表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウワサのモリヤ  作者: コトサワ
40/48

Let’s キャンプ!! (後・川辺編)

楽しい川辺。

小川くんと湧井さんが先に立ち、オレとモリヤが付いて行く。畑の間や、神社の横なんかを抜けてゆく。

「ここから、ちょっと登るぞ。」

小川くんが振り向いて言った。山に入るんだな。ああ楽しい!

「わっ」

て、湧井さんが小さく叫んだ。

「びっくりした!」

と言ってる。湧井さんの横をすり抜けて、でっかい蝶が! オレも目で追った。すごい! アゲハだ。アゲハの、でっかいの! こんな大きいちょうちょ、初めて見た。そりゃこんなのが目の前横切ったら、叫びもする。

「すごいなァ。きれいだなァ。」

蝶はヒラヒラ飛んで、なかなか遠くへ離れていかない。しばらく立ち止まって、みんなで見てた。

「水本は蝶が好きなのかい?」

モリヤが聞く。

「究極のちょうちょ好きではない。」

オレは、さっきも鳥好きか聞かれたなと思って、笑いながらさっきと同じように答えた。

「そうか。日常あまり見ない生き物を見つけたら嬉しいと、さっき言ってたね。蝶は珍しい?」

「いや、日常も目にするけど、こんなに大きなのは初めて見たよ。ものすごく、きれいだったね!」

「そうだね。」

モリヤはにっこりして、そして少し振り向いて

「湧井サンは蝶が怖いの?」

と聞いた。

「怖くないわよ。」

即答だった。とても真面目な顔で。そしてじっとモリヤを見ている。そんな湧井さんにモリヤは

「どうかした?」

と笑って聞いた。

「どうして急に、私にそんなこと聞くのかと思って。」

あくまで真面目に湧井さんは言う。

「急かなあ。話の流れ的には、急でもないと思うけど。」

と言うモリヤに

「だって私に興味ゼロのくせに。今まで自分から話しかけることなんてなかったのに。今、質問するのは〝急に〞でしょう。」

ふふふとモリヤは笑う。オレはびっくりして湧井さんを見る。前にも言ったけど、湧井さんに興味のない男子なんていないよ。でもここは小川くんの手前、口には出さない。

「夏休みに一緒にキャンプに来る仲は、友人と言うんだよね。」

「そうね。」

「友人間では、質疑応答するものなのだと小川に教わったよ。」

「は?」

湧井さんは声に出したが、オレは心の中で「は?」と思って小川くんを見た。小川くんは唇を噛んで、軽くモリヤを睨んでいた。オレは声に出して

「小川くん、そんなこと言ったの? 質疑応答って何?」

小川くんは唇をほどいてため息をついた。

「モリヤ、変な言い方をするな。俺は、友だちなら好きなものとか聞くことがあるだろう、と言っただけだ。」

「ああなんだ、そういう意味か。」

それなら分かる。オレだって、怖いもの、聞いたり聞かれたりした。普通のことだ。納得していると

「あるだろう、だなんて。」

ってモリヤが。

「紙に書いてまで、しっかりと質問を用意するのは、やはり質疑応答という言葉がふさわしいよね。」

紙に書く··· 質問を? ···小川くんが? 

小川くんを見ると、目が合った。小川くんは

「先へ進もうぜ。」

と言って歩き出したが、再び止まって振り返り、

「モリヤ、ちょっと来い。」

「何。又、質疑応答するのかな。」

笑って言って、小川くんへ寄った。2人が歩き出したので、オレは湧井さんを振り向いた。

「行こうか、湧井さん。」

湧井さんは何か、複雑な表情をしていたが、うんと頷き、歩き出した。

オレは湧井さんと並んで歩く。前をゆく2人は何か喋ってるが、声が小さくて内容は聞こえない。内緒話か? ほんとに仲いいよな。オレはニヤニヤしてしまう。2人が仲いいのに、少しヤキモチやいてしまったりするオレなのに、仲いいのを見ると今みたいに嬉しかったりもする。変なオレ。オレはちらりと湧井さんを見る。少し··· 怒ってるような困ってるような顔をしている。····もしかして湧井さん、妬いてるのかな。モリヤに···? そう思いながら湧井さんを見て歩いていると、湧井さんがバチッとオレの目を見た。睨んでるような鋭い目と思ったら、その目がゆるんでにっこりになった。

「なによ、人の顔じろじろ見て。」

なんて、笑う。オレもへへへと笑って

「湧井さん、モリヤに妬いてるのかなと思って。小川くんと2人、すごく仲いいから。」

「妬くもんか」

乱暴に言いながら、でも湧井さんは笑っている。

「水本は?」

「うん?」

「水本は小川くんに妬いてるの?」

オ?

「妬くもんか!」

言い返してやった。ハハハと笑いながら。湧井さんもアハハと笑った。

「だよね。ヤツラを妬かせるのは、私たちなのだ!」

でもこれは、前の2人に聞こえないように、ちょっと小さい声で言う。

「その通り。」

とオレも小声で答えた。


こんなに暑い日なのに、登りにさしかかったこの道は、たくさんの木が生えていて木陰が多く、思ったよりか暑さに苦しまずに歩いてゆける。

「木の匂いだね。気持ちいい。」

湧井さんが頷くのが見えた。ミンミンゼミの声がする。

「湧井さん、蝶以外の虫、怖い?」

「オ、水本も質疑応答に入りましたか。うーん多分、虫ギライの人よりかは怖くないと思うけど。」

「うん?」

「虫によるってこと。」

「なるほど。」

てんとう虫は怖くなくても、だんご虫は怖いとか、アルアルな気もする。

「水本は虫、怖くない?」

「うん。好きな虫と嫌いな虫とあるけど、怖くはないかなあ。すっごい大きい蜂は、さすがに怖いけど。」

「ああ。姿形じゃなくて、純粋に危険のある虫は怖いんだ。マムシと同じ括りだね。それは〝虫は怖くない〞と言っていいよね。」

「いいの?」

「いいよ。」

2人で又、笑ってしまう。ああ、楽しい。

「湧井さん、オレ絶対ピクニックの時には歌いたい歌があるんだけど。」

「なんでしょう。」

「イントロクイズ!」

二小節ほどの前奏を歌うと、耳を傾けていた湧井さんは、一瞬黙ってオレを見て、笑い出した。

「水本! それは、兄弟か幼馴染みレベルでしか分かんないよ!」

「え? ほんと? 難しい?」

「難しすぎる!」

アハアハ笑いながら湧井さんが言う。

「もう一度イントロから歌って歌詞までいって。超難関イントロクイズの答えをどうぞ!」

オレはリズムと同じに歩きながら、イントロから歌へ。歌い出すと、湧井さんはやっぱり笑いながら

「ああ!」

と言って、合わせて歌ってくれた。しかし湧井さん、やっぱり歌が上手! 高音の美しさがすばらしい! 一緒に歌ってると、本当に気持ちいい。2番を歌おうとすると、湧井さんと口が合わなかった。

「アレ? オレ間違えてるか。」

って言うと

「私が間違えてるかも。水本、何番まで知ってる?」

「2番。湧井さんは?」

「3番。水本、2番歌ってみて?」

オレは一人で歌う。しかし歌詞って言ったって、この歌はほとんど、ホルディリディアってしか言ってない。出てくる言葉は、ほんのちょっぴり。

「次、私歌うね。」

湧井さんが2番と3番を続けて歌った。オレと重なる歌詞は無い。歌い終わると、

「何言ってもいいって気、しない?」

笑って言った。オレも笑う。

「全くだ。適当に歌詞作って歌おうか。」

「いいね。」

楽しすぎる。

「けど水本、ホルディリディアって意味分かる? 私ずっと、分からないまま歌ってた。」

「よくぞ聞いてくれました!」

「オ? 知ってるの?」

「きのう、ピクニックと言えばこれだよなーって考えてたんだ。で、オレもホルディリディアの意味知らなかったから、調べてみた!」

「偉い! どういう意味?」

「今日は良い日!!」

「ステキだ! 正に今の嵌まり曲。よし! もう一回歌おう!」

「うん!」

何度も歌いながら、前の2人に付いて行く。2人は時々ちらりと後ろを振り向きながら、進んで行く。

全くすごい。この暑いのに(木陰が多いとはいえ)、この荷物の重さなのに、しかも登り道なのに! ちっとも疲れない。というか、しんどいのもどうでもいいっていうか! とにかく楽しさの勝ち! 圧倒的勝利!!

ああそうして、ついに到着!! 〝ほんのりとした河原〞みたいな所。木陰もあって、人もいない。ほんと、キャンプには打ってつけ!!

「わー! いいところだねー!!」

言って湧井さんは、荷物を置いて川に走り寄った。

「水本ー! 来てごらん! 魚がいるよ!」

オレも慌てて荷物を下ろして、川に寄って行った。黒っぽい小さな魚が、たくさん見える!

「ほんとだ! いっぱいいるね! 捕まえられそうだなぁ。」

「川、入る?」

「入りたいなぁ。」

などと2人で話していると

「おいおい、まずは準備だろ。」

って小川くんが言った。アハハ。そうだそうだ。飯盒炊爨するんだから、準備しないと! そう思うと、もうお腹がすいてきた。

「よし! 準備しよう!」


準備を始めて痛感したことは、小川くんがキャンプの達人だってこと。場所を決めて石を積んで、どんどん作業を進めている。持ってきた道具を組み立てたり。惚れ惚れと小川くんを見ていると

「私は何したらいい?」

って湧井さんが聞いた。

「おー。湧井は食材を切ってくれるか。まな板と包丁は、そこに入ってる。」

小川くんが指す袋から湧井さんはそれらを取り出し

「よし。切ろう。水本。」

言いながら湧井さんは、シートを広げた。

「テーブルが無いから、ここで切るよ。食材を下さい。」

オレはリュックから、次々食材を出した。オォ···!と湧井さんは小さく言って

「小川くんに聞いてはいたけどホント、野菜が多いね。」

「肉もあるけど··· 足りないかな?」

肉を取り出しつつオレが聞くと、湧井さんは首を横に振った。

「充分充分。私も野菜好きよ!」

と、眩しい笑顔!

「輪切りでいいかな。ザクザクいくよ。」

言葉の通り湧井さんは、ザクザク切っていく。オレは何をしよう? まわりを見回すと、モリヤと目が合った。モリヤは木陰で、水を飲んでいた。オレはモリヤに寄って行き

「モリヤ疲れた? 大丈夫?」

木陰で小さい木漏れ日が、モリヤの頭や肩の辺りをチラチラしている。湧井さんは、ひまわりの前でとてもきれいだった。モリヤは、木陰で、やはりとてもきれいだ。

「疲れてないよ。大丈夫。」

モリヤがにっこり笑う。良かった、と思って振り返ると、小川くんがこっちを見てた。

「水本、モリヤ、こっち来い。」

と呼ぶ。2人で小川くんのそばへ。小川くんは、石で釜戸みたいのを作っていて、オレとモリヤに飯盒を差し出した。

「米と水、入れてくれ。」

オレは受け取って

「どれぐらい入れたらいい?」

と聞く。使ったことないから全く分からない。

「湧井!」

湧井さんは野菜切りの手を止めて、何?と振り返った。

「米4合にした?」

「したよ。4合炊きの飯盒って聞いたから。」

「OK。」

小川くんは再びオレたちに向き直り、

「米全部入れて、水を中の線のところまで。」

「お米、洗ってあるよー。」

湧井さんが言った。

「だって。」

と小川くんが言い、

「入れたら、ここらへ置いておいてくれ。しばらくおいて、ここに乗せるから。」

自分の前を指さした。炭に、火が入っている。すごい。いつの間に。

「俺はこっちも火をおこす。」

隣にはバーベキュー用の炭入れ(?)が、組み立ててある。

「どうやって火をおこすの? 見てていい?」

オレは興味津々なのである。モリヤが隣でフフフと笑った。

「じゃあぼくが米と水を入れてくるから。」

「お、ありがとう。」

モリヤはオレの手から飯盒を取って湧井さんに近付き、米を貰ってるようだ。

小川くんは黙って火をおこし始めた。もちろん、棒をキリキリ回して(けむ)を出す、とかではなく、マッチを使っていた。けど、それを新聞紙に移し、さらに木へ移し、炭へ移してゆく。オレにはできない。火の魔法のようだ。

「小川くん慣れてるね。中学の時、3回やったから?」

オレは小川くんの手元を見ながら言う。小川くんは炭の方を熱心に見たまま

「いや、うち、子どもの頃しょっちゅうキャンプ行ってたんだ。だから慣れている。ちなみに姉は大学の時、アウトドアサークルだったらしい。この前初めて知ったんだが。」

「アウトドアサークル⁉ そんなのあるんだ?」

「知らなかっただろ。」

「知らなかった! おもしろいな。」

「まぁおかげで、ここを教えてもらったし、な。」

小川くんはハハハと笑った。その息で、小さく火花が散った。


モリヤがお米と水を入れてくれた飯盒を、しばらくおいて(米に水分を含ませないといけないそうだ)、湧井さんが切ってくれた野菜を、網の上に置いていく。

「ほーら、塩も醤油もマヨネーズもポン酢も焼肉のタレもあるよ。」

湧井さんが言いながら取り出してくれる。それぞれ小さいボトルに入れてきている。さすがである。

小川くんは、飯盒でご飯を炊くのに余念がない。様子を見い見い、いろいろ調節している。

湧井さんが野菜を焼いてくれる。

モリヤは火から少し離れていた。やはり火が、苦手なのだろうか。森の家には、火の気はない。

「モリヤ、バーベキュー大丈夫だった?」

オレはモリヤに近付いて、今更ながらも聞いてみる。モリヤは笑顔を向けてくれた。

「今日はバーベキューをしに来たんだよ?」

と笑う。

「焼いた野菜、食べられる?」

オレも笑って、さらに聞く。

「焼いても茹でても蒸しても生でも、食べられるよ。」

その時、湧井さんが大きく呼んだ。

「水本ー モリヤー 焼けたよ! 食べにおいで。」


みんなで食べる。焼きたての野菜やお肉を。外で。川辺で。いろんな味を楽しんだ。こんなおいしい野菜は初めてかも⁉ こんなにおいしいお肉も!!

湧井さんも焼いてくれながら、おいしいねって次々食べている。もちろん小川くんも、お肉も野菜も、もりもり食べている。飯盒の方を見ながらも。そしてモリヤ。モリヤも、食べている! 野菜を口に運んでいる!

「モリヤ、野菜につけるもの、いっぱいあるよ。湧井さんが山のように持ってきてくれてる。何つける?」

ふふふ、と嬉しそうにモリヤが笑う。

「ぼくは塩がいい。何もつけなくてもいいぐらい。」

「そうなの⁉」

「野菜の味がしっかりして、いいね。」

「おいしいね!」

「おいしい。水本が買ってきてくれたんだろう? とてもおいしいよ。」

ハハハ! とオレは笑ってしまう。

「スーパーで買ったよ。普通の野菜。安いやつ。でもほんと、おいしいね! 今日来て良かった! 楽しい!」

「楽しいね。」

モリヤもそう言った。湧井さんも

「おいしい!! バーベキュー最高だね。」

って言って

「ご飯炊ける前に、全部食べちゃいそうだね。」

って笑った。すると小川くんが

「いいんだ。もしなくなっても、レトルトのカレーを持ってきている。」

と、とても得意気に言った。

だめだ。楽しすぎる!

ほんとにもう、だめである。

何度、おいしいねと言ったろう。何度楽しいと言ったろう? オレは日記をつける習慣がなくて良かったと思った。書けない! 書ききれない!! 今日のこと書こうと思ったら、いったい、どれだけかかるだろう!

楽しすぎる。あまりに楽しすぎて、ふと怖くなった。こんなことがあるんだろうか。楽しすぎて怖いなんて。ずっと前にも口走ったことはあるけれど、それは、なんて言うか実感のこもった〝怖い〞ではなかった。でも今日のは··· 楽しさが度を超している。

「···モリヤ」

「うん?」

「前に··· プラマイゼロの話をしたけれど··· さすがに今のプラスは、えげつないよね? これは、オレだけじゃなくて、みんなが感じるプラスだよね? これに匹敵するマイナスって、いったいどんなだろう···」

モリヤは澄んだ瞳で、しばしじっとオレを見た。そして ハハハハ!と大きく笑った。

「楽しいよ! 今日はとても楽しい。大丈夫だよ。楽しんだら、次に同じだけ苦しいことが来る、なんてことはないよ。心配症だね。」

「プラマイゼロでは、ないかな? 楽しさが度を超してるから···。崖のギリギリに立って、死ぬほどキレイな景色を見てるよう。美しすぎて次の瞬間、まっさかさまに転落しそうな。」

「ああ水本」

嬉しそうなため息とともにモリヤが言う。

「そんな嬉しい瞬間に立ち会えたことこそが、今日のぼくの最大の喜びだよ。」

「えっ」

「落ちるなら一緒に落ちよう。悪くない。」

「····」

どういう····

「モリヤ!!」

湧井さんが、もぐもぐ食べてたのをゴックンと飲み込んで

「レッドカード発言!! 怖いこと言うの禁止!!」

「怖い?」

モリヤが笑顔で湧井さんを振り向いた。

「最高にロマンチックだよね?」

「炊けたぞ!!!」

小川くんの大きな声がした。

「今日のメインだ! なんといっても飯盒炊爨しに来たんだからな! オレたちは!! こっちへ来い。フタを開ける瞬間は、みんなで見なくては!」

オオ!! すごい意気込みだ! 一生懸命炊いてくれてたもんなァ。

「うん! 行こう!」

オレは言って、小川くんの方へ走って寄った。

モリヤも歩いて来る。最後に湧井さんが来た。黙ったまんま。

「アレ? 飯盒、逆さま向けてるの。ご飯、ひっくり返して出すの?」

「いいや。こうして水分を回すんだな。」

ほう!

「ほんとに、よく知ってるなァ小川くん!」

ちょっと機嫌を悪くしていたようだった湧井さんが、ふふふと笑った。

「水本、飯盒ひっくり返すのは、飯盒界では常識なのだよ。」

「そうか! 湧井さんも、3回キャンプしてるんだもんね!」

オレが言うと

「飯盒界って何だよ。」

と小川くんが吹き出した。良かった。湧井さん、怒ったわけじゃなかったみたいだ。モリヤはにっこり笑って見てる。

そうして小川くんが

「さあ、フタを開けるぞ。」

って、フタを取った。ぶわっと湯気が立って、飯盒の中でご飯が炊けていた!! いい匂いがする! 小川くんが混ぜると、フチが焦げていて、それもおいしそうだ。紙皿によそってくれる。

「カレーかける人!」

小川くんが言うと、ハイッって手を上げたのはオレと湧井さん。と、小川くんも自分で手を上げてた。

「モリヤはいらないのか?」

と小川くんが聞くと、にっこりしたまま頷いた。

「このままで、おいしそうだ。」

確かに!!

「オレもまず、このまま食べる。半分食べたら、カレーかけるよ。」

結局、モリヤは一杯だけだったが、3人はおかわりして、一杯目をそのまま食べ、二杯目からカレーをかけた。カレーは冷たいままかける。それもおいしい!! そして飯盒のご飯、絶品である!

「ほんとにおいしいね。」

食べながら、何度も、何度も繰り返してしまった。でもそのたんびにみんなも、頷いたり、そうだねって言ってくれたりする。それは本当においしいから! 

それと、モリヤが水を瓶でみんなに配ってくれたんだけど、その水がなぜか冷たくて、そしてとてもおいしかった。湧井さんも、なんで?って首をかしげていた。

多すぎるかと思った野菜も、食べきってしまった。さすがキャンプなのである。リュックが空っぽになった。

火の始末、炭の処理だって、キャンプのプロ小川くんがいるから、バッチリだ。良かった。本当に助かった。オレはなんにも分からなかった。ありがとう、ありがとうと何度も言うと、小川くんが

「次は水本も一緒に、火おこして、メシ炊こうぜ。」

なんて言ってくれた!!

「次!! また行く⁉ もう一回キャンプする⁉」

「そんなに楽しいのなら又やろう。何回だってすればいいよ。」

「嬉しい!! やった!! やろう!! 又みんなで!」

ってオレは、モリヤと湧井さんを見た。モリヤは

「いいね。」

って笑った。湧井さんは··· なんだか少し複雑な表情をして黙っている。

「···湧井さん···しない?」

湧井さんもとても楽しそうだったけど···。と思って湧井さんを見ていると、不意に無理やりのように、にっこり笑って

「絶対する!」

と、きっぱりと言った。

「す、するの?」

「するよ!」

「一緒が嫌なんだったら、別々にしてもいいよ。」

モリヤが笑って言った。

「水本はみんなでって言ったのよ! みんなでないとダメよ!」

湧井さんは笑わずに言って

「そうよね、水本?」

睨むようにオレを見た。

「う? うん、みんなでやりたい、ね。」

オレがそう言うと湧井さんはにっこりし、モリヤは

「分かった。」

と笑った。


一通り片付け終わった時、モリヤが言った。

「水本、あそこにトンボがいるよ。」

モリヤの指差すのは、川の向こう側? 

「え? どこ?」

指の先をたどって目を凝らす。動いているものは、いなさそうだけど···。

「あそこに大きな岩があるだろう? その隣に尖った岩が。その右斜め上。」

言われた所を一生懸命見る。何かがキラリと光った。

「うん? アレかな? ···だいぶ小さい?」

「小さいね。アレは、イトトンボだな。」

「イトトンボ··· ああ、よく見えない。近くに飛んで来ないかなァ。」

遠いし小さい。モリヤは本当に目がいい。

「そうか、見えないか。では近くに来たら教えるよ。」

「うん。ありがとう。」

オレは、イトトンボがいるだろう所を、じいーっと見ながら思う。モリヤの世界って、きっとオレとは全然違う。どれだけ美しい物たちが、細かく、繊細に、モリヤの目に映っていることだろう。向こう岸の木の葉の一枚一枚の色の違いや、オレが気付きもしない小さな草の不思議な形や、見たこともない姿形の虫だって、たくさん宝箱のように見えているに違いない。同じ場所に立ちながら、見えている世界が違うとは、なんと不思議なことか。

「水本、どうしたの? ぼんやりして?」

振り向くと、湧井さんが隣にいた。モリヤは···少し離れた所で、足元を見ていた。と思うと顔を上げて

「小川」

小川くんは、崖の所の木の幹に手を掛けて、何やら上を覗き込んでいたが、「なんだよ」と言ってモリヤに近付いていった。

「ぼんやりと···景色を見ていた。ほんとにきれいな所だと思って。」

「そうね。」

湧井さんも笑顔で

「疲れたんじゃないかと思って。水本、はしゃぎすぎてたから。」

ホント、確かにそうなんだよなァ。でも、疲れてはいない。未だ楽しさ継続中。黙っていても、4人がほうぼうに散っていても、ずっとずっと楽しい。と思いきや

「うわっ!!!」

小川くんのすごい声がした。

「どっ··」

どうしたの、とオレが言い切らない間に、湧井さんはダッシュで小川くんたちの方へ。オレも続く。小川くんはモリヤから4~5メートルほど離れて、モリヤの足元を見ている。そのまま、近付く湧井さんに

「なんでもない!」

と手を出してストップの合図をした。湧井さんはスピードを緩めはしたが止まらず、モリヤではなく小川くんに寄って行った。

「なんでもなくないでしょ。何されたの?」

オレは···モリヤと小川くんの間ぐらいに立ち止まる。小川くんを見て、モリヤを見た。モリヤは小川くんと裏腹に、のんびりした様子で立っていて、そしてオレと目が合うと、にっこりと笑った。オレはモリヤの方へ近付いて

「何が、あったの···?」

その問にモリヤは、スッと手で下の岩を指した。何もないようだったが、よく見ると岩の陰に何かが。

「あ」

これはなんと美しいトカゲである。茶色いやつじゃない。背中が黄金虫みたいに光っている。

「きれいなトカゲだ。」

オレが思わず言うと湧井さんが、ぐるっとこっちを振り向いた。

「うん? 小川くん、トカゲに驚いたのか? もしかして踏んでしまったり?」

モリヤはフフフと笑って首を横に振った。

「見た途端すっとんだよ。小川はトカゲが怖いって言ってたが、本当だったんだね。」

「えっ⁉ 本当⁉ 小川くん、トカゲが怖いの⁉」

めちゃくちゃ意外である。

「いきなりで、びっくりしただけだ。」

怒ったように小川くんが言う。

「へぇ··。」

オレはしゃがんで、トカゲをじっと見た。ほんとにきれいなトカゲだ。一瞬つかまえたい衝動に駆られたが、小川くんが嫌がるだろうと思ってやめた。動いているところが見たくて、地面を足でトン!と叩くと、ちらっと首を動かして、その後シュルッと逃げていった。すばやい。トカゲ動きである。

立ち上がると、モリヤがオレを見ていた。

「あ! ごめん、逃がしてしまった。モリヤ、トカゲ好きなのか?」

うふふとモリヤが笑った。

「好きではないよ。怖くもないけど。」

そうか、と頷いてオレは、小川くんの方へ行った。

「小川くん、トカゲ、もうどっか行ったよ。」

オレが言うと

「ちょっと驚いただけだから。」

と言いながら、小川くんは少しホッとしてるように見えた。湧井さんはモリヤを見てた。不意にそっちへ歩き出そうとしたのを、小川くんが腕を掴んで止めた。

「湧井」

「何よ?」

「セミは好きか。」

「えっ?」

「小川くん」

つい割って入ってしまった。

「セミ好きの女子って少ないんじゃない?」

小川くんはオレを見て

「そんなこと分からんだろう。ちなみに俺は好きだぞ。」

アハハハハ とオレも湧井さんも笑う。

「小川くんは女子じゃないよ。」

「嫌いじゃないなら来てみろよ。」

小川くんは湧井さんの腕を取ったまま、さっき小川くんがいた木の下に連れていった。オレも一緒に付いていく。

「お、まだいる。」

小川くんは木を見上げて、片手を上げた。

「この手の1メートルぐらい上。」

「あ! ほんとだ!!」

セミがとまっている。

「湧井さん見える?」

「うん。セミだ。あれ、何ゼミ?」

「ミンミン。」

と小川くん。

「小川くん、何ゼミか見ただけで分かるの?」

オレが聞くと

「だいたいな。あと、さっき鳴いてたから確実。」

セミ好きって言ったもんな! ああやはり、学校ではない外で遊ぶと、今まで知らなかった色んなことを知る。小川くんの怖いものはトカゲ。そして好きな虫はセミ! こうして又少しずつ仲良しが深まっていく。なんて素敵なことなんだろう!

ふと振り向くと、モリヤは川の水辺の大きな岩の上に腰掛けて、こっちを見ていた。オレはモリヤに寄ってゆき

「モリヤの好きな虫って何?」

って聞いた。モリヤはなんだかおもしろそうな顔をしてオレを見た。

「うん? 何? オレ、変なこと聞いた?」

ウンってモリヤは笑い、

「みんなそれぞれ好きな虫っているのかな。」

と言う。

「うん?」

いないのか? 好きな虫?

「水本はいる? 好きな虫?」

「オレ?は···」

ああ、又やってしまった。人に聞いといて自分が聞かれると答えられない。

えー···と···  ちょうちょやカブトムシなんかも好きではあるが、それで言うならクワガタだって、てんとう虫だって好きである。

「う~~ん··· あ!! でんでん虫は好きだ!」

言った途端、モリヤが吹き出した。ゲラゲラ笑ってる。

「水本···」

本当におかしそうに大笑いしている。モリヤって意外によく笑うのだ。明るい日の光の下、モリヤのこんなに笑う姿を、笑顔を、見られるのはとても嬉しい。

「水本···でんでん虫は、虫ではない···よ···」

笑いながらモリヤが言う。

「お? あ! そうだ、そうだね。うーん···では··· ああ! カミキリ虫は好きだな。黒に白い点々模様のあるやつ。きれいだよね。」

「うん。」

モリヤはまだ笑っている。笑いながら

「きれいだね。」

と言う。

「あ、あとね、顔で言うなら、トノサマバッタの正面顔は一番好きかなァ。」

モリヤは、こらえきれないように又、大きく笑った。

「顔で言うなら···? 虫の···?」

笑いの途中に、そんな言葉を挟む。ええ? そんなにおかしいかな? モリヤの笑うツボはおもしろい。けど、めちゃめちゃ楽しそうだから、それもよし! 笑うモリヤは、オレをも楽しくさせる。

「とてつもなく楽しそうだな。」

小川くんが戻ってきた。湧井さんもこっちへ来て

「何の話を?」

って聞く。

「好きな虫の話してた。ア、モリヤの好きな虫、まだ聞いてない。いる?」

オレが聞くと、モリヤはふいっと川上の方を見た。

「そうだね。好きな虫がいるかなんて、考えたこともなかったけれど、」

そうしてオレを見てにっこりして、もう一度川上を見て指さした。

「あの、カラストンボは美しいと思う。」

「あ····」

黒い、まっくろけのトンボが、トンボなのに美しくヒラヒラと飛んで、そして川から突き出ている岩の上に、とまった。なんてきれいなトンボ···。

「本当···。とてもきれいだ。カラストンボっていうのか。」

「正式名称は、ハグロトンボだったかな。でも、カラストンボの方が響きがきれいで、ぼくは好き。」

「そうだ。そうだね。ほんとだ。」

「ほんときれい。まっくろなのね···」

湧井さんも呟いている。水の音がして、ミンミンゼミの声がして、まっくろなトンボがいる。なんか幻想的···。なんて、ガラにもなく少々うっとりしてしまう。

今日という日は有意義である。みんなの好きな虫を聞いてしまった···。

「あっ、湧井さんの好きな虫を聞いてなかった。湧井さん、好きな虫いる?」

いないかな。セミ好き女子は少ないだろうって、オレが言ったんだった。けど、ちょうちょとか···なら···?

「虫の形自体はあんまり好きじゃないなァ。でも、声は好きよ。セミの声も、夏って感じで好きだし、秋の虫の声はとても好き。それでいくと、一番はスズムシかなァ。」

「おお···。いいね。なるほど、声目線か。」

感心してしまう。一口に好きといっても、いろんな角度からの好きがあると知る。

「小川くんはセミのどこが好きなの? やっぱり声?」

「もちろん声もいいが。」

話してる間も、ミーンミンミンと声がしている。この辺はミンミンゼミが多いのかな。

「どっちかっていうと、姿だな。形も堅さも。」

「かたさ!」

また 新たな角度である。


水にも、ちょっと入った。冷たくて澄んでいて、とっても気持ち良かった! 岩にはタニシが、くっついているし、本当にきれいな石が、沈んでいたりもする。小さい魚がほんと、いっぱい泳いでいて、小川くんと追い込んでビニール袋につかまえた! ドキドキするほど楽しい! もちろん、しっかり眺めてから、みんな川へ返した。湧井さんは水の中をパシャパシャ歩きながらオレたちを見て「小学生みたいだね」って笑っていた。モリヤは岩に腰掛けて足先を水に浸けて、終始笑顔だった。

使いふるされた言葉であると百も承知なんだけど、それでも本当に、ほんとう──に、言葉の通りなのだ。「楽しい時間は早く過ぎる」。悲しいほどに、すぐに過ぎ去ってしまう。

川の底を、ヒレで歩くみたいに進んでいる小さなおもしろい魚を発見して、小川くんと大騒ぎしていた時、モリヤがポツンと言った。

「ユウスゲがひらいたよ。」

オレたちは、えっ?と、モリヤを振り向く。川から上がって水を飲んでいた湧井さんが

「ユウスゲ?」

と聞いた。モリヤは「アレ。」と、手をさし出す。みんなでその手のさす先を見やる。小さい崖の下の草むらに、数本の黄色いユリのような花が咲いていた。

「あの黄色いの? ユウスゲっていうんだ?」

「そう。夕方にひらく。」

その言葉に、ドキッとしてしまった。もう日が暮れるのか、と。

「そうか。そろそろ帰る時間だな。」

と、冷静に言ったのは小川くん。

「ホラホラ水本、露骨にシュンとしない。」

湧井さんが笑って言って、川岸から手招きした。

「ユウスゲ、近くで見ようよ。せっかくだから。」

オレも必死で気を取り直し、ウン、と頷いた。

「小川くんも行こう。」

そして岩に座ってるモリヤに向いて

「モリヤも!」

と言うと、パシャンと水の中の浅瀬に降りて、岸に上がって行った。オレと小川くんもバシャバシャ上がって、ちゃちゃっと足を拭いて(もちろんモリヤに返してもらったタオルじゃなくて、自分で持ってきていたタオルで!!)、みんなでユウスゲの近くへ行った。

可憐な美しい花だった。

「オレ、初めて見た、と思う。」

「私もよ。きれいね。」

2人で花を覗き込みながら言っていると

「夏の、夕方からしか、ひらかないからね。」

ってモリヤが言う。この4人で、このきれいなユウスゲの咲いているのを、一緒に見ているということにオレは、はかりしれない幸運を感じた。

「さあ、日が暮れる前に下りるぞ。」

そう小川くんが言って、みんなですぐに帰り支度をすませ、帰り道につく。

オレのリュックはペッシャンコで、バカみたいに軽くなっている。モリヤのリュックは水はほとんど無くなったけど、瓶が入っている。湧井さんのリュックは、お米は無くなったけど調味料が残っている。小川くんは、ほぼ来た時のまんま。

「オレ、中身無くなったから何か持つよ。」

と言ったけど

「さして重くないからいい。身軽を楽しめ。」

と言われてしまった。湧井さんもモリヤも、軽くなったから平気と言って断った。

「なんだ、みんなして力持ちぶってるな? オレをそんなに身軽にしたら踊り出すぞ。」

なら持ってもらおうか、と言ってくれるかと思いきや

「ハハハ 踊って踊って。水本! ここでジェンカだ! 今なら跳べるよ!」

なんて湧井さんが言う。

「ジェンカって、一人で踊ったらバカみたいじゃない?」

「朝、踊ってたくせに」

ハハハ!と、オレも笑ってしまう。ホントだホントだ。ああ、もう、あの〝行きしな〞から〝帰りしな〞になってしまった。オレは首を振って、そんな寂しい気持ちを振り払い、まだ終わってないし!と自分に言ってみた。うん、そしたら、よし、元気が出てきたぞ。そう、まだ帰り道の、それから帰りの電車の、楽しみがいっぱいあるし! 又キャンプ行くって約束もしたし!

「よーし! オレ踊る! ジェンカで山を下りる! 湧井さん一緒に歌ってね。」

湧井さんは、ひとしきり笑って

「もちろん。」

って言った。それで2人でジェンカを歌いながら、オレはジェンカ進みで山を下りる。そう道が悪くないので、ピョコピョコ跳んでも大丈夫。オレは歌詞をうろ覚えだったけど、湧井さんが完璧に覚えてたので、ほとんど歌ってもらった。

「メチャメチャ、キスの歌じゃないか。」

小川くんが、あきれたように笑って言った。

いやホント、正に。小学生の頃は、キスって歌詞が出たところしか「キス」に繋げてなかった。まわりのみんな、そうだったと思う。わはは。キスに万歳みたいな歌だった! 愉快だ。

「違う歌詞のもあるみたいだけど、私たちの小学校で流れてたのは、これだったなァ。」

って湧井さんが言ってる。湧井さんと小学校違ったけど、オレも知ってるのは、この歌詞。違う歌詞があることも知らなかった。

しっかし、朝考えた通り、ジェンカ進みは、まるで進まない。止まってる時間長いし! そんなわけで、一回歌ってジェンカはやめて、その後はみんなで喋りながら駅へ向かった。(モリヤは、ほぼ笑顔で聞いていたけれど。)


電車で揺られるうち、真っ暗になってしまった。オレは、はたとモリヤを見た。モリヤをこんなに長い時間つれ回してしまったと思って。ほぼ出かけないモリヤを。夜なんか、ほとんど外へ出ないんじゃないのかな。

「遅くなってしまったね。」

とオレが言うと

「そうだね。長く遊んだね。」

とにっこり笑う。

「大丈夫だった? 遅くなりすぎたかな···」

めちゃくちゃ疲れたんじゃないだろうか。

「全く問題ない。」

モリヤは言って

「来て良かった。本当に楽しかった。」

と続けた。心からの言葉に聞こえた。ので、

「オレも!!」

勢い込んで、賛同してしまった。


いよいよ最後の電車。この電車の途中、学校の最寄りの駅で3人は降りてしまう。

オレたちは、やっぱりスミに立っていた。オレは帰りの電車は寝てしまうかなと思っていたけど、興奮状態冷めやらず、眠くもならない。

「オレも一緒に降りようかな。」

って言うと、湧井さんがギョッとしたように

「降りてどうするの!」

と言う。

「小川くんの荷物持って、家まで送ったげようか。」

「バカ言うな!」

って睨むから

「小川くんだって買い物した時、荷物半分持って送ろうかって言ってくれたじゃないか。」

と言い返したら

「けど、おまえだって断っただろ。」

って言う。そうだけど。自分だけ一番に別れるのが、すごくさみしい。

「じゃあ、モリヤを家まで送っていこうか···」

オレが言いかけると

「いいから素直に帰れ。おまえ絶対疲れてんだから!」

おっかぶせるように小川くんに言われてしまう。

「疲れてないし、まだ今日を終わらせたくないなぁ。」

本心を言う。

「水本、電車で別れなくても、その先で別れないといけないんだよ。今日は必ず終わるんだから。」

湧井さんが優しい目をして、そう言った。続けて

「でも、今日が終わったら明日がくる。そしてその先も、ずっと。又、会えばいいよ。まだまだ夏休みは続くんだし。」

オレは湧井さんをじっと見て、そして笑ってしまった。オレは子どもか! そう子どもだ! もう、今日の最後までガキまるだしだった。オレは「うん」って言った。湧井さんは、ちょっと考えるように、オレの顔を見ていたが

「こんな遠出は無理かもだけど、夏休み中にもう一度、どこか行こう。約束しておこうよ。そしたら水本も元気に帰れるんじゃない?」

「!! ほんとう⁉」

「いいよね?」

って湧井さんが小川くんを見る。

「ああ。モリヤも行くだろ。」

と、モリヤを見る。オレもモリヤを見ると、モリヤもオレを見ていて、そして

「もちろん。」

と笑った。


電車を降りる3人を、笑顔で見送ることができた。3人は電車がホームを出るまで、立ち去らずに手を振ってくれていた。オレも見えなくなるまで、って言ってもほんの一瞬だけれど、両手を振っていた。

車内はすいていて、オレは隅の席に座った。座ってから気付いたのだけど、足が棒になったように疲れていた。おぉ···と自分で驚いて、電車に揺られる。次の約束が、オレを又とても幸せにしていた。又にやけてしまうなァ と考えていたと思ったら、一瞬後に寝ていたようで、最寄りの駅までほんの少しだったというのに、なんとオレは眠り込んでしまって、自分の駅を通り過ぎていた! 2つ向こうの駅で、目を開けて見慣れない景色にハッとした。気付いた時には扉が閉まって、結局オレは3つも向こうの駅で降り、引き返してきた。楽しいキャンプのシメに失敗してしまった。でもオレの顔は笑っていて、こんな失敗ごときでは、オレのご機嫌に水をさすことはできないのだ! などと、威張って思ったのだった。

改札を出て、暗くなった道を歩いていく。あ、と気付いて首に手をやってみる。朝モリヤに返してもらったタオルを一日中首に付けていた。匂いは、朝の内は残っていたけれど、ごはん食べた後ぐらいからは、自然に香りが立つということはなく、ぎゅうっと顔に押しつけて匂いを吸い込んで、ようやく少し匂いを感じるという程度になっていた。オレはタオルをはずして顔にもっていってみる。思いっきり鼻から吸い込んでみたけれど、もうモリヤの匂いはしなかった。1日もたなかったか。さんざんお日さんに当たったしな。バーベキューの煙も浴びたしな。汗もかいたしな···。ウンウンと頷きながら歩いた。ガッカリすることない。充分だ。充分匂いを味わった。幸せ満喫した。又その内、モリヤに匂いが戻るだろう。雨が降ったら、又会えるし。降らなくても、又みんなで会えるんだし。

空を仰ぐと、星が瞬いていた。ああ楽しかった。今日ばかりは、家に帰って家の人に「どうだった?」と聞かれても困る。なぜって「楽しかった」以外に何も言えなさそうだから。言葉にできないっていうやつ? 楽し過ぎて無口になる、的な? なんて考えて又もニヤニヤしてしまうオレ。きっと「らしくない」って大笑いされてしまうんだろうな、と思って。

楽しかった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ