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ウワサのモリヤ  作者: コトサワ
18/48

小川くんは恐怖する (小川くん側 その5)

こわいのは。

ピクニックと言えば = "楽しい" だろう。俺は絶対そう思う。

ところが モリヤをまじえて行ったピクニックは‥‥‥ 題名を付けてみろと言われたら絶対俺は "恐怖のピクニック" にする! 絶対だ! まさしくホラーだ。しかし水本は、どうもモリヤを怖がっていない。そこが、ナゾ。

尻を撫でられたり 指を舐められたりしたのに。そして その瞬間は、むしろ普通より驚いた反応をするのに。なんで すぐ受け入れる? それって、鈍感力ってやつなのか?? …それとも、やっぱり ホレてるからか…? 


水本はモリヤを絶対的に信頼しているし、モリヤが大大大好きだから、モリヤに気を遣っているように見える。ところがだ。残念なことに 水本は天然なのだ…。気の遣い方が なってない。

更に水本は多分、モリヤが水本のことを、(ひょっとすると 水本がモリヤを想う以上に) 好きなんだってことを、ちっとも、全く、分かっていないのだ。

だから、モリヤが嫉妬するということは、水本にとって思いもよらないことなのだ。で、当然水本は 俺や湧井に対して ()のまま、思うままに接するわけだ。元来 水本は好意を隠すことをしない。モリヤに対するものとは 想いの種類は違っていると俺は思っているが、水本は 俺や湧井のことも大好きなのだ。それを隠さない。モリヤは当然嫉妬する。それをモリヤは俺に言ってくる。いっそ隠してくれ。でも、言うのを含め、つまりモリヤは 嫉妬したら、それを俺に嫌がらせの形で返してくるのだ。その嫌がらせが 怖い…。

俺は 本当に心配になってしまう。水本は 大丈夫なのか…?

水本がモリヤを好きになるまで、俺はモリヤのことなんか 全く知らなかった。もちろん 存在は知っていたが、その中身 その性格 その本質…。全く、全く知らなかった。

あまりに水本が心配だったので 話をしに行った。話をすればするほど モリヤを知れば知るほど、怖さは増していく。モリヤはヤバい。

ほんとにヤバいんだ。なのに 更に怖いことに湧井が… 水本を心配するあまり、モリヤに関わっていってしまう。水本を守ろうとして、2人の邪魔をする形をとったりする。ただでさえモリヤは 湧井にも嫉妬しているというのに あからさまに水本に近づくのを邪魔された日には…。

救いは 今のところ、モリヤは湧井に嫉妬した分も 俺への嫌がらせで気をすませていることだ。まだまし。湧井に嫌がらせされるよりも。モリヤの嫌がらせは 独特で恐ろしいのだ。

「小川くん」

俺は びくうとなってしまった。湧井がすぐ横に来ていた。モリヤのことを考えすぎて 気付かなかった。

「‥‥どうしたの? ボンヤリして。」

「おー… いや… なんでもない。水本は帰ったのか?」

「帰った… というか モリヤの家に行ったよ。」

「…そうか。しょうがないな。」

「‥‥付いて行きたかったな。」

「湧井。」

分かるけど。気持ちはすごく分かるけど。

「これから先 ずっと2人の邪魔をし続けるわけには いかないだろ?」

「それはムリだけど。でも小川くんたって、ピクニックで感じたはずだわ。」

「…何を。」

実は 怖いのは、とっくに知ってたんだが。

「モリヤは やらしい!」

「え‼」

「超ドすけべじゃない! そして性格が悪いわ。」

わお。

「えーと… いや、湧井…」

「思ったでしょ? 水本が鈍感すぎるのよ。絶対 家でエッチなことされてるよ。偶然を装おって とか。事故に見せかけて とか。いやだ。やめてほしい。」

「‥‥‥」

うん。絶対やってる。ただ 多分、あのピクニックの時ぐらいまでのレベル。それぐらいまでで 耐えてるはず。‥‥多分、だけど。

「もう、絶対にムリな時はムリじゃない。水本がいいなら 良しとするしかないって分かってるわ。でも 私が止められるところは ギリまで止めたいのよ。だって嫌なんだもの。」

「‥‥‥」

「あんなかわいい水本が、モリヤみたいなのの毒牙にかかるなんて…!」

毒牙ときたか。うーん。言い得て妙だな…。

「今度水本が モリヤの家に行く時、一緒に行っちゃいけないかな。」

「‥‥モリヤ、嫌がると思う。」

「でも ピクニックは一緒に行ったよね。楽しかったって。」

「多分あれは… 俺が企画したろ。元々 あんな予定はなかったんだ。何もないより 余計なのが付いてきてても、水本と会える方がいい という考えじゃないのかな。」

「水本とだけ 遊びたかったと?」

「ほんとのところはね。ただ水本が、俺らがいて楽しいと言うから 良しとしただけじゃないかと、俺は思うよ。」

「まあ… 私には全く、興味も関心もないわね。でも 小川くんとは仲良くしてたじゃない?」

「‥‥‥」

仲良く…というようなもんじゃない。モリヤは俺に嫌がらせして、ストレス解消してただけのことだ。

「結構長いこと… 何を話してたの?」

「‥‥‥」

「水本のこと?」

「‥‥なんの話をしたかな…」

「覚えてないの?」

「湧井は 水本と何の話したか覚えてる?」

「うん⁉ えーと… 砂山掘ってる時は もっぱら砂山の話よね。」

「砂山の話とは?」

「砂がサラサラだねとか どうして下の方の砂は湿ってるんだろうとか マキ貝見つけたとか…。」

「見たまんまを口にしてるな。ほんとに小学生みたいだ。」

「ハハハ。そうね。水本は子どもみたい。あとは せっかく海に来たんだから、泳ぎたかったねとか 湧井さんは泳げるの?とか。」

ここで又湧井は ハハハと笑った。

「水本、犬かきで25mいけるらしいよ。」

いいなあ~~。なんてかわいい会話なんだ、この2人…。うん‥。よかった。やっぱり良かった。グーチョキの結果、正解。モリヤは 水本とも湧井とも、組まなくて正解だったんだ。俺だけ怖い目にあってりゃいいんだ。うん。

「で? モリヤとは どんな話を?」

おっと 話が戻ってしまった。

「ん──…? ああ、キャンプの話をしたかな…。」

「行こうって話?」

「いや。モリヤはキャンプしたことないから どんな風だみたいな…。」

「キャンプ… モリヤ、中学の時 1回も行ってないのかな。"他人と一緒に寝るなんて御免だから"って言ったよね。私あの時、ちょっとモリヤが怖いなと思った。」

「‥‥‥」

「中学生が、"他人と寝るのが御免だ"って理由で 学校行事休む? ──‥もしかして修学旅行休んだのも、同じ理由かしら。」

「‥‥かもな。」

「どうしてそんなに他人と寝たくないの? どうして‥‥水本とは寝たいの?」

「そっ… それは‥‥」

それは、(ゼロ)と100だからだ…。モリヤは 恐ろしいほどハッキリした性格なのだ。

「…やっぱりキャンプ、泊まりにしない?」

「えっ‼」

湧井は 真面目な顔で、俺の顔をじっと見た。冗談ではないらしい。

「だめだ。」

「モリヤと水本を 2人テントにしなければいいじゃない。4人一緒に寝ようよ。」

「‼ だめ‼」

「なぜよ?」

「湧井こそ なんで泊まりにこだわる? 日帰りでいいじゃないか。それなら水本も泊まらないんだから。」

「‥‥いずれ 泊まってしまうわ。」

「え…」

「すでに2度も水本は モリヤに誘われているのよ。遅くなったから泊まれって。その時水本が泊まらずに帰ったのは、単に 家の人に言ってなかったからよ。もし水本が "今日は泊まるかも"って、家の人に言って出てきててごらんなさいよ。泊まらない理由はないわ。水本は ほんの少しもモリヤに エッチなことされるかもなんて、思っちゃいないんだもの。」

とっても真剣な目で湧井は俺に訴える。

「…湧井 矛盾してる。そんなに心配なら、キャンプで泊まりはだめだろう。」

「2人きりで泊まるより先に みんなで泊まって、モリヤの行動を確認しときたいのよ。」

「確認て…」

「私は眠らないわ。夜じゅう起きてて、モリヤが少しでも変なそぶりをしたら 現行犯で押さえるわ。そして水本に言いつける‼ 事実を認識させる。モリヤはこんなにスケベなんだって!」

「‥‥湧井…」

「そしたら 水本の気持ちも少しは変わるかも。少なくとも、モリヤがすけべで やらしいことばっかり考えてるって分かれば、少しは自分で注意もするでしょう。」

「湧井…」

「だって‼ だって水本は あんなに小学生みたいに無邪気に、モリヤのことが大好きなのに 酷すぎる! 私はアレを思い出したわ。源氏物語の若むらさき。」

「な… なんだよ‥ 源氏物語??」

又 文学の話なのか?

「大学生ぐらいの光源氏が、中学生ぐらいの紫の上と関係を持つのよ。」

「は⁉」

「有名な話よ。結局 夫婦になるの。お互い、好きは好きだったの。でも相手は、エッチなことなんか まるで考えてない子どもなのよ。私はやっぱり 酷いと思うわ。」

「‥‥‥‥」

光源氏ときたか…。

「湧井」

「何」

「学校出よう。」

「まだ話は終わってないよ。」

「分かってる。場所を変えようって意味。ちょっと腹へった。なんか食べながら話そうぜ。」

「‥‥いいわ。」

俺たちは学校を出た。湧井が パフェが食べたいなんて言うから、パフェのある店に入ることにする。なんか腹に入れた方がいい。少し落ち着いた方がいい。どうも、すごく興奮してしまっているから。

ほんとに水本のことが心配なんだな、湧井。けど ムチャ言いすぎ。現行犯て…。モリヤがエッチな行動をおこすところだろ? そこを見てるって… おさえるって… バカ言うなよ。怖すぎるよ…。自分で 何言ってるか、絶対分かってないんだから。


湧井が選んだ店に入った。フルーツパフェを注文している。俺は エビピラフにした。

「まず 食べようね。」

なんて言って 湧井はパフェをペロリとたいらげた。ハハハ。その方がいい。どうだ? 落ち着いたか?

「でも キャンプの前に、水本が泊まってしまったら 元も子もないわね。」

う… だめか? パフェで頭冷えなかったか?

「やっぱり今度水本がモリヤん家行く時、付いて行こうよ?」

「入れてくれないと思うぞ。」

「ダメもとで。」

「…モリヤは 水本が家に来てくれるのが、死ぬほど嬉しいらしいぞ。邪魔されたくないに決まってる。」

「じゃあ 入れてくれなかったら、外で待ってるっていうのは?」

「2人が見えなきゃ意味ないんじゃないのか?」

「牽制にはなるかも。」

「‥‥水本がモリヤん家に行く時は、まずどしゃ降りだぞ? どしゃ降りの中 ずーっと外で待ってんのか?」

「うーん… それはちょっとイヤだなァ。」

ちょっとどころか。俺はメチャメチャイヤ。

「湧井。」

「うん?」

「水本とモリヤは、恋愛関係だと思っているんだろう?」

「‥‥でしょうね。」

「阻止できないよ。止められない。そんな権利も俺らにはないよ。」

「分かってるもん。だけど嫌なんだ!」

俺は そっとため息をついた。分かるよ。分かるけど…。

「だって水本、絶対泣くわ…!」

そう言う湧井の目が、涙でにじんでいた。

「~~~~分かった、こうしよう。」

俺は湧井の目を見つめて言った。

「次の雨の時、俺が付いて行く。」

湧井は 涙でにじんだ目を、いっぱいに見開いた。

「けど 家に入れてくれる確率は低いと思っている。水本は、モリヤがいいならいいと言うだろう。でも、モリヤが嫌だと言ったら 家には(はい)れない。分かるな?」

湧井はうなずく。

「精一杯、俺に言えるだけのことは言って、頼み込んでみる。でも、嫌がっているモリヤを説得する力は俺にはない。そこは、俺には分かっている。モリヤの意志はダイヤモンドだ。」

湧井は俺をじ──っと見る。

「‥‥確率は、(ゼロ)ではないのね?」

(ゼロ)ではない。(ゼロ)に近いかもしれないが。」

「それでも行ってくれるのね。」

「行くのは行く。」

「私は行かない方がいいのね?」

「行かない方がいいな。」

「分かった。私は行かない。小川くん、よろしくお願いします。」

「うん。」

なんとか 納得してくれた。しかし。

実は 俺は とても怖いのだった。俺のこの行動が、とても怖い。予測できないモリヤの対応が、とても、怖い─────。


帰り際に湧井が 水本の家に電話してみると言った。本気だったんだな。

「まだ帰ってないだろう?」

俺は言ったが 湧井は一応、と言ってかけた。

「あ‼ 水本⁉」

え⁉ いたのか??

「そう! 帰ってたんだ? うん。良かった。ふうん。そうなんだ? うん。うん。分かった。じゃあ明日ね。バイバイ。」

電話を切って 湧井は俺を振り向いた。満面の笑み。

「こんな早く帰ってた‼ モリヤ元気だったんだって。明日は来るって 、水本言ってた。」

「そうか。良かったな。」

「うん。ホントに良かった! 今日はブジだっんだ。眠らされなかった。いつもこんな風なら、心配しなくてすむのになァ。」

ほんとだよな。俺たち えらい振り回されてるもんなァ。

「アレかなあ、娘を心配する母親の気持ちって、こんななのかなあ。」

湧井は 真面目な顔で、そんなことを呟いている。いやいや湧井、いろいろ間違ってるぞ‥‥。



次の日は 雨は降らなかった。俺は胸をなでおろした。雨が降ることが こんなに怖いなんて、生まれて初めてだ。運動会だって遠足だって、降りませんようにと願いはしたけれど、降ったら怖いから降るな と祈る気持ちにまでは、もちろんなったことはない。高校生にもなって 雨が怖いとは‥‥。

その日 ホッとしつつ学校へ行ったんだが、一歩教室に入るなり 足が、震えた。

モリヤが来ている。ただ来ているだけなら震えたりしない。教室中が 異様な空気に包まれているのだ。全員が モリヤを見ている。顔を向けてないやつも いるにはいたが、あきらかにモリヤの方を気にしているのが分かる。みんながモリヤを見ている中、モリヤだけが 俺を見た。

目が、合う。モリヤが 笑う。空気が揺れた。

「おはよう 小川。」

教室中が ビクッとしたようになって そして 全員が、俺を振り向いた。こ、わ‥‥

俺は 返事せずに 自分の席に向かった。

なに これ‥‥?

ぞっとするほどの色気がモリヤから出て、教室に渦巻いている。あ、と思って 俺は一瞬足を止めた。匂う。モリヤの、いい方の匂いが漂っている。俺はでも モリヤの方は見ず、再び歩き出して席についた。俺の席は窓際だ。暑いから 窓は開いている。でも全く風がない。まるで窓が閉まっているように 風が通らない。モリヤの匂いが渦巻いている気がする。色気と一緒に‥‥。

隣の教室に逃げたい。でも「モリヤ来たぞ。色気が…」と、もう言えないほどの異常な色気。どうするんだ どうなってるんだ一体…⁉

「小川」

ザッと 総毛立った。モリヤが、俺の机の横に立っていた。

「おはよう。」

と言う。クラス中が注目している。声もなく…。

「‥‥‥」

くす、とモリヤが笑った。思わずモリヤを見てしまう。

「小川はどうして無視するの?」

笑顔でそんなことを言ってくる。

「おまえこそ なんだ。」

モリヤは うん?と首をかしげる。怖い。色気が怖い。ドッキンドッキン心臓が音を立てる。

「なんでそんな色気を出してんだよ? …昨日なんかあったのか?」

くすくすモリヤが笑う。うわあ‥‥やめろ… 色気が笑いとともにこぼれてくる。もうやばい。周りのやつらが我を忘れそう…。

「なんかって何? 昨日? 水本と?」

くすくす くすくす笑っている。だから やめろってば…。

「小川まで そんなこと言うの?」

「み、水本と、なんて言ってない…!」

「ふ──ん…」

モリヤは笑っている。俺たちの会話は、教室中に響き渡っている。小さい声で話しているというのに…。

「もう まるでコントロールできなくてねえ。」

楽しそうにモリヤは言う。コントロール? 何をだ?

「だから昨日は休んだんだけど、休むと水本が家に来てしまうんだよね…。」

嬉しそう… 超上機嫌。

「それはそれで やばくって。」

やばそうじゃない、嬉しそう…‼

「だから今日は来てしまった。だから今日のぼくには 自制がきかないんだ。小川、フォローしてくれる?」

「フォロー?」

って何? なんの⁉

「なんて。小川にはムリかな。」

笑ってる。…ほんとに 今日のモリヤは…。感情のコントロールがきいてないみたいだ。みんなの前で こんなに喋ってること自体が珍しすぎる。色気も垂れ流し。‥‥休んだ方が 良かったんじゃないのか??

「ああ、一つ確認しておくけれど」

「な、なんだよ?」

「ポイントは その日限りじゃないからね。」

「え⁉」

「使わない限り 1日経とうが 1年経とうが、有効だから。」

やめてくれ~~~

予鈴が鳴った! 良かった‼

怖い。怖すぎるよ。

今日モリヤを 水本や湧井に会わせたくない。ところが今日は、体育がある… 水泳の授業があるのだ。水本は この教室に着替えに来る。水泳はもちろん、一緒に授業を受ける‥‥‥。

水泳は 3、4時間目。1時間目も2時間目も、ずっとドキドキが止まらない‥‥。教室内は、もうずっと異様な雰囲気。先生たちも この異様なムードを感じているみたいだが、さすがにモリヤの色気を指摘する教師はいなかった。どころか、モリヤに優しい感じになってる。なんなんだよ、ほんとに。

そしてついに 2時間目が終わる。来てしまう。水本が‥‥。俺は2時間目の授業が終わった途端、ぶっ飛んで廊下に出た。

うわ 来た。バカ なんにも知らないで。そんな嬉しそうに────。

「水本!」

「あ、小川くん オハヨー。」

俺は水本の腕を グイとつかんで、ちょっとでもモリヤの席から遠い 前の扉の方へ連れていった。

「どうしたの? モリヤ来てるよね?」

無邪気に聞いてくる。

「来てるけど 今日は口をきくんじゃない。」

「⁉ どうして⁉」

水本は口をポカンと開けて、びっくりまなこで俺を見る。

「いいから。」

俺は水本を体で庇うようにして教室に入った。教室内は未だ 変なムードのまま。水本が教室に入った途端、波のように空気が揺れた。体で庇ってるのに、水本は首を伸ばしてモリヤを探す。

「水本! 黙ってこっちに来い!」

言ってるのに 当然すぐにモリヤを見付けて

「モリヤ! おはよう!」

と声をかける。水本~~~。おまえは ここまでの色気も感じないというのか??

「おはよう 水本。」

答えてモリヤがこっちへ来る! よせ! 来るな‼ 教室内が 声なく騒然とする。声が出ていないのに、騒然とした雰囲気が分かる。

「体調どう?」

俺は水本の腕をつかんだまま。モリヤはじっと その手を見て、でもにっこりと

「とても良いよ。良すぎるなあ。雨でもないのに。」

「そうなの? 大丈夫?」

「水泳で良かった。水に入るとスッキリしそう。」

「そう。良かった。」

水本も笑顔。モリヤは ちらっと俺を見て、片手を広げた。まさかのポイント5~~⁉ 

それでも俺は、水本の腕を離せない。モリヤは

「さあ 着替えよう。」

と言って 自分の席に戻っていった。

恐ろしい現象が起こる。少し遠巻きに モリヤの回りに人垣ができるのだ。ほぼ全員。

モリヤが ふっと周りを見て、笑った。うわ。くらっとなってるやつがいる。

「今から着替えるんだから 全員でこっちを見るのは、やめてくれないかな。」

笑って言う。ガタガタッと椅子や机にぶつかる音が、あちこちでした。ふらついてやがるんだ。色香にやられて。それでもまだ大半が ポーッとモリヤを見ていると

「たのむよ あっち向いて。恥ずかしいから。」

‥‥転んだやつがいる。赤くなって、ようやくモリヤから顔をそむけて みんな着替え出した。

何 このいやらしい教室…。嫌だ。早く出たい。ハッとして水本を見ると、水本はモリヤの色香に ポーッとしてるのではなく、ただただ この変な現象に驚いて、茫然としている風だった。

「早く着替えろ。プールへ行くぞ。」

俺は水本をせかして着替えさせ、モリヤを気にする水本の腕をとって 強引にプールへ連れていった。

授業が始まると、もうモリヤはいつものように 口をきかず、ただ一心不乱に泳いでいた。色気も封印されているように見えた。周りのやつらも まだまだ気にはなりながらも、幾分ホッとしたように泳いでいた。

ところが授業終わり、モリヤがシャワーの下に立って、それからシャワーの下を通り過ぎて一歩出た途端、モリヤの方を見ていたわけでもない奴らまで、思わず振り返るほどの恐ろしい色香が─────。

体育の先生すら動きを止めてしまって、ぼーっとモリヤに見とれていた。

俺と水本は、モリヤより先にシャワーの下を通り過ぎていた。何ごとかと 俺らも立ち止まってしまっていたんだが、俺はもう 必死で気を取り直し、水本をぐいぐい引っぱった。

「小川くん」

校舎の階段を登りながら 水本が口を開いた。俺は立ち止まりも振り向きもせずに、水本の腕を引っぱって階段を登り続ける。

「待って 小川くん、どうしたの?」

どうもこうも。

「小川くん 痛い。」

俺は ハッとして、ようやく水本を振り返った。水本はハーハー言っていた。泳ぎまくった後に すごい早足でここまで来たのだ。俺も息が上がっていた。自分がつかんでいる水本の腕を見た。我知らず、ものすごく力が入っていたようだ。手を離すと、少し赤くなっていた。モリヤのこと 責められない。

「わ、悪い…」

「どうしたの? オレ、ちょっとモリヤに…」

「だめだ‼」

俺は再び 水本の腕をつかんだ。

「お、小川くん…」

「と、とにかく帰るんだ教室に。モリヤはほっといても帰ってくる。急ぎの用事でもあるのか。」

「ううん… ただ… 匂いが…」

匂い⁉

「戻ってないかなあと思って… それを確かめたくて…」

俺は首を横に振った。

「今はやめとけ。行くぞ。」

力加減を少し気にして 俺は又腕を引っぱっていった。

水本は着替えながら

「なんか 今日みんな変だよね。小川くんも変だし。」

「‥‥‥」

「モリヤ どうかしたのかなァ…」

ちょうどそう言った時、来た、異様なムードのかたまりが。見なくても 空気で感じてしまう。

取り巻きを引き連れて モリヤが教室に入ってきた。モリヤの姿が見えにくいほど 囲まれている。俺は思わず水本を見た。水本は モリヤの方を熱心に見ていたが

「やっぱり 戻ってない。」

と がっかりしたように言った。

匂いだろ。うん。戻ってない。俺にも分かる。今 教室に、もう一つの方の匂いが 充満している。すげーいい匂い、と俺も思う。でも 水本は、とてもガッカリしているんだ。

そして 色気も、全く感じていない。一体なんでなんだろう? いや、アレに吸い寄せられていくよりはいいか。あんなにモリヤが大好きなのに、プラス色気なんか感じてしまったら、さあ落ちろ どうとでもなれ と言ってるようなものだ。‥‥‥怖い‥‥ 良かった 感じてなくて。特殊な感性で。

俺たちは着替え終わったが、水本はモリヤの方を見て動こうとしない。

「み、水本、昼メシ食いにいこう。ホラ、昼休憩のチャイムだ。」

俺は弁当をつかんで 水本を促した。

「うん‥‥‥ あ‼ もしかして モリヤ色っぽいの?」

今気付いたのか。水本が俺に聞く。

「いつもの比じゃない。さあ行くぞ。」

「う…」

水本はモリヤの方を見ているが、人垣で姿は見えない。俺は又 水本の腕をとって教室を出た。

ああ 廊下、さわやか! もう 教室内の異様な空気に耐えられない。俺は水本を引っぱって 隣の教室に飛び込んだ。

水泳は男女別々に授業があるので、今日の女子は教室での授業だったようだ。湧井はキチンと制服を着て 教科書を片付けていたが、俺たちに気付いて こっちへ来た。

「…なんか、すごいことになってるそうね。」

俺のクラスの女子に聞いたんだろう、湧井がそう言った。俺は ああと頷いて、水本の席に椅子を持ってきて座った。水本は まだ茫然としている。

「メシ食うぞ、水本。」

俺が言うと、ようやく席に座った。湧井が聞く。

「モリヤ そんなにすごいの?」

「ああ。もう尋常じゃない。女子もそう言ってた?」

「抱かれたい とか言ってたわ。」

「ええっ⁉」

水本はびっくりしすぎて たいへんだな。

「そ、そ、そんなに… ええ…??」

「どうしてそんなことになってるんだろう。モリヤ どうしちゃったの?」

湧井が真面目な顔で呟いた。どうしちゃったのかなんて分かるもんか…。

「昨日は… どうだったの? なんともなかったのよね?」

湧井が水本に聞く。

「‥‥なんとも。いつもとおんなじだった…と、オレは思った。でも…分からない。オレはやっぱり 不感症なんだ…。」

「なんだろうなァ…。特殊な成長期で フェロモンが壮絶に出てるとか…。」

特殊すぎて 俺らには計り知れない。

「色気も度を越すと からかいの対象にもならなくなるんだな…。」

新発見だ。もう モリヤから目が離せないってところか。

「‥‥度を 越してるんだ‥‥?」

茫然とした感じで 水本が呟く。そうとうショックを受けている。

怖い空気が 押し寄せた。

ギョッとして俺は扉の方を見る。モリヤが教室に入って来た。取り巻きは律儀に扉の前で止まる。こっちのクラスのやつらが ハラハラとモリヤに吸い寄せられた。

「こわい…」

小さい声で 湧井が呟いた。水本は不安気な顔でモリヤを見ている。モリヤはもちろん、まっすぐこちらへ向かってくる。水本の前で止まる。

「水本」

にっこり名を呼ぶ。吸い寄せられてるやつらなんか、自分の名前を呼ばれようものなら 手を取ってひざまずいたり 抱きしめたりしてしまいそう。でも もちろん水本はそんなことにはならない。色気を感じてないからな。

「な… なに‥‥」

「今日 一緒に帰らない?」

「ダメ!‼」

水本が答える前に 湧井。俺が先に止めるべきだった…! モリヤが湧井を見る。笑う…。湧井は 必死でモリヤを睨む。

「どうして?」

目つきも 声も かしげる首も 全てが色っぽい。

「わっ 私が先に約束したわ!」

水本が湧井を見た。してないもんな…。

「だからダメ‼ モリヤは他の人と帰って!」

「水本も そうしたい?」

水本でなきゃ即答だ。モリヤと帰ると。でも水本は う、となってしまって 返事できない。

「ぼくと 湧井サンと どっちと帰りたい?」

完全に コントロール機能が崩壊している。海のピクニックでの わざと意地悪しているのとも違う。もう あふれてしまって 止まらないのだ。

「オ、オレ…」

湧井が水本の手を ぎゅっと握った。水本は驚いて 湧井の顔を見る。でも湧井は、モリヤを必死で睨んでいる。モリヤは ふわりと笑った。

「手を握るなんて ずるいなァ。」

湧井は 手を握ったまま、体を水本の前に。

「ずるいって何よ? 今日は私のが先なんだから! 水本を困らせないで!」

「ふう────ん」

モリヤは 笑いを浮かべている。

「じゃあ 6。」

「は?」

湧井の は?には返事せず、モリヤは俺を見た…! ろく⁉ ポイントか??

「では小川が、ぼくと一緒に帰って。」

「え!⁉」

俺は思わず 湧井を見た。湧井は、まだ必死でモリヤを睨み付けている。

「どう? 小川ならいい? 湧井サン」

言われて湧井は 俺を見た。もう、目が必死。俺は 湧井を見て、とにかくウンウンと頷いた。OKしろと。

「分かった。どうぞ。」

…どうぞかよ~~ 俺が頷いたんだけどさ。

「じゃあ それでいいや。小川、2人だけで話 しようね。」

"うらやましい" が、沸点に達したようなオーラが 周りのみんなから噴き出している。おそろしい…

「では 水本は又今度。」

「う、う、うん… ご、ごめん」

「謝らなくていいから‼」

湧井はあくまで 水本をモリヤから隠すようにして言った。やめとけ 湧井。勇気ありすぎ。

ふっとモリヤは笑いをもらしてくるりと振り向き、教室から出て行った。ふらふらと 取り巻きも従う。

しばらく 口もきけず、教室内は しんとしていた。

そして湧井が ふう~っと、大きなため息をついた。そうして 手を握りしめたままの水本を振り返り

「水本 邪魔してごめん! でも取り消せない。今日はダメ。私と帰ろう。ね?」

「…う、う、」

なんと言っていいか分からないようすで 水本は俺を見た。俺は水本に頷いてみせた。

「そうしろ。今日のモリヤは普通じゃない。」

「…普通じゃないって どういうこと? …色気?」

「色気も全く異常だが、精神状態もおかしい。完全に自制心をなくしてる。何言い出すか分からん。」

「えっ⁉ ほんとう? そんなこと分かるの⁉」

逆になぜ分からない? あきらかに いつものモリヤじゃないだろう。モリヤのこと、誰よりもよく知ってるくせに。大好きなくせに。なぜ分からない?

「小川くん… 大丈夫?」

湧井が 心配気に俺の顔を見た。

「お? ああ…」

「何言い出すか分からないんでしょ…?」

「まあな…。今日のモリヤに計算はない。指名されたのも単なる…」

「単なる、何?」

「ん、いや? 誰でも良かったんだろう。」

「ごめんね。嫌だったら 最後まで付き合うことないよ。途中で一人で帰ってね。」

「うん。」

ポイント6かァ…。躊躇なく全てぶつけてきそうだな、今日のモリヤは…。本気で怖い。けど… やっぱり湧井に向けられるよりは随分とマシだし、水本も 今日はまずいと思う。だってモリヤ、あんなに自制がきいてないんだ。タガがはずれている。本能のまま動きそうで 怖すぎる。

予鈴が鳴った。ああ 隣へ帰りたくない。あの変な空気の充満する教室に 入りたくない…。


俺のクラス やっぱり空気(おも)…。そして すっげえ いい匂い‥‥。どんどん いい匂いに思えてきた。やばい。ウツボカズラだ‥‥。

5時間目は古典。6時間目は数学。異様にモリヤが目立つから、どっちの時間も しょっちゅう指された。先生も相当惑わされている。そして、答えられなくても 対応が超優しいのだ。こんな優しい対応は 初めて見たというぐらい…。

ああ 6時間目が終わってしまう。数学終わるな と思ったことも初めてだ。長引け たのむ。しかし予想通り。そう思っている時に限って、早く終わってしまうものなのだ。マーフィーの法則…。

ついに終礼。俺は思いっきりのろのろと帰る用意をした。しかし当たり前だが、帰り支度なんて たかがしれてる。スイ とモリヤが俺の目の前に立った。

「さあ 帰ろうか。」

なんだか 豪華な笑顔を浮かべている。もう正に 嫌がらせする気満々。別れ道までだ。駅への途中。そこまで我慢すりゃいいはず‼ ところがモリヤは

「紫陽花を見に行こうか。」

なんて、ことを言うのだ。

「‥‥‥」

「水本と帰ることができなかった傷心のぼくに、付き合ってくれるんだろう小川が?」

勢いよく色気をあふれさせている。たまらんいい匂いがする。

うっとりモリヤを取り囲んでいた奴らの一人が、勇気を振り絞ったような声を発した。

「おれも一緒に帰ってはいけないだろうか。」

オオ… というざわめきが起こる。勇気に敬服ってところだ。

「今日は 小川と2人っきりで帰りたいんだ悪いけど。ごめんね。」

そんな、とんでもございません といった風情で勇者は引き下がった。色っぽい言葉をかけてもらっただけで幸せ…みたいな。もっと食い下がってくれよ。一緒に行こうぜ。2人っきりはイヤだ。

しかし当然それ以外の奴らは とてもじゃないけど誘ったりできない。ダメ元で来いよ。意気地なし!

「では小川 行くよ。」

にっこりモリヤが俺に言う。何をされるんだろうと思うぐらいの色っぽさ。取り巻きたちも 諦めたように、付いて来なかった。付いて来いよ! 来るならここだろうよ⁉ いやだ 怖い 何が傷心のぼくだ。誰がだ。


「ああ残念。紫陽花も 終わってるね。」

おそろしい色っぽさでモリヤが言う。2人で この前と同じベンチに座っていた。

「あ、ああ、そうだな…」

花の散るのは あっという間だ。まだ咲いている所もあるんだろうが、ここのはもう 花も終わり。

「花を見に来たんだろう? 終わってたんだから帰ろうぜ。」

うふふとモリヤが笑う。怖い‥‥。

「せっかくだから 話をしようよ。ねえ、水本は本当に湧井サンと帰る約束をしていたの?」

「もっ もちろんだ! あっちの方が早かったんだから、やむを得んよな。」

「ほんとかなァ? 水本、驚いたような顔してたけど。」

「ほんとだ。間違いない。」

「へーえ? でも湧井さんは酷いよね。」

「なっ 何が⁉」

ほら湧井~ ムチャするから…

ヒッと声が出そうになった。モリヤが俺の手を握ってきたのだ。

「水本に こんなことするなんて酷すぎる。」

そう言いながら にっこり笑っている。笑っているのに力が強くて 手を離せない。

「ぼくか湧井サンか、どっちかを選べって言ってる時にだよ? 手を握るなんてねえ…?」

覗き込むように 俺を見る。手をギュッと握ったまま…。ドッキンドッキン心臓が鳴る。もう 怖さでか、色気のせいか何か、分からない。確かなのは今現在、嫌がらせ発動中ってことだ。

「…手、手を 離せよ…」

変な汗が いっぱい出てくる。暑い。離せと言っても モリヤの手は、1ミリも緩む気配もない。

「どうして?」

しらじらしく 驚いたような顔をして俺を見る。そうして俺の手を持ったままの自分の手を 膝に置いた。

離せ~~ たのむ 離してくれ~~

モリヤは空を見上げている。

「せっかくの梅雨なのに、こんなに雨が降らないとはねえ‥‥。」

何を言っても 色気がコトバと一緒に口からこぼれ落ちる。

「このまま梅雨明け宣言出ちゃうんじゃない? いやだなァ…。」

空を見上げながら 色気とコトバを同時にこぼす。

「つ、つ、つゆが明けちゃあ いけないのか?」

何か喋らないと ドキドキで頭真っ白になりそう。モリヤは俺を振り向いた。にっこりと、色っぽく。だめだ… 喋っても黙っても地獄‥‥。

「だって 雨が降ると、水本が家に来てくれるんだよ?」

だよな。そうだよな。それが超嬉しいんだよな、モリヤは。

モリヤは視線を自分の、というか俺の手を握っている手元に移した。じいっと手を見て ふと力を緩めた。慌てて俺が、手を引っ込めようとしたら スルリと恋人つなぎに変えてきた…! 俺は目を見開いて モリヤを凝視してしまう。これでポイントいくつまで減ってるんだろう…。もう勘弁してほしい。

「小川は手が大きいんだね。」

手を じいっと見ながら、モリヤがコトバをこぼす。

「この手で、すぐ自然に水本の腕をつかむんだ。ぼくなんか 少しでも触れる時は、すごく緊張するというのに。」

そんなこと考えてたのか…。妬いてるのは知ってたけど。チラッとモリヤが俺の顔を見た。

「とても悔しい。」

色っぽくそう言う。たのむから やめてくれ…。これは… 家に 2人きりの時間を邪魔しになぞ行った日には、どんなことになるか…。怖くて想像もつかない。

「ちょ、ちょっと聞きたいんだが。」

俺が必死で言うと、モリヤは 何、と色っぽい目で見る。

「どどどうして雨の日に水本を家に呼ぶんだ?」

「えっ?」

驚いた表情を作ってる。なんかわざとらしくて怖いよ。

「それを聞く? 知りたいんだ? ほんとに?」

目を ぱしぱししばたたいて、モリヤが言った。しばたたく目からも色気が‥‥ 俺 生きて帰れるだろうか…。

「言うなれば」

今度はまばたきを止めて じ────っと俺の目を見てモリヤが話し出す。

「雨の日のぼくの精神状態は 今の状態に似ている。とても高揚してしまっていて、とても制御がききにくい。」

えええぇぇ??? そんな状態で 夜まで2人っきりでいるっていうのか⁉ 

「だ、だから なんでそんな時に水本を家に‥‥」

「ショック療法」

「は⁉」

「なんてね。」

つないでいる手をふわっと開いて 小指から順に握り直してくる。すごいよ 分かったから モリヤの嫌がらせの的確さは…。けれども これは、ナカナカ解放してもらえそうもない。えーい それなら聞いてやる。

「モリヤ」

「んー?」

目で舐めるように俺の顔を覗き込むのはやめてくれ…。

「なんだって 今のモリヤは そんなに色っぽいんだ? 自分で理由が分かっているのか?」

モリヤはくすくす笑い出す。ぞっとするほど色っぽい。手は握られているし なんだか 笑い声とともに香りが立つ気がした。いい匂いが俺の周りを囲むように舞い立つ。

「ねえ。」

モリヤが口をひらく。

「色っぽいって どういうの?」

「え‥‥」

「小川には ぼくはどう見えているの?」

どう‥‥

「かわいいとかキレイとか格好いいとかステキ というのとは違うんだろう?」

「そ‥‥」

「具体的に 教えて?」

「そ、それは、つまり…」

「つまり?」

と言ってモリヤは スイッと俺に寄ってきた。逃げられない。

「つ、つつつまり… 色っぽいっていうのは せっ」

モリヤの肩とか腕とかが 俺に触れている。もちろん手のひらもだけど。恋人つなぎされてんだから。なんだよこれは…

「モッ モリヤはっ」

あーっ 我慢できないっ

「モリヤは他人に興味がないんだろう⁉ こんなことして平気なのか? 嫌じゃないのか⁉」

クッと モリヤが笑う。全く動じず。

「だっておもしろいもの。」

おもしろい⁉

「思うに、」

俺にくっついたまま モリヤが言う。

「他のやつだったら こんなこと絶対しない。だって喜ぶだろ?」

分かってんの? 分かってんのか‼ そう。絶対喜ぶ! 喜ぶ…というか もう自分を見失うやつとか、いそう。

「だけど小川は ちゃんと嫌がらせを嫌がらせとして受け取ってくれるから。ははは。予想以上に嫌がる。それは とても楽しい。」

S‼ どエス‼

「で? 色っぽいっていうのは 何?」

くっ。戻すんだな。ごまかされてくれないんだな。

「‥‥色っぽいってのは …性的魅力があるってことだろ…」

「へ───────え… 性的魅力‥‥‥」

笑ってる。離れてくれ たのむ‼

「小川も 色っぽいって思うってことは、ぼくに性的魅力を感じるってことなんだ? ふう~~~~~ん…?」

…笑うな… 俺を見るな。 心臓がドッキンドッキン打って 死にそう…

「小川は 湧井サンが好きなのに、そんなこと感じるんだ? もっと具体的に言うと 何? 抱きたいとか そういうこと?」

だあっ‼!

俺はモリヤを突き飛ばそうとした。けど 手を… 手をしっかり握られてて どうにもならない。助けてくれ~~~

「ハイ」

本当にふいに モリヤが手を離した。心の声が聞こえたのか?? 

モリヤは ツと離れて座り直し、俺を見て笑った。

「6ポイント消化。良かったね。」

ああ‥‥ ふわあっと いい匂いが立つ。もうマジ色香に迷いそう。いっそ押し倒してくれたら楽になるかもしれない なんて 俺はなんてことを考えるんだ… 取り消しっ‼ 超取り消しっっ‼!

くそう。離れてくれたというのに すごい匂い。水本がいつも言ってる、いい匂いがする状況って、こんな感じなのか? 匂いは違えど‥‥‥

とてつもなくいい匂いにまかれて しばらく俺は茫然としてしまっていた。

「ほんとに小川はおもしろいね。」

モリヤの楽しそうな声。匂いがすごい。すごくやばい気がする。この匂いは… 人心を惑わす。

「ぼくはね、水本に 小川のことが好きなのかと聞かれたよ。」

「は⁉」

どういう発想??

「4人でピクニックに行くって話をした時。小川と湧井サンのことが好きかって。」

「‥‥‥」

「好きじゃないと 答えたよ。」

知ってる。俺も湧井も(ゼロ)だから。というか 水本だけが100だから。他は全て(ゼロ)。モリヤは 水本以外の誰のことも好きではない。嫌いでもない。興味がない。

「そしたら ウソだって言われた。」

「え⁉ なんで⁉」

「"ぼくの匂いを知りたい" という小川に、襟元を開けて どうぞと言ったって 水本に話すと」

「なに⁉」

あのことを言ったのか⁉ 水本に⁉ うわあ‥‥

「水本は 好きじゃない人に そんなことしないって。でもその後、ムリに笑って見せてね。」

い、色気が出てる… あふれてるぞ モリヤ‥‥

「ごめん やきもちやいちゃった だって。」

風になって匂いが押し寄せた。

「あの時、小川と話をしていて 本当に良かったと思った。あんなことで 水本が妬いてくれるなんて! 本当に予想外…。」

ふわあっと匂いが舞っている。なんて嬉しそうなモリヤ。うっとり思い出し笑いしているモリヤは とてつもなく色っぽくて、俺は目を離すことも できなくなってしまった。

「‥‥どうして…」

声がかすれた。

「うん?」

うっとりしていて モリヤの目は潤んでいるようにすら見える。それが又、色っぽさに拍車をかけている。

「…どうして水本には モリヤの色気が感じられないんだ?」

モリヤは顔から笑いを消して じっと俺を見た。笑ってなくても、色気は出ている。水源で水が湧いているような感じ。次から次から とめどなく溢れ出てくる。

「知るもんか。」

その色気にそぐわない言葉を モリヤはこぼした。が、次の瞬間 天女のような笑いを浮かべた。

「でも そこも好き。水本はとても ぼくのことが好きなのに、あんなに決定的な 動物的本能的誘惑では 落ちないんだ。」

動物的誘惑?? それはモリヤが仕掛けてるのか??? この色気は わざとだというのか?

「み、み、み、水本にこの誘惑がきかないってわかってるのに、なんでやめないんだよ…?」

「やめる? 何を?」

「い、い色気の放出をだよ…!」

「ああ それは、自分ではどうにもならない。」

「え?」

「なに? わざと色っぽくしてると思ってんの? ハハハハハ やっぱり小川って、楽しいやつだね。」

はあ⁉ 楽しいってなんだ。

「ぼくは水本にしか興味がない。」

知ってるよ。よく分かってる。

「その水本に通用しないのに、色っぽさを出して何の得があるのさ?」

「‥‥と、とく…?」

「何の得もないじゃない。めんどくさい。うっとうしいだけ。」

さすがだモリヤ。ブレがない。

「じゃあ、自然に出てんのか…。」

でも…

「今までも こんなことがあったのか?」

「多分初めて。ここまで激しいのは。もしかしたら、休んで一人でいる時には そうなってたこともあるのかもしれないけど。一人でいては、自分が人に与える影響なんて 全く分からないしね。」

「い、今は分かってんだろ? 色気が出てるってこと…。」

「さすがにね。いくら他人に興味がなくても あそこまで反応されては。」

「…こ、この大騒ぎは、本意ではないんだな? じゃあ、色気が出てると分かってる今日、なんで来たんだ?」

「来てから分かったんだよ。」

「…なんで帰らないんだ?」

アッハッハッとモリヤは笑った。大笑いして色っぽいって何⁉

「色っぽいと帰らないといけないって校則はないよ。」

…だよな。

「言ったじゃない。休むと… 多分早退しても、水本が来てしまうからだよ。」

「…で、でも、水本には色気が分からないんだから… 水本一人が家に来たところで こんな、みんなに与えるような影響はないわけだろ? なら、そっちの方がまだ‥‥」

「小川…」

モリヤはため息をついた。色気の吐息…。

「色気なんて それこそ自分には何の影響もないわけだし、そんなものはどうでもいいんだよ。ぼくが気にしているとしたらそれは気持ちのことだ。」

「…気持ち… と、は…?」

「コントロール不能って言ったろ? 高揚してしまってね。制御がきかないのは やはり困る。」

「‥‥‥」

「特に水本に対しては、制御のきくときであってさえ 自分が怖くなる時があるんだ。やばいだろう?」

えええぇ…? もう… どうしよう…。こんなの、俺にどうにかできるような次元の話なのか⁉ コントロール不能って… 高揚って… だいたいなんでそんなことに…

「‥‥モリヤ。」

「うーん?」

ああ上機嫌。すごい匂い。すごい いい匂い…。

「なんでだよ? 何がモリヤを高揚させてる?」

「うーん 何かなァ。これまでは 雨だったり。」

今、降ってませんけど⁉ それに

「矛盾してるよ。制御のきかない時に 水本を呼ぶのはやばいんだろう? 雨の日に呼んじゃ、ためじゃないか…。」

ちらりとモリヤが俺を見た。ふふふと笑う。こ、怖い…。色気が もう恐怖…。

「もう無理なんだ。」

「え?」

「だから 制御がきかないんだって。もう我慢できない。なんというかねえ… ギリギリ。大雨の時は ギリギリの線なんだよ。そして今日なんかは ギリギリでもないということ。」

‥‥意味が分からん‥‥

「圧倒的に 越えてしまってるんだよ。今日、水本に来られては もうおしまい。」

ハハハハ とモリヤが笑った。‥‥おしまいって…。モリヤ‥‥。

「で、でも 今日、一緒に帰ろうとしてたよな?」

「だって 一緒に帰りたいじゃないか。」

ほんとだ。コントロール不能状態が分かる。モリヤに似合わぬハイテンション…。矛盾だらけ。

湧井が止めて良かったんじゃないか‥‥ おしまいにならなくて…。

もう 言葉をなくしてしまって、俺はモリヤを凝視していた。ずっと いい匂いがしている。

だいぶん長いこと 2人で黙って座っていた。その間 ずっと、いい匂いが立ち込めていた。そうしてようやく、モリヤが口を開いた。

「帰るかなァ。」

黙っている時も 色気はドンドン出てる感じだったけど、喋るとさらに コトバが色気となってバラバラッとこぼれ出る。

「‥‥ああ。帰ろう…。‥‥モリヤ。」

「ん?」

モリヤが俺を見た。なんか 泣きそうな心地の自分に気付く。怖くて 色っぽくて やばくって‥‥。

「この状態は… 続くのか? いつまで…?」

「確実なことは ぼくにも分からない。言ったろ? こんなに激しいのは 初めてだって。しかも雨でもないのにね。だから いつまでとは分からないが、ずっとではない。」

「いつか おさまると?」

「こんなキツイのは じきにおさまると思うけど。でも 大雨が降ると又分からないし。」

大雨‥‥‥。ほんとにどうしよう。湧井と約束したからというだけでなく 水本が心配すぎて、行かないわけにいかなくなってきた。けど 俺自身が怖いというのも事実。

「どうした?」

バラバラ色気をこぼしながら モリヤが聞く。

「…いや。とにかく帰ろう。」

ふふふとモリヤは笑う。

「もうすぐ 日が落ちるよ。それまでいようか。真っ暗になってから帰る? この前みたいに。」

ドキンドキンと 又動悸がしてきた。

「いや、もう帰る。」

「暗くなったら 手を引いてあげるのに。」

「ポ、ポイントは消化ズミなんだろ?」

嫌がらせ続行中みたいなモリヤ。

「そうだよ。嫌がらせしてると思ってる?」

俺は頷く。はじかれたように モリヤは笑い出した。

「嫌がらせしてるつもりはないよ。小川の受け取り方じゃない?」

怖い怖い怖い。

「か、帰ろう!」

俺は立ち上がった。モリヤは座った姿勢で俺を見上げた。あでやかに笑って

「怖いの?」

と言った。

「はあ? 何が?」

まさか! という風を装おって俺は言ったが 図星。全くの図星。モリヤはあくまでにっこりと

「ぼくのことが。怖いのかなあ?小川は。」

怖いよ! もう ずうっと怖いよ‼

「怖くない。暗くなるまで ここにいる意味がないから帰ろうと言っている。モリヤがいたいのなら 一人でいるといい。」

「そんな冷たいこというんだ? 酷いなァ。まあいいや。ではぼくは もう少しここで、水本のことでも考えていよう。夕陽をみながらね。この前、又 涙を見てしまったんだよね…。反芻しよう。夕陽が落ちるまで 充分楽しめる。」

なんだって?? 俺は バカみたいに立ち尽くしてモリヤを見ていた。モリヤは おや?という表情で俺を見る。笑う。

「帰らないのか?」

これは 嫌がらせではないのか? 単にコントロール不能で 素直な感情たれ流し状態ってことか?

「アハハ 分かった。水本が どうして泣いたのか知りたいんだ?」

「‥‥教えろよ。」

俺は再びベンチに座った。モリヤは俺を見て ニヤッと笑った。陽炎がモリヤから立ちのぼるように見えた。匂いが立ちのぼっているのか? それとも 色気か?

「前回の雨の日だよ。」

やっぱりモリヤは うっとりと言う。

前回の雨‥‥ ピクニックの前か。なんで又…。その次の日は確か すごく水本の機嫌が良かったんだ。倒れも寝もしていないと。いい匂いがして‥‥モリヤが楽しかったと言ってくれたと、嬉しそうに言ってたっけ。あ‼ それで アレだ! 天国発言!

「水本はね」

モリヤは うっとりと空を見ながら言う。

「やっぱり ぼくに触るといけないと思っている。」

「え⁉」

「前にぼくが 水本を追い出した話、したよね? 思った通り 水本はやっぱりぼくに触れたことで ぼくが怒って追い出したんだと思っているんだよ。」

トラウマになってんだな。その時も泣いたって言ってた。怒らせてしまったことが、とてもショックだったんだ…。

「違うんだけどねえ…。」

色っぽい ため息をもらしながら言う。

「…で? なんで 泣くんだよ?」

いちいち思い出しうっとりに付き合ってられない。こっちが惑わされてしまう。早く聞いて 早く帰るのだ。でも モリヤは、ケラケラと笑って

「せっかちだなァ、小川は。」

そう言って 超! 超!色っぽい流し目をくれる‥‥。

「それがさ、あれは なんでなのかなァ? ぼくにもよく分からないんだけど、水本が ほとんど無意識に、ぼくの方へ手を伸ばしてきたんだよね…。」

「ええっっ⁉」

「こんな風に」

そう言ってモリヤは、もちろん無意識でなく 意識的に俺に手を伸ばした。顔に向かって手が迫る。よける前に耳元に触れられた。頬から首へ。う、動けない。俺は 目をいっぱいに見開いて、固まってしまっていた。モリヤは俺の目を見つめて にっこり笑って 手を戻した。

「急にハッとしたように ゴメンって手を引っ込めた。」

うふふと 思い出し笑い。俺は固まったまま。

「何も謝ることないのに。ごめんなさいって一生懸命謝って… 気が付いた時には 涙がたまっていた。」

「えええ?‼」

そんなことで? 固まりが解けた。あまりにびっくりして。自分で触っといて 謝って 泣く⁉ なんだよ、それ… ほんとに水本も わけ分からん…。

「水本が家に来るとね、こんなにギリギリの 危うい 嬉しい出来事が 時々起こってしまう。あまりにギリギリで 恐ろしくて でも とてつもなく幸せで 死にそう‥‥。」

死にそう‥‥‥‥。ああ‥‥ 恐ろしくやばいことになってるんじゃないか…! ギリギリって… ギリギリにもほどがある。限界まで 紙一枚ぐらいの…

水本…! よくぞ今までブジで… しかも何事もなかったように いやむしろ 楽しかったなんて 天国だなんて 幸せそうに…。 ─────‥‥気付いてないんだもんな… モリヤのギリギリにも、色気にも、怖さにも‥‥‥。 あ‥‥ぶな…  もう‥‥ 危なすぎるよ‥‥ 

光源氏だって… 湧井も 怖いこと言ってたけど ほんとにそうかもしれん。そういうことなのかも…。

「…モリヤ‥ 源氏物語、読んだことある?」

「源氏物語? …どうしたの 急に?」

「ある?」

「…有名なところだけは知ってるけど。全部は知らないよ。それが何?」

「‥‥‥いや…。」

「なんだよ? 小川は 知ってるの? とても意外だけど。」

そう言って モリヤは笑った。

「…いや、知らない…んだけど。」

「大昔に大ハヤリしたんだよね。あんなエッチな話が! アハハ。すごいよね。」

「エッチ⁉ な話なのか?」

「ん? ほんとに知らないの? 主人公がエッチなことばっかりするよ。でもぼくは 古典はわりに好きだな。」

「そうなのか?」

「そう。昔の人は とても自然なものに近しかった感じがして。草花に近く生きている。そこが、いいね。」

「へえ…?」

そんなこと 考えたこともなかった。俺は古典は苦手。

「ああ 夕日が落ちてきた。光源氏の時代も今も 夕日はきっと同じ。ねえ?」

そう言って 俺を見るモリヤの顔が、夕日に染まっている。とても 色っぽく、とても 美しい、と思ってしまった。

「実はぼくは夕日より」

ふとモリヤが言う。夕日の色と モリヤの匂いが混ざる。なんて色っぽい夕焼け…。

「夕日の落ちた後の空の色が好き。」

「え…」

夕日の落ちた後の空の色…?

気になって 待ってしまった。夕日の落ちきるのを…。

─────ああ… 確かに美しい。こんなにゆっくり "夕日の落ちた後の空" を眺めたことなんてないかも。きれいな色‥‥。

視線を感じて振り向いた。モリヤがこっちを見て 微笑んでいた。色っぽい、色っぽい目をして…。

「…な、なんだ?」

「小川も好き?」

「え‥‥」

何が? いい匂いが…?

「この色。」

いろ? いろ… 色気?

「空の色」

ハッとした。なんだ俺? どうした! 怖い… なんか 変になりかけてたぞ…

「小川?」

色っぽいから‥‥ もう… いい匂いしすぎだから…。

「…ああ、空な。キレイだよ、とても。」

「だろ?」

ああ間もなく空から光が消える。また どんどんやばいことになっていってしまう。ふふふとモリヤが笑う。

「小川はホントおもしろい。すごく怖いって思ってるのに、好奇心に負けてしまうんだよねえ…。」

色が… 色が… 色気が‥‥‥

「ふふふ。あ~あ。真っ暗になっちゃったよ?」

「‥‥‥」

「帰ろうか。暗くなったしね。」

にっこり笑って立ち上がり、モリヤが手を差し出した。

「‥‥‥」

俺はその手を見つめて 黙ってしまう。立ち上がれもせずに。

「さあ?」

あでやかな声が降ってくる…。

「く‥‥」

ぼんやりと 外灯が灯っている。ちっとも明るくない。暗い中、モリヤの白い手が 浮き上がるようだ。

「小川、手を出して。行こう。遅くなるよ。」

俺は ぼんやりモリヤを見上げた。にっこり笑った顔も 白く浮かび上がっている。色っぽく…。

ほんとだ…と思った。モリヤは俺をおもしろいと言ったけど いや、おもしろいというより 頭おかしい。自分で そう思う。ちっとも理性がない。

それでも、今日のこの色気のモリヤの手を、自分から握りにいくことは できなかった。俺が動けずに息をのんでいると、モリヤの色っぽい ため息が聞こえた。

「しょうがないなァ。」

色っぽい声が降ってきて 俺の手を取った。

「‥‥‥」

俺は 逆らえもせずに、モリヤを見ていた。モリヤは俺の手を ぐいと引いて俺を立たせ

「行こう。」

と 微笑んだ。

天女みたい。踊るように 浮かぶように モリヤは歩く。俺の手を取って。俺は手をつかんでいるより他はない。足下がまるで見えない。真っ暗だ。モリヤの肌だけが 白っぽく浮かんで見える。星明かりはあるようだけど 木の葉で遮られてか、地面を照らすほどには明るくない。手を握られているのと モリヤの白っぽい色香と 足下の危うさが、俺をとてつもなくドキドキさせて たまらない。早く、早く外灯のところへ。明るい外灯の下へ行きたい。


外灯の下へたどり着いた時、俺は汗だくになっていた。喉がカラカラだ。

モリヤは手を離した後、俺を見て笑った。

「そんなに疲れた?」

もうクタクタだ。ぐったり。喋る気力もなくなって 黙ったまま歩いた。モリヤも黙っているが 機嫌の良さが分かる足どりで歩いている。まだずっと いい匂いがしている。

別れ道に来た時、モリヤが じゃあねと手を上げた。俺は うんと頷くのが精一杯。

もう マジ気力の限界…。俺はトボトボと家に向かった。

なんか 全ての生気を吸いとられたような ぐったり感。ああ… ウツボカズラだ‥‥。

 

小川くんの恐怖は続きます。

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