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95/176

パラレル・戦略家は笑う。

retake.1

「えっ?」


 お礼を言われた。いや、協力いただいてって、俺たちは何もしてないけど。というかむしろ逆らってるはずなんだけど?


『キヒヒヒヒヒッ!』

「いっ……!!」


 横腹に斬撃。

 ヘンメイの朗笑(ろうしょう)なんてつかの間。またすぐに殺気を撒き散らして、防御のために横向きに持っていた槍を上手く躱され攻撃を受ける。

 でも【防御(プロテクション)】のおかげだろう。《ヒット》と表示されるだけで、もう血の描写は映らない。

 体力ゲージもほんの少し減るだけで済んだ。


『ふふふ。皆さんが素直でわがままなおかげですねぇ。いえ、間違いなく反発すると思いましたけど、ええ、でも……ふ、ふふ』

「せ、先生どうして笑ってるの! 予想通りってどういうことですか〜っ!」


 それでも【痛み無し(ノーペイン)】をかけてくれる阿部は、多分全員が言いたいであろうことを焦ったように尋ねる。

 先生はなぜか我慢するように笑い続けているが俺たちの誰もその理由がわからない。

 なんだよ。俺ら必死なのに、なに笑ってんだよ!?


『ふふ。まさかこのわたしが、何も考えずにあなたたちを煽っていたとでも? 心外ですねぇ。わたしの得意分野をお忘れのようで』


「得意分野って……っ!」


 未来が刀で薙ぐ。

 後ろへ飛び退いて躱したヘンメイが将棋の駒の上に着地。瞬間──カツンッ!

 乾いた音を鳴らしてその駒が俺たちの方へ前進する。

 一マスこちらへ近付いたヘンメイは、頬を赤く染めていた。


『ア、そぼ。あ……ソ、ボ』

「え……」


 槍を持つ俺の指が、ピクリと動く。

 歯が見えたのだ。無邪気な笑顔を携えて、ヘンメイがまた言葉を話し始めたのだ。

 ケトよりもぎごちない言葉を使って、自分が乗っている駒をトントンと叩いて。

 まるで、言葉を覚え始めた小さな子どものように。

 ヘンメイは、繰り返し繰り返し、一緒に遊ぼうと俺たちを誘っていた。


「……『戦略家』。なるほどね、僕らはどうやっても国生先生の思惑通りに動いてしまうわけだ」

『お褒めの言葉ありがとうございます、秋月くん。けれど、言ったでしょう? ()()()()()になりそうだと』


 先生はまた自信たっぷりにふふと笑う。

 そういえば未来が言っていた。

 このひと確か、戦術を考えるのが得意なんだっけ。

 つまり、誘導された?

 未来が討伐の必要性を聞いたことで、引き締められた俺たちの雰囲気を緩めるように。ヘンメイの中の何かを変えるために。

 納得しない、否定されるとわかった上で、敢えて厳しい大人の理論をぶつけてきやがったのか?


『あそ、ボ。アソォオオオオっ!!』

「いいぃっ!? 正気に戻ったわけじゃないんだな!?」


 叫びながら、走って駒をいくつか渡ったヘンメイが斎へ突進。剣が突き出された。


「【種皮(たて)】!」


 未来が斎とヘンメイの間に盾を生成。

 その強すぎる力でバリィッと音を出して破られるも、斎の鼻先スレスレで止まる。


「んのやろっ、【火の粉(スパークス)】!」


 攻撃していいかはわからない。ヘンメイの目の前へ火の粉を散らし、後退させることで斎との距離を遠ざける。


「さ、サンキュ、二人ともっ」

「いい。パワーも健在だな!」

「ん。【防御(プロテクション)】があっても追いつかないっ! あいか先生、作戦があるなら指示をください!」

『あらあらぁ? (てのひら)くるり未来さん。勝手もいいところですねぇ』

「もういいってセンセー!!」

『はいはい、大人げないことはやめにしましょう。長谷川さんに怒られるのは司令官より怖そうですからね』


 長谷川の顔が見えているのか見えていないのか、柔順になる先生。

 その声が、今まで聞いたことがないくらい、諭すような静かな声に変わった。


『彼女を正気に戻し、かつ心残りがないようお話を聞きたいなら……名前を呼んであげてください。全力で戦って、笑わせてあげてください。それ以外に方法などありませんよ』

「えっ……国生先生!?」


 プツンと音がする。

 通話が切れたっぽい。呼びかけても返事がない。

 どういうことだ。ここまで引っ張っておいて、もうこれ以上は手助けしませんよとでも言いたいのか。

 名前を呼ぶのはなんとなくわかる。大事だよな。

 でも他の二つは?

 戦え? 笑わせろ?

 もうちょい詳しく説明しろ先生!?


「隆、頭っ!」

「いっ……!?」


 未来の声で咄嗟にしゃがむ。

 すると、スパッと、今自分の頭があった位置から空気の裂ける音がした。

 斬られても死なないのはわかってる。けど避けなければ、いま頭上にあるその刀が俺の脳を真っ二つにしていたに違いない。

 なんて恐ろしい。


「こえぇよヘンメイ! あんま危ない攻撃しないでくれ!?」

「いいよヘンメイ! 土屋に遠慮せずもっとやっていい。なんなら坊主にしてもいいよ!」

「なに言ってくれちゃってんだよ秀君は!?」


 ぐっと親指を立てる秀。

 おいおい、言われた通り笑わせようとしてるだけだよな? そうだよな?

 まさか本気でハゲにしようとかそんな魂胆じゃねぇよな秀さん!?


「あっ、でもつっちーいつも髪ぼさっとしてるからさ。ダサーイ髪型を変えるって意味も込めて、やっちゃっていいよヘンメイ!」

「黙れ長谷川ぁああっ!!」


 つい怒鳴る。いくら指示があったとはいえノリが良すぎるぞこいつら!?


「土屋君、仕方ないよ! みんな必死だから〜!」

「これのどこが!?」


 サポートに徹する阿部が声を大きくする。

 どこかに隠れているんだろうがあんまり喋るな、見つかっちまうぞ。


「ああ、髪セットするなら俺の髪ゴムやろうか? まだ二つ余ってるからさ」

「いいじゃん谷川! さすがに今は持ってない? 持ってんならやってみよーよ、ツインテールにでもすりゃ、このダサさも可愛いに変わるって!」

「黙れこらぁあああ!!」

『きゃはっ、きゃははっ!』


 げ。ヘンメイのやつ爆笑してやがる。

 面白いのかこれ? いや、面白いならそれでいい。

 よもやいじられキャラがこんな形で役に立つとは思わなかったけど、とにかくこのまま笑いをとって様子を窺いながら、


「って、うおっ!」

「わお!?」


 剣が飛んできた。

 言い合いを始めた俺たちに歓喜しながら、剣を周囲から隙間なく飛ばしてくる。

 間一髪で【回禄(かいろく)】と【風壁(ふうへき)】で凌ぐも、一つ隣のマスにある《香車(きょうしゃ)》に飛び乗ったヘンメイが、カカカカッ! と軽い音を鳴らしてこちらへ攻めてきた。


『ふふふ、へへぇ!』

「なるほど? 楽しいだけじゃ嫌か。戦いながら楽しいもやれって言いてぇんだな、お前は」


 にっと口角を上げる。

 国生先生がなんで笑わせろなんて言ったのか知らないが、さっきと比べていい方向へ進んでいるのは確か。

 阿部が伝えてくれたように、ここで()られたとしても死にやしないんだ。

 なら、いつもみたいに真面目くさって戦わなくてもいいのかもしれない!


 ヘンメイから剣が振るわれる。

 回避のため、そして、多分これを使ってやるのがこいつは一番嬉しいんだろうと踏んで、真横にある将棋の駒へ俺は乗った。

 書かれた文字は、《銀将(ぎんしょう)》。


「お、おおっ!」


 乗った瞬間、駒が飛び跳ねるようにして斜め後ろへ一マス後退。間一髪だったが攻撃は避けられた。


「隆、将棋のルールわかるの!?」

「なんとなくしかわかんねぇ! けど見る限りは、乗ったらその駒に合わせて動くんだよな!」

「そう!」

「了解、それだけわかったらどうにかなる!」


 さっきの大砲のエネルギーからきた衝撃で、ひっくり返ったり吹っ飛んだりしてる将棋の駒。

 確か相手と向かい合うようにして駒を並べるはずだけど、そのせいで斜めだったり横向きになったりしてる。


(何度か動かせば何がどう動くかしっかり把握できるか? けど……)


 多分、このままだと俺だけじゃなくてみんなも覚えづらい。あと思わぬ方向に動く可能性もあるから、それも避けるべき。なら──


「【難燃の紐(ストリング)】!」


 燃えない紐を作り出して最大限に伸ばす。

 部屋いっぱいに広がる赤い紐を駆使して、変な方へ向いた駒を本来の形に戻してやる。


「おお、わかりやすくなったな!」

「だろ? 斎は将棋のルールわかるのか……って、ん?」


 ヘンメイが、じろり。急に未来を睨みつけた。



retake.2

『ヘンメイは戦いと楽しいことが大好きでしたから』と、優しい声で前置きをした。

プツンと音がする。

通話が切れたっぽい。呼びかけても返事がない。

どういうことだ。もうこれ以上は手助けしませんよって言いたいのか。

ここまで引っ張っておいて?

あれだけ俺らを掻き乱しておいて?

名前を呼ぶのははわかるよ。でも、他の二つは?

戦え? 笑わせろ?

もうちょい詳しく言ってくれよ先生!?


retake.3

ケトよりも更にたどたどしいけど、はっきりと言っている。『あそぼう』と。

自分が乗っている駒をトントンと叩いて、繰り返し繰り返し、一緒に遊ぼうと俺たちを誘っていた。


「……戦略家。なるほどね、僕らはどうやっても国生先生の思惑通りに動いてしまうわけだ」


秀がはぁとため息をついて、歩く。

手近にある将棋の駒に、手をついた。


「ヘンメイ。……遊ぼうか?」


そう言って秀は駒の上に飛び乗った。

瞬間、駒が右斜め前へ進む。


『さすがは秋月くん。理解が早くて助かりますぅ』


retake.4

『特に、未来さん。あなたはまず了承しないだろうと凪くんが言っていましたから』


retake.5

踏むな。未来はさっき俺にそう言った。手をついた時には動かなかった。

つまり駒は踏んだら動くんだろう。重さがどれだけかかるかとか、足と手の違いなのかはわからないけど。


retake.6

プロテクションがあっても盾は破られた。

パワーも劣り知らずだな!


retake.7

「……ヘンメイ。楽しい?」


笑って聞く未来へ、ヘンメイはニコニコとしたままこくりと頷いた。


「……そっか」


retake.8

「黙りゃっしゃい!!」


retake.9

「えぇ〜つっちー知らなかったんだね? おーばーかーさんっ!」

「こんのっ! 黙れ長谷川ぁあああっ!!」


retake.10

ギリギリ当たったんだろう俺の赤っぽい髪。ふぁさっと床に落ちてきたから、恐る恐る持ち上げる。

……もちろん、冷や汗。


retake.11

「ここで死んでも現実に戻るだけ! 復活する場所が違うだけで、今までのデスゲームと同じだよ!」

「わ、わかったよ! でも、心構えが!」

「普通の将棋とは違うから!! 吹き飛んで駒の向きが変わっている以上、動く方向も違うし動かない駒もある! なにも気にせず乗ればいい! 急に変な方へ動くのだって、それも楽しめばいいでしょう!?」

「……秋月がそんなふうに言うとは思わなかったわ」

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