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ウワサのモリヤ  作者: コトサワ
38/48

キャンプ前日、森の家に乗り込む (小川くん側 その19)

ガンバレ小川くん!

実は、昨日時点で、俺はすでにキャンプの用意ができていた。

昨日、28日、キャンプの前々日である。水本と買い物をし、帰ってきて湧井と電話し、その後、通常の俺なら次の日のモリヤ家訪問の恐怖をまぎらわすため、漫画を読んで、又はテレビでも見て現実逃避といくところだが、昨日は違った。そこから猛烈に、キャンプの準備を始めたのだ。なんでって、29日モリヤの家に行ったら、もう何も、できないかもしれない。あのモリヤと二人きりの裏山の恐怖&心労ふたたび、となるかもしれないのだ。そうなったら、家に帰り着くなり気絶状態になってしまうかもだ。ああ 怖いったらない。とにかく準備を万全に。キャンプ当日、待ち合わせに遅れるのも嫌だし。どうしても俺は、水本とモリヤを二人っきりにさせるの、怖いからな。

で、キャンプの用意はカンペキ。さらに、これはみんなには内緒だが、実は下見にも行っている。

キャンプ場ではなくて、でもちょっとした飯盒炊爨ならできるようないい河原···なんて俺は知らなかったので、ここは姉に聞いてみた。

『あらデート?』

電話の向こう、開口一番がソレ。

『いいなァ高校生。泊まりは、いかんぞ。』 

母親にそっくり。

「泊まらない。デートじゃない。4人で行くんだ。どこか知ってたら教えてくれ。」

『なんとダブルデート! 青春うらやましー‼ 姉上が教えてあげよう。アウトドアサークルOBに任せるがいい。』

アウトドアサークル! そんなもんに入ってたのか。今知った。電話の向こうで赤んぼの泣き声。

『わお、起きてしまった。スマホに送っといたげるよ。』

「今スマホ壊れてんだ。」

『あんた、よくそれでやってけてるね。』

と、あきれ声。

『母さんのスマホに送っとくよ。お礼は後日、子守りでいいよ。』

あわただしく言って、電話は切れた。

その夜帰ってきた母が

「あんた彼女とキャンプ行くの? 泊まりはダメよ。」

やはり姉と同じことを言った。

「泊まらない。4人で行くし。」

「なんとダブルデートかー。青春だね。」

うわあ、そっくり母娘だ。母にスマホを借りて姉のメールを見ると、電車と歩きで行ける場所。デートのために、わざわざ下見する男の話を聞いたことがある。聞いた時はアホらしいと思ったが、今回俺は「いや、下見、大事だろ。」、と思ってしまった。だってモリヤがいるだろ。例えば道に迷ってしまったり、思ったような場所じゃなくて上手く飯盒炊爨が行えなかったりしたら、ニヤニヤ俺を見てきそう。ぜっっっっったい、イヤ!! そこ、最低限のところは、計画者として完璧にこなしたい。

というわけで、夏休みに入って25日(湧井と映画に行った前日)に、下見に行ってきた。小さい川が流れる河原で、何があるわけでもないが、いい感じの場所だった。さすがアウトドアサークルOB。そして、下見、大正解。2回ほど道を間違えた。けど、そのおかげで途中にトイレ発見。これは大きい。ナイス俺だ。ああ、デートの下見男たち、アホらしいと思った俺を許せ。アホらしくない。下見発想バンザイだ。


そんなわけで、明日のキャンプの準備はカンペキな俺。···まあ あとは、アレだな。今日の、これからの、モリヤん家への·······

いかんいかん! 思考が暗くなる。胸が重くなる。自分で決めたことだ! しっかりしろよ俺!!

現在8時20分。しっかし今年の俺の夏休みの早起きなことよ。去年までの俺には考えられない。9時に起きたって「オー! 今日は早起きだ!」って言ってた俺が。連日6時台7時台に起きているという···。もしかして夏休みの間中そうなるんじゃないか。だって雨は、いつ降るか分からんのだから···

まあいい。とにかく目の前のことからだ。行かなきゃ行かなきゃと、ずっと思ってるのは心がもたないから、いっそなるべく早く行ってしまおう。何時ならいいだろう。モリヤって···早く起きていそう。俺はこんな状況だから早起きの毎日だが、モリヤの場合、夏休みだろうが普通に6時とかに起きてんじゃないか? だって夜更かしとか、できないだろ、あの家。真っ暗でテレビも無いんだから。ラジオすらだ。災害とかあったら、どうするんだろう。いやいや、今はそんなことじゃなくて。9時過ぎてりゃOKかな。ここからモリヤん家までは、歩いて40分ほど。急げば30分で着く。考えてみりゃ、モリヤん家から中学校って遠かったよな。中学校は、モリヤの家からすると、俺の家よりまだ遠い。小学校は同じじゃなかった。モリヤがどこの小学校へ行ってたか、俺は知らない。あ! これも今日の質問リストに加えといてやろう。数は多い方がいい。

さてそれでは   いざ出陣。


なんときれいな、真っ青な空。向こうの方に真っ白なモクモクの雲が見える。アニメに出てきそうな空だ。雲は遠く、あくまで白く、雨は降りそうにもない。空を見て、こんなにホッとすることがあるなんて。

しっかし今日も暑いな。家を出て間もないのに、もう汗がダラダラ流れている。暑さに追い打ちをかけるように、セミの声がすごい。この木に、山のように止まってるぞ、と分かるようなセミの声がする木の前を通った。なんだろ。木を選んで止まってんのか? セミの木みたい。ちょっと立ち止まってじっと上を見ると、何匹かセミの姿が見えた。手の届きそうな所にも。小学生なら大喜びで捕りまくるところだ。しかし俺は高校生! しかも人の家に行く途中! つかまえたりしない。俺は歩き出した。早々にセミの木から離れる。実はちょっと、つかまえたい衝動があった。セミは好きな虫なのだ。堅い体がメカみたいで、かっこいいと思うのだ。セミ、つかまえて持って行ったら、モリヤ、バカにするだろうなァ。何持ってきたの、ってニヤニヤ笑われるのが目に浮かぶ。まあしかしこれは、モリヤでなくたって、子どもかよって突っ込まれる行動だな。····水本なら、バカにしない気はする。セミとってきたの? 何ゼミ? とか言いそう。クマゼミと答えたなら、ミンミンを探しに行こうか! とか。言いそう~。試してみたい。答え合わせしたいなァ。

くだらないことばっかり考えて歩くうちに、だんだんと森の家が近付いてきた。ここで決して立ち止まってはいけない。止まらず進むのだ。セミの声は遠く、森の家に近付くごとに静かになってゆく気がする。なぜだ。森のくせに。セミ、いないのか?

────少し、足が止まりそうになる。青々とした蔦に包まれた森の家。なぜかその家から、かげろうが立ちのぼっている気がしたのだ。目の錯覚か···? 一歩家に近付くごとに、周りがシンと静まってくる気がする。これ以上進んではいけない気にさせられる。いやいやここまで来て何を言う。今さら怖じ気づいてどうする。スピードが落ちる。でもなんとか止まらずに、俺は足を出し続けた。だんだんロボットみたいな足運びになってくる。おいおい、しっかりしてくれよ。

ついに扉のある場所(相変わらず葉っぱで見えないが)まで、あと1mというところで急激に心臓がドキドキいいだした。なんだこの動悸? さすがにもう、森の家訪問も慣れてきただろうよ? と思うのに。やばい。強烈に帰りたい!! つい後ずさりそうになったその時、すうっと内側に扉が引かれた。

「────小川?」

姿は見えず、声だけがした。俺はビリッと固まる。そして〝どうしよう〞という気持ちが俺の頭の中をぐるぐるする。〝やあ また遊びに来たぜ〞ここは軽くこのセリフだろう。しかし声が出ない。モリヤの方も俺の返事を待っているのか、無言。姿を見せるわけでもない。黙ったまま家の中と外に立っている。まだ顔も見ていないのに、モリヤと二人きりの時におきるカナシバリ状態になっている。ボタッと地面に汗が落ちた。それを合図のように、声が聞こえた。

「訪ねて来たのだから 何か言って?」

意識的に俺はツバをゴクンとのみこんだ。喉がカラカラになっている。

「···ちょ··っと 出てこないか」

かすれた声が出た。必死で出したセリフなのに

「暑いから嫌だ。」

即答なのだ。未だ姿も見せない。出てきてほしかった。なぜか今、とても家に入りたくない。

「は、はなしがあるんだ··。」

「ふうん···。」

なんだと言って出てきてくれよ! これは···俺が怖がっているのが、ばれているんだな。そうなるとモリヤの嫌がらせは、当然発動するよな。けれども回避したい。

「そ、外で話さないか。」

「暑いから嫌だ。」

もう一度モリヤは言った。続けて

「小川が中に入ればいい。入るなとは言わないよ。」

「····」

ああ、どうしよう。かつてないほどの恐怖。しかし原因は定かでない。本能か??

「どうしても外がいいと言うのなら」

言うのなら? 出てきてくれるか⁉

「今日は帰れよ。」

だめか···!

「きょっ 今日はモリヤに聞きたいことがある!!」

「何」

「今、高揚しているのか?」

必死。俺は必死でそう言った。高揚していないと答えたら、帰ってもいいか? モリヤが答えるまでの短い間に、心で自分に問う。自分の答えが出る前に、モリヤが ハハハハッと大きく笑う声が聞こえた。

「分かってて聞いているだろう。していない訳がないよね。質問の答えは〝している〞だよ。用がすんだなら帰るといい。」

ドッキンドッキン心臓が暴れ出す。モリヤは高揚している。やっぱりだ。モリヤの言う通りだよ。分かってたよ。分かって、ここまで来たんだよ。まだ俺が口をきけずにいると

「小川もあんまりそんな所に立っていると滅びるよ。じゃあね。」

「待て!!」

扉を閉められそうになったので、又もや必死になって俺はそれを止める。

「話をしにきたんだ。入れてくれ。」

「─────入るんだ?」

「入る」

「どうぞ。」

モリヤの笑うような声がして、扉がもう少し奥へ引かれた。ドッキンドッキンしながら扉に近付いて行く。近付きながら···ほろびるってなんだよ·· 遅ればせながら心でつっこむ。恐怖しながら玄関に入る。


「······」

匂い、しない···。壮絶な匂いがあるんじゃないかと思ったが···。薄暗い家の内は、かすかな草木のような匂いだけ···。そして、外の暑さが信じられないほど、ここは暑くないのだ。が、汗は出る。容赦なく吹き出してくる。俺は玄関に立ったまま、タオルを取り出して汗を拭いた。

「今日もタオルを持ってきたんだね。」

モリヤの声に、顔を上げる。モリヤは窓辺に立っていた。こちらを向いて。笑っている。

これは···。もしかして、終業式の高揚を上回ってるんじゃ····

「この前、水本が来たよ。知ってる?」

「··し··しって··るが···」

「なんだ残念。知らないとおどかせたのにね。」

ハイだ。実にハイだ。俺の心臓はドッキンドッキン収まらない。落ち着け俺。分かってたんだ。分かってて来たんだから!! 俺は今ふたたび自分に言い聞かせる。

「水本もね、その日タオルを持ってきていたよ。忘れずに2本。そして1本は掛けておいてくれと渡された。そして掛けたまま、今度はそれを忘れていったよ。忘れんぼうだね水本は。」

怖いぐらいのハイが、こっちに向かってくる。モリヤは笑顔でゆっくりと、少し上を振り仰いだ。その目線の先に、なるほどタオルが掛かっている。あれだ。水本の言ってたやつ。その内にモリヤの匂いが戻って、染み込んでたらいいなァって、アレ。が。

残念ながら匂いは出ていないぞ、水本よ。いや、水本が来てから今日までに、匂いが出て、消えて、なんてことがあったのなら別だが。

「突っ立ってないで、上がれば。話があって来たんだろう。」

満面の笑みでモリヤが言う。もちろん、俺に向けての笑みではない。上機嫌が、ハイが、顔に出てしまっているだけのことだ。つまりは、やはり、コントロール不能状態····  う、え···

もぞもぞと靴を脱いで、俺は上がっていった。やはり匂い無し。そして、暑くなく、床ひんやり。モリヤがいなかったら、心地の良い家なのだ、ここは。昼間限定だけど。

俺は、入ってすぐの辺りに腰を下ろした。もう何しろ喉がカラカラで、持ってきていたペットボトルのお茶を飲む。それだけでも、ずいぶんとホッとする。改めて俺はモリヤを見た。····色気は、出ていない気がする。あまりのハイに圧倒されて、色気がどうとか、よく分からないのだが。···多分。

モリヤが、ゆらりと窓辺を離れ、近付いてきた。なんだかモリヤも、かげろうを纏っているように見える。俺の前にふわりと座り、で? と口を開いた。

「話をして?」

途端にまた、ぶわっと汗が噴き出した。ああ心臓が、しんどい。話をした方がマシになるのだろうか。

「あ、明日だな、飯盒炊爨。」

!! うわ、しまった、この話題やばかったか!! 言った途端に後悔。高揚が見えるほどって、どうよ⁉ この、かげろうみたいの、高揚だろ、モリヤの···。

「そう···。ほんと いよいよ。何につけ、こんなに待ち遠しかったのは、初めてだ。この前まで、水本と毎日会っていて、夏休みで会えなくなって、雨もなかなか降らなくて、と思うと、思いがけず何もない日に、いきなり水本が現れて···! それからわずかに雨が香ったが、水本を呼ぶほどのものでもなく、なのにぼくは、やたらとソワソワしてしまい···· そうして、やっと明日だ。こんなに気持ちが溢れてしまって────。」

俺に、というより、ハイテンションな独り言のように、一気にモリヤはそこまで言って、ようやく俺に目線を合わせた。目も、顔の全体も、笑っている。最高の笑顔。

「小川、何しにきたの。」

う···心臓、爆あばれ。

「何の話をしにきたの。」

美しいまばたきを二度して

「来て、よかったのかなあ?」

怖い!! 助けてくれ!! 

脳内に表面張力の()が広がった。微妙に揺れている。もうパンパンだ。まさにギリギリ。こぼれたらどうなる? ああしかし(ドッキンドッキン)こぼれないままに、明日がきたらどうなる⁉

絶対ダメだろ!!!

俺は歯をくいしばった。その口を必死で開き、

「水本が···」

しぼり出す。

「何?」

モリヤの方は、ウッキウキの声。

「キャンプのために食材を買っていたが」

「うん?」

「野菜が多かった。」

「ん? 何? どういうことかな。買っていたって? 買った食材を見せてもらったってこと? それとも」

モリヤはゆっくりと首をかたむけて、じいっ····っと俺の目を覗き込んだ。

「一緒に買い物したってことかな?」

口元は笑っている。でも今、目は笑っていないぞ!

「やさ···」

野菜を水本がモリヤのために買ったと伝えたら、そこでモリヤの気持ちは高まり、表面張力が崩れるとみたのだが、まさかの嫉妬心発動。いちいち、どの話題もヤバい。そして嫉妬心発動の話題は、俺の身が危険だ。表面張力を崩すのも、実に危険な行為ではあるが、それはやっとかなきゃ、しょうがない。今日来た意味がない。けど、嫉妬心は煽らなくていいのだ! というより煽っちゃいかん!

「み、水本が、買い物悩むって言うから、一緒にな。キャンプのためだ。目をつむれよ···。」

心は必死だが、言葉はなるべく淡々と繰り出したつもり。続けて

「あー! そういやその時水本も言ってたな! タオルを忘れてきたって!」

ちょっとセリフが芝居がかってしまった。モリヤは黙って、じいっと俺を見てる。嫉妬心を煽る話から、話題を逸らさないと!

「嬉しそうに〝忘れてきた。わざとじゃないよ〞って言ってた。」

モリヤが、ちょっと「うん?」という表情をして、

「嬉しそう? わざとなわけもないよね?」

「ああ。ホントにわざとじゃないと思うが、水本は忘れて良かったと思ってるもんだから、わざとと思われるかなって考えたんだろ。」

モリヤは俺の目を見たまま、首をかしげた。

「どうして忘れて良かったの? 次来るとき、持ってこなくていいから?」

なんでも分かってそうなモリヤが、こういうことは分からない。なぜだ。とても不思議だ。

「自分がいない間に匂いが戻ったら、タオルに匂いが付くからって。」

「それが···· ···嬉しいのか···」

「あ」

表面張力超え。崩壊の瞬間を見た。それは、溢れてツ──とグラスを伝う、的なものでは全くなく。もう表面張力も何も、でかい氷かなんかをぶちこんだ感じに····

やばいと感じた。が、咄嗟に立ち上がることができない。座ったまま、必死でじりじり後ずさり、もう、すぐそこは玄関なので、落ちるように下りた。震える手をついて立ち上がり、転げるように扉を開けて外へ出た。5mほど離れた辺りで、おそるおそる振り返る。 ────────家が、揺れているような気がした。いや、目の錯覚だろう。それか俺が揺れているんだ、きっと。心臓がドックンドックン音をたてている。俺は動けずに、その場で茫然と立ちつくしていた。心臓がドクドクしすぎて、脳がショートしてるみたい。思考力がゼロになっている。

どれくらい経ったか分からない。きっとだいぶ長いこと俺は立ちつくしていたと思われるが、ようやく心臓が落ち着いてきた。とてつもなく心身に悪いな。カンカン照りの日差しの下、俺は汗をダラダラ流しながら立っていた。又こんなことに。前は匂いがすごすぎて、それから逃れるために外に出たのだった。今回は····〝何〞か分からない。しかし確実に、何かがやばかったのだ。

俺は思いっきり息を吸った。熱い空気が口から入ってくる。それを又、思いっきり吐く。吐いた拍子に自分の足先が見えた。なんと裸足。靴も履かずに飛び出してきていた。俺は森の家を見た。扉が内に引かれたまま開いている。モリヤはもちろん中にいる。モリヤ、どうなったろう。表面張力超えをして···。高揚がすぎるとモリヤの体は変調をきたすのだろうか。匂いは何も影響はないと聞いた。そして色気が強烈に出ると、熱が少し上がると。高揚は···? あ··。質問、一つ追加だな···。質問書いた紙は、俺のカバンの中だ。モリヤの家の中に置き去り。俺ってば、まだなんにもしてないじゃないか。──────戻って、質問するか···。さっきのできっと〝内にあるコントロール不能なもの〞が、だいぶん外に出たはず···。俺もこのままここにいるのも危ない。頭が極(あつ)。日差しがすごい。熱射病になってしまう。俺は、そろっと足を一歩出した。

モリヤの家の周りは、アスファルトではない。土と雑草の生えているところと。たったの5mを俺は意志を強く、強く持って、じり、じり、と進んでゆく。小石を踏んづけた。めちゃめちゃ痛い。飛び出してきた時は、そんなことにも気付かなかったんだろう。いくら夏は怖い話が定番とはいえ、この夏は多分、俺の人生史に残る恐怖体験の夏となるだろう。一歩ずつ、いちいち一生懸命踏んばって進むうちに、ついに森の家の扉の前まで、たどり着いてしまった。

俺が飛び出した時のまんま。内に引かれて開いた扉。恐ろしいほど、シンとしている。怖い気持ちに不安が混ざる。まさかモリヤ、倒れたりしてないだろうな? 俺は、おそるおそる扉の内に入る。体を玄関に入れた途端、ドン!と体を押された、と思った。

「モリ···」

モリヤが、ぶつかってきたわけではなかった。モリヤはさっきの場所に腰を下ろしたまんま。片膝を立てて、その膝に額をつけている。俺は慌ててまわりを見る。何がぶつかったんだ?と思う間もなく すごい、匂いが─────!!!

モリヤの匂い。水本が好きな方のモリヤの匂いが、まるで俺を取り囲むように、迫っているのだ。俺は怯えた。まさかだろ? まさか、さっきぶつかってきたのは匂いだとでも⁉ イヤイヤ俺、しっかりしろ、今はそれよりも

「モリヤ!!」

口を開くと、口に匂いが入り込んでくる。俺はかまわず、モリヤのそばへ近寄った。

「モリヤ!! どうした⁉」

膝に額をつけて下を向いていたモリヤが、ゆっくりと顔を上げた。

「どうしたも何も···」

言って、少し力なくニヤリと笑った。

「大丈夫か? 気分が悪いのか?」

「気分はすごくいい。」

「なに⁉」

こんな時に冗談言ってるのか? 真っ白な顔をして!

「気持ち悪いんだろう! ちょっと横になれ。」

喋っている間にも、濃い匂いが口の中に入ってくる。味がしそうに思うほどだ。 動こうとしないモリヤの肩をつかもうとしたら、その手をつかんで止めてモリヤは

「だから気持ち悪くない。」

と笑って言った。

「小川は、ぼくの体調を気にするね。なんでもないよ。」

言って手を離した。

「だって、うずくまってたじゃないか! 顔色も悪いし。」

「顔色とか体温とか、どうでもいいから。下を向いていたのは、少し驚いたから。それだけだよ。」

「驚いたって、何に?」

「油断してたからなァ。小川じゃなくて水本が近くにいるんなら、まだもう少しは注意したんだけど。」

「何をだよ?」

「まあ、小川も悪いよね。」

「はあ⁉」

「ところで大丈夫なのか?」

「なんだよ⁉」

ぐあい、悪くなさそうか··· さっき掴まれた時、手も熱くはなかった。顔色が悪いのは悪いけど···。悪いというか、なんかやたら白い。そして会話が成立していない感じ。···まあ···これは、モリヤとは有りがち···。 白い顔で笑っているモリヤに

「何が大丈夫なんだよ?」

「匂い」

「えっ」

「すごいだろう。きついんじゃないの?」

ああ。モリヤがぐあい悪いんじゃないかと思って、そっちにしか意識がいってなかった。が、改めて、確かに、すごいよこれは···。いったい、どうなってんだ? 表面張力超えで、匂いが噴き出したとでも?? ばかな···! 

俺は部屋を見回した。匂いは、まだきつくなってゆく気がする。息苦しい。しかし、部屋にはやはり、何も無い。

「何か、探しているの?」

「··いや···」

ふふふ、とモリヤは笑う。匂いの元は、モリヤより他にはやはり見付からず、しかし匂いは弱まる気配もない。せっかく戻ってきたが、このままでは又やばい。息苦しさがすごいのだ。息···というか、何しろ匂いの圧。窓辺に近付いてみるが、窓はもとより開いていた。扉も俺が入ってきたまんまに、半分開いた状態。なのに、室内の空気は動かず、しんしんと匂いが溜まっていく···ような気がする。 そうだ 前に、前にも匂いが逃げなくて、その時モリヤは奥の窓を開けてくれた(多分だが)。すると風が通ったのだ。

「モリヤ」

モリヤは俺の方を見て、薄く笑顔だ。

「お、奥に窓があるんだろ」

「それが?」

「開けてきていいか。」

「ぼくが行こう。」

と立ち上がる。

「いや! いいからおまえは動くな。」

言ってるのにモリヤは、窓辺にいる俺の方へ近付いてきた。

「そうか。小川はぼくに興味大なんだっけ。家にも興味が?」

モリヤが近付くと、匂いも増す気がする。気のせいでないとは、言い切れないが。鼻は多分、だいぶ麻痺している。心まで麻痺したら終わり! 早くなんとかしなければ!

「興味とかそんなんじゃない。とにかくモリヤは、横にならないまでも、じっとしていた方が···」

「まだぼくの体調を気遣っているの? 小川についても、ぼくには分からないことが多いね。まぁしかし」

ふわっと笑う。鼻が麻痺してても、絶対匂いが強くなったと確信する。

「水本とは違って小川のことは分かりたいとも思わないから、分からなくても困らない。」

などと言って、クスクス笑っている。うわあ···。高揚、収まってない···。だめだ 帰るわけにはいかない。逃げるわけにはいかない。やはり、風を通さねば。

「とにかく窓を開けさせてもらう。」

俺が奥へ向かおうとすると

「いいかも。」

笑った声でモリヤが言った。俺が何がと問う前に

「ぼくの家の奥はどうなっていたか、水本に詳しく説明して。もしかしたら水本が、それを知った小川を、羨ましく思ってくれるかもしれない。万が一にもそう思ってくれたなら、とても天国。」

嫉妬心か。······ありえる。水本は···ああそうだきっと、羨ましがる。いいなぁって、俺に嫉妬するだろう。···いやむしろ、家の奥のことよりも、今日の、今の、この匂いこそが、水本を死ぬほど羨ましがらせるに違いない·····。ここで思考停止。ちょっとまじで、きつくなってきた。今一度、俺はモリヤをじっと見て、分かった多分大丈夫、と決めた。

「やっぱりモリヤが窓を開けてくれ。」

「ええ? 小川が行かないの? 水本に話してくれないの?」

歌うようなセリフ。モリヤの思い通りには動きたくない。

「勝手に人の家を歩き回るのは失礼だと気付いた。開けてきてくれ。ぐあい、悪くないんだろ?」

アハハハハ!とモリヤは笑った。

「そういうところは、とても分かりやすいね。小川は水本がやきもちをやくのを見たくないんだ。悔しいんだね。そうか、つまり小川も、水本が小川にやいてくれると思ってるんだね。」

嬉しそうにモリヤは言って、ふふふふっともう一度笑い、

「じゃあ、開けてきてあげる。」

と、奥へ向かった。

俺はとりあえずホッとして、扉のそばへよった。なぜわざわざ扉かというと、窓は、開いていても蔦の葉が、カーテンのように窓にかかっているのだ。とにかく外に顔を出したい。扉から俺は半身を出した。完全に外へ出てしまわないのは、もう、出てしまったら戻る気力がないと思うからだ。そうして、顔を外へ。思いっきり息を吸う。肺の中の空気を全て入れかえる勢いだ。ぬるい空気を何度も吸ったり吐いたりするうち、落ち着きを取り戻してきた。落ち着くと状況が見えてくる。匂いがえげつなくきついけれど、高揚はやはり少しは収まっているようだ。あの、来た時に見たえげつなさよりは、マシに見える。そして色気も出てはいない。これで、(プラス)色気だったとしたら、俺は逃げ帰るしかなかったかもしれない。高揚だけでも、一緒の家の中にいられなかったんだから···。

と考えていたら、すごい匂いの風が吹いた。ぎょっとしたが、それは風が通ったせいだった。モリヤが窓を開けてくれたのだろう。家の中の、モリヤの匂いまみれの空気が、扉から外へ流れてゆく。半分開いていた扉を、俺は全開にした。ザッと勢いよく風が通った。 良かった、風の通る家で。これでなんとか匂いが薄まるはず。

「小川」

戻ってきたモリヤの声がした。

「もう帰る? それとも話をするのかい?」

もちろん話をするともさ! 俺は扉を開けたまま、部屋に戻った。床に座ると、先に座っていたモリヤが、おもしろそうに俺を見た。

風が通ったことで、さっきよりかはだいぶん匂いがマシになっている。なんというか、圧みたいなものも。

「ぼくは」

モリヤが先に口を開いた。

「小川は危険察知能力があるんだと思うんだけど」

また妙なことを言い出した。キケンサッチノウリョク?

「それをキチンと生かす能力はないようだね。」

「···どういう意味だ?」

「ぼくといて、危ないと感じることがあるだろ。」

あるというか、いっつもじゃないか!

「そうした時には、ぼくから離れて外へ出たり、風を通したり、するよね。」

当然の行動と思うが。うん? それは、危険察知能力を生かしてるってことじゃないのか?

「そんなことするより、帰ればいいと思うんだよね。」

「·····」

「それより何より、小川はぼくという存在が危険だと知っているんだから、もとより来なければいいよね。」

「······」

ぐうの音もでないってやつ。

「危機回避能力が、あるんだかないんだか。」

言ってモリヤはハハハと笑う。

風が通ってマシとはいえ、まだまだ匂いはきつい。高揚も、多分マックスはなんとか越えたはずだが、これもまだまだ収まったとは言えない。話を。とにかく話をせねば。今こそ、あれだ! と俺はカバンを引き寄せ、メモを取り出す。普段なら俺の行動なんかには無関心なんだろうが、なにせ今のモリヤは高揚中。おもしろそうに俺の手元を見ている。

「おや。オセロを取り出すのかと思った。」

「今日はモリヤに聞きたいことを質問する。答えてくれよ?」

モリヤはニヤニヤ笑っている。

「へえ? 質疑応答? 一般高校生は同級生の家で、そんな遊びをするのか。知らなかったなぁ。」

お··· 来たな、嫌がらせ。

「聞きたいことがあるんだから、答えてくれてもいいだろう。」

「聞きたいこととは?」

「誕生日はいつだ?」

「なぜと聞き返したいなァ。そんなこと知ってどうするの。」

「高校生の友人宅での過ごし方として、質疑応答は一般的でないかもしれないが、友人が誕生日を聞くことは、一般的だぞ。」

「そうなの? 友人同志は誕生日を認識し合うものなの? どうして?」

くー··。まさか、誕生日を聞いただけでここまで質問を返されるとは、さすがに予想外。

「自己紹介でもよく言うだろ···。誕生日、血液型、趣味」

「自己紹介? 今さら?」

「···よく知り合うには、初歩的な質問から、だよ。」

「ぼくは小川のことを知りたくもない。」

「····〝知り合う〞が間違ってた。俺がモリヤのことを知りたい···」

あ!! バカなこと自分から言ってしまった···

アハハハハ とモリヤは大きく笑った。

「ほんとにそうなんだ? 知りたいんだ、ぼくのこと。へえ? ついにその気に。」

言ってモリヤは立ち上がった。俺はもちろん、ぎょっとする。

「なんだ! 何を····」

モリヤは俺に近付き、真横に座った。

「いいよ。教えてあげる。が、誕生日といえるかどうか。外界に出たのは3月だよ。」

「え」

ま隣に座ったモリヤが、俺の顔を見て笑っている。顔が近い。そして匂いが···  俺は立ち上がる。モリヤがその俺の手を、つい と掴んだ。

「危険察知能力? ぼくが怖い?」

「怖くないっ!」

思わず大声で言ってしまう。

「怖いんじゃなくて、匂いがきつい! から、と、とにかくそんなに近付くな!」

「また矛盾人間の矛盾発言。ぼくのことを知りたいと言っておきながら、近付くななんて···。」

言いながら、うふふと笑いをもらしている。俺の手を掴んだまま。

「手を離せ。」

「質問タイムは終わり?」

まだ何もまともな答えをもらえてない。だいたい、外界に出たのはってなんだよ? へんな答え方をするなよ。

「ぼくからも質問するけれど、小川はぼくの誕生日を知りたいの?」

「知りたくなかったら聞かない。」

「知ってどうするの 小川に何の利があるの 何の意味が」

一旦切って

「あるの?」

微笑む。

「手を離せ。」

「はい、離したよ。答えをどうぞ?」

俺は又モリヤから少し離れて、その向かいに座った。さっきと位置が逆になった。

「では」

俺はがんばって心を落ち着けて

「では モリヤは、水本の誕生日を知りたいとは思わないのか?」

モリヤは面白いものを見るような目で俺を見ていたが

「そういうことか!」

と、笑顔になった。

「誕生日を知りたいってわけではないんだな? なんでもいいんだ。なんでも知りたいんだ? ぼくは水本に対してはそうだよ。小川は、そんなにぼくのことが好きなのか。そうかァ。」

これぞ、嫌がらせ。そんなことないと知っていて。でもまぁ··· 確かに 誕生日を知って、どうするんだっていう···。プレゼントをやろうと思っているでなし、当日祝おうと思っているでもなし。ありきたりな質問と思っていたが、意味を問われると、聞く必要の無さを感じてしまった。

では、これならどうだ。

「血液型は?」

ブッとモリヤが吹き出した。

「認めるの? そんなにもぼくのことが好きなんだって?」

「認めるわけないだろ。この質問には意味がある。」

「何?」

モリヤはクスクス笑いながら

「では、聞いてあげよう。血液型を知ってどうするの?」

「相性を知るのだ。」

「····」

一瞬黙って、モリヤは爆笑した。

「ぼくと小川の相性? アハハハハ! 認めてるじゃないか、ぼくのことがそんなに好きだって! アハハハハハ!」

だ、だめだ 匂いが、つらくなってきた。俺はもう一度立ち上がり、奥の部屋への通路と玄関の扉を結ぶ線上に立った。ここだ。奥からの風が、モリヤの匂いを飛ばして扉の外へ持っていってくれる位置。その位置からモリヤを向いて

「好きじゃなくても、付き合う上で相性は大事なのだ。」

「血で人格や相性が決まるなんてこと、本気で思ってるの?」

「絶対じゃなくても、参考になるじゃないか。」

「ならないよ。血を全部入れかえたら、人格も相性も変わるとでも? ありえないよね。」

ああ だめだ。湧井、質問攻め作戦失敗だよ。全然素直にてきぱき答えてくれない。きっと分かってて、嫌がらせばっかり言ってくる。何を分かってるかというと

「小川は時間潰ししてるんだろ。とにかく喋る時間が長ければ、ぼくの内のものを出させられるって思って。」

そう。それ。ばれてる。

「けど血液型と言えばさ」

思い付いたようにモリヤが言った。

「小川はぼくに血が流れていると思っているの?」

「は?」

ふふふと笑って

「知ってるんじゃない? ぼくはケガをしても、血が出ないってウワサ。」

ああ!! そういや、だいぶ前にそんなウワサがあったな。あれは···去年の、体育祭の前ごろだ。体育祭の組体操の練習で、モリヤが小さいケガをしたらしいのに、血が出なかったとかなんとか。

「ウワサはウワサだろ。そんなもの全部うのみにするもんか。」

「まあそうか。近ごろのウワサは、小川にとっては信じたくもないようなものが多いものね。」

そうだ。どんどん、まわりがおもしろがって、どんどんバカなウワサを流し始めた。それはもう、とめどなく。

強い風が奥から吹いた。ひらっと白い紙が床から舞って、それから再び床に落ちた。自分の右ななめ後ろへ落ちたそれを、モリヤが拾った。

「あ!」

俺は自分の手を見て、ポケットを探る。やば。

「小川はわざわざ質問を考えてきたんだね。」

紙を見ながら笑ってそう言った。ああ、しまった。質問メモを落とすとは! 俺は慌ててモリヤに近寄り、メモを取り返そうとした。モリヤはそれをヒョイとかわし

「湧井サンと一緒に考えたの?」

と聞く。

「返せ。」

答えず、低く言う。俺のバカ。質問の中には、少し見られたくないものがある。聞く聞かないは別にして、とりあえず思い付いたものを書いたのだ。若干踏み込んだ質問というのも2、3書いてしまっている。

「返してもいいけど」

とモリヤは笑う。

「もう見てしまったよ?」

いいからと俺が手を出すと、モリヤはその手にメモを渡した。俺はポケットの奥の方へ、それをねじ込んだ。

「隠さなくてもいいじゃないか。どうせ聞くつもりだったんだろ。」

あくまで笑顔でモリヤは言う。

「···全部聞こうとも思ってないから。」

「ふうん? では、ぼくの選択で答えようか。」

「は?」

「ほぼ全てが、なんでそんなこと知りたいのってものだけど、逆に面白くもある。」

「まて」

「うん?」

「まさか、今の一瞬で全部覚えたとか言わないよな?」

俺は座ってるモリヤを見下ろしている。けど、心がすくんでしまっているのは、もちろん俺の方。

「一言一句覚えてはいないが、だいたいは。」

ああ··· そりゃ、テスト勉強いらないかも。もの覚えのレベルが高すぎる。

「···モリヤ、授業中、板書してない? もしかして?」

一瞬見て覚えられるなら、それも不要だ。

「してるよ。どうして?」

「もの覚えがすごいから。」

「ああ、ハハハ。」

もう、笑えるレベルではないのだ。

「見たもの全て覚えられるわけじゃない。興味あるものだけ。」

「····こんな質問に興味ないだろう。」

「小川からの愛に興味を持たないのは失礼だろう?」

何が愛か!

「この質問群は、愛だもんね? ぼくのことを熱心に考えながら、質問を書いていったのだろう。の割に内容がくだらなくて愉快だよね。」

ほんと腹が立つ。嫌がらせがすごいよ。

「どれに答えようかなァ。〝怖いものは何か〞っていうのは、それを聞き出して、ぼくに嫌がらせしようってこと? 歪んだ愛だけど」

クスクス笑い。

「それなら、この質問には意味があるね。だけどぼくは、カッコ内に書かれていた、幽霊も、高いところも、虫も、トカゲも、怖くはないよ。」

怖い。やっぱり俺は、モリヤが怖い。何が、だいたいだ。こと細かく覚えてるじゃないか! あんな一瞬で!!

「小川は何が怖いの?」

!! きた! 質問返し!! しかも、モリヤが怖いと考えているその時に!! 答えんぞ、モリヤが怖いとは! 俺は···と言おうとすると、また先にモリヤが口を開く。

「湧井サンは幽霊が怖いんだよね。」

「えっ!!」

なんで知ってるんだ⁉ ───水本に聞いたか?

「前に水本が家に来た時に、自分の怖いものは何か考えていた、と言ったことがある。」

水本の怖いもの?

「小川に質問されたが、答えられなかったからと。小川は湧井サンの怖いものを知った上、水本にもぼくにも聞いたりして。ほんと気が多いよね。」

だから! 怖いものは何かを聞くことイコール愛じゃないってば!! しかし水本の怖いものか。確かにそんな話をした記憶が···。そして確かに答えは聞いていなかったと思う···。そうだ、その時に、湧井が幽霊が怖いって聞いたんだったっけか···。

「小川は水本の怖いもの、知らないよね。」

知らんけど···。

「···モリヤは? 聞いたのか?」

下から匂いが吹き上がった気がした。俺は思わずよけて、後ろへ下がる。気にせずモリヤは

「明確には答えは分からなかった。けど、水本のステキな思考を、聞くことができたよ。」

「──────なんだよ、ステキな思考って?」

「自分の怖いことは、モリヤの匂いが戻らないことかな─ってそう言った。でもそれは〝怖い〞じゃなくて〝悲しい〞かも、って考えて、答えが出なかったと。ぼくの匂いが戻らないことが、〝怖い〞かな〝悲しい〞かなと考えてくれてたんだよ。最高にステキな思考だろう?」

俺はヨロヨロとあとずさって、さっきの風の通り道に戻った。吹き上がる匂い。わき上がる高揚。ああこれはヤバいのか、それとも俺の今日の目的を果たしていってるのか·····。足はヨロヨロで、心臓はやはりバクバクしている。でも、もう少しがんばらねば。···質問の答えはもらえなくても、それが会話のきっかけとはなる、ことが分かった。

「···で、モリヤの怖いものは何だよ?」

心臓バクバクさせながら、必死で俺は喋る。

「小川はトカゲが怖いの?」

「えっ⁉」

なんだ? まだ俺、言ってないよな⁉ 怖い!! なんで知ってんだ⁉ クククとモリヤが笑う。

「アタリ?」

俺は怖さのあまり、モリヤを睨み付ける。超能力? それとも電話の盗聴?

「そんなに驚くことはないよ。メモに書いてあったじゃないか。幽霊 高いところ 虫 トカゲ。」

「···そ、その中で、なんでトカゲ限定···」

「ふふ。幽霊は湧井サンの怖いものだし。あとは、トカゲってやけに具体的だから。ヘビでもなくトカゲってね。」

···予想か。でもやっぱ、するどいと思う···。

「小川の怖いものはトカゲ。」

歌うようにそう言って、モリヤはふふふと笑った。こ、わ~~。俺も湧井も揃って弱味を握られてしまったぞ。

「おまえも答えろよ。」

ああ必死だ。俺はずっと必死。モリヤは余裕。楽しそう。楽しそうに笑って言った。

「今は無いよ。」

う~ん···。その答えも予想はしていた。が、

「今はって、前はあったのか? 何が怖かったんだ?」

これは純粋な興味。

「物質的なものではないが、あまりに急激な変化に少し怯えている時があったな。」

「変化って、何の?」

「自分の心。」

「·····」

時おり風が吹いて、モリヤの匂いを扉の外へ押し流す。それでもまだ家の中はモリヤの匂いでいっぱいで、俺は少し酔いそうな心地がした。

「···今は、怖くなくなったのか? ···慣れた?」

モリヤは俺を見て、ほんの少し首をかたむけた。

「慣れたというより、目盛りが振り切った感じかな。」

「·········」

「小川の質問メモに分からないところがあったんだけど」

「···え···な、なに···」

変化がすぎて怯えを超えてしまったか 麻痺ってことか···と考え込みそうになった俺は、話の切り換えについてゆけず。ぼんやりした返事をしてしまったが、モリヤは話を続けた。

「〝いると思うもの〞の欄があったね。カッコ内に書かれてた、サンタ カッパ 宇宙人、なんかは分かったが、小さいおっさん って何?」

そこまで見てる! 覚えてる⁉ だから怖いから!!

「小柄な中年男性は普通にいるよね?」

「···いや···。小さいって、手のひらに乗るぐらいの··· 妖精みたいなおっさんが見えるという人がいるらしい···。」

「妖精のおじさん? へ───え···。」

ここは笑わずに、モリヤはしばらく黙っていた。そして

「ケサランパサランて何?」

「そ、それは··· なんか··· 多分いがぐりぐらいの大きさの、まるい毛玉のかたまりみたいな生き物が、とんでるらしい···」

「うん?」

モリヤは首をかしげる。

「その謎の生き物のことを、ケサランパサランていうんだ···って。」

「ふうん? アザミの綿毛みたいなの?」

「あざみのわたげ??」

お互い、首をかしげる。

「小川もよく知らないの? 湧井サンが言ったのかな。」

その通りだが。ふふふとモリヤが笑った。

「水本は全部信じていそうだね。カッパも 座敷わらしも 雪男も 化け猫も 魔法使いも···。」

俺はモリヤの怖さの目盛り超えだよ! 書いてたこと、ほんとに全部覚えてやがる。目でシャッター押すタイプの人間か? 

「ケサランパサラン、水本知ってるかなァ。明日聞いてみよう。」

ケサランパサランって何?って、俺も湧井に聞いたんだ。謎の生物。説明されても、よくは分からなかったが、なにしろそれを見ると幸せになるらしい。水本は───── 見たことがあるかもしれない。なぜか、そう思った。


「そろそろよくない?」

とモリヤが言った。急に口をきいた。さっきまでモリヤは、しばらく黙っていたのだ。明日水本に聞く、と自分で口にして、その明日の楽しみに心を飛ばしてしまってた感じ。うっとりタイムに入っていたようなのだ。俺は、風の通り道にあぐらをかいて座っていた。風がどんどん通って、さすがに匂いが、少しはマシになってきているようだった。

「何が?」

当然俺は聞く。

「もう帰ってもいいんじゃない?」

「え」

匂いの圧が少し収まって、モリヤが黙っていてくれたから、俺もホッとしてぼんやりしてた。匂いに酔ったようで、頭がボーッとする。

森の家は、時間の感覚がおかしくなる気がする。長くいたのか、実はそれほどでもないのか、判別つかない。次回は必ず時計を持参しよう。

「小川もおなかすいたんじゃない。」

おなか··· すいたか? 匂いを吸い込みすぎて、なんか、いっぱい食べたような感覚。

「いや··· 別に。」

「···そうか。」

そうだな···。確かに、もうそろそろ帰ってもいいのか。俺はモリヤをうかがい見る。

「帰れよ。」

ニヤリと笑って直接的な言葉を発した。

「···なんだよ、急に。」

「もうだいぶ喋ったよ。用意してきた質問も、全部の答えを聞くつもりはないんだろ。そう言ったよね。」

「····」

そうだけど。俺の目的は〝喋ること〞ではなく、〝喋って、内にあるコントロール不能の何かを出させること〞、なのだ。出るには出たはずだ。けど、大丈夫なほどか? このまま明日になって、水本と会わせても、大丈夫なのか?  俺としては、一刻も早く帰りたいのだが、念のため、もう少し出させた方がいいような気も。

「けど、質問、モリヤはほとんどちゃんと答えてない。」

思いきってそう言った。〝俺の希望〞より、〝念のため〞の方を選択。

「そうかな?」

「そうだよ。質問返しばっかりしてさ。」

「ハハハ。だってぼくが〝カッパはいると思う〞とか答えたとして、それが何? 小川に何か関係があるの? ないよね。」

···ないな。俺はいないと思う。って答えたりして。だから?って話。でも関係があるとかないとかじゃなくて、こういうのはコミュニケーションだ!

「〝どんな夢を見る?〞なんて、そんなこと聞きたい? 人の見た夢に興味ある人なんている?」

ええ? いないか? 不条理な夢の話なんて聞かされても、おもしろくもないものなのかな。ただ俺は、モリヤの見る夢には若干の興味が···

「そういえば、小川は前に、ぼくの夢を見たって言ったね。」

俺はドキリとした。見た。水本を泊めた日の翌朝。

「夢なのか生き霊なのかはナゾだけど。」

言ってモリヤはケラケラ笑った。いきりょう···。そう。六条御息所の話をして、生き霊の話になって、怖かったんだ、俺。

「その夢の内容は聞きたいなァ。どんな夢だったの?」

それは興味じゃなくて、嫌がらせだな。しかし、ええとあれは、どんな夢だったかな。朝の、モリヤの家で··· 2人でいて、モリヤが俺に「ずるい」って言うんだ。「自分は最近水本に歌をうたってもらえてないのに」って。俺、夢の中じゃなく、現実に、前日水本の歌を聞きながら寝てしまっていたからな。モリヤが嫉妬で怒るだろうなと、思っていたからな。

「思い出した? どんな夢?」

モリヤがおもしろそうに聞いてくる。

「···モリヤが·· 小川はずるいって言って、ポイント1万って言うんだ。そんな夢。」

「どうして小川がずるいの?」

「····水本を泊めたからかな。」

歌を、うたってもらったことは、モリヤに言ってなかった。水本の歌を子守唄に寝たなんて言ったら、ジェラシーストーム再び!だ。絶対言ったらいかん。

アハハハハ! とモリヤは高く笑った。

「さすがに小川の夢だけあって、希望的観測がすごいね。水本を泊めてポイントが1万とは。」

····だね。次の日、モリヤにつかまって、ポイント制崩壊と告げられた。1万どころかって話だったんだよな。

「モリヤは、水本の夢を見たりするのか?」

これは、考えてきてた質問じゃなく、何の気なしにした質問。モリヤがバチッと俺を見た。

風が─────── 奥からでなく、モリヤの方から、ドォッと俺に向かって吹いた、気がした。匂いの、風。   まて。今、まだくるのか···⁉ でもその次の瞬間、今度は奥からビュオッと外からの自然の風が吹いて、扉へ抜けた。  この位置で良かった。  ····こわ···。何これ。ほんとに、モリヤから風が吹いたのか? 匂いの風が? そんなことが、あるだろうか····?  モリヤは、やはり何も持ってはいないし、部屋の中にも何も無い。質問メモの、〝いると思うものは?〞のカッコ内最後に〝魔法使い〞なんて子どもじみたものを書いていた。俺は絶対に信じない! いると思わない! 魔法なんて無い!! 気のせいだ! 風はモリヤから吹いたのではない! そんな気がしただけ。匂いは··· 匂いは····分からんが、そのうち究明するのだ!! そのうちにな!

「もう···」

モリヤが呟く声がした。ギン!と俺はモリヤを見る。

「だから帰れって言ったのに。」

モリヤがため息をつく。うん?

「なんだよ? どうかしたのか?」

「予測のつかない言動の水本が好き。」

「は???」

モリヤはにっこり微笑んだ。

「ときどき予測のつかない言動をする小川は嫌い。」

「はあ???」

いや、知ってるけども! ······うん? きらい?? (ゼロ)じゃないのか? どうでもいいのでは? 嫌いは、(ゼロ)とは違うんじゃ···

「あぁあ。覚えてろよ小川。」

にっこり笑って何を言う⁉

「なんだよ⁉ 俺が何したってんだ⁉ ····か、帰らなかったからか?」

「そうだ。でも今さら帰っても、もう遅いよ。むしろ、もっといるといい。質問に全部答えてやろうか。そうだ。いっそ泊まる? 泊まって朝早くに荷物を取りにいけよ。今からひとつずつ丁寧に朝までかけて質問に答えてやるから。」

怒ってる···。すごい嫌がらせを発動している。なんだ? 何がモリヤを怒らせたんだ??

「な、なにを怒ってるんだ? り、理由を言えよ···」

「それも質問なの? ああいいよ。答えてやるよ。全部出てしまった。少し残しておきたかったのに。」

「え···。出て·· な、何が···?」

口元は微笑んでいるが、目は俺を睨んでいる。

「あ⁉ もしかしてアレか? 内にあるコントロール不能の何かか? それが出たのか、全部⁉ な なんで残しておきたい···」

「ソレじゃない。」

「え?」

「匂いだ。」

におい···。全部出てしまった···って? モリヤから?? うん? ···そういえば···。匂いが···· しない···のか? イヤイヤ、俺の鼻はもうすでに麻痺状態だ。モリヤの匂いにまみれすぎて、匂いがあるのか無いのか、よく分からないのだ。俺は立ち上がって、玄関へ歩いた。顔を出す。外はもちろん匂いが無い(はず)。顔を戻す。···同じ。つまり、匂いが···· 無い···?

えっ⁉ そんな、急に⁉  いやまあ、もちろん薄くは残っているんだろうが、モリヤの匂いは、そんなレベルではないのだから。〝ほんのり〞なんて〝無い〞と同義。

「···匂い、なくなったのか···?」

扉のところから振り向いて俺が言うと

「無くなった。明日水本に会うのに。」

····そうか。匂いが無いと、水本ががっかりするもんな。でも

「なんで俺のせいだよ?」

「鈍感な小川もキライ。」

「はあ⁉」

モリヤは立ち上がって、俺のそばに来た。玄関の扉のそば。扉は大きく開いている。俺の手は扉にかかっている。モリヤはその手首を掴んだ。ドンッ!!と心臓が鳴る。

「さあ、部屋に戻ろう。どの質問からにする?」

モリヤが手をぐいっと引っぱった。振りほどけない。力が強い。強い力で手首を握っている。そのまま俺は、部屋のまん中に戻された。そこでモリヤは手を離す。

「座って、小川。」

座りながら、俺を見て笑っている。笑いながら怒ってる。

「待てモリヤ。」

「何を。」

「まず、まず怒ってる理由を言え。」

「座ったら言う。」

と言うから、おそるおそる俺は座る。ただでさえ怖いのに、怒ってるって···。どうすんだよ どうなるんだよ⁉

「座ったぞ。」

「匂いが全部出てしまったからだよ。」

「それはさっき聞いた。それがなんで俺のせいなんだか、それを言えよ。」

「結果を意図せず不用意に言葉を吐くだろ。水本のそれは大歓迎だけど、小川のは振り回されるだけで、何の利も喜びも無い。腹が立つだけ。」

「こっ 言葉ってなんだよ? 俺が何を言ったって···」

「ん···?」

モリヤは、ふと睨むのをやめて、考える素振りをした。俺だって必死に考えるが、怒らせるような言葉を吐いたか? 全然分からん。

「は、腹が立つ言葉って何? 俺のどの···」

「ん──。違うな? 小川の言葉に腹が立ったんじゃない。小川の言葉なんかに心が揺れたのが、心外だったんだ。」

「だから、どの言葉だよ⁉」

「水本の夢を見たりするのか」

「はい⁉」

それのどこに? 腹が立つことでもないし、心を揺らすようなこととも思えない···。なんで??

「不用意とかじゃないよ。普通の会話だろ。」

「普通かどうかなんて、ぼくには分からないが」

モリヤは笑ってない目を俺に向ける。

「ここへ来たのは小川。ぼくの内のものを出させたのも小川。ぼくの心を揺らす言葉を吐いたのも小川。結果、匂いが無くなってしまった。それは小川のせいだよね?」

「え····」

そんな··· そうなのか? 俺のせいで匂いが無くなった? いや待て

「けど、俺が来た時は、匂いなかったぞ。」

「そうだよ。あふれる手前だった。」

「え··· そ····」

「分りやすく言うと」

匂いも無い。暑くもない、森の家なのに、俺はじっとりと汗をかいていた。

「ぼくが 水本の大好物の美味しいジュースを、コップにつぎながら水本を待っているところへ小川がやって来て、コップになみなみ入った途端 ぼくに体当たりしてきた。ぼくはよろけて、コップの中身を全部こぼしちゃった。ということだね。」

それは───怒るだろうよ。けど俺、体当たりしてない····。それに

「モリヤ」

「小川が質問選ぶ? どれ?」

「まてモリヤ。出て、良かったんじゃないのか。」

「えっ? どうして??」

わざとな驚き方。久々。

「匂いじゃなくて、高揚の方。高揚も少しは収まってるだろ。」

「まあね。」

「高揚は、収まった方が良かったんだろ?」

「う──ん?」

モリヤは首をかしげた。

「それは別にどっちでも。」

「どっちでもいいことないだろ? 高揚がすぎると、水本に何するか分かんないんだろ?」

「アハ。小川ってば露骨。」

「·····」

「明日は平気だろ。」

「何が。」

「小川と湧井サンがいる。どうせ2人は全力でじゃましてくるだろ。かえって気が楽。」

ばっかやろう!! ···ああ、でも うんうん、やっぱりなって気も。前回海へ行った時、そんな気がしてたよ···。

「うん、明日はいいよ。じゃまをしてくれて。怒ったりはしないよ。」

ほんとかァ? そんなこと言いながら、バリバリ嫌がらせ発動するんじゃないのか?

「その代わりに、今日のうちに小川に嫌がらせの限りを尽くしておくよ。」

嫌だ!! 目が本気じゃないか!!

「と、泊まったりしない。俺は帰る。」

「帰さないよ。バカだな。」

ひ──────っ!!

「質疑応答を開始しようか。〝座右の銘は?〞ぼくは〝毒を食らわば皿まで〞だね。」

「〰〰〰〰〰」

「ハハハハハ! ウソだよ。座右の銘なんて考えたこともない。小川はあるのか?」

来た来た、質問返し。いやそれより、なんで泊まることに··· 明日はキャンプなんだぞ!! 絶対帰るからな!!! 俺が黙っていると

「〝好奇心は身を滅ぼす〞かな。」

言って、もう一度ハハハハと笑った。

「そんなの座右の銘にしない。」

いかん。このまま、ずるずるモリヤのペースに巻き込まれて夜になってしまったら···! 自ら、嫌がらせの限りを尽くすと言い切ったモリヤと、一晩⁉ ありえないっ!!! なんとかしないと···

「モ、モリヤ··」

「何? 座右の銘、思い出した?」

「違う。あー··匂い、匂いな、も、もどらないのか?」

「戻るよ?」

「え⁉ え⁉! 戻るんだ? じゃあ問題は···」

「戻るよ。いつも戻ってる。小川も知ってるじゃないか。ただそれは、すぐにではない。いつ戻るか分からない。今までの経験からいくと、明日に戻ってる可能性は薄いね。」

「······ どうしたら戻るんだ?」

「前にも言ったよ。色気も匂いも高揚も、ぼくの意思とは無関係。」

言って、クククと笑った。

「けど小川、匂いはぼくから出てるって、はっきり認めたの? ずっと、疑ってるのと認めてるのを、行ったり来たりしてるみたいだったけど。」

「え···?」

う? におい、モリヤの匂い···  え? ほんとだ? 俺、認めてんのか? モリヤから出るって⁉ そんな、非現実的なこと··· だって、アレは、人が発するような、そんな程度の匂いでは····ない、のだ····。

ククク、と、もう一度モリヤは笑った。

「小川が認めようが認めまいが、どちらでもいいけどね。」

···だろうね。

「けど匂いが無くなったのは、小川のせい。だから責任は取ってもらうよ。」

責任て。俺のせいじゃないって。

「小川はどうしてトカゲが怖いの?」

「う⁉」

「イモリもヤモリも怖い?」

「··い、いや···。トカゲだけ···」

「へえ⁉ どうして?」

ええ〰〰〰·· 嫌がらせタイムに、すでに突入してんな···

「どうして? 噛まれたことがあるとか?」

「い、いや。し···しっぽ切るのが気持ち悪い···。」

「へえ? そうなの。ふ~ん。」

ニヤニヤしてるモリヤを見て俺は怖くなる。

「····まさか、この辺トカゲ出るとか言わないよな?」

アハハハ、とモリヤは楽しそうに笑った。

「いるんじゃない? 草も木も豊富だからね。」

ええ?? 嫌だ···。モリヤとトカゲのセットは、ほんとにごめんだ。

「けど、このごろ目撃はしてないなァ。残念。ふふふ。明日は見られるかもね。だって、川辺だろ。山ん中じゃないの? 楽しみだね。」

····やめてくれよ。ほんと、遭遇したくないんだから···。明日の心配まで今はしたくない。今はとりあえず、今日のこと! 今日これから! どうやってここを脱出するかだ。絶対、絶対に、泊まりは回避!!

どうしよう。どうしたら───。

  ① 匂いを戻す。  ····· これは無理。モリヤが明日に戻ってる可能性は薄いって言っ

               てんだから。

  ② 怒り(いかり)を収める。  ····· どうやって? 匂いが出切ってしまったのは、俺のせい。

                だから怒ってる。うわあ、①に戻る、だ。

でも、なんか嬉しがらせて楽しがらせたら、もういいよ、許すよ、

今日は帰れよ、って····なら··ないかな·····

必死で俺が考えていると

「どうしたら許されるかなって考えてる? それとも、どうやって逃げ出そうかって考えてるのかな?」

「·····」

逃げ出していいなら、逃げ出すけどな。そこはかとなく無理そう···。ダッシュで扉に向かったら、いきなりバン!と扉が閉まったり···しそう···。オカルト信じるタイプでもないんだが いや、信じるも信じないも、あきらかにモリヤはオカルト。

あと、この場を逃げ切ったとしても、明日が、より恐怖。ことは、俺だけに納まらず、あの2人に及ぶかもしれない。それは、なんとしても避けなければならない。もう、そう、それは、俺の使命でアル。

「許される方法があるのか?」

なんで俺が許しを乞わねばならないのか。とりあえず、そこは置いておく。

「水本を喜ばせる術を教えてくれたら、許してあげてもいい。」

「あ? そんなの、明日キャンプに行ったら、それで大喜びだよ。」

「それはそうだろう。でも、匂いがあったら、水本は(プラス)α(アルファ)で喜ぶ。匂いに匹敵する(プラス)α(アルファ)を教えて。」

ぬ??

「思い付かなきゃ、小川の泊まりは確定。今夜は嫌がらせ祭りだよ。楽しみだね。」

何がだ!! 回避だ! 絶対カイヒ!! 

水本を喜ばせるプラスアルファ〰〰〰?? なんだ? 何かないか?

「今夜、何しようかなァ。あ! そうだ! 小川は以前、水本仕様で泊まりたそうだったよね。今日はそうする? アカリ無しで泊まってみる? 食事はもちろん口に運んでやろう。トイレも風呂も、付き添ってやるよ。もちろんアカリは無しで。それは水本にもしたことないけど、予行演習だと思えばかまわないよね。もちろん一緒に寝てやろう。夜中(よなか)トイレに行きたくなったら困るからね。」

おっそろしいセリフを一気に吐いて、モリヤはにっこり微笑んだ。最上級の嫌がらせにっこり。俺は大袈裟でなく、背筋が寒くなった。

「今夜、2人で初めて体験するあれこれを、明日水本や湧井サンに教えてあげようね。2人はどんな顔するかなァ。」

嫌がらせテンションがすごい···。これ、高揚してるわけではないんだろうか···。たんに嫌がらせが、楽しいのか? モリヤが繰り出すセリフの全てが、俺には恐怖。(プラス)α(アルファ)を、なんとしても考え出さねば!! あっっ

「モリヤ!」

「ん?」

「そんな、そんな話を水本にしたら、それこそ喜ぶどころか、がっかりするぞ!」

「がっかり? どうして?」

「え···と····」

あ、これダメなやつ。〝嫉妬するから〞なんて言ったら、モリヤを又喜ばせてしまう···。がっかりするからやめておこう、の方向にもっていけない···。

「今夜ぼくと小川がどう過ごしたかを話すと、水本ががっかりするの? 何に?」

「··い、や···」

「ああそうか! 小川はエッチなことをしようと考えているんだな。前に小川は言ってたものね。」

「! エッチなことしようなんて言った覚えはない!」

断じて!!

「アハハ。違うよ。そういうことを、ぼくが小川としたら、水本が傷つくだろうって言ってたねって。絶対にしてはいけないことだと、とても真剣に言ったことを覚えているよ。」

···ああ···。モリヤん家に泊まった時だな···。くー··· 俺たちって、こんな話ばっかりしてんだな。

「小川とエッチ予行をしたら、水本ががっかりしたり傷付いたりするのだということが、ぼくには今もよく分からない。けど、湧井サンはとても怒るだろうな、ということは、ぼくにも分かるよ。小川もそう思うだろう?」

エッチ予行? また変な言葉を···

「思わない? 怒らない?」

「···思う。きっと怒る。」

「うん。だって小川は嫌だって言ってるんだものね。小川の嫌がることをしたぼくを、とても怒ると思うな。それはさすがに、ぼくにも分かるが。でもね小川」

言って、モリヤが微笑する。

「小川が嫌がってなかったら、湧井サンは怒らないかな。」

「は?」

「それはどうなのかなァ。嫌がってなくても、怒る? それとも、そういうことをする小川を見ると傷付くの? それか、小川が嫌がっていようがなかろうが、ぼくという存在がキライだから、どちらにしろ怒るだろうか。分からないことが多いなァ。教えて、小川?」

ああ···混乱!! モリヤは何を言ってるんだ? 俺が嫌がってようが嫌がってなかろうが、湧井以外のやつと(それは男でも女でも)エッチなことなんかしたら、その時点でアウトだよ! それこそ、お別れの時だよ! しかしだいたい

「だいたい、嫌がってないということは、あり得ないから! モリヤの質問はおかしいよ。」

「今はそうだよ。」

モリヤはにっこり。

「今はって··?」

又怖いこと言い出しそう···

「今は嫌がっているよ。でも今から、夜になって朝が来るまで過ごしている内に、嫌がっていない時が来ないとは言い切れない。そうだろう?」

「言い切れるにきまってるだろ⁉ 俺は! そんな気は一切ないから!!」

「だから今はね。それは、性的魅力を感じてないから。けれど、今から明日の朝までに、ぼくに小川が言うところの色気がやってきたら、どうする?」

「──────!!」

色気の存在を忘れていた···! いやまて、

「そ、そんなことが、あるのか···? 分かるのか?」

「分からないよ。でも分からないから、ないかもしれないが、あるかもしれないよね。」

ぞ···っとした。

もしも この前のような、息もつまるほどの、ものすごい色気がやってきたらどうしよう。おまけに日が暮れてきて、家の中が暗くなって、モリヤはアカリもくれなくて、泊まらなければならなくて─────   小さなアカリも無いトイレ、風呂····  ────────────俺、ダメかもしれない。まだ明るいのに、目の前が真っ暗になる気がした。

「その気になってきた?」

不意に俺の手にモリヤが触った。俺の目の前は一瞬、真っ暗から真っ白へ。なんで! いつ移動した⁉ 俺は必死に手を振り払う。払えたのは、モリヤが離してくれたから。まだまだ嫌がらせは序盤ってことだ···!

「なるわけない! 触るな!!」

ふふふふ と、モリヤは俺のすぐ目の前で笑っている。

「小川はおもしろいなァ。今はぼくがキライだから触れられると怒るだろ。ぼくの色気が出てぼくに性的魅力を感じている時は、自分がエッチな行動に出てしまうのが怖くて、触れられると怒るだろ。小川が触れても怒らないタイミングって、いつかなァ。」

にっこり俺の目を見て笑う。ア、次のセリフ分かったぞ。

「どうでもいいけど。」

2人同時に。ハモった。

「アハハハハ。言う前に次の言葉が分かるなんて、以心伝心? それとも、小川の愛の深さ?」

····しんどい。マジ無理。なんとか抜け出さなくては。

「今、何時だろう。」

とにかく話をそらして、嫌がらせ発動を食い止めつつ、(プラス)α(アルファ)つまり〝水本が喜ぶこと〞を考えるのだ!

「何時だと思う?」

何言ったって、嫌がらせは止まらんのだがな···。と思いつつ

「この家は、時計はあるのか?」

「必要ないから。」

「なんで⁉」

絶対要るだろう! テレビもラジオも無いんだから、時間を知る術がない。

「時間はだいたい分かるから。何分何秒まで知る必要はないし。」

「···だいたいって····」

俺は···分からない。時計が無ければ時間なんて、ほんと分からない。暗くなったら夜、ぐらいの感覚しか···。今だって···。どれくらいか前にモリヤが、とっくに昼を過ぎたと言った。だから昼は過ぎていて、まだ明るいから、もちろん日も暮れていない。けれども今が2時なのか、それとも4時にもなっているのか、全く分からない。普段だって、え?もうこんな時間? って、しょっちゅうある。ましてやここは森の家。この中の時間の流れがおかしいのか、それとも森の家での俺の感覚が、いつもよりもさらに時間の進み方を麻痺させるのか。

「だいたい分かる。小川は分からないんだね。今、何時だと思う? 当ててごらん。」

なんか、むっしょうに腹が立つが。話をそらす目的ではあったが、時間を知りたいのもホント。夜が近付く前に帰らないと。

「····3時ごろ?」

「もっと長く2人きりの時間を味わっていたいという、希望的観測かな? 嬉しいけどハズレ。今、5時スギだよ。」

「えっ⁉? うそだろ!!」

アハハハハ! とモリヤは大きく笑った。

「ウソはつかないってば。真夏は日が長いよね。」

5時まわってんのか!! やばい!!

「ああ小川はほんとに、もっと早いと思っていたのか。嬉しいなあ。楽しい時間は早く過ぎてしまうってことだろ。」

ちっが〰〰〰うっっ!! ああ、また心臓のドキドキが大きくなってしまった。驚いたりすると〝心臓に悪い〞ってよく言うけど、本当なんだな。ドキドキしすぎると、絶対悪いって気がするよ。

5時を過ぎているとなると、かなりヤバい。いくら日が長いといったって、もう二時間もすれば暗くなるだろう。暗く···· ───怖い···。考えろ! 水本が喜ぶこと! 考えろ 考えろ! ────────ああ!! 思い付いた!!

「プレゼントだ!!」

「え?」

モリヤがキョトンとして、

「プレゼント? ああ、この時間が? 2人きりのこの楽しい時間が、神様からのプレゼントだと? 小川って意外にロマンチストなんだなァ。」

にっこりとそんなことを言う。 

「違う! そうじゃなくて!」

「ちなみに。質問メモに〝神様を信じるか?〞って、あったね。小川は信じてるんだ?」

いやだから··· ああもう!! なんか俺は、あえぎあえぎ言葉を発するみたいに

「そんな、そんなことを、言ってるんじゃなくて、い、いいから聞け、モリヤ、プレゼントだ、プラスアルファは!」

「プラスアルファ。水本を喜ばせるもの? プレゼントねぇ? 残念ながらぼくは、あげたことも貰ったこともないから、何をプレゼントすればよいのか分からない。何をプレゼントすれば水本が喜ぶのか、教えて。」

「え、え──···」

なんだろう··· 水本··· なんでも喜んではくれそうだが···。 しかしモリヤ···· 又、苦しくなるようなことをサラッと言い放ったのでは···

「小川なら何をあげる?」

「····」

「思い付かないの?」

思い付かないな! 俺だって高校入ってから、誰かにプレゼントなんてしたっけか? 姪の誕生祝いぐらい···  あっと、湧井の誕生日はしたぞ! 去年! 付き合って、そう経ってなかった。湧井が、もうすぐ誕生日なんだって教えてくれたから。何が欲しいって聞いたら、恥ずかしそうに笑って〝実はもう考えてるんだ〞って言った。正直少しあせったんだ。貯金とか全然してない。わずかな小遣いも、すぐに使ってしまう。ドキドキしながら、湧井の次の言葉を待った。

───バラの花が欲しいんだけど。

おおっと! バラの花束! ドラマやマンガであるやつか? 赤いバラ100本⁉ 100本とは言わないか··· けど、10本···ぐらいかな···。女子はやっぱりそういうのに、憧れんのかな··· などと考えていたら

───花屋さんに一緒に行くというデート込みで。あのね、ドライフラワーにしたいんだ。だいぶ長くもって嬉しいから···。でもやっぱり生花が好きなので、合わせて2本···いい?

2本!! 2本でいいのか···! 俺はもちろん、いいと答える。バラがいくら高くたって、2本ぐらいなんとかなるだろう。

───白っぽくて、フチがピンクのが可愛いんだ。一緒に花屋巡りしてくれる?

俺はこの時も、湧井超いい!と思ったのだった。

「ニヤニヤして。いやらしいこと考えてるね?」

そういうモリヤもニヤニヤしてる。

「いやらしいことなんか考えるもんか!」

しまった。そんなこと思い出してる場合ではなかった。つい現実逃避···。

えーとだな···。水本が喜ぶプレゼント····  水本って何が好きなんだろ。──────────うわ···· なんかショック。〝モリヤ〞しか思い浮かばないなんて···!! いやいやいやいや、他にもあるだろ! えー うー··· 歌! そう、歌が好き! ···けど、プレゼントには··· ならないか···。モリヤは歌わなさそうだもんな···。

「いいよ」

と言って、又モリヤが手に触れてきた。

「は⁉ 何⁉」

言いながら、手を振り払おうとするけれど、今度はギュッと掴んで離してくれない。

「思い付かないんだろう? いいよ、そんなに必死に考え込まなくても。小川が泊まればいいだけ。ね?」

ね、じゃない!!!

「離せ! なんでいちいち触る⁉」

「聞くまでもない。」

笑いながら言う。

「小川が嫌がるからだ。」

そりゃそうか。嫌がらせ祭りだった····   

モリヤは俺の目の前に座っていて、俺の手をぎゅうと握っている。全然はずせそうにない。ああでも、こんだけ盛大に嫌がらせしてきていたら、きっとモリヤの内なるもの、コントロール不能の何かは、どんどん外に出ていっているに違いない。もういっそ俺が諦めて、このまま明日の朝になったら、安全モリヤが出来上がるんじゃないか? 楽しい飯盒炊爨ができるんじゃないか? なんかもう、心がクタクタになってきて、そんなことを考えてしまった。

「あ、小川」

俺の手を握ったままのモリヤが、さらに ついっと近付いて声を出した。なんだと言う気力もなくなってきた。しかし、なんとかちょっとでも身を反らしてモリヤを見ると

「色気がくるかも。」

「!!!」

俺は命がけで手を振り回した。モリヤの手がゆるんだ。のがさず俺は、後ろへすっ飛んだ。恐怖にそまってモリヤを睨むと、モリヤは一瞬目を丸くして、それから笑った。

「冗談だよ。色気に関しては、自分では出てることも分からないことが多い。もうすぐ出るとか、予想できないよ。」

こ···の、やろう·····!!! 冗談じゃないだろ! 冗談じゃなくて、思いっきり嫌がらせだろ!!

あ──もう、やっぱムリ! 絶対ムリ! このままここにいるなんて···!!   たすけてくれ·····

家の奥から、一際強い風が通った。俺の目の端で何かが、ひるがえる。

「!!!!!」

神さま!! 水本さま!!!

本気で泣きそうになった! 見つけた!!!

「モリヤ!」

「うん?」

俺は立ち上がってモリヤの横を抜け、かもいに近付くと、ハンガーを勢いよく取ってモリヤにつき出した。モリヤは目を見開いて、それと俺を見る。それは、水本の忘れていったタオル!

「これ! これを明日水本に渡してやれ!」

「うん? 明日返すの? 水本、自分で持ってきてるんじゃないのかな。」

「いいんだ! これだ! 明日一番にだ! 水本は、死ぬほど喜ぶだろう!」

「うん? ···あ、匂いがついてるのか···」

「ばかみたいに強く香ってたんだ! めちゃめちゃ匂いついてるだろ!」

「····なるほど。」

モリヤはちょっと、タオルに顔を近付けた。

「なるほどね。」

と、もう一度言う。

(プラス)α(アルファ)か。確かに喜ぶかも。」

「だろっ?!!」

目の前に立つ俺を見上げて、モリヤがうっすら笑った。

「こういうところがなァ···」

「···なんだよ?」

「なんかキライ。」

「はあっ⁉」

「せっかく嫌がらせ祭りで盛り上がろうと思ってたのに、小川ときたら」

盛り上がられてたまるかっ。

「肩すかし感がすごい。でもこのタオルは、確かに水本は喜ぶかもと思って、その楽しみは、小川の肩すかしを補ってあまりある。怒るに怒れない。」

そう言ってモリヤは、にっこり笑った。

「どうもありがとう。」

はあっっ??  心の中、ぐっちゃぐちゃにされてんのは、この俺だよ!! ────────疲れた。真夏のマラソン大会みたいだ。

「か、帰るぞ?」

やっぱりドキドキして、俺は言う。たのむぞ、絶対YESと言ってくれ···!!

「約束だからね。」

と、モリヤは笑った。

「嫌がらせ祭りは、又の機会に。」

「又なんかないっ!!」

俺はカバンをつかんだ。そしてハッとした。少し、家の中が薄暗くなっている。あぶね〰〰っ!! ギリギリ!!

俺は靴を履きながら、手が震えているのに気が付いた。どんだけ怖がってんだよ、俺! でもしょうがない。怖かったんだから! ほんとに怖かった。良かった! 帰れて良かった!!!

靴を履いた俺は振り返り、

「じゃあな」

と言った。モリヤはタオルを大事そうに持ったまま、こちらを見ていて

「ああ。じゃあね。」

と言った。

「明日、8時だぞ。」

そう言いおいて、俺は森の家を出た。

出た。脱出!! やっと出た!! ほっとしすぎて、マジで涙出るかと思った。日はかたむいてきているが、まだ暗くはない。森の家は、外より一足早く、暗くなるようだ。ああ怖い。おっそろしく心、消耗した····。早く帰って寝なければ! 明日のために!! 歩き出した途端、ググーッとすごい音がした。腹の虫だ! そうか!! 俺は自分に驚く。朝、食べたきり、何も食べてなかった。なのに、腹へったとさえ思わなかった。ほんとモリヤの威力、すごいよ。痩せたい時は、モリヤに会うといい。モリヤダイエットだ。·····ああ、笑えない···。

長い一日でした。

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