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ウワサのモリヤ  作者: コトサワ
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水族館デート(小川くん側 その22)

小川くんにも幸せを

ケサランパサランはやはり幸福をもたらす存在なのかもしれない。

俺はケサランパサランを見ちゃいない。けど、水本と探しに行く約束をした。それだけでもう、少し幸せが寄ってきているのかも、と思ってしまった。

今日、晴れたことが、今の俺の幸福。なんでって今日は、湧井とのデートだから! 雨天延期の。よかったァ、晴れて。憂いなく今日は楽しむぞ!!


湧井の希望で今日は、水族館デートである。

水族館なんて行くの、いつぶりだろう? 最後に行ったのは、小学生の時に家族で行ったやつ? ··いや? 6年の時の修学旅行で水族館行ったな。旅程に入ってたんだ。イルカショーを見てビショ濡れになったのを覚えている。

水本なら··· 好きな魚は何?とか聞いてきそうだな。好きな魚··· 食べる以外での好きな魚なんて、答えられるやついる? と思いつつ考えてみる。

なんでこんな暇つぶしみたいなことをしてるかというと、実はもう、準備万端整って、あとはカギをかけて家を出るだけ、という状態になっているのだ。そして今日の待ち合わせ場所は、俺ん家。湧井が迎えに来てくれると言うのだ。お出かけメンバーにモリヤが入っている時、俺も湧井も待ち合わせ場所に早め早めに着いてしまい、心が疲れてしまっていた。今日は2人だ。のんびりいこう、という湧井の提案。9時ごろに来てくれるんだと。ごろだからね、遅くなるかもよ、と湧井は言ってた。うん、のんびりいこう。その案に俺は賛成したんだけど ただ今日はやっぱり嬉しくて、結局早めに支度を終えてしまったのだった。

さて。好きな魚である。·····好きな···さかなァ~?? う〜〜ん····? やっぱり ···わくわくするのは大きいのか··· けど···シャチとかは、いないしな。そんじょそこらの水族館には···。何が一番大きいか見てくるという目的を持つのはいいな。────湧井は、水族館で何が見たいんだろう····? 

ああ··· 美しいピンポンが鳴る···。

もちろん、すっ飛んで玄関へ。余裕を見せてカッコつけるなんてことはしないのだ。···というかできない。すぐ出たい! すぐ顔を見たい!! まだまだ湧井に夢中である。

「おっはよー!」

豪快な笑顔の湧井がドアの向こうに立っていた。

「おはよう。」

つとめて。努めて心落ち着けてそう言って、俺も玄関を出る。

あ〰〰 今日もきれいなんだな。すっごい見たい。でも直視できない。

「小川くん、どうかした?」

「!!!」

覗き込んでくる! ええ!? こんな定番で来る?? 湧井が!? 心臓バクバク。 あ!! ああ! なんかいつもと違うと思った! 髪!! 髪を結んでいないのだ!

湧井はいつも、髪を後ろで結んでいる。全部結んでいなくても、サイドの髪は上げている。後ろへ持ってって、括ってるのか。ちなみに中学の時は後ろに1ツの時もあったけど、2ツに分けて結んでいて時が多かったように思う。あー、覚えてる自分がちょっと恥ずかしい。それはともかく今日、今日は髪を結んでいない。全て下ろしている。まっすぐに。

「小川くん?」

「早く」

「え?」

「早く魚を見に行こう。」

歩き出す。そう。並んで歩けば直視をまぬがれる。アハハハハ、と湧井か笑った。

「そうか、早く魚が見たいのか。よし行こう!」

残念でした。はずれです。今現在俺の中では魚なんか、どうでもいいのだ。デートだ。大事なのは、湧井とデートしているということ! 好きな魚〜? そんなのどうでもよい!

「水族館、久しぶりだなァ。わくわくする。小川くんも久しぶり?」

「ああ。小学校の修学旅行以来。」

「お? そうなの? 私は中学ん時、友だちと行ったよ。それ以来。」

何!? まさかデートとか? 昔のことなのにアセる。中学の時、湧井に恋人がいたというウワサは耳にしたことないが、もちろん知らなかっただけかもしれない。

「·····友だちって···男···?」

ああ··聞いてしまった。心狭すぎ。人間小さすぎだろ俺。でも聞かずにいられないんだよ。聞いていて、めちゃめちゃ恥ずかしい。おのれの小ささ、さらすなんて···。湧井は、じ·っと俺の顔を見た。真面目な顔。超かわいい。恥ずかしくていたたまれないのに俺の脳内どうなってんだ? 何秒か湧井は、じ──っと見て、それからにっこり笑った。なに?その笑顔! いやはや俺、デートのしょっぱなでもう心撃ち抜かれてるじゃないか。こりゃあキャンプでの水本のこと、言えねえなァ···。

「男女3人ずつ。みんなで行こうってなってね。妬いてくれたの?」

エヘヘと笑って湧井が言う。

男女··。3人ずつ···かァ···。うん、それは“みんなで”だな。ダブルデートでもなし。

「···妬いてしまった。ごめん。」

湧井の手が俺の手のひらにすべり込んできた。

「やきもちが嬉しかったのなんて初めてだよ。」

思わず俺は湧井を見たが、湧井はうつむいていた。俺の心臓はドッキドキだ。手をつないたのは初めてじゃないけど今日のコレ、コレ何? なんだよ? 

今日の日がこんなに素晴らしいのはなんでだ? きっと当然なのだ。だって

「湧井」

「うん?」

湧井は顔を上げた。少し恥ずかしそうに笑って。

「お誕生日おめでとう。」

瞬間、恥ずかしそうなのは消し飛んで、笑顔満開になった。

「ありがとう!」


もっと混んでいるかと思ったが、予想よりもすいていた。夏休みとは言え平日だからか? 良かった。

水族館内は、ひんやりとして心地よい。いきなり巨大な水槽があり、海を横から見るように、いろんな魚が泳いでいた。水槽に人々は貼り付いて見ているが、それもギッチギチではなく、しばらくすると人々はハラハラとそこから離れ、俺たちも場所を確保することができた。水槽はこれ1つではないから。皆いつまでもじっとしてはいない。次へ進んでゆくから。けど湧井は結構長いこと、この最初の水槽の前にいて、魚を目て追っていた。

俺もその隣で魚を追う。この水槽には色とりどりの華やかな魚がいるわけではなく、水に同化するような色味の魚たちか泳ぐ。けれども水族館の上手な照明のせいか、向きを変える瞬間にヒラリと銀色に光り、それがとてもキレイだ。地味なふうを装いながら、キラキラと輝いてみせる。小さい魚の群れや、ゆうゆうと泳ぐ大きな魚。なかなか飽きない。ふと気が付くと、湧井が俺の方を見ていた。

「オ? 次行く?」

俺が聞くと湧井は笑顔を見せずに

「小川くん、魚、好き?」

と聞いた。俺は笑いを洩らしてしまう。

「どうして笑うの?」

「今朝考えてた。水本なら、好きな魚は何?とか聞いてきそうって。湧井も水本に感化されてる?」

「ん──···」

湧井はちょっと首をかしげて又水槽を見た。そのまま

「しょっちゅう一緒にいるから、影響は受けてるでしょうね。」

そして、ふふふと笑った。

「みんなに好きな虫聞いて、すごく嬉しそうだったね。水本っておもしろい。私は水本みたいに面白くないよ。小川くんに好きな魚聞いて、あんなに嬉しそうにしないよ。」

「ほんとか? 実はメチャクチャ聞きたいんじゃないのか?」

笑ってそう言うと、湧井もアハハハと笑った。

「好きな魚とか、そんなに聞きたがるの水本ぐらいだよ! めちゃくちゃ知りたい!って思わないよ。けど、ちょっとは知りたい。何、好きな魚?」

言って湧井は俺を振り向いた。

「それが、今朝考えてみたんだが思い付かなかった。湧井はいる? 好きな魚。」

「おや、いないの小川くん? 堅いセミが好きな小川くんはタカアシガニとか、お好きでは?」

「ハハハ。カニは魚じゃないし。けど、タカアシガニって、ものすんごい足が長いカニだよな。確かにかっこいいから好きかも。」

「では今日水族館をまわって、一番好きなのはなんだったか発表しよう。魚に限らずで。」

「いいよ。湧井も思い付かなかったのか?」

「うん。見たいのはいるんだけど。」

「なに」

「イカ。」

「イカ? なんで? イカはよく見るよな? スーパーとかで。」

「泳いでるところが見たいの。前回水族館行った時に、変な魚が泳いでるなーと思って、あれ何?って友だちに聞いたら笑われた。イカじゃないのって。びっくりしたんだー。足をそろえて横向きに、しかも足の方を前に進んでたの。不思議な魚に見えたんだけど、よく見るとほんと、イカだったんだよねー。あれをもう一回見たいと思って。」

へ───。と俺も見たくなってしまった。イカって横向きに泳ぐのか? クラゲみたいでなく? 又はタコみたいに、足を閉じた勢いですっ飛ぶとかでもなく? いやそれはアニメの描写か? とにかくイカの泳ぎに注目したことはなかったな。

「よし。イカは絶対見よう。」

俺も興味しんしんになって、そう言った。では、と歩き出そうとすると湧井が「小川くん」と言った。結構大きい魚が、ゆっくりとこっちへ向かってくるところだった。

「オ」

と俺は魚に注目する。けど湧井が俺を呼んだのは、その魚を見せるためではなかった。

「ずっと悩んでたんだけど、やっぱり決めた。」

「? 何を?」

「すぐにでも、モリヤん家でのことを聞くか、デートを楽しんだ後聞くか。」

「えっ」

俺はドキンとした。─── 俺は、湧井にこの前のモリヤん家での話をしていなかった。報告はしなくてはいけない。湧井に行くなと言った以上。···けど、実に、実に心が疲れるんだよ、モリヤ家訪問は···。当然のこと、楽しく話せる自信はない。つい、のばしのばしにしてしまっていた。

湧井はじっと俺を見ている。水族館内は暗い。水槽には照明があるので湧井の顔を、そのアカリが照らす。とても真面目な顔。

「···どっちに、決めた?」

そっと促してみる。

「後にする。」

湧井は真面目な顔のまま。

「あとに···。」

少し意外だった。湧井の性格を思うと、先に聞いて憂いなくデートを楽しみたい、と言うのかと想像したのだが。

「先に聞くと思った?」

湧井は目をパチパチとしばたたいた。

「うん。」

「ほんとうは聞きたいのよ。でも分かってるから。」

「····何が?」

「怖いって。怖かったんだって。」

図星なんだけどね。そりゃ分かるよな。怖くない訳がない。けど

「水本と2人で行ったのは初めてだし、万が一ってこともあるとは思わないか?」

笑って言ってみる。湧井の心がほぐれるように。けれど湧井はやはり笑顔を見せず、少し困った顔をした。

「もしそんな万が一があったなら、小川くん、すぐ言ってくれるでしょ? 言いにくいのは、万が一がなかったからだよね。」

ハハハ。バレバレ。

「心配すんな、大丈夫だよ。ちゃんと報告するよ。後でいいんだな?」

「うん。それまで、めーいっぱい楽しもう!」

「オッケー」

言って水槽をふと見ると、下からガラスに張り付くように巨大なエイがやってきて、俺たちの目の前に! 思わず湧井と2人、こちらからもガラスに張り付いてしまう。ほんとに大きい菱形。ものすごく愛嬌がある。

「小川くん小川くん、ここは撮っとこう!」

と湧井が言うものだから、湧井の自撮りてエイと3ショット。嬉しくなって、2人でニタニタしながら奥へと進んでいった。


思ったよりいいぞ! 水族館!! 湧井とのデートということを差し引いても、充分に楽しい。水族館を指定してくれて良かった!

イカもいた! 見た! ほんとだった! 常にでもないんだろうが、横向きに、しかもあしを前に泳いでるやついっぱいいた!!

当たり前だが、ほんと、いろんな魚がいた。大きいのや小さいの。地味な色のや信じられないほどカラフルなもの。おもしろい形のものや···。

ことに”タツノオトシゴ“には見入ってしまった。もちろん、タツノオトシゴという生き物は知っていた。図鑑なんかで見たこともある。“ああいうやつ”というイメージも、しっかりあった。ケド。本物の、生きている実物の力ってすごいなと思わせられた。こんな形のものが実際にいる。生きている。動いている。水草に尻尾で巻き付いている。おもしろいなあ···! 長く見ていても、何度も「何だこれ」と感じてしまう。水族館、実に愉快だ。

あと、おもしろかったのは、2人で見ていて、わりと興味のあるものが違う。しょっぱなから湧井がイカに興味ってとこで、すでにおもしろかったのだが、俺がなんとなく見ながら通り過ぎかけるものを、湧井が一生懸命見ていたり、又、逆もあったり。

もちろん2人ともが惹き込まれる水槽もある。クラゲは定番なんて思ってはいたが、これが思った以上に。きれい。暗い照明にしてあって、色味の薄いクラゲが光る。自ら発光するものまでいて。湧井もひとしきり「きれいだねぇ」といろんなクラゲを見てまわって、ふと

「水本、ここ来たら大喜びだろうね。」

と笑った。

「だな。」

と答える。絶対だよ。大はしゃぎだよ。湧井だって水本が一緒なら、今日以上に盛り上がりそう。楽しそうな2人の姿が容易に想像できる。3人で来ても、そうとうに楽しかったに違いない。···けど、俺としては、やはり2人きりのデートも絶対にしたいのであり···。

湧井は又、クラゲを見ている。薄暗くて、ほんのり明るい水槽の中、ほぼ透明のクラゲが揺れる。

この薄暗さは、モリヤによく似合う、と思ってしまった。暗くて、ひんやりしていて、不思議できれいな生き物がたくさん、ガラスの向こうにいる。人工物の遊び場には行きたくないと言い切ったモリヤ。水族館も嫌いだろうか。───好きも嫌いもないのか。興味がないと···。ただもちろん、水本が誘えば行くのだろうな。分かり切ったことである。─────水本には、絶対誘うなと言っておこう。モリヤは外がすきなのだと。自然の場所が好きなのだと。こんな薄暗いロマンチック空間に、2人きりで来させてはいけない。モリヤは魚なんか見ずに、水本ばかり見て歩くだろう。止まって熱心に魚に見入る水本の顔に見入るだろう。隙あらば、触れようとするだろう───

不意に腕を掴まれて、俺はビクリとした。湧井が俺の腕を取ってじいっと俺を見つめている。

「ん? どうした?」

「小川くんこそだよ。恐い顔して。···モリヤのこと考えてたでしょ。」

図星。

「悪い悪い。モリヤの話は水族館堪能した後な。」

俺は笑ってそう言って

「クラゲはもういいのか?」

と聞く。湧井は笑わずに俺をじっと見て、そして俺の腕を掴んだまま

「うん。次行こう。」

と歩き出した。

なんでだろうなあ。手をつなぐより、腕を掴んで歩かれる方がドキドキする。

「あ! 小川くん、タカアシガニだよ!」

「お〰〰〰」

すげ〰〰 すげーよ! 想像以上にでかい! そして足が細く高い!! これが自然の海に沈んで生きているんだもんな···。

「···地球すげえな」

思わず俺が呟くと、湧井は俺の腕を両手で持って俺の顔を見て、そしてにっこり笑った。

「全くだ」

って言って。


俺たちは長く、長く水族館を堪能して、そしてようやく今、水族館内の明るいショップに来ていた。薄暗い水槽の前は、ロマンチックかつ、とても楽しかったのだが、でもやはりこの明るさは俺をホッとさせるのだ。

湧井は

「見て見て! これかわいい!」

などと、いろんな小物やぬいぐるみを、手に取って見ている。そう、誕生日プレゼントを買うんだ。

「おもしろいけど、こんなの買う人いるのかな。」

なんて笑ったりしている湧井に

「欲しいもの選ばないといけないぞ。」

と促してみる。

「あ! うんうん。選ぶ! 買ってもらう!」

目をキラキラさせて一生懸命見ている。ものすごく一生懸命選んでるな。目が超真剣。こんな姿もとてもかわいく思ってしまうんだが、ちょっと待てよ? なんか、今のこの俺の立ち位置、お父さんぽくないか? ここに水本なんか加わってみろよ。2人でキャッキャッ言ってショップを見て回るのを、好きなの選べよ、と見守る俺。あきらかにお父さんだ。

う〜ん···。いいのか、これで? 考えつつ上げた目線の先に、おっと。想像していた巨大ぬいぐるみが。巨大ペンギンだ。さっき本物いたぞ、見たぞ、ペンギン。ガラスの向こう、岸に立っているのは、驚くほどじいっとしていたが、水に入ってるペンギンの、泳ぎの鋭いこと! あんなかわいい姿なのに、すばらしい泳ぎだった。今、目の前にあるのは、水中でなく地上姿の方のペンギンのぬいぐるみ。でかい。湧井は別の方の棚で何か見ている。俺はペンギンぬいぐるみにそっと近付いていって、これまたそっと値札を。····3万超え。予算より0が1つ多い。ぬ〰〰。

「小川くん小川くん」

呼ばれてドキッとして振り向く俺。1つ向こうの商品棚から顔を出して、湧井がおいでおいでしている。そこへ寄っていくと湧井が

「3つにしぼった。」

と真面目な顔で言う。

「うん?」

「悩んで決めきれないから、一緒に考えてくれない?」

「よし。どれ?」

どうやら3万ペンギンではないよう。まあ、そうだよな。高校生には厳しい値段だ。

「これとこれとこれ。」

湧井は棚の隅に置いたものを指差した。ラッコの貯金箱と、四角い透明の樹脂に閉じ込められた、白い線にふちどられた透き通るクラゲ。それとまるめられた紙の筒··· ポスター? いや、カレンダーか。カレンダー? 8月に? よく見ると、ちゃんと来年のだ。早···。

「貯金箱、かわいいんだけど、ラッコいなかったよね? 記念にはならないかなぁ。」

なんて言ってラッコを見つめている。なるほど愛嬌のあるラッコだが、うん確かに。この水族館、アザラシはいたがラッコはいなかったな。

「別にラッコでもいいんじゃないか?」

実際見てなくたって記念は記念だし。

「ほんとは、タカアシガニかタツノオトシゴものが欲しかったんだ。」

「うん?」

「小川くんが一番熱心に見てた。」

····そうかな。···うん、そうだな。

「このクラゲもすごくいいんだけど、日常使いできるものがよくて。」

なるほど。クラゲは眺めるだけだな。

「1つにしぼらなくてもいいぞ。なんなら3つとも」

予算的になんとか。

「だめよ」

即座に湧井が言う。

「無駄使いはダメ。まだ夏休みはあるのよ。ここで使い切ったら遊べなくなっちゃう。」

う── 確かに。すでに親に借金の身。

「やっぱり、これにする。」

湧井はカレンダーを手に取った。カレンダーねぇ···?

「水族館カレンダーだよ。きっとタカアシガニも載ってるよ。」

「中、見られないのか?」

「言ったら見せてくれると思うけど。でもそこは福袋的な楽しみで。」

「けど、来年まで使えないぞ?」

「それまで表紙を飾っておくからいいの。」

カレンダー。来年の···。···つまり湧井の中で、来年も俺たちは恋人同志の予定なんだな。それは、すごく嬉しいなァ。

精算を済ませて受け取ったカレンダーを嬉しそうに手に持って

「小川くんの誕生日を一番に書くからね。」

と笑った。

ここでは終われません。続く···

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