胸がドキドキしてしまっている。

「私は反対だな。」

湧井さんは 真面目な顔でそう言った。

「反対って、モリヤの家に行くの?」

「そうよ。水本だって以前みたいに手放しで喜んでないんじゃない?」

「いや‥‥そんなこと」

ただ‥‥

「今日は やめときなよ。」

「いや、行くよ。」

「行くことないよ。そんな顔して。」

「そんな顔?」

どんな顔?

「困った顔。喜んでたって止めようと思うのに そんな顔で…。」

「いや、大丈夫。いいことがあるかもしれないんだ。」

「いいことって?」

「匂いが戻るかもって思ってる。雨が降ったら。」

少し前にモリヤの匂いが変わったということを、湧井さんに話していた。

「モリヤの匂いについては、正直よく分からないんだけど、モリヤの匂いが変わったから水本は落ち込んでるの?」

「それはある。」

とオレは言った。

「そういえば モリヤが好き?って聞いたら水本は匂いが好きって言ってたね。今でもそうなの? だから匂いが変わったら好きじゃないの?」

「うーん… でもあの匂いがないとオレの幸せは半減。」

「そうなんだ?」

「そうなんだ。」

オレは にっこり湧井さんを見た。

「戻ってるか確かめてくる。それで湧井さんに報告する。」

「…又盛られるよ」

オレは笑った。

「盛られない。あのね、お香はやっぱりないよ。」

「言い切れないと思う。」

「ううん。言い切れる。モリヤの家はね、全く火の気がないんだ。電化製品もないしね。燃したり 温めたり できないんだよ。」

オレはもう一度にっこりした。湧井さんが安心してくれるといいな。


今日も昼休みに小川くんが来て

「モリヤ休みだぞ」

と言った。

「うん。そう思ったよ。」

とオレは言った。

「ウワサでは」

小川くんは近くの椅子を持ってきて座った。

「毎日水本がモリヤの家に泊まりに行ってる、と。」

「へ───。」

「泊まってないわよ。みんなバカじゃないの」

「毎日の甘い夜が モリヤをますます色っぽくさせてる、というね。」

「モリヤ色っぽいの?」

「水本の気になるのはそこ?」

ハハハと小川くんは笑った。

「というウワサ。でも みんながモリヤを気にしてるのは事実。」

「気になるほど色っぽいのか。オレにも分かるかな。」

「今日は行くのか、モリヤんち?」

「うん。」

「泊まる?」

「泊まらないわよ!」

と湧井さんが言った。

「へへへ。ちょっと楽しみになった。ますます色っぽいのならオレにも分かるかも。きのうもおとといも、モリヤのこと見てないから。」

「水本…」

湧井さんが心配そうにオレを見た。

「大丈夫だよ。なるべく寝ないし。大丈夫だよ。ほんとに盛られたりしない。」

湧井さんは小川くんの顔を見た。

小川くんはちょっと笑顔になって それからオレの方を見た。

「小川くんも モリヤが一服盛ったと思ってるの?」

「真実っぽくてウワサにできない。」

なんでだ。湧井さんも 小川くんまで…

「でも行くんだろ。」

「…うん、行く。」

あ!と思いついて オレは立ち上がった。

「ちょっと購買に行ってくる。」

「何買うの」

と湧井さんが聞いた。

「サンドイッチ。」

「今お弁当食べたのに? 小川くんじゃあるまいし。お腹すいてる?」

「いいや。」

オレは わははと笑ってしまった。小川くんが失礼な、と言っている。

「夜用。こないだ お腹がなって気を使わせたから。」

そう言ってオレは扉に向かった。小川くんのため息が聞こえた。

「モリヤ一色」

と呟く声も。


購買に走って向かいながら考えていた。

モリヤ一色…。モリヤって、‥‥何色だろう。モリヤの色。そんなことを考えていると 少し気持ちが華やいだ。

モリヤは色っぽくなってるらしい。何色っぽく?

ニヤニヤしながらオレは、サンドイッチを2つ買った。ハムサンドと野菜サンド。モリヤは食べるかな。野菜サンドなら食べるかも。

とにかく。とにかく これなら暗闇でも食べられる。自分で口に運べる。

あの日の食事を思い出して オレは赤くなってしまった。今思い出しても恥ずかしい。

モリヤの家の中は 雨の日は漆黒。黒は全ての色味を奪う。って、美術の時間に先生が言ってた。だから黒色の使い方には要注意だって。

全てを奪う。

モリヤだって 物は見えるとは言っても、色までは見えないのだろう。あの家の中では…。

モリヤの色も、やっぱり見えない。オレの目には色どころか 形すら見えない。

色っぽいモリヤ、やっぱり分からないかな。せっかく今日会えるのに ちょっと残念。

予鈴がなった。オレは慌てて教室に向かった。

でも、暗くても匂いは分かる。モリヤの匂いが戻ったかどうかは あの漆黒の家でもオレにも分かる。そう考えながら走って帰った。


さすが梅雨。一日中降っていた。

放課後になっても まだ降っている。あんまり慌てずに歩いていこう。焦って歩くとよけいにびしょ濡れになってしまう。そう考えながら帰り支度をしていると 湧井さんがオレの目の前に立った。

「やっぱり私は反対よ。」

「モリヤの家に行くこと?」

オレはにっこりした。反対と言いながら湧井さんは行かせてくれる。それがオレには分かる。

「でも小川くんに言われたの。それは私のやきもちだって。」

「やきもち?」

とても意外な 予想外な言葉。

「ひどいと思わない? モリヤにやきもちやいてるんだって。それで反対するのは どうかと思うって。」

「‥‥」

モリヤにやきもち…

「私は モリヤは 盛ってると思うわ。」

オレは湧井さんを見ていた。黙って。

「でも小川くんが言ったことも 図星なの」

そこで湧井さんは にやっと笑った。

「だから 行ってらっしゃい。何があったかは教えてね。そして気を付けて。絶対盛られるんだから。証拠をつかんできて。」

「分かった。」

オレは笑ってしまった。ほんとにかわいい人だ。

「証拠をつかんだら 湧井さんに知らせるよ。」

「きっとよ。」

手を振って オレは教室を出た。

帰る道々笑ってしまう。盛られた証拠ってなんだろう。逆に ほんとに盛ってたらおもしろいな。どうやって盛ったのか聞かなくっちゃ。はははとオレは笑いながら 雨の道をすすんだ。


雨だけど 今日は少し暑い。急いでは歩かなかったけど それでも汗をかいてしまった。

森の家は雨にかすんでいる。どしゃ降りではないが 長い糸のような雨が絶え間なく降っている。空は暗い。

雨のとばりって こういうののことかなあと思いつつ、オレは森の家に歩いていった。

とばりの向こう。森の家の扉。

扉の前に立っていると 今日も声をかける前に扉が開いた。自動ドア。ハハハ。

モリヤの顔が見えた。オレをじっと見た。オレもモリヤの顔をじっと見た。今見とかないと 家に入るともう見えない。

色っぽい? やっぱり分からない。

「どうぞ」

とモリヤが言った。

「おじゃまします。」

扉が閉じられる。ああ 真っ黒。

「モリヤ」

玄関でオレは声をかける。

「何」

振り向いた気がする。

「オレ 今日、返す服持ってきたんだけど、これ又貸してくれる? やっぱり制服濡れてしまった。1つは返せる。」

すると

「いや 別のを貸すよ。今日は少し暑い。」

なるほど。

オレは持ってきたモリヤの服と、モリヤが差し出してくれた服を交換した。家にあがって オレは又手さぐりで着替え始めた。

けど空が暗いとはいえ、まだ夜じゃない。外は ほんのり明るいのに、どうしてこの家の中はこんなに真っ暗なんだろう。そんなことを考えながら もたもた着替えていたら 膝に何か触れた。

びくっとなってオレは動きを止めた。

「モリヤ? なに??」

膝に モリヤの手が触れているんだ。これは手の感触だ。

「ここ。こないだの体育の時から気になってた。どうした?」

「え⁉」

手が膝に触れている。オレ まだズボンを穿いてない。なんて時に触るんだ。…違うか。これは暗いから妙な感じがするだけか? 明るかったら普通のことか?

「どうした?」

と もう一度モリヤが言った。

膝?

「…ああ!」

思い出した。だから暗いから、オレには見えないから、考えないと直結しないんだって。

「これはこないだ…」

と言いかけて オレは黙った。ダメじゃないか、言っちゃ。これ こないだモリヤんちの帰りに転んで打ったとこだ。あの後帰って見たらひどいアザになっていて、でも今はもう 少し薄れている。これはモリヤには秘密だって決めたんだった。

「なんでもない」

とオレは言った。

「…こないだ、なに?」

モリヤはさらに聞く。

「ちょっと打っただけ。もう平気。」

「どこで?」

「どこでもいいじゃないか。」

オレはモリヤの手を掴んで離した。さすがに触れてるものの位置は分かる。見えなくても。そしてズボンを穿いた。借りたやつ。

「なんで隠すの?」

なんか 声が笑ってる。まさか知ってるんじゃないだろうな。いやいや 知らないはず。知るわけない。

「言うほどのことじゃないからだよ。」

「ふ~ん」

やっぱり声が笑ってる。知るわけないのに。


モリヤの服はやっぱり草木っぽい匂いがする。モリヤの匂いとは違う。でもこれは いつものこと。ただ、まだモリヤから モリヤの匂いは感じられない。

さっきかなり近づいたのにな。やっぱりまだ戻ってないんだろうか。元の匂いに。

「ウワサでは オレは毎日モリヤの家に泊まってるんだって。」

オレは話題を変えた。

「知ってる。」

モリヤの声、まだ笑ってる。

「毎朝誰かが 夕べはどうだったって聞いてくる。」

「えっ。こ、これは知ってる? モリヤがものすごく色っぽくなったって。」

「水本は知ってる? それは水本が相当なテクニシャンだからってウワサ。」

てくにしゃん⁉ ああ 下ネタ…。

「もうそれは ウワサじゃなくて悪口だね。」

赤くなりながらオレは言った。でも大丈夫。色まではきっとモリヤにも見えないから。

「そうかな。ぼくは誉め言葉ととったけど。」

モリヤはやっぱり笑った声で言った。冗談なのかな。モリヤってほんとにウワサはどうでもいいんだ。湧井さんは怒るだろうな。バカな男どもって。この話は 報告しないでおこう。


「汗はひいた?」

とモリヤが聞いた。

「水飲む?」

と。

「ひいた。水はいいよ。」

とオレは答えた。

「いよいよ梅雨だね。モリヤは大丈夫?」

「大丈夫? 調子?」

「とまどってる?」

「ああ。」

モリヤは笑っている。機嫌がいいのかな。

「とまどってるよ。ものすごくとまどっている。ああどうしよう。」

笑ってる…。冗談? とまどってるように聞こえない。‥‥まあ、いいか。ご機嫌ならそれで。とまどってるよりずいぶんいいもんな。浮わついてるってほどでもなさそうだけど。ただ いつもよりは あきらかに機嫌がいい。


「歌おうか?」

オレがきりだすと

「うん」

とモリヤが答えた。声が弾んでいる。

それは楽しみ とモリヤは言っていた。初恋を歌うって約束した時。そうか。モリヤは楽しみがとまどいに勝ったんだな。

「どっちから?」

とオレが聞くと

「初恋」

と言った。

五月雨は、で始まる歌だ。季節感ばっちり。

────匂いは、立つだろうか。

どっちの匂いが、立つだろうか‥‥‥。


2番まで全部歌った。リフレインまで全部。

モリヤはどこにいるんだろう。オレはその場にストンと座った。

しばらくモリヤは何も言わなかった。

そういえば 五月雨って出てくるのは最初だけだな。2番ではもう晴れてるな と、オレは歌詞を思い返していた。歌詞をずうっと頭の中で追っていて

「女の子が校庭を走ってるのが印象的だよね」

と思わず言った。

「うん」

長い沈黙の後、モリヤがやっと口を開いた。

「校庭を探すと 見つけられるんだね…。」

前方にいる。モリヤは立っている。少しオレから離れている。匂いは、立たない。

ごくんと 音がした。

「あれ? モリヤ、水飲んでるの?」

「うん。」

「重しの水? 抑えてるの?」

「まあ。」

「どうして? 家なのに…」

家なのに、おさえる必要があるんだろうか。

「全開でいくと もたないからね。」

全開? もたない?

「キレイな歌、だよね?」

匂いがしないと 喜んでいる気がしない。確認してしまう。

「とても。」

モリヤは短く返事した。ほんとう? 気に入ってる? なんだか いつもと反応が違う。

「次の曲いく?」

オレがそっと聞くと

「いいや。ちょっと待って。」

とモリヤが言った。

「もう少し 余韻を…」

よいん… ということは 良かったってことかな…?

匂い、しないなあ…。

オレ、やっぱり中毒かもしれない。モリヤの匂い中毒。だって 匂いがしないと、こんなにさびしい。

モリヤは黙っている。オレも黙っている。サーサーと雨音がする。

真っ暗で雨音しかしない。モリヤがどこにいるのか分からない。黙っていると いるのかどうかも分からない。オレ一人みたいだ。一人だけ。暗闇に。

初恋の歌詞が頭をめぐる。匂いがしない。悲しい。

「…だめだ」

うめくような 小さな声がした。オレは驚いて その方向を見た。モリヤはまだ、オレの前方 少し離れたところにいる。

「どうした モリヤ? 気分悪いの?」

オレは立ち上がった。

「ちがう」

とモリヤは言った。もう普通の声だった。

「大丈夫? 気持ち悪いんじゃない?」

「ちがう 水本」

「はい」

「ごめん。もう一回歌ってくれない? どうしても、ガマンできない。」

「初恋?」

オレは驚いて言った。

「そんなの ガマンすることないじゃないか。」

驚いて、笑ってしまった。

「モリヤが聞きたいんなら 何回でも歌うよ。」


歌をうたうには暗いのはいい。とオレは思う。どこ見ていいのか分からない状態にならない。リラックスして歌える。

歌い終わって 又しばらく間があった。余韻? よっぽど気に入ったんだろうか。

でも ただ 匂いは ない。全く。

「この歌好き? モリヤ」

今日は匂いは諦めた方がいいかもしれない。きっとまだ戻らないんだ。でも もう1つの方の匂いもしないな。

少し間があってから モリヤの返事が聞こえた。

「うん。この歌は少しドキドキさせるね。」

へえ? モリヤがドキドキ。意外。

「モリヤって 初恋はいつ?」

ゴ、という風のふくような音がして なんだか家が揺れたような気がした。

「モリ‥‥」

ドンッと匂いにまきこまれた。あまりに急だった。

息が‥‥


「水本… 水本」

モリヤの声が聞こえる。

「水本‥」

あれ? なんだ? この状況‥‥

手がオレの顔に触れてる。なに? モリヤに、もたれてるのか? オレ⁉

「なに⁉」

オレはびっくりして体を起こした。

「水本、大丈夫?」

「え? 何? 大丈夫って…オレ??」

暗い。背中にモリヤが触れてるのが分かる。

「オレ、どうかした??」

「急に倒れた。頭打ってない? 背中からひっくり返ったわけじゃないけど… ごめん 支えられなかった。」

「ええ?? 倒れた?? オレが??」

なんで? 寝てしまったより まだもっと信じられない。今まで倒れたことなんて一回もない。それに

「‥‥なんともない。寝て起きたぐらいの感じ…。なんだろう?」

床に座ったままボンヤリとそう言ったら モリヤの心配そうな声がした。

「頭は? 痛くない?」

「いや? 全然? あっ」

「どうした⁉」

「…膝が痛い…」

この前 打ったところだ。

「ああ、膝から落ちたんだな… 見せてみて…」

モリヤがオレのズボンのスソをめくりあげたので オレはぎょっとした。

「モリヤ! たいしたことない!」

オレは慌てて足を引っこめて言った。

「折れたりしてない。打っただけ。」

「…同じところを…。腫れるかもしれないよ。」

「大丈夫大丈夫。なんかごめん。よく分からないけど なんでオレ倒れたんだろう。貧血かな? 心配かけたね。ごめんよ。」

そりゃモリヤ、びっくりしたろう。前ぶれなく倒れられたら。本人もびっくりだ。

「とにかく冷やして…」

と 冷たいものを又、膝に当ててくれた。気持ちいい。

「ありがとう。」

言って オレは笑ってしまった。

「又 大騒ぎだね。ごめん。」

「だから水本は謝らなくていいんだって…」

「モリヤ‼‼」

「えっ⁉」

オレは床に座っていて モリヤはその横にいる。体が触れているから もちろん位置は分かる。オレは見えない中 多分肩のあたりをつかんだ。

「モリヤ! 匂いが戻ってる‼」

「‥‥」

久しぶりだ。これ!この匂い!これだよ! ああ いい匂い。

オレは思わず モリヤの方に顔を近づけた。

ぶわっと放出されるように匂いがきた。ああ、すごい。

モリヤの肩のへんを両手でつかんで オレはしばらく下を向いていた。オレの顔からモリヤまでの距離は多分10㎝ぐらい? 暗いから予想だけど。近いからか匂いも濃い。

オレはハッとした。押し倒そうとしている体勢のようになっている? このドキンドキンはオレの心臓か!

オレは慌てて手を離した。

「ごめん!ごめんごめん。つい…」

モリヤは何も言わなかった。怒ってしまったかな。

ウワサはウワサだから平気だけど、ほんとに押し倒そうとしたら そりゃ怒るよな。

‥‥してないけど。抱きついたわけでもないけど…

オレは自分の行動を反芻してみた。──いきなり肩につかみかかったか…。それで顔を近づけた。うーん… これは 怒ってもしょうがないかも…。

オレは座ったまま そーっとモリヤのいる辺りから後ずさった。

「水本」

「はい」

びっくりして止まる。

「ごはん食べる?」

「は?」

唐突…

「あ!オレ、サンドイッチ買ってきた。購買で。1コずつ食べる? 野菜サンドなら モリヤ食べれる?」

「それ、明日までもつ?」

「うん? んー もつんじゃないかな」

「じゃあ置いておいて 明日の朝か昼に水本が食べるといい。」

「え?」

「食事を用意しておいた。」

「え⁉」

「作ったので 食べてもらいたい。」

作った⁉ モリヤが⁉ ごはんを⁉ 生野菜のサラダではなく、料理をしたというのだろうか?

「な、何を作ったの?」

「それは食べてのお楽しみ。…食べてくれる?」

「うん‼」

非常に興味深い。モリヤが料理を! それはぜひ食べなければ。

「持ってくる。」

とモリヤは言った。

ああ やっぱり毎回発見がある。新しいことを知る。あ、それに、怒ってなかったのかな? 良かった。ほんとに顔が見えないと 考えていることが分からない。表情で読みとれないから。

「水本」

「うっ⁉」

耳元でいきなり声。今日は1回目だ びっくりした。ごはんを、持ってきてくれ‥た…の‥‥か…

ちょっと待て。ちょっと待て! まさか

「水本」

耳元で…。

「あ! あの! モリヤ それ、それオレ、自分で食べる! ありがとう! な、何かな。わわ、悪いけど手、手に 渡してくれるか、な…?」

声がうわずっている。前回の記憶がよみがえる。バカ! 遅い‼

「見えないから こぼしてしまうよ」

「いや だ、大丈夫!と、思う! お、お皿を…モリヤ…」

「一生懸命作った。」

「え?」

「一生懸命作ったので、おいしく食べてほしい。こぼしたりせずに。」

「‥‥‥」

「大丈夫だよ。口に入れてあげるから」

「───‼」

なんで‥‥。ドッキンドッキンと心臓がなりだした。見えないと うまく食べられないようなものなのか?

「水本」

この状態だけは、避けたかったのに‥‥

モリヤの手がオレの顔に触れる。

「口を、開けて…?」


ドキドキしすぎて最初の2、3口は味が分からなかった。なんだろう…レタス包みみたいなのか…? じゃがいもの、サラダみたいな コロッケみたいな味も… なんか… おいしい…

「口の中のもの飲み込んだら 口、開けてね。」

なんだか モリヤは楽しそう…

「ハイ、これが最後の一口」

モリヤがそう言った時 オレは汗だくになっていた。

「お口に合いましたか? 前のよりは料理っぽかっただろう?」

モリヤが楽しそう…。

「う、と、とてもおいしかった…。ごちそうさま」

「どういたしまして。」

モリヤの声が、嬉しそう。そして声と同時に ス───ッと モリヤの匂いが立った。この匂いは、嬉しいけど…。

動悸がとまらない。

そうだ! 口を拭かなくていいって言っとかなくちゃ…!

「モリ…」

遅かった…。

「何?」

口を拭いてくれながらモリヤが聞く。

ああ‥‥。

‥‥もしかして、モリヤ、おもしろがってないか? オレは汗がふきだしていた。

「暑い?」

と モリヤが聞いた。冷や汗だよ。

オレの心臓はドキドキ打って 雨がサーサーと音を立てている。音楽みたい。心臓のバタバタとうらはらに、脳みそには呑気な言葉が浮かぶ。現実逃避というやつか? 雨音はショパンか? 心臓はベートーベン。

「あっそうだ! 歌! 歌を、うたおうか…」

どこへでもいいから逃避したい。

「うーん。どうしようかな。」

あれ? 歌うたいに来たんだよね?

でも、モリヤの声は楽しそう。ほんとに機嫌がいい。…梅雨だから? いや…? とまどうって、言ってなかったっけ…?

「あ!」

「何?」

とモリヤが嬉しそうな声で聞く。

「そういえば モリヤは食べたの?」

「‥‥ああ、食べたよ。」

「ほんと? いつのまに…」

ふふふとモリヤは笑っている。

「水本と一緒に食べた。」

「そ、そうなんだ‥‥」

ドキドキが止んでくれない。苦しくなってきた。

「あの、モリヤ…」

「何?」

「しょ 食事のことなんだけど…」

「うん」

モリヤはオレの向かいにいるようだ。座っている。普通の距離。近すぎない。

「じ 次回からは自分で、食べる。あの、ほんとに なんか持ってくるから。」

「ぼくの作ったものはイヤ?」

「そういうことじゃなく。」

ドキドキしながら 冷や汗が出る。

「そういうことでは全然なくて、すごく、すごく嬉しいんだけど だけどオレは た‥」

汗がダラダラ。喉がカラカラ。オレはつばをのみこんだ。

「食べさせてもらうのは ちょっと…」

「ちょっと、何?」

「う… ちょっと… きつい…。」

「きつい?」

「うう あの、恥ずかしいので‥」

「恥ずかしいって、どうして?」

びっくりしたような言い方してるけど なんかどっか、おもしろがってるような声でもある…。かんぐりすぎか?

「あかちゃんみたいだから。あれは…かんべんしてほしい…」

オレは 必死で言った。梅雨は続く。まだまだ雨の日はあるだろう。この食事が恒例になってしまったら たまらない。

「ふ───ん」

ふーんか…? モリヤの反応は普通なのかな。もうオレ自身 なんだか分からなくなっている。でもとにかく これだけは約束してもらわないと…。

「いい…?」

オレは聞いた。モリヤがどんな顔してるかは まるで分からない。

「分かった。」

やった…‼ 良かった‼ これでひと安心。良かった ほんとに。オレは思わず胸に手をあてた。

「でも」

とモリヤが言った。

「たまには いいだろ?」

「え‼」

「料理の楽しさに 目覚めてしまった。たまには自分以外の人に食べてほしい。」

「‥‥オレは、自分で食べられるんなら ほんとに全然嬉しいんだけど… 暗くない時‥雨じゃない日の昼間とか…」

「雨の日に気分がのるんだ。」

すごく楽しそうに モリヤが言う。からかってるようにさえ、聞こえる。

「毎回は しない。水本が来てくれなくなったら困るからね。ほんの時々。たまになら、いいだろう?」

「う‥‥ ほんとに たまにだよ? ほんとのほんとに」

モリヤが笑っている。

「ほんとのほんとに たまに、にするよ。」

モリヤが笑う。いい香りが立ちこめた。


オレはドキドキが苦しくて そうっとため息をついた。モリヤに借りたシャツが汗で濡れてしまった。

黙ると雨音が聞こえる。まだザーザーいってる。ちょっと強くなったか? 真っ暗なこの部屋の中で 雨音だけが響いている。モリヤの香りはうっすらと漂っている。でもモリヤ自身はどこにいるのか分からない。

何があったかは教えてね と湧井さんは言った。今日は何があったかな。ドキドキをまぎらすために、オレは記憶に集中することにした。

この家に来て モリヤの顔を見て 借りてた服を返して 又新しく借りて着替えた。それから、報告できない下ネタ話があって そしてモリヤは 機嫌が良くて オレは初恋を歌った。匂いはしなくて 歌が良くなかったのかなと思っていると 我慢できないからもう一回歌ってと言われた。歌うとモリヤは 初恋はドキドキする歌だって言って それで‥‥ それで なんでかオレが倒れてしまって でも 気が付いたら モリヤの匂いが戻ってた。モリヤの肩、つかんでしまって 怒ったかなと思ったら 怒ってなくて それから‥‥ うーん… 料理… のことは 言った方がいいのかな。盛られてない証拠になるよな。けど‥‥ モリヤの手で食べさせてもらったことは、言わないでおこう。ごちそうになったことだけ言えば… いいよね。

思い出したら、又汗が出てきた。ドキドキをまぎらわそうと思って 思考に集中してたのに、逆効果だった。何か別のことを考えなければ‥‥

「水本」

そんなに近くから声が聞こえたわけでもないのに、オレは飛び上がってしまった。

「う、うん?」

「‥‥どうして そんなに驚くの」

「ああ、いや、ちょっと 考え事してたから…」

「何考えてたの?」

「え、えーと、今日 何があったかなって。」

飛び上がったから 又ドキドキが激しくなっている。

「何が? あった?」

「う、うん。来てから オレがやったこととか。湧井さんが 何があったか教えてって言ってたから、思い返してた。」

「へぇ…。何を報告するの?」

「え…。と…。歌うたったとか…あ、モリヤの匂いが戻ったこととか!」

「‥‥」

「匂いがもどるかどうかは 報告するって約束したんだ。」

「へえ。ごはん食べたことも言うの?」

「う! うん… ごちそうになったって、言うよ。」

「ぼくに食べさせてもらったって?」

「‼ …い、いや それは…言わない…」

「どうして?」

どうして??

「はっ恥ずかしいからだよ!」

もう ドキドキが大きくなってしまって たまらない。

「湧井サンだから?」

「えっ」

「湧井サンだから 恥ずかしいの?」

「い、いや。他の人でも、恥ずかしいよ。」

「そうなの?」

「うん。」

自分で思い出して恥ずかしいのに…人に言えるわけがないのだ。

「じゃあ 誰にも言わないんだ?」

「もちろんだよ。」

「ふうん」

と言ったモリヤの声が、やけに嬉しそうだった。

「二人だけの秘密ってわけだ?」

「あ…うん…。秘密に、してくれるかな。」

「分かった。」

と言って モリヤは笑った。楽しそう…。

「良かった聞いておいて。」

「え?」

「明日、"夕べはどうだった?"と聞かれたら、答えるとこだった。」

「ええ⁉ 絶対だめだよ!」

「うん。分かった。」

ほんとに楽しそう。

危なかった。おそろしく恥ずかしいウワサがたってしまうところだった。良かった 秘密にするって言ってくれて。

ああ ドキドキ。

初恋の歌、ドキドキさせるってモリヤ言ってたな。どこにドキドキするんだろう。オレなんか 今日もドキドキしっぱなしだけど モリヤでもドキドキするのかなあ。何にドキドキするんだろう。いったい何に。

‥‥しんとしている。雨音が止んだ? なんにも聞こえない。なんにも見えない。匂いは ほんのり。匂い、このまま戻ったままなんだろうか。又違う匂いになってしまったりするんだろうか。

しんとしている。空気も揺れない。モリヤって、ほんとに気配がない。

このまま‥‥

このまま もしモリヤが口をきかなければ オレにはモリヤがいるかいないか分からない。いなくなっても───分からない‥‥‥。

しんと、している。雨音ぐらい してくれたらいいのに。ああ 又ドキドキしてきてしまった。

しんとした闇の中で 初恋の歌が頭いっぱいに広がった。広がってそして、歌が頭をぐるぐるまわる。────今、モリヤが そっといなくなっても オレには分からない。ずっとモリヤが声を出さなければ、オレが呼ぶだろう。モリヤって呼ぶだろう。でも、もしそれで 返事がなかったら? あんまり シンとしているので 変なことを考えている。

何度も呼んで それでも返事がなかったら? オレはこの暗闇の部屋を はしから手探りで歩いて モリヤを探すんだろう。一生懸命探すんだろう。モリヤ モリヤと呼びながら。

ドキドキ ドキドキ

モリヤを探す ひとりぼっちの自分を妄想していたら ふいに思い当たった。────モリヤは、いつも一人だ…

毎日この家に。夜になったら、月と星のない日は真の闇になってしまう 漆黒のこの家に。一人で。 

一人で、何をしているんだろう 何を、 考えているんだろう────

「モリヤ…」

たまらなくて オレは名前を呼んだ。

「なに?」

声は耳元で。自分から呼んだのに ビクッとなってしまう。いつからいた? こんな近くに…。

「なに? 水本」

あ。すごい… 匂いが、モリヤの…。ぶわっと強く まきあがるようにいい匂いが。

「いい匂い」

思わず呟いた。モリヤには気配がないのに、香りが立つと まるで風が起こるよう。風にまかれるように、オレは匂いにまかれた。

「ごめん」

とモリヤが言う。オレのすぐ横で声がする。

「何が?」

オレの大好きな匂いを放出させて 何を謝るんだろう。

「もう春もおわったのに」

「うん?」

「自制が───きかない‥‥」

自制…?

モリヤは春に弱い───らしい。春は高揚してしまうんだって。心が浮わついてしまうんだって。だから自制しているって そう聞いた。 …とても そうは見えなかったけど。モリヤの自制の仕方が とても変わっていて、それは水を飲むという行為だ。水を、飲む。大量に。  

自制がきかない? そういえば 今日モリヤは水を、飲んでいたな。

「モリヤ、高揚してるの?」

「してるね。」

「自制しなきゃいけないほど?」

「そう。」

機嫌は良かった。確かに今日のモリヤはいつもより、機嫌が良かった。でも、

「基準が厳しすぎない?」

とオレは言った。

「キジュンて 何の?」

「自制しなきゃならないって考える基準。オレは今日のモリヤは機嫌がいいなと思ったけど、自制するほどではないと思うよ。少しいつもより機嫌がいいぐらいで自制しなくちゃいけないんなら 世の中の人はみんな毎日、ムスッとしてなくちゃならない。」

「‥‥‥」

匂いが、立ちこめる。おおいに…。

「モリヤは普段 物静かだから、機嫌がいいくらいが他の人の普通だよ。謝る必要なんか まるでないよ。」

ああ いい匂い。気が遠くなりそう。

「ぼくは…」

「うん?」

「ぼくは もう少し、自分を制約することができると思っていた。」

制約… モリヤってば 何を求めてるんだろう。自分に 何を課してるんだろう。

「そこまでストイックにならなくてもいいと思うけど…。オレなんか なんの制約もかけずにボンヤリ生きてるよ。ハハハ。」

香る。目がくらむほどの香り。

「水本に」

ほんのすぐ耳元でモリヤの声。

「制約なんかいらない。」

「え?」

「さっき 長く黙っていたね。」

「うん…。」

ドキドキして、そして 歌が頭をまわっていた。歌がまわりながら モリヤが‥‥ モリヤが いなくなったらどうしようって…。 良かった いて。良かった 返事してくれて。良かった 匂いが 盛大に立って。

「モリヤ」

「何?」

「モリヤは一人で家にいる時、何をしているの?」

「とくに何も。」

「何もしてないことはないだろう。モリヤは暗くても見えるんだから。──考え事とか?」

「まあね。考え事くらいはしてるかな。」

「ふうん‥‥」

やっぱり。それは似合う。暗い森の家で、モリヤが窓辺に座って考え事をしている。

「水本も考え事をしていたの」

「え?」

「さっき、長く黙っていた時。」

「う‥うん…考え事っていうほどのものじゃ、ないけど…」

「どうして名前を呼んだの?」

「名前?」

「長く黙った後、モリヤって。」

「あ‥‥。うん…」

オレは少し考えて

「雨音がしなくなって、とても しんとしてたよね。今も…しゃべらなければ とても、しいんとしている。」

「うん。」

「オレには何も見えないから、モリヤがどこにいるのか分からなくて‥‥。ちょっと…」

「ちょっと?」

「‥‥‥‥不安になった…。」

うわ‥‥。すごい。匂いが‥‥‥。濃密なモリヤの匂いが‥‥ のみ、こまれそう───

ぐいと手首をつかまれた。オレはハッとした。

「何? モリヤ?」

「水本」

「うん?」

モリヤ、やっぱり 力、強い…。手首がしまる。痛い。

「モリヤ 痛い…」

オレが言うと モリヤは黙って手を離した。

「どうしたの?」

「‥‥‥」

モリヤは黙っている。

「モリヤ?」

それでもしばらく間があって、ようやく声がしたのは だいぶ離れた所からだった。

「雨が もうだいぶ小降りだよ…」

「あ、まだ降ってるの? 全然音がしないね。」

「ああ。とても細かい雨が降っている。」

細かい雨か…。昼間なら とてもキレイなんだろうけど、夜で しかも、灯りのないこの辺りでは、何も見えないだろう。

夜の雨は、少しさびしい。

「モリヤは、雨は夜でもすきなの?」

「そうだね。」

「ふうん。」

「水本はキライ?」

「キライではないけど オレは雨は昼間の方が好きだな。雨つぶが見えてきれいだし それに時には…あ!」

思い出した。そう、虹の歌だ。

「モリヤ、歌うたう? 虹の歌」

忘れてた。これを忘れたら それこそ何しに来たのか分からない。でもモリヤは 離れた場所で

「そうだなあ…」

と どっち付かずの返事をした。あれ? …そういえば ごはん食べた後も、歌おうかと言うと どうしようかなって言ったっけ。

「今日は歌わない? いらない?」

不思議に思ってそう聞くと

「歌ってほしいのは やまやまなんだけど…」

と モリヤは言う。

「だけど 水本、今日一度 倒れたよね…」

ああ…! もう、そんなこと忘れてた。でも 倒れたから何? と口に出す前に モリヤが続けて言った。

「今日は 安静にした方がいい。」

「あんせい⁉」

びっくりした。あんせいだって。

「おおげさだなあ! そんなの全然大丈夫だよ! 大丈夫だったらいい? 歌う?」

「うーん…」

あれ? まだ色好いお返事がこない。

「モリヤ どうかした?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥ああ、かっとう…」

そう言ったきり、モリヤは黙った。

かっとう? 葛藤???


「小降りだよ。」

やはり離れた所から 少し経ってから声がした。

「う‥‥ん?」

「今なら帰れる。」

「‥‥‥」

「さあ カバンと制服」

声が近付いてきて オレにそれらを渡した。

「モリヤ…」

「灯りのある所まで送って行こう。」

「モリヤ」

「立って 水本」

「モリヤ!」

オレは座ったまま カバンと湿った制服を、握りしめていた。モリヤは多分オレの目の前に立っている。

「歌は?」

「今日はいい。」

「どうして? オレが倒れたから? もう大丈夫だって言ってるじゃないか。」

「大丈夫じゃない。」

「大丈夫だ!」

「歌は次回でいい。又 雨が降ったら来てくれるんだろう?」

「来るよ。来るけど…」

「じゃあ それでいいじゃないか。何も今日でなければいけないってことではない。」

「‥‥‥」

オレは黙って 立ち上がって モリヤのいるだろう方向を見つめた。

「だってモリヤは ガマンしたり自制したり葛藤したりするじゃないか。そんな必要はないと オレは言ってるんだ。」

「水本」

モリヤがため息をつく音が聞こえた。

「これは、水本のために言ってるんじゃないよ。自分のために言ってるんだ。」

何? 意味が分からない。

「ぼくが、ダメなんだ。今日は帰って。」

オレはドキンとした。

「具合悪いの? モリヤが…」

モリヤは 返事をしない。オレは慌てた。

「ご ごめん! オレ… 全然気が付かなかった。機嫌がいいので 体調もいいものとばかり…。」

匂いも盛大に香ったし。

「そうか…。悪かった。帰るよ。もちろん、送らなくていいから。」

と言いつつも 扉の位置が分からない。オレは検討をつけて、おそるおそる進んだ。途端にぐいと腕をつかまれた。

「あっ」

と声をもらしてしまう。心臓に悪い。

「そっちは壁だよ」

腕をつかんだまま、耳元でモリヤの声。

「あ、ああ、ありがとう」

モリヤが 又背中をおして扉まで連れていってくれた。オレがなんとか靴をはくと モリヤが傘を渡して扉を開けてくれた。やはり 少しだけ外の方が明るい。いや 明るいとは言わないか。真の闇ではないというだけで。今日は外も とても暗い。かろうじて物の輪郭は見えるという、程度だ。

「街灯のあるところまで一緒に行くよ。」

とモリヤがついて来ようとする。

「とんでもない!」

オレは扉を出たところで、モリヤを振り向いた。表情は見えない。輪郭が分かるだけ。けむるような小さな雨が、顔に当たる。

「本当にごめん、モリヤ。オレ なんにも分かってなくて。もしかして 明日も休む?」

「いや 行くよ。」

「無理しない方がいいよ。」

「いいや、行く。」

オレは… もう 今日何度目か分からない。胸の中が おかしくなりそうだ。ドキドキが又大きくなる。

具合悪いって どんな風に? 頭が痛いんだろうか 気持ちが悪いんだろうか ほんとに─────‥‥ほんとうに全く気付かなかった。

オレは、相当思い切って口を開いた。

「もし、もし オレで役に立つなら、もう少しいるけど…。何か できることがあるなら…。」

モリヤは こっちを見ている。返事をせずに、黙ってじっと こっちを見ている。と思う。輪郭しか見えないけど。

長いこと、じっとそうしていたけれど、モリヤはやっぱりじっとしたまま 何も言わない。あんまり外に立っていると、きっと体に悪い。早く家に入って寝なくては。

「やっぱり じゃまかな。では帰るよ。お大事に。すぐに横になってね。ごめんな。」 

オレは傘を開いた。いらないぐらいの小さな雨だけど。帰るキッカケみたいに開いた。

「じゃあ また。」

そう言ってオレが歩き出そうとすると

「…水本は 何も悪くないんだよ」

モリヤが口をひらいた。

「え?」

「何も 謝ることはないんだ。ぼくがもう‥‥」

苦しそう。

「うん。具合が悪いんだろ。分かったから もう早く家に入って。オレは帰るから。」

それでもモリヤが家に入らないから オレは

「おやすみ」

と言って 歩き出した。オレがここにいるから家に入れないんだと思って。

傘に雨が当たってるはずなのに 音もしない。暗くて歩きづらい。まだ家に入ってないのかな。振り向かない方がいいかな もう少し…。

オレは転ばないように 一生懸命歩いた。もう 入ったかな。さすがにもう家に入ったかな。振り向いて確かめても 大丈夫かな。

オレは そっと振り向いた。でも、遠くなってしまったモリヤの家は、闇に沈んでいて まるで見えない。モリヤも そこにいるのかいないのか、全く分からなかった。

入ってる! オレは自分に言い聞かせた。大丈夫。もう家に入った。オレは帰ろう。

前に向き直って 歩き出した途端、水たまりにすべって転んだ。また 転んでしまった。何をやってるんだろう オレは。そして又もや膝を 同じところを打ってしまった。ものすごく痛い。ああ 本当に 何をやってるんだろう。

涙が出てきた。びっくりした。痛くて泣くなんて 子どもかオレは! こんなことぐらいで。オレは慌てて目をこすった。情けなくて 恥ずかしくて また目が熱くなった。でも泣かない。高校生にもなって。これも内緒! モリヤにも 湧井さんにも もちろん小川くんにも。みんな内緒。

オレはこけた時に転がった傘を、拾って閉じた。細かな細かな雨が やっぱり降っている。顔に当たるから ようやく分かる。

夜の雨はさびしい。

オレはもう一度 モリヤの家を振り返った。

「大丈夫」

と声に出して言ってみた。

大丈夫。モリヤは夜の雨も好きだから。さびしくなんかないはず。一人でゆっくりよく寝て どうか元気になりますように。 

暗い道を 再びオレは歩き始めた。そしてオレは 帰りつくまで どうかもう、転びませんように。次 転んだらアウトだ。次こそ、大泣きだ。オレはムリヤリ ハハハと笑った。ムリヤリ笑ったら、ほんとに可笑しくなった。オレはバカだなと思って。ハハハ。知ってたけど。笑いながらも まだ胸がドキドキ言っている。オレは 大きく深呼吸した。

「あ」

モリヤの匂いがする。手に持った制服からだ。やった。もしかしたら又、夢にモリヤが出てくるかも。今日はドキドキも多かったけど モリヤの匂いも多かった。最高にいい匂いを、何度も何度も味わった。これは 相当な幸せ。このごろ匂いが無くなってたものだから よけいに衝撃的に嬉しかった。幸せで幸せで嬉しくて、なのにドキドキが強すぎて、モリヤの不調に気付かなかった。

次、同じことになったら 気付けるかなあ。‥‥‥ムリかも‥‥。とても自信がない。見えないと 具合悪そうでも オレには分からない。いるかいないかすら、分からないのに。どうしたら気付けるだろう。

街灯のある道に出た。明るい。雨の小さい粒が たくさんたくさん天から落ちてくるのが 街灯の灯りでよく見える。──1つ 灯りがあればなあ…。モリヤの顔が見えるのになあ…。でも あれが、モリヤの生活なんだ。灯りをモリヤの家に入れて 生活を乱すようなことはしたくない というのが、オレの本音。となれば もう聞くしかない、と結論を出した。

時々 聞こう。モリヤ 具合悪くない? いや、調子どう? かな。そしたら 少し気持ちが悪いとか、立ちくらみがするとか、何かあれば 言ってくれるかもしれない。

よし。

そう決めたら ちょっとホッとした。モリヤ、もう 寝たかなあ‥‥。



次の日の朝 雨はやんでいた。でもまだ雲は厚く垂れこめていた。目覚ましが鳴って目が覚めると 部屋は モリヤの匂い───

制服に思いっきり匂いが着いている。今は合い服期間なので、もう上着がない。着ても着なくても自由なベストを、オレは昨日着ていた。だってカッターシャツでは、汗が付いて洗ってしまう。ベストなら大丈夫。ベストとズボン。

すごい。今日は又、一段とすごい。やっぱり昨日の匂いの立ち方がすごかったんだ。もうほとんど乾いていたけど、少しだけドライヤーをかける。すると、もっと匂いが立つ。

朝から幸せ。

‥‥モリヤは 大丈夫かな。もう起きているかな。今日学校に 来るだろうか。


今日も少し、むし暑い。いつものオレだったら、もうベストは着ないところだ。でも今日は絶対着る! だってこんなに モリヤの匂い‥‥。ずっとそばに モリヤがいるみたい。モリヤの家にいるみたい。匂い立つモリヤと一緒に。

幸せな気持ちで学校に到着。教室に入ると すぐに湧井さんが そばに来た。

「おはよう」

と笑わずに湧井さんが言う。オレは笑って

「おはよう」

と言った。

「証拠をつかんだ?」

椅子に座って 真面目な顔で湧井さんが言うから、オレは笑ってしまう。

「残念ながら。」

と、笑いながら言った。

「盛られてないから 証拠もつかめなかったよ。」

「‥‥昨日は モリヤんちで寝てないのね?」

「寝てない。」

寝てないけど‥‥

「寝てないけど?」

あれ? 今 オレ、"寝てない"までしか 声に出してないよな…?

「寝てないけど、なんかあったの?」

「え… ええと…」

「あったんでしょ。何?」

湧井さんは とても真剣な目で、オレを見ている。これは… 答えないわけにはいかない…。

「‥‥ちょっと 貧血を…」

「ひんけつ⁉ 水本が? ──まさか 倒れたなんて言わないよね?」

「‥‥‥‥倒れた」

ガタンと 湧井さんは立ち上がった。

「モリヤのとこへ行くわ。」

「えっ! 待って!」

オレは湧井さんの腕をつかんだ。今にも行ってしまいそうなので。

「な、なんで…」

とオレが腕を持ったまま言うと 湧井さんは恐い顔でオレを見た。

「話をつけに行くのよ。」

「話って何?」

「水本。わかってるの? これは犯罪よ。」

はんざい‼

湧井さんが ゆっくりため息をついた。

「何よ そのびっくりまなこは。毒を盛るのは犯罪。子どもでも知ってるわ。」

「ど、どく盛ってないよ… 貧血だって…」

「水本は貧血の診断をされたことがありますか。」

「‥‥‥ないけど でも たまたま…」

「貧血にたまたまなったりしません。」

「でも 盛られてないんだ。」

「盛られてます。水本は来なくていい。私が一人で行ってくるから。手を離して。」

「いやだ。」

「水本」

「‥‥何してる?」

オレと湧井さんはハッとして振り向いた。小川くんだ。

「モリヤ来てる?」

湧井さんが恐い顔で 小川くんに聞いた。

「それを 水本に知らせにきてやったのに。なんだよ けんかしてんの?」

「ケンカじゃない。私が文句あるのはモリヤによ。」

「なんで?」

「水本がモリヤの家で倒れたのよ。」

「え⁉」

小川くんが 驚いた顔でオレを見た。

「貧血。」

とオレは言った。

「‥‥おまえ オレが倒れたら貧血と思う?」

「‥‥小川くんは倒れたりしない。」

「おまえね。」

小川くんは 笑った。

「なんか失礼。でも オレだって、水本が倒れたりしないと思ってる。」

「‥‥人間だし たまには…」

「だから オレが倒れたら、ただの貧血だと思う? たいしたことないと。」

「‥‥‥病気かもって思う…」

「だろ? 水本は病気なのか? 具合悪いのか?」

「悪くない。オレ 病気じゃない。」

「じゃあ 盛られてるよ。」

「‥‥だから 盛られてないって…」

「水本 手を離して。」

湧井さんの腕を オレはつかんだままだった。

「‥‥いやだ。」

「水本」

「いやだ。モリヤにそんなこと言わないで。モリヤは毒なんか盛ってない。オレは倒れる前、何も食べたり飲んだりしてない。倒れた時も モリヤすごく心配してくれてた。」

「量を間違えたのよ。」

「りょうって何?」

「毒の量。眠らせるつもりが 多すぎて倒れちゃったんで、焦ったんでしょ」

「湧井さん…」

「‥‥」

湧井さんは オレをにらんだ。

「泣きそうな顔したってダメよ。」

オレは思わず 手を離してしまった。

「そんな顔してない!」

「あ」

チャイムが鳴ってしまった。

「湧井もちょっと落ち着け。とりあえず始業。また来るから。」

小川くんは自分の教室に戻っていった。湧井さんは何も言わず 自分の席に戻った。

オレが倒れたりしたから、モリヤが犯罪者みたいに言われてしまった。それも、湧井さんに。湧井さんは 簡単に人を悪く言ったりしない人だ。なのに。

どうしよう。どうしたら湧井さんに、モリヤが毒を盛っていないと 納得してもらえるだろう。どうしたら…。

オレは一時間目の数学の時間中、まるで 上の空だった。

一時間目終わりのチャイムが鳴ると同時に 湧井さんを見た。湧井さんもオレを見ていた。オレは湧井さんの所へ行った。

オレが、湧井さんの席の前に立って じっと湧井さんを見ていると、座ったままオレを見ていた湧井さんが、ふと笑った。

「ほんとは授業終わりで とび出していってやろうかと思ってたのよ。モリヤの所へ。」

「‥‥‥」

「でもそうしたら 水本が泣くかもと思って止めた。」

ふふふと湧井さんは笑う。

「又びっくりまなこ。」

「だって 泣いたりしない。」

「そうかな。」

「当たり前だよ。」

「でも 悲しむでしょ。だから、説得してから行くことにしたの。」

「やっぱり行くんだ…」

「行くわよ。ほっとけないわ。」

「‥‥‥盛ってないのに犯罪だと言いに行くのはダメと思う。」

「じゃあ犯罪って言わないわ。真意を問うわ。」

「しんい」

「どうして水本を眠らせるのか。眠らせて どうしようっていうのか。」

「‥‥‥‥眠らされてない。」

「じゃあ眠らされてないんじゃない?」

「? 分かってくれたの?」

「眠ったんじゃなくて 前の2回も気を失ってたんじゃない?」

「‥‥違う。違うよ…。湧井さん…」

湧井さんは 譲らない。オレも譲らないから、話は全く進展しない。何の進展もないまま 休み時間は終わってしまった。

次も。その次の休み時間も。


そして 昼休み。

湧井さんは いつものように、お弁当を持ってオレの席に来た。

「食べながら話し合う? それとも、もう観念して私をモリヤのところへ行かせる?」

「…行かせない。話し合う。」

「なかなか しつこいな、水本は。」

湧井さんは笑った。オレも にやっとしてしまった。

「ねばり強いんだ オレは。」

「ポジティブなのは認めよう。」

と 湧井さんは笑って オレの向かいに座った。そして

「しかめっ面で話し合うより 笑って美味しいもの食べながら喋った方が、よい結論がでるよ。」

「確かに。」

オレも お弁当をひろげて にっこりした。


「あれ? 仲直りしたのか?」

小川くんがパンを持ってやって来た。

「そろそろ水本が 泣かされてるかと思ったのに。」

小川くんは笑いながら 近くの椅子を持ってきて座った。

「泣かされないよ!」

オレはもちろん反論したが、湧井さんは笑った。

「危うく泣かすとこだったんだけどね。」

「やっぱり。」

やっぱりってなんだ。泣かされかけてないし!

「あ! 小川くん、モリヤ元気にしてる?」

「へ?」

と小川くんはオレを見て、そしてワハハと笑った。

「ほんとにしょうがないなあ、水本は。」

しょうがないって何。

「昨日具合悪かったんだ。オレ、気付かなくて夜まで居てしまったから。元気になってる?」

「そうなのか? 全然元気だぞ。そして、驚くほど色っぽくなってる。さすがにオレにも分かった。あれは色っぽい。あれで何もなかったんならサギだ。」

元気。良かった。そして、驚くほど色っぽい‥‥‥

「オレ ちょっと見てくる。」

オレが立ち上がったら、今度は湧井さんがオレの腕をつかんだ。

「ダメよ。私のこと止めといて 何言ってんの。」

「え! だって」

「だってじやない。話し合いは 終わってないでしょ。」

「今日は水本は会わない方がいいぞ。」

小川くんまで止める。

「どうして。」

「モリヤが発言した。」

発言だって。でも そう。モリヤが喋るのは珍しいのだ。オレにはけっこう喋ってくれるけど、あまり学校で 他の人と口をきくところを見ない。

「これまでモリヤは どんなにひやかされても、黙って笑うだけだったんだ。それが今日に限って。」

「何を言ったの?」

「一人がモリヤに、こう言ったんだ。"昨日は休んでたけど やっぱり水本は泊まりにきたんだろう? どうだった? いい夜だった?" って。そしたらモリヤが "いいや" と言ったんだ。」

「いいや?」

「そう。"昨日水本は うちに来たけど、ぼくの方が もうダメだったんで、泊まらずに帰ってと お願いしたんだ。" と。」

うん?

「そう、色っぽく言ったもんで、ひっくり返りそうな大騒ぎになった。」

「なんか いやらしくない?」

と湧井さんが言った。

「強烈にいやらしいぞ。」

いやらしい?‥‥‥

「う、うそではないけどな‥‥」

「ダメって何よ?」

「だからモリヤ、昨日具合が悪かったんだって。」

「会話の流れ上、おかしいわよ。」

「…う~ん… 誤解をまねく言い方かな、確かに。」

オレが考え考え言うと

「わざとだろ」

と小川くんが言った。

「何が?」

「誤解させようと思って言ったんだ。」

オレはハハハと笑った。

「まさか!なんで。」

「アピール。」

「アピール?」

まった又モリヤにそぐわない言葉。モリヤとアピール。真逆だよ。反対語。だいたい、

「なんのアピールだよ。」

「水本は自分のものだっていう。」

はあ⁉ オレは思わず湧井さんを見た。湧井さんも、はあ⁉ と思ってるに違いないと思って。だけど

だけど湧井さんは、黙って小川くんをにらみつけていた。

「小川くん」

とオレは言った。湧井さんが何も言わないので。

「モリヤがそんなアピールするわけない。誤解させるようなことを もしわざと言ったんだとしたら 冗談だよ。」

「冗談?」

「モリヤは意外に冗談みたいなことを言うよ。」

「モリヤが冗談を言うかどうかはさておき。今回のコレは確実にアピールだよ。」

「‥‥水本は自分のもの?」

そんなバカなと思って小川くんの言ったことを口にしてみて オレはへへへと笑ってしまった。

「何笑ってるのよ?」

湧井さんが 今度はオレをにらんだ。

「だって。」

オレは笑いながら

「だってもう いっそ おかしい。小川くん、これもウワサになる?」

「いいや ならない。」

小川くんは 真面目に否定。

「モリヤが自ら発言したことと すさまじい色っぽさによって、面白がって出たウワサが みんなが信じるウワサになってしまった。けどそのウワサは、モリヤの思惑通りのウワサ。水本が言ってんのは モリヤアピールの方だろ。モリヤアピールに気付いてんのは、多分オレだけ。」

気付いたって…。違うと思うなァ。考えすぎと思うなァ。けども やっぱりモリヤはウワサの人。モリヤを中心に、ウワサは広がる。何も言わなくてもウワサの人なのに、口を開いたりしたもんだから またまたウワサは大きくなる。つまり 人気者ってことなのかな。それにしても すさまじい色っぽさとは。

ふふふとオレが笑うと

「何笑ってるのよ?」

と又湧井さんが言った。

「うん。ここでも結局モリヤのウワサをしてるなーと思って。」

「一緒にしないで。これは単なるウワサ話じゃないの。水本とモリヤに関する、大事な話し合いなんだから。」

うーん…。大事な話し合いかァ…。

少しの間 3人とも喋らなかった。黙ってお弁当を食べ終えた。湧井さんが、空になったお弁当箱の包みを ぎゅっと結び終わった時、ゆっくり口を開いた。

「水本は モリヤのものじゃないわ。」

オレが湧井さんを見ると 湧井さんが言った。

「そのびっくりまなこは どういう意味?」

「え?」

「まさか "モリヤのものだよ! 何言ってんの?"っていう意味?」

「ええ⁉ まさか‼」

「ああ モリヤのものじゃない。だろ?水本」

と小川くんが言った。

「え! も、もちろんだよ! なんで? そんなわけないし、モリヤもアピールしてないよ。」

「いいや。モリヤはアピールをしたんだ。まあつまり、水本はモリヤのものではないから モリヤはアピールをしたかったんだろう。ホントに自分のものなら アピールはいらない。」

「うん?」

ちょっと意味が分からない。

「なんでモリヤは そんなアピールをするの?」

と聞いたのは 湧井さん。だからしてないって…。

「そりゃ ほんとに自分のものにしてしまいたいからに決まってる。外堀から固めていくっていうやつだな。」

小川くんはそう言ってオレの顔を見て、アハハと笑った。

「又びっくりまなこだ。」

びっくりまなこにもなろうよ。

「小川くん何言ってんの?」

ほんとにびっくりしてしまう。オレが モリヤに惚れてるとか言われるのは もう慣れちゃったけど けどモリヤがオレにどうこうっていうのは いくらなんでも。それも、ばかばかしい他の人のウワサじゃなくて 小川くんがそんなこと言うなんて。

小川くんは笑顔だったが オレがまじまじと顔を見ていると、少し笑顔をおさめて言った。

「次の雨でも水本は、モリヤの家に行きたいんだろ?」

「行くって約束したよ。」

「そして又、寝るか倒れるかするつもり?」

小川くんが言う。湧井さんは黙ってオレを見てる。

「‥‥そのつもりは、ないけど…」

「聞き方を変えよう。寝たり倒れたり、絶対にしない自信があるのか?」

「…それは…」

「ないよな? だって水本には原因が分からない。」

「…ね…寝てはいけない?」

「自分の意思で寝るならかまわないよ。」

「かまうわ!」

湧井さんが割って入った。

「だめよ。いけないに決まってるじゃない。」

まあまあと 小川くんは湧井さんを制した。

「眠りたくもないのに眠ってしまうのは良くない、と俺も思うよ。」

冷静に小川くんがそう言った。

「‥‥‥」

それは確かに… オレだって、意思なく眠った時は 自分が怖いなと思った。

「俺がモリヤと話してきてやる。」

「え⁉」

と これは、オレと湧井さん同時だった。

「モリヤの色気とかアピールとか この際置いとこう。一番の問題は、モリヤが盛ってることだ。」

「盛ってない…」

少し声が小さくなってしまった。どうしても信じてもらえない。

「うん、じゃあ 盛ってるかどうかも置いといて、だ。水本はどうしてモリヤの家に行くと 意志と無関係に、寝たり倒れたりしてしまうのか。これは水本にとってもナゾだし、問題でもあるだろ? 寝たいわけでも、倒れたいわけでもないんだから。」

「‥‥うん…。」

「普通に考えりゃ、もし盛ってないんなら、モリヤだって不思議に思ってるはずだし、心配もしてるはずだ。」

「‥‥‥」

寝てもいいじゃないかって言ってたけどな。でもあれは、オレが不安がってたから 安心させようと言ってくれたのかもしれない。

「だからそれを モリヤと話してくる。モリヤがどう思ってるのか。原因に思い当たることはあるのか。」

「私も行く。」

と湧井さんが言ったけど、小川くんは

「いいや 俺が一人で行く。湧井は感情的になりすぎ。それだと水本も 心配で行かせてくれないし。俺が話しに行っていいか、水本?」

「‥‥‥‥」

「冷静に おまえが寝たり倒れたりしたことを話すだけ。状況も、おまえよりモリヤの方が分かってるだろ 見てたわけだから。いいな? 放課後、話すぞ?」

「‥‥‥盛っただろって言わない?」

「んー… 分かった 言わないでおこう。」

「‥‥‥」

オレはドキドキしてきてしまった。

「それでいいか?」

小川くんが念をおす。

「‥‥モリヤは気を悪くしないかな。オレがモリヤを疑ってるって思わないかな‥‥」

小川くんは笑った。

「絶対思わないよ。水本の態度は全てあからさま。モリヤは自分を疑うわけがないと思ってるよ。」

「…そうだろうか。」

「絶対そう。なんなら水本は、微塵も疑っちゃいないって ことわっといてやるよ。」

「…いや、それは言わなくていい」

言い訳みたい。

「分かった。じゃあ、いいんだな?」

「‥‥うん。」

ついに 承諾してしまった。

「話したことは 湧井と水本にキチンと報告する。私情をはさまず 話したまんまを報告する。だから水本、俺の言ったことを信じろよ。その後モリヤが もし違うことを言ってきたとしても。」

「‥‥うん。」

モリヤはそんなこと言わないと思うけど。

「湧井も それでいいな?」

湧井さんは、ちょっと返事せず、じっと小川くんを見た。

「ちゃんと聞いてきてやるから。なんで寝たのか。もし眠らせたのなら どうしてか。」

「‥‥‥」

それでも湧井さんは黙っていた。

「いいな?」

もう一度、小川くんが言った。すると湧井さんはようやく口を開いた。

「小川くんもモリヤの色香にやられたりするんじゃないの? すさまじく色っぽいんでしょ?」

「え?」

と言ってしまったのはオレ。小川くんは一瞬 目を見開いて、ぶっとふきだした。

「あはは 色香に迷ったりしないよ。モリヤが色っぽくたって、俺はそういう興味はない。心配してくれたと喜ぶべきなのか 信用がないと嘆くべきなのか。」

小川くんは楽しそうに そう言った。

「大丈夫。俺はモリヤより、水本や湧井の方が 100倍かわいい。」

「えっ⁉」

思わずオレは 声が出てしまった。なんでそこに、オレの名前が入るんだ。そこは、湧井さんの方が100倍かわいい、だ。小川くんのバカ。

ところが、おそるおそるオレが湧井さんの顔を見ると、湧井さんはなんと、嬉しそうに笑っていた。

「よし。信用する。じゃあしっかり頼むわよ。中途半端な報告なら いらないよ。」

「ワハハ。分かってるよ。俺もはっきりさせたいからな。」

二人は明るく言ってるけど。‥‥‥モリヤは何を話すんだろう。なんで寝たかなんて オレがなんでなんて、そんなこと、分からないとしか言いようがないだろうに。

でももう まかせるしかない。きっとモリヤなら オレなんかよりずっと説得力があるだろうし。

自分が話をするわけでもないのに オレは昼からの授業、ずっとドキドキして過ごした。


そしてついに放課後。終礼の後、オレがソワソワと立ち上がると 湧井さんがオレの前に立った。

「今日は一緒に帰ろう。」

「う、うん…。でもちょっとその前に モリヤ…」

「水本」

湧井さんが 言葉を遮る。

「今からモリヤは、小川くんと話。そう決まったでしょ。」

「うん… でも顔見るだけ…」

「今日はダメ。水本の決心が鈍ると困るでしょ。帰ろう。」

「うん…。」

オレは湧井さんと帰ることにした。モリヤの顔は見ずに。


二人で正門に向かって歩いていると、なんだかやけに 通行人がこっちを振り返る。

「なんだろう。」

とオレが呟くと 湧井さんは笑った。

「水本は自覚がないなあ。今や、とってもウワサの人よ。」

「うん? ウワサの人? オレが??」

野球部がランニングしてゆく。追いこしざまに、次々にみんなこっちを振り返った。ドミノみたい。

「あ!」

オレは気付いた。

「なに?」

と湧井さんがこっちを見る。

「湧井さん違うよ。オレじゃない。湧井さんだよ。」

「何が?」

オレはハハハと笑ってしまった。

「オレに自覚がないだなんて やだなあ。みんなが振り返って見てるのは、湧井さんだよ。隣にいるのが小川くんじゃないんで、びっくりしてんだよ。」

湧井さんもハハハと笑った。

「そんなことぐらいで びっくりしたりしないわよ。」

「いやいやいやいや」

オレは首をぐるぐる振った。

「湧井さんってところがポイントなんだよ。」

「ポイントって何よ?」

と湧井さんは笑う。へへへとオレも笑ってしまった。自覚がないのは湧井さん。

「湧井さんは、とっても人気があるんだよ。」

「アハハ よく言う。私は男子に告られたこともないわよ。」

「それは、湧井さんは小川くんと付き合ってるって みんな知ってるからさ。だから告白したりはしないだろうけど、みんな湧井さんのことは 気にしてるよ。」

「へー? 水本って私のこと、そういう風に思ってくれてたんだ? 間違ってても嬉しいな。」

そういうとこ。そういうとこが とてもかわいいんだよ、湧井さん。オレは へへへと笑って、でもそれ以上は もう言わなかった。ほんと言うといっぱい、いくらでも湧井さんを誉める言葉は オレの中にあるんだけど。だって 大好きだから。いつも かわいいと感じているから。でも あんまり言葉で言いすぎると、ウソくさく聞こえてしまいそう。

「水本 うち来る?」

「え?」

湧井さんへの誉め言葉を 次から次へと頭に思い浮かべてたら聞きのがした。

「今から うちへ来る?」

「え?」

今度はちゃんと聞こえてた。でも思わず聞き返してしまった。

「え… なんで?」

「喋りたいことあるから。帰り道じゃ足りない。」

「えーと…」

目を白黒させてしまった。

「なんか具合悪いことある?」

「うん… 湧井さん オレ 常識あるんだ、これで結構。」

湧井さんはふきだした。「うそつけ」だって。口悪いな。

「うそじゃないよ。むやみに女の子の家に行ってはいけない。恋人でもないのに。これは常識。だろ?」

湧井さんは 笑っている。

「古くさい。」

「えっ」

いやいや。そんなことないだろ。

「だめだよ。小川くんが怒るよ。」

「怒らないわよ」

アハハハと豪快に湧井さんは笑っている。

「怒らなくても いやな気がすると思うよ。オレは小川くんに嫌われたくないな。」

説得。よし、正論。常識人だ。

なのに湧井さんは、やっぱりふふふと笑っている。

「いやな気なんかしないよ。だいたい、怒る権利ないんだ。水本も聞いたでしょ。小川くんも水本がかわいいんだって。」

「うっ」

オレは思わず言葉につまった。

「あれは 小川くんが悪いよ。変なこと言って。けど、本心じゃないよ。…仕返し、しようとしてる?」

やっぱり、怒ってたのかな。

「水本こそ、変なこと言わないで。仕返しなんてとんでもない。私たちは、水本に妬いたりしないのよ。」

「うん?」

「私たちは 水本が好きなの。」

「それは… 知ってるけど。オレだって二人のこと好きだし。」

「でしょ? うち来る?」

いやいや 違う違う。

「行かない。オレは常識人をつらぬき通す。」

「へんなの。」

と湧井さんは笑った。変でもいいや。古くさくてもいい。オレは常識人なのだ。

「モリヤの家には行くくせに。」

笑ったまま湧井さんが言った。さらに くくくと笑う。

「そのびっくりまなこのわけは?」

だから びっくりするって、普通。

「モリヤは女の子じゃないよ。」

「古くさい!」

ええ⁉

「言ったでしょ? 私はモリヤに妬いてるの。モリヤの家に行くのなら、うちにも来てよ。」

目を白黒状態つづく。からかってんのかな。

「えーと… おごるから お店に入ろう。」

折衷案だ。湧井さんは首をかしげて笑った。

「しょうがないな。そのかわり、お店は私が決めるよ。」

…かわいい。そうか、小川くんがオレを かわいいのくくりに入れたのは、照れ隠しか。なるほど納得。へへへと オレも笑ってしまった。小川くんもかわいい。


湧井さんが一回入ってみたかったという お店に入った。ちょっと路地裏。こんなとこ初めて来た。コーヒーのいい匂いがする。湧井さんはコーヒーフロートをたのんだ。オレはクリームソーダ。キレイだし おいしい。

まずペロッとアイスだけ食べてしまって、湧井さんがきり出した。

「で、モリヤの匂いは戻ったの?」

「ああ! うん! 戻ったんだ。すごかったよ。」

「‥‥すごいって何?」

「うん、最初ね、全然匂いしなくて、もう今日は戻らないかなあと諦めかけた時に ドッときてね。」

「ドッとくる…匂いが?」

「そう! どーってきたんだ。いつもよりすごい感じで。その後は、何度も何度も盛大に香ったよ。幸せがいっぱいだった。」

湧井さんはアイスコーヒー部分を飲みながら、「ふ───ん」と言った。それから

「あのね、モリヤの匂いって近付くと匂うんでしょ。何度もって何? 何度も水本がモリヤのそばによったってこと?」

「うーん… それがね、単に近付くと絶対香るってわけでもないんだ。その法則はオレにもよく分からないんだけど、なんとなくオレが感じるのは モリヤの気分に反応するというか…」

湧井さんは ちょっと黙って、真面目な顔でオレを見た。

「水本、自覚ある? だいぶん変なこと言ってるよ?」

「う… うーん… そう、かもしれないけど… でもオレ なんか、そんな気がして…。モリヤが嬉しかったり 楽しかったりすると 匂いが強くなるような…。」

「‥‥‥香水とか付けてたら、多少体温で香りが立ったりするって言うけど。でも"どっ"と匂いがくるなんて 聞いたことないなぁ。」

う~ん‥‥。モリヤのは香水でもないしなあ‥‥。

「それは ホントにモリヤから匂うの? お香とかじゃなく?」

「うん。置いてある物からではない‥‥と、思う…んだけどな」

自信はない。でも…昨日匂いが戻った時も、やっぱりモリヤ自身から匂いが出てたように思うし あの匂いはいつも モリヤの方から発せられていると思う。

オレはベストを脱いだ。湧井さんは黙ってオレを見ている。オレは脱いだベストに顔を当てた。モリヤの匂い。まだ大分残っている。いい匂い。

「湧井さんは モリヤの匂い知ってる?」

「知らないわ。私はモリヤとは口をきいたこともないし。」

「そうなの? 中学も一緒だったんだよね?」

「学校は一緒でも、クラスは違ったもの。それにモリヤは、極端に口数が少ない。」

「そうか…」

オレはベストを湧井さんに差し出した。

「これがモリヤの匂い。」

湧井さんは、ベストにちょっと鼻を近づけた。

「ね? いい匂いするだろ。でも香水じゃないよね? お香でもない。」

湧井さんはベストを下ろしてオレを見た。

「確かに何か匂うけど。ハーブ系の匂いなのかな。いい匂いとは思わないなあ。」

「ええ⁉ ほんとに?」

「うん…。そんなにいい匂い? これが?」

オレは 手を出してベストを返してもらい、もう一度顔をつけた。

すっごく いい匂い。

「そうかぁ。うん、あんまり他の人が"いい匂い"って言ってるの、聞いたことないけど。湧井さんも いい匂いって思わないのか…。そうかぁ…。」

水本はかわってる───ってモリヤも言ってたっけな。そうなのかな。オレが変わってんのかな?

「‥‥ところで」

と湧井さんが真面目な顔で言った。

「どうして水本のベストに、そんなにモリヤの匂いがついてるの? 香水をかけたわけでもないのに。残り香っていっても 今日は会ってないでしょ。まさか」

湧井さんは しかめっ面になっていた。

「まさか、抱きついたりしてるの モリヤに?」

「えっ⁉」

「そうなの?」

「まっ まさか‼ そんなことしたことないっ‼」

「じゃあどうして そんなに匂いが移るの?」

「えっっ。だっ だから 昨日はすごくて! に 匂いが どって どーって きたから しかも 濃いやつだったからっ 雨に濡れて かけてもらってた制服に それがしみこんで! そう‼ そうなんだ オレ、制服、モリヤの家で着てなかったからっ 抱きついて匂い移ったりしないよ!」

「水本」

「ほんとっ‼ 抱きついたことない!」

「水本」

「ほんとに!」

「水本 分かった。」

ああどうして こんなに取り乱してしまってるんだろうオレ。ドキドキが大きくなってしまって止まらない。

「抱きついてないのは分かった。」

静かに湧井さんが言う。

「それは分かったけど、制服を着てなかったって どういうこと? 水本はモリヤの家で ハダカなの?」

ハダカ⁉

「‥‥‥‥」

「びっくりまなこね。図星だから? それとも」

「それともの方‼ なんでハダカだよ? そんなわけないだろ! 雨で濡れたから着替えを貸してくれたんだよ。」

どうして‥‥。思いもかけないことばっかり 湧井さんが言う。驚いて ドキドキしてしまうようなことを…。そんなこと全然ないんだから、こんなにドキドキすることないのに。そんなことあるわけないよって 笑ってればいいのに。こんなに取り乱してしまっているオレもおかしい。なんか目が熱くなってきた。オレ、赤面してるんだろうか。

「泣かないで。」

と湧井さんが言った。ひー

「泣いてない!」

「泣きそう。」

「泣きそうじゃない!」

だめだ。胸がおかしい。ドカドカ暴れている。冷静にならなくちゃ。

オレは目をつぶった。それから目を開けて、なるべく冷静に と努めて言った。

「オレは、モリヤに抱きついてないし モリヤの家でハダカじゃないし 今、泣きそうじゃない。全部本当のことだよ。」

「んー」

と言って湧井さんは なぜか笑いそう?

「水本…」

「ん?」

「うそみたい。」

「え?」

「うそみたいになるから そこに"泣きそうじゃない"を入れちゃダメだよ。」

「え⁉」

「それとも」

ここまで笑いをこらえてる風だった湧井さんは ここでちょっと考えて、笑いも飲み込んだようだった。

「それとも水本はほんとに気付いてないの? 自分の状態が分かってないのかな。」

自分の状態? 泣いてるかどうか?

「オレ… そんなにバカじゃないと思うんだけど…。」

「水本はバカじゃないよ。」

慰めじゃなくて、本心みたいに湧井さんが言った。そして ちょっと笑った。

「モリヤのことになると、冷静さを欠くね。…私もだけど。」

「え…」

「小川くんが納得いく答えを持って帰ってくれるといいね。」

そうだなあ とオレも思った。オレでは二人を納得させることができない。

次回は小川くん側です。

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