夏休みのある1日 (後編)
夏休みの友人宅!part2 (part1はモリヤん家でした)
ピンポンと鳴らすと、すぐに小川くんが出てきた。
前回会った時は、オレの方が数段嬉しそうな顔をしていた(に違いない)のだが、今日は小川くんの方が(絶対)嬉しそうな顔をしている。理由はもちろん分かっている。湧井さんがいるから!! 当然だね! 正直者めーっと思っていると小川くんが
「なんだよお前は、本当にいっつもめちゃくちゃ嬉しそうだな!」
なんて言うんだ。何言ってんだよ。自分の顔見てみるといい。そのセリフ、お返ししてやろう。と思って小川くんを見てたら
「ほんとだねー。水本っていっつもご機嫌だよね。」
湧井さんまで、そんなこと言う。
「みんな嬉しそうだから、おあいこだよ!」
って言ってやった。小川くんはやっぱり嬉しそうにニヤニヤして
「まあ上がれよ。」
言って、家の中へ。
そこからはもう、まるでパーティー!! ケーキとクラッカーが無いだけ!! 心は3人とも絶対パーティー!!
小川くんが玉子を割る。調味料を湧井さんが入れる。オレがかき混ぜる。小川くんがパン耳を入れる。湧井さんがフライパンで焼く。オレが皿を差し出す。みごとな役割り分担! いや、まあ殆どおいしさは湧井さんのお手柄だけども。
みんなでアツアツを食べる。アイスコーヒー買う時にオレが足りるかな?と聞くと湧井さんが、小川くん家にはいっつも牛乳があるよ、足りなかったらそれをいただこう!って言ってたけど、ほんとに小川くん家の冷蔵庫には牛乳が入っていた。2本も! なんて美味しいんだろう! なんて楽しいんだろう! そう思った時、ふとモリヤが頭をよぎった。まさにその時
「モリヤのこと考えてるでしょ。」
と湧井さんが言った! なんで分かったんだ?! オレが目を白黒させていると小川くんが
「言っとくけどモリヤはオレん家なんか来ないぞ。」
うん? ····そうかなぁ?
「誘ったら来るんじゃないか?」
だってあんなに仲良しの二人だもの! 来たいんじゃないかなぁ?
「来たくないって言った。」
「えっ!」
オレは声をあげた。湧井さんは「えっ?」って顔をしてた。
「誘ったことあるの?」
知らなかったぞ!
「あの···モリヤん家に泊まった大雨の日な。モリヤが、雨で気持ちを持て余すなんて言うから、話をしようと誘った。そしたらきっぱりと人ん家なんて行きたくないと断ったよ。」
人ん家··· ふ──ん···? 来たくないのかァ。
「楽しいのにね。」
言葉がこぼれた。こんなに、こんなに楽しいのに。キャンプ行った時モリヤも楽しそうだった。こないだ小川くんと2人でモリヤん家行った時も、楽しそうだった。
「···人と長く過ごすと疲れるのかなぁ。この前も、最後少ししんどくなったんだよね···。」
オレが思い出して言うと
「人っていうかね···」
小川くんが複雑な顔で言った。
「うん? 人っていうか? 何?」
「うん、まあ。それより水本」
「え」
「おまえ、なんで図書館なんて行ってたんだ?」
アハハ!と湧井さんが笑った。
「ほら水本! やっぱり小川くんとも相思だよ! 小川くんも水本に興味しんしん!」
オレもアハハと笑った。図書館での湧井さんとの会話を思い出して。
「うん? 興味しんしん?? いや普通に聞くだろ。水本が図書館だぞ?」
「おー? なんか失礼だぞ? オレだって図書館ぐらい行くさ。···だいぶん久しぶりだけど。」
「だろ? 滅多に行かないんだろ? なんで行ったんだ?」
「調べ物をね、しようと思って。調べ物と言えば図書館だろ?」
「調べ物ってなんだ?」
「水本、ハーブ園行きたいんだって。」
オレが答えるより先に、笑顔の湧井さんが答えた。
「ハーブ園!?ってなんだ?? ハーブの···花畑みたいなとこか?」
「アレ? 小川くんハーブ園知らない? 近くにあるよ。ハーブの植物園かな。」
「へぇ? そこへ行くのか? モリヤと?」
うん?
「いや? 1人でだけど。」
「1人で?! 植物園に?! なんで?!」
オレはワハハと笑ってしまった。
「なんだよ?」
「だって、湧井さんとおんなじ反応なんだもの。去年も1人で行って楽しかったよ。今年は別のハーブ園か植物園に行ってみる。」
「···1人で?」
又小川くんが聞く。
「そうだよ? ···あ? 小川くんも行きたいのか?」
「いや、ハーブ園や植物園には興味ないが。」
なんだか納得いかないような顔をしている小川くんに
「水本はいい匂いが好きなんだよ。だからハーブ園に行きたいんだって。」
湧井さんが言い添えてくれる。小川くんは湧井さんを見て、それからオレを見た。
「水本に聞きたいことがあるんだが。」
なんだか真面目な感じで小川くんが言う。
「なんだろう?」
「水本は、モリヤの匂いが好きなんだって前に言ったよな。」
「うん、今も好きだよ。」
「モリヤが好きかと聞いたら 匂いが好きだと、言ったよな?」
「言った···と思う。」
「モリヤのことは? 好きか?」
「·····」
「だから好きに決まってるじゃないの。」
「うん。湧井、ちょっと待っててな。水本」
「うん?」
「モリヤに匂いが無くなっても、モリヤが好き?」
「モリヤの匂いは無くならないよ。前に本人がそう言った。」
「そういうこと言ってんじゃなくて。真面目に想像してみてくれ。モリヤに匂いが無くなって、もう戻らないとする。そこにモリヤの匂いの別のやつが現れる。水本はそいつが好きになるのか? 匂いの無いモリヤよりも?」
「うん???」
真面目に、想像。匂いの無いモリヤ。モリヤの匂いの誰か。
「う───~~ん····と···」
モリヤに永遠に匂いが無くなるという想像は怖いのだけど、どうも現実味を帯びない。
「··分からない··。」
「·····分からないんだ?」
小川くんはそう言って、う─ん、と唸った。
「なんでそんなことを? それは重要?」
質問の意図もよく分からなくて、オレは小川くんに聞く。でも小川くんはやっぱり う─ん、と唸った。それから
「俺は前から言ってるが、自覚することは重要だと思うんだ。」
自覚···。匂いの無いモリヤが好きでなくなるかどうかの自覚···?
「それは水本にとっても、モリヤにとっても。」
「そうかな?」
と言ったのは湧井さん。
「モリヤにとって、それは重要かな。水本が自覚したとしても、モリヤはむしろ、それを知らない方が良くない?」
「···それは、俺や湧井の希望。モリヤにはやっぱり重要だろう。」
「小川くんは···」
湧井さんがとても真面目な顔で小川くんを見て言った。
「時々モリヤの味方なのね。」
「味方? ···の、つもりはないが···」
小川くんは、ほんのり眉根を寄せた。
「そういう小川くんを私は嫌いじゃないわ。小川くんのそんな気持ちは、美徳とさえ思うわ。けれど、それはそれ。」
パキッと湧井さんは小川くんを見つめてる。
「どうあろうと私は水本の味方だから。モリヤの脅威から守る所存。」
所存?? 味方? 脅威···
なんだか又々オレにはよく分からないことになってしまった。
「····俺も水本を脅威にさらすつもりはないよ。」
小川くんが呟いた。湧井さんはやはり真面目な顔で
「分かってる」
と頷いた。
分かってる···? オレには何も分からない。なんだか胸がザワザワとした。
「ところで湧井は、なんで図書館に? 本借りにいったのか?」
小川くんが、ぐいっと話題を変えた。そう言えばオレも、湧井さんの図書館での用を聞いてなかった。いや、聞いたけど、答えを貰ってなかった、と思い出した。
「宿題だよ。音楽の。」
「音楽で宿題なんかあったっけ?」
驚いた顔で小川くんが聞く。オレは選択が美術だから知らなくて大丈夫なやつ。
「あったよ。さてはまだやってないな?」
「図書館で音楽?? なんだった??」
ほんとに覚えてない様子の小川くんが聞く。
「音楽家の本を一冊見つけて読む。そしてその音楽家の楽曲を一曲聴く。それぞれの感想を書く。というね。」
「えっ! ほんとにか? 全然知らんぞ?」
「宿題出すよって先生が言ってたし、プリントにも書いてあったよ。今回、ご親切に全教科網羅の宿題プリントくれたじゃない? それも見てないんだ?」
「音楽の宿題なんて、確認もしてなかった。ほんとかよ···」
「アハハ。じゃあまだ見落としがあるんじゃない? チェックしといた方がいいよ。」
「げー。ちょっとプリント探してこう。」
言って小川くんは立って行った。部屋へ取りにいったんだろう。
「きっと授業ん時も聞いてなかったんだよ。」
湧井さんはオレを見て笑った。
「水本は? 大丈夫?」
「大丈夫···」
····じゃないかも。オレも授業中はかなりボンヤリしている。
「美術の宿題もあったと思うよ。やってる?」
「えっ!! あった?! 本当?!」
「うん。今回、選択科目3ツとも何か書いてあったよ。私は音楽のしか、ちゃんと読んでないけど。」
「うわ──。じゃあオレも小川くんと一緒だ。全然知らなかったよ···」
「今気付いて良かったね。まだまだ余裕があるよ。」
「···そうか。うん、ほんとだ。危ない危ない。湧井さんありがとう。」
湧井さんが、どういたしましてと笑った時、小川くんが台所に帰ってきた。プリントに視線を落としたまま椅子に座って
「ほんとだよ! 書いてある。まじかよ。なんで音楽で宿題だよ?」
ブツブツ言ってる。
「小川くん、美術の欄にも宿題書いてある?」
おそるおそるおれが聞くと
「ん?」
と目を走らせ
「おー。書いてあるぞ。」
「え!! やっぱり!? 見せて?」
焦ってオレが手を差し出すと、小川くんがプリントを渡してくれた。
選択科目の欄があって···
「うわ···」
確かに宿題が···。
「美術はなんの宿題だ? 絵を描いて提出か?」
それはまさに定番だが
「···ちがう。」
「どんなの?」
「名画を見て、その感想を書くんだって。美術館でもいいし、本で観るならなるべく大きいのって。図書館に行けばあるって書いてある。」
「おや」
と湧井さん。
「今年は図書館推しなのかな。」
としょかんおし··· 選択科目の欄には、音楽と美術ともう一つ。書道の欄がある。書道にも宿題が···。
「書道は··· 著名な書道家の作品を手本に、1枚書いて提出···」
「絶対図書館推しね。図書館で借りろと書いてない?」
「──書いてる。みんな図書館に行かないといけないんだね。」
「そうね。家にそんな本を持ってる人は、稀でしょう。」
「あ! 俺ん家、伝記シリーズでベートーベンとかあったかも!」
「あー、うん。それはあるかも。小学生の頃読んだシリーズね。」
「···いや、あれはマンガだったかな。さすがにマンガはだめかな。」
「だめではないと思うけど。でも、何の本かは書かないといけないみたいよ。」
湧井さんがプリントを手に取って言う。
「オレのは絶対図書館に行かなきゃだ。美術館なんか行ったことないよ。」
「モリヤ···」
言いかけた小川くんが、ハッとしたように黙った。
「うん? モリヤが何?」
「あ? いや? モ、モリヤは、選択、なんだったか···」
「モリヤは書道だよ。夏休みに書道しなくちゃいけないなんて、なかなかたいへんだね。」
「····だな。」
けど··· とオレは思う。あの、夏でもひんやりとした森の家で、心静かに書道をするモリヤ。それはとても、いいかもしれない。気付かれないように見てみたい、などと思ってしまった。おっと、ストーカー的考えかな。とりけし、とりけし。
「モリヤはこの宿題、もうやったかなァ。」
「···やってるかもな。」
と小川くんが言った。
「夏休み、やることが無いみたいに言ってたから。」
夏休みにやることが無い!!
「夏休みの必要性を疑ってた。」
「えっ?!!」
なんだって?!
「モリヤ、夏休みいらないって!?」
「必要無いって言ってたな。」
「ほんとう?! なんかすごいな!!」
思ったことない! 考えたこともない!! 夏休みは当然で必然だ。絶対だ!
「確かにすごくはある。夏休み失くして勉強すればいいと言ってたからな。」
「ええっ?!!」
本当にすごい!! オレみたいな平平凡凡には思いもよらない思考だ。
「友だちがいないと、そうなのかしらね?」
湧井さんが考え込むように言った。友だち?
「オレなら、もし友だちいなくったって、だらだら朝寝坊するためだけにでも夏休みはあってほしいよ。夏休みやめて勉強すればいいだなんて、思いもよらないよな! ───それに、友だち··· オレら··· オレと湧井さんと小川くん、モリヤの友だち、だよな?」
遊びに行ったし! 楽しかったし!!
「そう。今回初めて夏休みが楽しみだと、モリヤは自分で驚いてたんだよ。」
「!!!! そう!! そうか!!! キャンプのことだよね?!! だよ!! そうだよ、オレら友だちだよ! 絶対!! モリヤもそう思ってるんだよね! 今回は夏休みあって良かったって思ってくれたんだ!」
良かった!! 嬉しい!!
「うん。」
興奮気味のオレと裏腹に、小川くんは神妙な様子で頷いた。
「初めてだって」
続けて言う。
「う?」
「初めて夏休みが楽しみだったんだって。小中高と学校行って、初めて。」
「お··· そ、そうなんだ···。す、すごいね···」
としか言えなかった。ずっと夏休み、モリヤ··· つまらなかったのかな··· ···そうか···。モリヤは休みだからって、ぐうたら寝てたいとか思わなさそうだもんな···。
「モリヤの高揚のほどが知れるだろ。今のモリヤの高揚は半端ない。」
「····そ···うか···。ああ、そうか。だからこの前も具合い悪くなったのかな。高揚も過ぎるとよくないんだよね···。」
「モリヤは特異体質だからな。」
特異体質···ってほどでもない気もするが。子どもの頃とか、楽しくて興奮しすぎて熱を出す、とかよくあるもんな。大きくなったら興奮度合いがやわらぐんだ、一般的にはきっと。でもモリヤは子どもの頃、そんなに興奮しなかったのかもしれない。子どもの頃の話、聞いたことないから分からないけど。そうして今、その分高揚して···少し具合いが悪くなったり···
「特異体質は置いておくとして、つまりな、」
オレがつらつらと考えていると小川くんが言った。
「水本の存在で異常に高揚しているモリヤの」
ん?? オレの存在で? とは? あ?! 又、恋か??
「小川く···」
言いかけるオレを制して小川くんが続ける。
「モリヤの匂いがもし無くなったとしたら」
うん???
「水本にとってモリヤは別物になるのかなあ」
“又、恋” ではなかった。“又、匂いの無いモリヤ” の話···。
「オレにとってモリヤの匂いはすごく重要だけど、小川くんにとってもそうなの? モリヤの匂いが無くなったらどうなるかってことが?」
「モリヤの匂いが無くなったらどうなるか、ではなく、モリヤの匂いが無くなった時水本がどうなるか、ってことがな。」
うん???? え──···と··?
「··匂いが無くなって··· 悲しむオレを心配してくれてるの?」
「心配というかな···」
というか?
「小川くんは水本にそんなに自覚させたい?」
「ん?」
小川くんとオレは湧井さんを見る。
「見るも明らかにそうであることは事実だけど、私は、自覚しようがしよまいが、もういいんじゃないかと思ってる。」
自覚···。 モリヤの匂いが無くなると、好きで無くなるかどうかの···?
「俺は、何度も言うが、自覚した方がいいと思う。いずれ絶対に考えなきゃいけないことだ。そろそろ考えたっていいだろう。水本、考えてみろ。分からないと放棄せずに。」
「う···」
「私は楽しそうな水本が好きよ。」
「え」と、オレと小川くんが振り向く。
「せっかく楽しいのに、悩ませなくていいんじゃない?」
小川くんを見て言う。
「笑ってばかりもいられないだろ。人間は悩むもんだ。」
えっ。哲学?
「そりゃそうだけど、こんなことで悩まなくてもいいと思う。」
「“こんなこと”じゃないだろ。」
「自覚なく楽しいのなら、それはそれでいいじゃない。」
「そうとも言えんとオレは思う。」
議論?! バトル??
怒鳴りあってはいないけど、2人とも目が真剣。
「分かった!」
オレが言う。2人はオレを見る。
「オレ、考えてみる。真面目に考えてみる。答え出ても出なくても、とにかく考えてみるよ。それこそオレなんかのことで2人が言い争うことなんてない。」
一生懸命2人に言うと、2人は同時に
「オレなんかじゃない!」
と言った。エヘヘとオレは笑う。
「ありがとう。(大好き。と、オレは心の中で2人に言って)オレ、ちゃんと考える。ケド家帰ってからでもいい?」
小川くんが大きく頷いてくれた。
せっかく三人で会ってるんだから、考え込むのは一人になってからでいい。
でもちょっと変な空気になってしまった。2人は笑っていない。せっかくの今日の嬉しい三人の出会いの日。変な空気は払拭しなければ。えーと
「湧井さん音楽の宿題、誰の本にしたの?」
ふっ と湧井さんは笑った。
「さーて、水本に分かるかな?」
「お? 有名じゃない人? 確かにオレは超有名どころしか知らないや。」
「いやいや、有名な人···というか有名な曲? 私は好きな曲からたどりついたんだ。クラシックには全然詳しくないから、どの曲が誰の作曲とか全然知らなかった。」
「俺も全く知らねー。好きな曲があるだけすごいな。俺は唯一分かるベートーベンの運命でいくかな。」
「小川くん、家に本あるって言ってたもんね。それで書く? 聴くのはどうする?」
オレが聞くと
「いやいやさすがにマンガは。まあ、マンガかどうかもはっきり覚えちゃいないが。探すのもめんどいし図書館で見るよ。ついでに曲も聴けるのか? 図書館で?」
「CD聴けるコーナーがあるよ。スマホで聴かせたげてもいいよ。」
と湧井さんが言う。
よしよし。変な空気は一瞬にして木っ端みじんだ。さすが、ステキカップル!
「今度一緒に行く? 今日でもいいけど、もしいいなら別日にしようよ。夏休みに図書館で会おうなんて、青春ぽくていいじゃない?」
おお〜〜〜!! ステキカップル〜〜〜!!! オレは口もとがゆるんでしまう。
「よし。じゃあそうしよう。水本も行くだろ。」
「えっ?!!」
小川くんが、うん?という顔をする。
「何びっくりしてんだよ。おまえも図書館行かなきゃいけねんだろ?」
いやいやいや。
「小川くん、今のは恋人のデートの約束だろう? オレ誘っちゃだめなやつだよ!」
うん?って顔を又々小川くんはして
「湧井もそのつもりだよな?」
などと!
「そうだよ?」
当然そうに言っている! なんで!?
「違う違う! 夏休みの図書館デートは、恋人のステキシチュエーション! なんでオレがまざるんだよ。」
小川くんと湧井さんは一瞬顔を見合わせて、同時にアハハハハと笑った。
「水本はほんとバカだな。自分のことには鈍感なくせに変なとこに妙に気を使う。あ! それとも何か? おまえモリヤと2人で図書館デートしようなんて考えてんのか?」
「え!? なんで?! まさか!!」
何がデートだ!
「違うんならいこうよ。」
と湧井さんが言う。
「水本、又三人で会いたくない?」
会いたいけど。
「美術書、一人で見るよりみんなで探した方がおもしろいよ~~~」
ああ、ステキな誘いをかけてくる。
「いいいいく···!」
誘惑に完敗!
「決まりだな。今年の夏休みは楽しいなぁ」
なんて小川くんが言う。こんなオレのまざった計画を楽しいと言ってくれるなんて、嬉しい限りだ。
「ほんとに今年の夏休みは楽しい。楽し過ぎてやばい。」
言おうと思ったわけでなく、心の声が洩れた。
「だよな。水本はやばいな。だからこうやって時々モリヤを抜いといた方がいい。」
うん??
オレが口を開く前に
「実はそろそろ金欠なんだ。図書館なんて金かかんなくてありがたイベント。」
と小川くんが笑う。
「だねー」
と湧井さんも笑う。
「金欠高校生、つましくいこう。でも楽しくいきたい。お昼ごはんとか、どうしようね?」
「又、俺ん家で食えばいいよ。」
「パン耳とか?」
「おにぎりでもいいし。」
うわ~~~ 楽しそうな2人の会話。楽しい計画が進んでいく~~~
日にちも決まった! その日まで美術の宿題は置いておく! 小川くんも! あ!
「湧井さん」
「ん?」
「音楽家、誰選んだのか聞いてなかった。」
「アハハ、ほんとだ。喋ってるとすぐ話がそれちゃうね。バダジェフスカって人。」
「え? その人有名? オレ聞いたことないや。」
「俺もだ。」
小川くんも言う。すると湧井さんはアハハと笑って
「実は私も初めて名前を知った。でも曲はずっと好きだったの。乙女の祈りを作った人。」
「乙女の祈り? 題名は聞いたことあるような··· どんな曲?」
湧井さんが、ラララで歌ってくれた。
「あ 知ってる」
と小川くん。
「オレも聞いたことある。」
「うん。曲はとても有名だと思う。きれいな曲よね。私、この曲のオルゴール持ってたんだ。」
オルゴールかァ。
「水本は、どの画家の絵にするか考えた?」
「いやいや全然。画家だってオレはやっぱり超有名どころしか分からないし。」
「ゴッホとかピカソとか? そのへんでいく?」
「うーん。それも図書館行ってから考えようかなぁ。」
「それで間に合うと思うよ。絵を観て感想書けばいいんだから。」
「音楽の宿題は、音楽家の本と曲の感想だろ? なんか美術の方がお得感があるなぁ。」
小川くんがブツブツ言ってる。
「そうだね。絵の感想だけだもんな。書道なんか実際書かないといけないしなぁ。」
「そうだよね。美術だって、模写を宿題にする手もあるもんね。」
なんて湧井さんが言う。
「模写って、そっくりに似せて描くやつ? そんなのできないや。良かった! 絵の感想で!」
わいわいそんなことを言っていると
「水本は “考える宿題” があるからな。忘れんなよ。」
って小川くんが言った。
「おう。もちろんだよ!」
きっぱり言いながら内心ドッキリしてた。ごめん小川くん。もう忘れてた。
次回は夏休みの友人宅、小川くんバージョン?




