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ウワサのモリヤ  作者: コトサワ
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キャンプ前々日対策会議 (小川くん側 その18)

対策は大事。

水本は買い物に大きいリュックを持ってきていたが、それがパンパンにふくれた。半分俺が持って家まで送ろうと提案したけれど、水本は、これで歩くのに慣れておく どうしても無理なら当日は少し減らして持っていくからって、そう言った。

そんな話を、スーパーのイートインコーナーでジュースを飲みながらしていた。喉がカラカラになっていたから。

その時に水本が、モリヤの家に行った時の話をした。言いたかったんだと嬉しそうに。

「匂いはなかったんだけど、とても楽しかったよ。絶対報告しようと思ってたんだ。小川くんと湧井さんに。モリヤ、全然怖くなかった。すごく穏やかで優しかった。へへへ。」

水本は笑って

「だから何も心配いらないよ。」

と言った。

「そんなこと言ったって、俺は次回一緒に行くからな。」

俺は厳しい表情で言う。

「うん? うん。雨が降ったらだね。連絡するよ。」

水本はにっこり言った。

楽しかった 怖くなかった 穏やかだった 優しかった。─────うそつけ! そんなわけあるか!! ·····いや。ウソではないんだな。水本には本当なんだ。 雨じゃなくて 昼間で 暗くない森の家。それは、雨で 夜で 真っ暗な森の家よりかは、全く全然マシなのではあるが···。

ここからは、空が見える。外側の壁がガラス張りだからだ。晴れて青い空が見える。

「水本」

水本は、にっこり笑っている。俺は真面目な顔で言った。

「明日は、晴れそうだな。」

水本は「うん」と言って笑って

「あさっても、晴れるといいね!」

と嬉しそうに言った。


帰宅するとすぐに、まるで見ていたかのように電話が鳴った。

『おかえり!』

湧井だった。

「お? なんだ? 見てたのか?」

湧井はハハハと笑って

『そう。ストーカー湧井だよ。ふふ。ウソウソ。何度か電話してた。今つながったから、おかえり。』

「そうか。それはお待たせ。」

湧井は又、アハハと笑った。

『水本とのデートは楽しかった?』

「ああ。楽しかったな。けっこう買ってしまった。」

『へぇ? お肉?』

「肉も買ったが、どうもメインは野菜っぽいな。モリヤが喜ぶと思ったんだろう。」

『ふ~ん。野菜かァ。モリヤ、野菜好きなんだ?』

「うん。好きっていうか。食べる物は、ほぼ野菜みたいだぞ。」

『え⁉ モリヤって、ベジタリアンなの⁉』

「────いや···? ベジタリアン··か、どうかは知らないけど、楽だから、みたいなことを···。」

『らく? とは?』

「ほら、モリヤ、一人暮らしだろ。野菜なら(なま)で食べられるし、って言ってた。」

『·······』

「湧井?」

『···モリヤって、謎ね。』

「───うん···。そうだな。」

『───それで、さ、』

「ん?」

ほんの一瞬、湧井は黙って

『明日、行くんだよね?』

モリヤん家。

「ああ。行ってくる。」

そっかー···と湧井は、ため息をつくように言った。

『オセロ、持ってく?』

う~ん、と俺は考えて

「いや。今回特に、喋らなくては意味がないと思うから。オセロ無しで、とにかく会話に専念するよ。」

『···何、話す?』

「話題といやあ、水本のことしかないんだが。ただ···」

『···ただ?』

「いや、うん。他の話題も考えとくよ。」

『···私には、水本以外にモリヤの食い付く話題なんて分からないけど···。でも小川くんは、それこそすごく長く、何度もモリヤと話してるもの、思いつくよね···?』

話題···。水本以外で。····〝付き合う〞の定義とかに食い付いてきたな、確か。モリヤは人付き合いがなかった分、少々常識が欠落している。そういう、モリヤの知らないことを話せばいいのか···? なんだ? モリヤの知らないことって?

「う───ん···」

我知らず、唸っていた。

『悩む···?』

ああ、いかんいかん。湧井の心配気な声が。

「うーと、大丈夫大丈夫。なんか考えるよ。」

慌てて俺が言うと

『こっちから質問してみるってのは?』

と湧井が言った。

「質問?」

『そう。モリヤに聞きたいことを、どっさり考えていって質問攻めにするの。無視したりウソついたりは、しないんでしょ?』

「しない。···答えたくなかったら、答えないと言うだろうが。」

『小川くん、モリヤに聞きたいことある?』

「···そうだなァ。モリヤはナゾにみちてるから。」

『だよね? ナゾ人間だよね。それ全部、聞いてみようよ。』

「湧井は聞きたいことあるのか?」

『あるわ! まず、モリヤの怖いもの‼』

「お? 怖いもの?? う~~ん···」

『もしかして、知ってる?』

「いや? ないんじゃないかと思って。」

『怖いものない人なんて、いる??』

「アハハ 湧井は幽霊だろ。」

『うるさいな その通りだよ。小川くんは?』

「モリヤ。」

『! なるほど!!』

「モリヤ絶対、聞き返してくるだろうな。モリヤと答えるのは悔しいから、違う答えを用意しとこう。」

『他にある?』

モリヤの他に怖いもの? んー?? なんだろなー? 無いわけはないと思うんだが。

「あ」

『思い出した?』

思い出した、が···。これはちょっと、恥ずかしいか···?

『何? 高い所とか? ···じゃないか。この前ジェットコースター平気そうだったね。何?』

「う~ん··· 怖いっていうか··· 何しろ苦手。」

『勉強とか言わないでよ? ハハハ。』

「まあ、それはあるけどな。」

『んー? なんだろ。まさかの虫系?』

「近いな。」

『恥ずかしがらずに言っちゃいな。バカにしたりしないよー。』

明るい かわいい。

「トカゲだよ。」

『トカゲ?? うん? 爬虫類ってこと??』

「イヤ。トカゲ限定。」

『ワニ平気? なんで? 七色の背中が嫌とか?』

「七色の背中のがいるのか? じゃなくて···しっぽ切るだろ。」

『うん⁉』

「子どものころ、トカゲ見付けたから、しっぽを踏んでみた。」

『うん。』

「そしたら、しっぽを切って逃げていった。ほんとに切るんだ。知ってはいたけど実際見て、しかも残ったしっぽが動いたのを見て、なんかゾッとした。」

『ふ───ん。おもしろがる子も多いと思うけど、それぞれだね。』

「うん。そっからずっと苦手。あの映像を思い出してしまって。」

『へ──え。』

「でも、トカゲなんて最近は全く見かけないからなぁ。怖くても平気だな。」

『なるほどー。』

「湧井って、幽霊見えるのか?」

ふと思いついて聞いてみると

『やめてよ怖いこと言うの! 見えるわけないでしょ!』

「湧井は見えないのに怖いのか?」

『怖いでしょうよ? 私は怖いから見ないようにしてるよ。テレビの怖い話とか絶対聞かないし、心霊写真とかも絶対見ないんだ!』

アハハハと笑ってしまった。

『まさか小川くん、見えるタイプ?』

おそるおそるの声で湧井が聞く。

「いいや。見たことないな。俺は見えないから、あんまり怖くもないな。」

『う────ん。その感覚、羨ましい。』

あ、そうだ。これは言っておかねば。

「湧井」

『ん? あ、モリヤに話、戻そうか。質問、箇条書きにしていく?』

「その前に、天然水本の報告がある。」

『うん? 何?』

俺は、水本がモリヤの家に行った話をした。湧井は絶句。もちろん電話だから顔は見えないが、恐怖にひきつっているに違いない。

『─────ホントに何もなかったの?』

沈黙の後の湧井の声。

「モリヤは、穏やかで優しかったらしい。」

『そんなの、信用できないわよ!』

「まあな。水本の感覚は、そうとうあやしい。でも、雨でない昼間だし、高揚してなかったのかもな···。」

『高揚してようがしてまいが、モリヤは危険人物よ!』

「うん。でも、マシな時とヒドイ時は、確実にある。」

『マシだったと言える?』

「そこは絶対とは言えないが、少なくとも終業式の日よりかは、マシだったと思うよ。あの時は、さすがの水本もモリヤの異常に気付いたんだろ?」

『···不安定だって言ってたけど。』

「それがなかったんだから、マシだったんだろ。」

『·····』

湧井に言った自分の言葉から、もしかしたら、と想像してしまって俺は恐怖する。その日は、ホントにマシだったんだろう、と思う。けれど、水本に会ったことによって、高揚のスイッチ、入っちまったんじゃないか···と思ってしまって·····。ただでさえ、そんなことがなくてさえきっと、飯盒炊爨が近付いてくるということだけで、すでにモリヤの高揚は、MAXに向かってカウントダウンに入っていただろうに···。

「大丈夫だよ、湧井。」

つとめて明るく、俺は言う。恐怖を悟られないように。

「水本は曇りなく明るかった。ほんとに穏やかに過ごせたんだろう。」

『····水本って、意地悪されても気付かないんじゃないかって思うのよ···。』

────確かに···そういうとこ、あるよな。ただそれは、一種、強さでもある、と俺は思っている。実害があるものは、もちろん論外ではあるが。体に傷をつけるとかさ。

「もしも次の雨の時、モリヤの家で水本が意地悪をされたとしたらさ、俺が、それは意地悪なんだと水本に教えるよ。」

『モリヤが意地悪をしたら。』

「そう。」

見えるはずだし。俺がいたら、アカリは入れてくれるはず。だってモリヤは水本に、一人で来てアカリの無い暗闇で歌をうたってほしいとの言い訳を使って、俺の来訪を牽制してんだから。

『小川くんがいたら、二人きりの時のように行動しないかも、でしょ?』

考え考え、湧井が言う。

「うん。でも、水本だけの時と、俺だけの時とは全く違うと思うけど、水本がいて、そこに俺が加わっても、そう大差はないかもしれない。モリヤは俺のことなんか、さほど気にはしないよ。」

水本は気にするかもしれないが··· いや? 水本も気にしないか? 恋愛感情ゆえの行動との自覚が無いのだから。まあ、とりあえず。

「明日は水本はいないし、そっちの心配はしなくていいから。」

『うん····』

そうなんだ。水本がいなければ、とにかく心配はない。俺が怖いだけ。···うーん。ほんと、そう。俺が怖いだけだ。実害もないし、大きくは問題なし!

「よし! モリヤを質問攻めにしてこよう。質問考えてメモしていこう。」

『うん、考えよう! 愉快なのも考えとくと、もしかしたら楽しく過ごせるかも?』

「ははは。愉快な質問よろしく。」


長く電話していた。

二人でたくさん質問を考えた。明日この質問を、モリヤにぶつける!

モリヤと何度も会ううちに、言いそうなことも分かってきた。きっと、「そんなにぼくに興味があるの?」と笑うだろう。大丈夫、言っとけ。やることがあると、だいぶん気が楽になるのだ。楽···ってほどではないか···。でも、マシ! すごく、マシ!!

ガンバレ俺。なんとかモリヤの、ド高揚を収めるのだ。少しでも。なんとか···。

次回、いよいよ前日!

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