パラレル・朱雀(加奈子が来ないバージョン2)
先生の合図で全員が動く。
パンパンになった方の【木製銃】を抱えた未来を、長谷川が風を使って天井高く◼️飛ばした。
「うおっ! 相沢、よくこんなの片手で持ってたな!?」
「見かけによらず力持ちだねっ」
容量にまだ余裕のある二つ目の【木製銃】を、斎と秀が未来の代わりに支える。
二人がかりでもかなり重そう。だけど俺が補佐に入るわけにはいかない。
エネルギーを吸い込むのは二人に任せ、ひとり瞑想。呼吸に集中する。
作戦に支障が出ないように。あいつを守るために。
「……いいね」
珍しく、恍惚とした未来の声。目を開けて上を見る。
大砲から出ているエネルギーは真っ直ぐ俺たちの方へ放たれているから、未来の場所からだと視界が開けてよく見えるんだろう。
エネルギーが満タンになったライフルを斜め下へ向けて、狩りをするように美しく構えていた。
「【木製銃】……だだだだだッ!」
撃つ。ヘンメイから吸収した攻撃を連射に変えて。
元々遠距離攻撃が得意でない点に加え、重くなったライフルで確実に当てようとするのはまず不可能。そう先生に言われた未来は照準を合わせようとはしていない。
できるだけ強い力で、数を撃つことだけに集中する。
──そもそもヘンメイは素早いので、百パーセント狙い通りに打てる人でも躱されるのが普通です。攻撃中はその場を離れられないと言っても、全く動けないわけではありませんから。なので……
「『その行動を利用する』……だね?」
「そ。頼むよ? 秋月」
確認する秀へ長谷川がニヤリと笑う。腕を思い切り前へ出して、渦をまく小さな風をいくつも作り出した。
「未来ちー、いくよ! 【風壁】!」
「離すよ、斎。【可視化】!」
秀の手が【木製銃】から離れ、攻撃にシフトする。
ズシッと重くなったそれに「ふんっ……!」と踏ん張るような声で耐える斎。申し訳ない。
「右へ二ミリ、下に三ミリ。相沢、追加して五発撃ち込んで!」
「ラジャ!」
「うん!」
最善が見える瞳の力を借りて、数秒先の景色を長谷川に伝える。そして、それに最も近づけるよう風を未来の弾丸の側面に当てて、細かく軌道修正。
的に百二十パーセント当てられるような、段階を踏んだ戦い方。
躱せないと悟ったヘンメイが、守護者を使いたくなるようにする。
『出ます、扉!』
先生の声。
つと、周りの音が静かになる。
静まり返った原因は、エネルギーの攻撃が大砲と共に割れるようにして消えたから。
狙い通り守護者が生成されていて、未来が撃った弾が銀の扉に吸収されていくのがよく見える。
「先生すげー。攻撃と防御は両立できないんじゃないかって予想、大正解だ!」
『ふふ、それができるならいちいち扉を消す必要はありませんからね。では谷川くん、準備を』
ガキンッ!
未来が持っている木製銃に充填されていた弾が尽きる音がする。
「ッん、相沢!!」
斎が未来へ二丁目のライフルを投げる。
バシッと下から受け取った未来は、まだ構えない。
植物の蔓を木製銃へ取り付けて、◼️のように背負う。そして、彼女の名を呼んだ。
「ヘンメイ。一緒に遊ぼう?」
優しく、柔らかに微笑んで。
ヘンメイの首が動く。空中にいる未来を、右目に槍が刺さったまま見上げた。
『キュイ……キ……キシ、ぴゅシシシシシシッ!!』
『来ますよ、土屋くんお願いしますっ!』
先生が俺に言う前に扉が消える。入れ替わりで出てきた大砲から銀のエネルギーが凝縮して放たれた。
狙いは、未来。
「回禄」
球状の炎で覆った瞬間、衝撃。
エネルギーと炎がぶつかる重低音が、心臓に響く。
風が、衝撃も少し中へ入ってる。このままだと間違いなく突破される。
わかってる、これじゃダメなんだってことは。
俺の中で最大の防御のはずの回禄は、それ以上の強さによって突破されることも珍しくない。
だけど……それって多分、俺の問題なんだよな。
だってそうだろ? 炎の神であるはずの力が、簡単に破られるなんてあり得ないのだから。
──未来ちゃんを殺しに来ているわけですから、遊ぼうと誘ってもヘンメイは必ず攻撃を返してきます。土屋くんが未来ちゃんを守ってください。
観ていたのなら突破された瞬間も見ていただろうに、あなたならできますと、俺に任せてくれた先生。
信頼を裏切れない。ここで俺が耐えられなければ、ヘンメイを倒すどころか未来が粉々になる。
「許すかよ、そんなの」
自分の口角に動きがあった。
この後に及んで笑ってやがるのか、俺は。
自重するべきか? いいや、これでいい。
だってこのギリギリの瞬間が、成長への道なんだろ? 俺の場合はさ。
「力を貸せ、キューブ」
悩みもせず答えを出した自分の脳とキューブへ命令する。
想像しろ。神の名を持つ炎の盾を。
守りたいものを守れるような、誰もが安心できるような強い力を。
炎が青く変化する。
今まではメラメラと燃え上がっていた赤色の炎が穏やかになる。
月明かりのような淡さでみんなを守る、炎の神。
エネルギーを上下左右に分断して、中へは決して通さない。
「一段階成長……だな?」
「ああ。人間一歩ずつしか進めねぇからさ」
数段飛び越えての成長はありえない。
特別な方法なんてない。
ぶつかった分だけ乗り越える方法を探す。
繰り返して繰り返して、強くなるしかないんだ。
「木製銃……だんッ!」
植物のエネルギーを凝縮させて押し出す『だん』の銃。そこに吸い込んでいた 銀のエネルギーを混ぜ込んだ、重い一撃を放った。
「う、らぁあああああっ!!」
銀の攻撃によってその場から動けないヘンメイへ、ではなく。その横にあるだろう大砲へ向けて。
槍がみごと的中、ぶっ壊す。
ドッ、ォオオオオン!!
さっきは突破できたエネルギーからの攻撃を防御され、かつ攻撃を仕返してヘンメイの動揺を誘う。
そこで初めて、呼びかける。みんなで。
「ヘンメイ」
「あーそーぼっ!」
子どもらしく、笑って誘う。
■な表情のヘンメイの首が、少し動いた。
話を聞くための、一度正気に戻す作戦。
──ヘンメイは、一緒に遊んでくれる人に懐きます。つまり今広げているゲーム……将棋で遊んであげるのが、この場における彼女にとっての喜びでしょう。
ルールに厳しいヘンメイと、親しくできる人は数えるくらいしかいなかったらしい。そんな少し寂しいエピソードを思い出しながら、一番近い位置、数メートル先にある《銀将》の駒へ飛び乗る。
「うぉっ!」
聞いてはいたが、乗った瞬間勝手に動く感じに驚いた。
カツンッと乾いた音を出して前へ。俺が乗ったままでいると今度は右斜め前へ。行く方向へ選べないらしい。
『どの駒を使っていただいても構いません。盤上が揃い次第、わたしから新たに指示を出します。今はとにかく駒をできるだけ動かしてください』
最終的には全員が駒を動かしてヘンメイを一箇所に追い込む。それから勝利を宣言すること。
これが先生の作戦、ヘンメイとの最後のゲーム。
命懸けの将棋だ。
『ただし、さっきの衝撃で四方に吹っ飛んだ駒の向きはバラバラ。何度も言いますがヘンメイはルールを守らない者への当たりが厳しくなります。本来の向きへ戻した上で乗ってください。決して、避けようとはしないでくださいね』
最後の一言に未来がうっと声を出したような気がする。
いや、気のせいかもしれないが。




