緊張緩和デート (小川くん側 その16)
デート中の2人の会話の中身といえば···
26日、天気予報では快晴! 降水確率は午前午後とも、なんと0%!
俺は湧井を映画に誘った。この前の誕生日の話で、大いに反省したのだ。モリヤがいくら怖くても、水本がいくら心配でも、湧井をないがしろにする理由にはならない。念願叶って恋人になれたのだ。大事にしなくっちゃ。そして湧井も 快諾してくれる嬉しさよ。
大事にすると言いながら、映画の演目に夏の定番、ホラーを提案してみたりして少し怒らせてみる。もちろん、ホントに観るのは別のもの。湧井が観たいものを聞いて、ソレにする。
ソレは、壮快なアクションもので、俺もすごく楽しめた。恋愛ものだったら、寝てしまわないか少し不安があったのだ。良かった。
この日は正にデート!で、映画の後はティータイムだ。ああ夏休みの恋人同志。いい。すごくいい。このところモリヤに振り回されすぎてたものだから、こんな幸せが身にしみる。ただ、どうしても2人の会話は、水本&モリヤの話になりがち···。それは、仕方ない。
「雨、降らないね。」
アイスレモンティーを飲みながら、湧井がにっこり言った。
「ああ。本日、確率0%。ちなみに明日の予報もハレ。」
「お~~。詳しいね、小川くん。」
嬉しそうに言う。
「夏休みの天気予報は、欠かさずチェックするぜ。」
自信満々、俺は言い切った。湧井はアハハと笑って
「小学生なら絵日記の天気欄、カンペキだね。アレ、まとめて書くと困るんだよねー。」
「オッ、湧井も宿題まとめて最終日にするタイプ?」
「いーえ。私は先にすませてしまいたいタイプ。よって絵日記はキライ。先にできないから。」
なんと! そんな優秀なやつが、ホントにいるんだね。俺なんか、絶対最終日に徹夜するタイプだ。けど今回は、なんと夏休み初日に、湧井とだいぶ進めてしまっている。この俺が! すごい快挙!
「水本は雨が降ってほしくてたまらないんだろうなァ···。」
湧井がため息と共に呟いた。そうだろうね。
「でも、モリヤん家へ行く時は、小川くんに連絡するようにって確約とったから! 笑って約束してくれたよ。だから雨の降った夜の次の日とか、朝から雨の日とかは、家にいてね。」
「分かってる。だから今日は晴天だろ。」
「うん。」
湧井はホッとしたように笑った。つくづく俺たちって水本のとりこだよな。俺はズズーっと、ソーダをストローで吸った。
「ねぇ小川くん」
湧井が俺の目をじっと見る。ストローをくわえたまま思わず見とれてしまう。きれいな目玉だなぁ···。
「小川くんは、」
言いよどむように湧井は言葉を切った。それから
「飯盒炊爨、楽しみ···?」
「ん?」
─────飯盒炊爨かァ···。俺が心の底から思っているのは、湧井と水本と3人で行きたい、ということだ。モリヤ抜きで。モリヤが入るだけで、何もかもが大きく変わってしまう。
「楽しみより緊張が勝ってるかなァ。」
「緊張かァ···。そうか。」
「湧井は?」
「私はね、」
湧井はレモンティーの残り少なくなったグラスを揺らした。氷がカラコロ音を立てる。
「ものすご──く、楽しみなのよ。」
「おっ? そうなのか?」
「うん。それはそれは楽しみなのよ。だって私、夏休みに友だちと飯盒炊爨するなんて、初めてなんだもの。バーベキューよ!! 家族以外としたことないよ。おまけに彼氏も一緒なんて。夢のような夏休みじゃない?」
オォォ···‼ 彼氏って俺のことだよな? 嬉しい。照れる。俺はウンウンと頷いた。
「小川くんは、楽しみに緊張が勝ってるって言ったでしょ?」
「ああ。」
「私はね、拮抗してるよ。」
「拮抗? 楽しみと緊張が?」
「楽しみと恐怖が。」
キョーフ!!!
「楽しみで楽しみで、持ち物を用意したり、着ていく服を考えたりしてるの。でもその気持ちに恐怖が、おおいかぶさってくるのよ。想像のモリヤが、ずっと水本に話しかけるの。話しかけて近付いて、触ろうとしたりするの。」
ぎょっとしてしまう。
「想像のモリヤが、すごくエッチで、すっごく怖いの。ねぇ小川くん、それって私が、すごくエッチなのかな。なんか、そっちも怖くなってきちゃって···。私がドスケベ女だから、そんな想像ばっかりしてしまうのかな。小川くん、引く?」
湧井は俺をうかがい見て、声を低めて聞いた。不安そうな湧井。俺は首を横に振る。
「そんなわけあるか。引くわけないし、湧井はドスケベなんかじゃない。ドスケベはモリヤだよ。」
湧井の眉が八の字になる。
「モリヤって、やっぱりドスケベなの? 本当にエッチなのかな。私は、モリヤはとてもエッチだと思っているけれど。」
まあ···。モリヤに限らず、高校生男子なんて、みんなドスケベと俺は思っているが。しかしモリヤのは、なんか特殊っていうか···。怖いんだよな。相手が水本ってのも大きいと思うんだが。
「···モリヤは、ドスケベだよ。たいへんエッチだ。そしてな、普通の高校生男子は、自分のエッチ加減を必死で隠すんだよ。当然だよな。ところがモリヤは」
「隠してない?」
「だからエッチが駄々漏れ。俺や湧井にも丸見え。湧井が心配して当然なんだよ。」
「···なんで隠さないんだろ。せめて隠してほしいよね。」
「·····うん。」
モリヤだからな。自分の本性を隠すのは、体裁だ。モリヤには、誰にも何も、取り繕おうって気は、一切ない。だからヤツは、アリノママに生きている。それは一種すごいことなのだが。 ····いや、まてよ。モリヤとて一応体裁は整えてんだろうか。だって高揚した時は、そりゃひどいもんな。あれを普段は、モリヤなりに隠してんのか。···いや? 隠してる訳じゃなくて····見せるまでもない、的な···? ────バカだな、俺。分かるもんか、モリヤの真理なんて。
「湧井」
俺は パチッと湧井の顔を見た。湧井も俺を見る。
「大丈夫。安心しろ。飯盒炊爨の日は、俺がいる。」
きっぱりと自信満々に言い切る。ここは、この態度でなければ。心は不安にかられているとしてもだ。
湧井は真面目に、じっと俺を見て、そして。
「そうだね。小川くんがいるもんね。そうだ。大丈夫だ。こんなに心強い味方がいるんだもの。」
そうして、ウンウンウンと頷いて
「よし! もう怖がらない。怖くないっ。楽しい夏休み。楽しい飯盒炊爨。ね!」
「うん。」
俺も頷いて、笑ってみせた。
がんばるよ。そして願わくば、どうぞモリヤの色気が、その日だけでも おさまっていてくれますように。できれば、前日も···。願わくば···。
高揚は··· おさまっている訳もない、と思うけど。だって、恐ろしいほど楽しみにしてた。夏休みの存在意義を疑っていたモリヤが、飯盒炊爨のせいで「無意味」を吹き飛ばして「楽しみ」に昇華したと言ったのだ。それほどに。
30日が近付くにつれ、モリヤはどんどん高揚していくに違いない。「高揚していたら」収めねば、と思っていた俺だが、今は「高揚が確信」に変わってしまっている。前日、29日、絶対高揚している。絶対MAXだ。いかん。笑顔がひきつりそうだ。ガンバレ俺。湧井を心配させるわけにはいかない。
「外で食うメシはうまいからなァ!」
〝嬉しそうに〞俺は言う。笑顔で湧井を見ると──────アア、ステキな笑顔だ。
「うん! そう! ほんと、おいしい! よかったァ! どんどん楽しみになってきたぞー」
なんて可愛いんだ! ありがとう湧井。俺の心の救いの女神さま。
29日までもう少し。




