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ウワサのモリヤ  作者: コトサワ
30/48

そんなわけで (小川くん側又々 その13)

夏休み初日は超真面目に!

『おっはよー!』

受話器の向こうから、能天気な声が聞こえる。この能天気さこそ、今の俺の最大の癒しだ。俺が おはよと答えると

『小川くんスマホ直してよー。連絡取りにくいよ。』

ぶつぶつ言う声。

『水本も持ってないし、もー、時代に逆行してるよね。夏休み中は困るんだなァ。』

「検討する。」

と俺が答えると、よろしくと返ってきた。ぶつぶつ言ってもかわいい声。

湧井との夏休みの計画を、完全に立て損ねている。飯盒炊爨に力入れてる場合じゃないよ。モリヤと約束してる場合じゃないし。

『今日遊ぼうよ。』

ニコニコ声が飛び込んでくる。もちろん快諾。

『何する? どこ行く?』

うきうきしている湧井の声が嬉しい。

「お化け屋敷とか。」

『喧嘩売ってんの?』

怒った声で言うのもかわいい。ハハハと思わず笑ってしまう。

「行きたいとこあるか? ああ! 水本誘いたい?」

湧井は水本が大好きだから。3人で遊びたいかなと思った。そしたら

『たまには2人で遊ぼうよ。なんてったって夏休み初日だよ?』

なんて、嬉しいことを言ってくれる。ああ、ちゃんと計画しとくんだった···! 夏休みと言えば? 海? プール? うわっ、いいなァ。行きたい。海だってモリヤとならば、あんなに怖いものが、湧井となら、超絶わくわくハッピープランだ。

「ど、どこ行くかな···。泳ぐ?」

つい声が上ずってしまう。

『お? 泳ぎたいの? プール···は、混んでるだろうなァ。初日だからね。それに···』

それに?

「何? 湧井もしかして泳げないのか?」

『泳げるよ! 遊びに行くんだから、別にたいして泳げなくても いいわけだし。』

「ん? じゃ、何?」

『···水着がなァ···。ちょっと恥ずかしい。今日はやめとこう。』

「えっ。」

『なんの驚きかな?』

へぇ··· 恥ずかしいんだ···

「いや··· ちょっと意外で。」

『又 失礼なことを。17の乙女に向かって! 恥じらいもありますよーだ。小川くんもエッチな目で見るだろうしさ。』

ハハハなんて笑ってる。

「バカ。そんな目で見ないよ。」

うそだけどな。見るに決まってんじゃないか。期待に胸ふくらむ思いだったぜ。

『健全にいこう。まだ夏休み初日だし。』

なんじゃそりゃ。中盤になったら、だんだん不健全になってっていいのか? なんてことは口にはしない。

『あ! 宿題やろうか! ど健全カップル!!』

うわ。すげえ案···。

「いいよ。俺は会えるんなら、なんでもいい。」

『あらら。いつになく甘いセリフ。どうしたどうした?』

甘い···セリフのつもりはなかった。赤面してしまう。電話だからバレない。湧井は、はしゃいでる感じで

『小川くん今、一人?』

と聞いた。夏休みが湧井をハイにさせてるんだな。湧井のハイは、いい! OK‼ かわいさアップ!

俺が一人だと答えると湧井は言った。

『じゃあ小川くんの家でする、宿題?』

湧井! それはプールより健全じゃないぞ!!

「いいよ。何時に来る?」

平然を装う。電話ナイス!! 10時に約束して電話を切った。今9時10分前。大慌てで顔を洗って、部屋をかたづける。やった! これぞ青春の夏休み! 高2の素晴らしき夏休み!! ·····というものなんだよ、モリヤ···。 俺は一瞬 手を止めて、それから掃除機を取りにいった。


ドキドキしながら、自分しかいないのに必死で平然を装って、無意味に水を飲んだりしながら ピンポン鳴るのを待った。

ピンポーン

ああ、いつもより美しい音に聞こえる。すっ飛んで玄関まで行って、一回止まって深呼吸してドアを開ける。

空色が目に飛び込んできた。空色のストライプのワンピース姿で湧井が立っていた。改めて、湧井はきれいだ。

「おはよ。」

にっと笑って湧井が言った。なんだか ドギマギしてしまう。どうぞ みたいなことをモゴモゴ言って、俺は台所の方へ進んだ。湧井はキョロキョロまわりを見回して、ふーんと言った。

「なんだ?」

「小川くんはここで毎日ごはんを食べてるんだね。と思って。」

もう一度、ふーんと言って湧井はにっこりしている。

「しゅ、宿題、ここででいいか? 俺の部屋は狭くって。」

湧井は俺を見て、いいよと笑った。

「でも 部屋見ていい? 見たい。」

「お、俺の部屋か? いいけど、なんもないぞ別に。」

「うん、いいの。見たいだけだから。」

俺は湧井を部屋に連れて行った。オオ! なんて言ってる。オオと言えるような部屋じゃないって。机とベッドがあるだけ。机に付いた本棚と。でもそれだけで、この部屋はいっぱいだ。2人宿題するスペースなんぞ、ない。

「ふーん」

ぐるぐる見回して、又湧井が言った。

「ここで毎日寝てんのかと思ってる? そしてあの机で毎日勉強してんのかァーっと?」

湧井が吹き出した。

「ハハハハ 小川くんが勉強してるとこなんて想像つかない。」

「なんだとー!」

ありがちなパターンだと、ここで2人ちょっともつれてベッドに倒れこみ、いいムードに··· 

もちろんそんな上手くいきっこないのだ。なので、

「もういいか」

と俺は言って、湧井を促した。湧井も、うんと言って部屋から出た。こんなもんだよなァ。いいムードにもっていきたきゃ、せめてベッドに座らないと! 立ったままでは何も起こりはしないのだ。

「思ったより、きれいだった。小川くんの部屋。もっと散らかってるかと思った。」

台所のテーブルについて、湧井は笑顔で話す。

「片付けたからな。あ、宿題取ってくる。」

俺は部屋にとって返して、宿題一式を持って台所に戻った。

「何からするー?」

宿題をしようってのに、湧井は楽しそうに言う。

「何でもいいや。みんなイヤ。」

俺は椅子を引いて座りながら言った。湧井はハハハと笑って

「では英語から。一番上にのってたので。」

「英語かァ···」

「超が付く真面目な私たちを、誰か褒めてくれないかなー」

なんて言いながら、湧井は宿題を始めた。

ドキドキしながら、もくもくと宿題。どんだけ真面目なんだよ? こんな高2カップルいねーよ。家に彼女呼んで2人っきりで、もくもくと宿題って···。 緊張と、ちょっと気まずさもあって、ただただ宿題を進めてしまう。

「あらやだ、終わっちゃった。」

驚いたような声を出した湧井を、目を上げて見た。

「早っ。俺、まだだ。」

「へっへっへっ あたしは英語、割に得意なんだー。数学は苦手。だから先、始めてるよ。」

「げ。まだやんの?」

「ん? やめる? おもしろげな遊びがある?」

「いや···」

おもしろげ··· とは⁉  う~ん··· 彼女家に呼んだ時って、みんな何すんだろ。

「···もうちょっとやるか。」

なんだか情けない気が、すごくしたけど、打破の仕方が分からなくて、結局宿題を続ける。

····情けない··· ものすごく、宿題 はかどってしまった。まさかの夏休み一日目で···。あんまり真面目に取り組んだもんで、気付くとすげぇ喉渇いてた。俺は静かにため息をついて立ち上がった。湧井がノートから顔を上げて俺を見る。

「喉渇かないか? なんか飲む?」

俺が聞くと、笑顔を返した。

「うん 飲む。嬉しい。」

よし。コーヒー牛乳にしよう。水本に入れてやったやつ。

テーブルに持っていくと、湧井が俺を見て言った。

「小川くんて、こんなことしてくれるんだ? へ───え?」

笑顔がかわいい。

「···コーヒーぐらい入れるさ。」

「へ───」

と湧井はもう一度言った。そして

「あ! 水本にもやったげた? もしかして?」

「あ、ああ。朝な、入れてやったよコーヒー牛乳。」

「そっかァ。」

ふ~~んと言いながら、湧井はグラスに口をつけた。

「やだ!」

と言った。しまった? なんかまずかったか? 俺は慌てて自分のグラスに、口をもっていった。直後

「すごく美味しい!」

と、怒ったような声が。

「えっ?」

湧井は、ゴクゴクゴクッと中身を飲んだ。

「う、うまいのか?」

「美味しい! すごくよ!」

湧井〰〰 リアクションがおかしいよ。ああびっくりした···! 良かった、と俺がホッとしていると

「あっ!」

と湧井が言った。又々どっきりしてしまい、

「どうした?」

と聞くと

「もうお昼過ぎてるね。ごはんどうしようか? 外に食べに行く?」

「あっ ほんとだ、もうそんな時間か···」

と気付いて、俺はちょっと考えてしまった。せっかく初めて湧井が家に来てくれたのに、宿題やっただけで、外行ってごはん食べて、ブラブラしてバイバイ? なんて、つまらん!! そして、なんて情けない俺···!!

「ちょっと···」

と、無意味な言葉を口にして、俺は炊飯器に寄って行ってフタを開けた。よし! ごはんは ある! 俺はくるりと振り向いて

「おにぎり作ろうか。」

と言った。湧井の顔が輝いた。

「うん! 作ろう!!」


ああ··· こんなにたいしたことないのに··· なんて楽しい···!! なんか青春···。感動してしまう。

2人でギャーギャー言いながら、おにぎりを握った。ただ海苔巻いただけのやつとか、ウインナー入ったやつとか。そして、こんなものがメチャメチャ美味しかった···!! 炊飯器の中のごはん、みんな食べてしまった。

「あー おなかいっぱい!」

テーブルの椅子に座った湧井が、大きくため息をついた。

「あー 美味しかった!」

言って、俺に笑顔を向ける。

「ね!」

「ああ。うまかったな。」

「あんまり満腹で、宿題する気なくなっちゃったね。」

なんて、わけの分からないことを湧井が言う。でも俺も、気分は同じ。それに

「あんだけやったら、充分じゃないか?」

湧井もハハハと笑って

「そうだね。」

と言った。

「まだ夏休み、初日だもんね。」

と。全くだ。初日なのに、すばらしいはかどり。

「そうだ! ごはん炊いとこうよ。炊飯器の中身みんな食べちゃって、お母さん帰ってきたら怒られるよ。」

湧井が立ち上がりながら言う。

「別にいいと思うぞ。」

と俺が言うのに

「会ったこともないのに、ひじょーしきな彼女だと思われるのは避けたい。」

なんて笑って湧井は流しの方に向かった。

「じゃあ洗い物もしとくか。」

たいして洗うものもでなかったけど、俺は皿やらコップやらを洗う。湧井は米を洗ってくれた。2人でそんな作業をするのも楽しい。新婚みたい、なんて思ってしまってちょっと赤面しそうになった。恥ずかし···。

「予約2 でいいかなぁ? 18時炊き上がりってやつ。」

炊飯器のボタンを押しながら、湧井が聞く。

「うん 多分。」

あいまいな返事。予約ボタンなんか、使ったことない。たまに電話でたのまれて〝炊飯〞のボタンを押すくらいのもんだ。湧井は、だよね とか言いながら、ピッと音を立ててボタンを押した。そして

「昨日ごめんね。」

と言った。

「うん? 何が?」

湧井は、予約2の小さい灯りのともった炊飯器を見つめて、真面目な顔で言葉を継いだ。

「モリヤと小川くん2人を残して帰っちゃって。」

「うん??」

何を···謝っているのか··分からない。

「えーと··· あそこで湧井が帰ったって、何も悪くないぞ?」

湧井は顔を上げて俺を見た。額に汗が浮かんでいる。クーラーついてるけど、動くと暑い。俺も首を汗が伝っていくのを感じた。

「暑いな。」

「うん。······。」

「どうした? なんか喋りたいことがある?」

もしかして今日来たのは、それかな? なんか話したいことがあったのか? ···水本のことで···。あああ。うきうきした俺は、ちょっとバカ。 まあいいか。俺なんか こんなもんだ。

たらたら汗が伝う。クーラーきいてる気がしない。

「湧井」

「うん」

「冷たいの、飲む?」

「今はいい。」

そうか。うん。さっき しこたま、麦茶を飲んだ。

「台所、クーラーききにくいんだ。部屋行って話そう。」

湧井は素直に付いてきた。俺の部屋のいいところ、それは、クーラーが激的にきく! なにせ、狭いからな。とりあえずガンガンにかける。すぐ涼しくなるので 温度調整。

えーと···

俺は湧井に机の椅子をすすめた。俺はベッドに座る。

「涼しい。」

「だろ。」

しばし沈黙。それからおもむろに、湧井が口を開いた。

「私ね」

「うん?」

「昨日のモリヤ、怖かったの。」

「·····」

「小川くん、高揚中のモリヤは怖い···って水本に言ってたよね?」

「言ったよ。」

「昨日 高揚中だったんだよね?」

「ああ、とても。」

「小川くんも怖かった?」

「···ああ、とても。」

「そうよね⁉」

湧井が力を入れて言った。

「そうよね! 怖いよね? 私だけじゃないよね?」

「ああ、そうだ。とても、とても怖いと俺は思うぞ。」

俺も初めは、モリヤを怖いと思ったことが恥ずかしくて、水本にも湧井にも隠そうとしていた。けどそれも途中で···どうでもよくなった。モリヤは怖い。それは強烈な事実だ。

「きのう、絶対怖かったよね⁉」

「絶対怖かった。」

「─────その、絶対とても怖いモリヤと2人きりにして、さっさと水本と行っちゃって、ごめんなさい。」

「····ああ···」

そんなこと··· 俺のことなんか、心配しなくていいのに。

「あの後、水本とはすぐ別れたのか?」

「ううん。お昼食べに行った。────水本は····怖くなかったんだって。」

「うん。だよな。」

「でも昨日は、いつもと少し違うとは感じたって言うの。だけどそれは、怖いって感じじゃなくて、水本はモリヤのこと···不安定で大丈夫かなって思ったって、そう言うのよ···。怖がってなくて、心配しているの。そして··· やっぱり私は、水本をモリヤに近付けたくない。───前に小川くんは、水本とモリヤは恋愛関係だから、阻止できないって、言ったよね。」

「言ったな。」

「私もできないと思う。───でも」

「···ほっとけないんだろ。」

「────そ、う····。」

湧井は視線を落とした。俺はため息をついた。湧井はそれに気付いて顔を上げた。おっと··· 叱られた子どものような表情をしている。俺はまっすぐに湧井の目を見て、言った。

「俺もだよ。」

「···え··」

「俺も、ほっとけない。もうしょうがないんだ。あの2人は恋仲なんだ。水本がどうなろうと、モリヤにどうされようと、それはあの2人の問題なんだから、俺の口出しすることではないんだと、どれだけ頭で考えても、」

俺は 又ため息をついてしまった。

「やっぱダメ。」

湧井は驚いたような顔をして、俺を見つめている。

「だから いいんじゃないかと思って。」

「えっ? いいって···?」

「俺は、できうる限り水本を···」

「···水本を?」

「···水本···が、怖い目に合わないように、やれることをやろうと思う。」

「···やれる···ことを···」

「ああ。もう、気のすむまでね。やるだけやったら、その結果どうなっても、諦めもつくんじゃないかと。」

「や、やるんだ···?」

「俺はやる。」

湧井が、とても、とても、嬉しそうな顔をした。

「ただな、湧井」

俺は真剣に続ける。

「湧井は極力かかわるな。」

「どうして。」

湧井も真面目な顔になって言った。当然聞くだろうな。

「決まってるだろ。怖いからだよ。俺は、自分が怖いのは大丈夫。だけど、湧井が怖い目に合うのは耐えられない。たのむから、俺に任せてくれないか。」

「半分嬉しい。」

「うん?」

「私のこと、思ってくれてるのは、すごく嬉しい。でも小川くん、私が、小川くんが怖い目に合うのは耐えられないとは、思わないの?」

「···う~~ん···。そこは、役割分担と考えてほしい。」

「役割分担?」

「そう。俺がモリヤを止める役。湧井は水本をフォローする役。」

「水本のフォロー?」

「そう。水本だってほっといたら、けっこう暴走するぞ。落ち込んだりもするしさ。そのフォローは湧井に任せるから」

「モリヤの方は小川くんに任せろと?」

「そうだ。」

湧井はじっと俺を見る。

「もちろん相談もするし、報告もするからさ。」

湧井はしばらく黙った。考えているよう。

「···やれることって、例えば?」

「例えば、───モリヤの高揚は、いっぱい喋ると少し落ち着くらしい。」

湧井は、うん? という顔をした。

「何度か俺、モリヤと2人だけで話をした。水本の話をする時モリヤは すごうくハイになって、それから少し収まる。」

「···高揚が収まった方が、水本への危険は薄らぐの?」

「ああ。モリヤが高揚した時怖いのは··怖いと感じるのは、モリヤ自身の感情のコントロールがきかなくなるからだよ。気持ちが暴走してしまって、ハドメがきかなくなるんだ。モリヤが自分で止めようと思っても止まらない。」

湧井がゴクンと唾をのんだ。

「それでもまだ高揚が弱段階なら、モリヤの理性が、自制心が、危ないからと自覚して、水本に近付くのをやめておこうとする。」

「そ··· そうなの?」

「そうなんだ。でも、高揚がマックスになってしまったら、それすら止められなくて、会いに行ってしまう。その先の予測すらつかない状態で。」

湧井が 固まるのを感じた。

「俺は、そこをなんとか阻止したい。実際、何度か成功している。」

「そっ、そうなの⁉」

湧井が同じ言葉を繰り返した。俺も同じく

「そうなんだ。」

俺は、湧井をじっと見て

「例えば昨日。」

と言った。

「きのう··· えーと··· どこ? どれ?」

湧井は、モリヤとのやりとりを思い返しているよう。

「湧井らが帰った後。」

「え··· あの後、話をしたの? モリヤと?」

「モリヤの家に行った。」

「ええっ⁉」

「俺は···あの 高揚状態のモリヤを、そのままにして帰ることができなくて。───だってモリヤは一人だ。家族もいない。近所に人もいない。電話もない。テレビすらない。気持ちの発散の出口がないんだ。思いだけが 積み重なっていく。夏休みの間中。そんな時、雨が降る。·····怖くないか?」

「──────怖いわ。とても。」

「だから、ちょっとでも吐き出させておけたらと思ってな。」

「吐き出せたの?」

「多分。」

「分かるの?」

「····完全には分からん。でもモリヤも昨日2人で喋った後、高揚は収まったと はっきり言ったし、俺の方が、きつくてグッタリすればするほど、多分モリヤの方は吐き出せてんじゃないかと、俺は思う。···まあ、こんだけきついんだから そうであってくれ、という希望的観測も混ざってはいるが。」

「·····」

「俺に、任せてくれるか?」

「····小川くん、大丈夫なの?」

「大丈夫だ!と、胸を張っては言えないが、まあ、なんとかな。モリヤも極悪人ではないようだし。」

「····私は、小川くんを信頼しているわ。」

「さんきゅ。俺も湧井を信頼してるよ。水本のことを任せられる。」

「···それは、分からないけど でもガンバル。」

「うん。」

俺は、今一度大きく息をついて、そして湧井に笑いかけた。

「じゃあ 俺もがんばるよ。明日もモリヤん家、行くんだ。」

「えっ⁉」

「昨日、約束した。行ってくる。」

「ど、どうして?」

水本みたいな、びっくりまなこ。微笑んでしまう。

「もちろん吐き出させるためだよ。もっとな。」

「そっか···。」

ふ────っと湧井も大きなため息をついた。それから俺を見て、晴れやかに笑った。

「小川くんて すごい。」

「うん?」

「すごいよ。私にはそんなこと、絶対できない。モリヤが吐き出せるのも、小川くんだからなんだね。良かった、小川くんがいてくれて。ありがとう。お願いします。」

なんて言って、かわいく笑っている。ほんとは、俺なんか全然すごくない。めちゃめちゃ怯えてるし、すぐ色香にやられるし、モリヤといると情けないこと この上ない。でも、湧井がそう言ってくれるんなら、やっぱり俺もがんばらねば。

不意に湧井が立ち上がって、俺の隣にトンと座った。と思うと、ギュッと俺の腕を両手で握って くっついた。

「小川くん大好き。」

小さい明晰な声でそう言った。

泣きそうなくらいドキドキしてしまった。何か考えるとためらってしまう。ためらう前に、キスをした。


夏休みだというのに 何で又俺は···と、つくづく。

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