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パラレル・ハズレ(暴走版)

 retake.1

 気持ちよさげな笑い声が、未来に余計な思考を呼ぶ。

 初めてだった。死ぬかもしれないという恐怖を感じるのは。

 泣きたくなるのを必死に我慢する。

 そこらかしこにできた裂傷は、ちょっとした風の吐息でさえ激痛が走った。


(不安だなんて……言ってる場合じゃないか)


 未来は自分の心に問いかける。使ってもいいかと。

 自分の中で決めていたのだ。一度に使うガラス玉は、四つまでと。それより多く同時に使ってしまうのは、どうにも抵抗感があった。

 五つ以上使うのは、良くない気がする。そんな漠然とした不安感が襲ってきて、初めて使った時から今までその数を超えることはしなかった。

 けれど、このままでは状況を変えられない。


 痛みを我慢して、天を見る。

 時刻は正午を超えた。彼らはもう、外に出てくれただろうか?

 隆一郎たちなら、どうにかしてあの樹木の盾も破って出てくるだろう。そう確信していた未来は、今いるここに至るまでにーーで迷路にしていた。

 絶対に来させないため。

 初めに隆一郎が庇ってくれたあの時、確信したからだ。この死人は強いと。

 皆で協力すれば、倒せるか?その考えに答えが出せないほどに。


「はは……参るわぁ、ほんまに」


 つい方言に戻る。

 あんなにも仲間が死んでいくのが当たり前と思っていた自分が、失いたくないから来るな、なんて。

 隆一郎の考え方を隣で見ているからか。

 それとも、友だちの温かさに触れすぎたのか。

 成長か、衰退か。良いか悪いかもわからない。

 足に力を入れる。

 未だにほとんどダメージを与えられていない死人へ視線を突き刺し、ガラス玉を新たに一つ手に取った。


 酷く目が回る。相手の力でもないのに周りが歪んで見えた。

 ガラス玉で戦うのもそろそろ限界。体力の方が先に尽きる。

 それまでに、動ける間に敵を討たねば。

 最後のガラス玉を、胸に寄せた。


『まだやる気?早く死になよ』

「そうやね……自分でも驚いたわ」


 こんなにもねちっこかっただろうかと、未来は自分に


 本当は、みんなと一緒に過ごしていたかった。

 この死線をくぐり抜けられたなら。

 そうしたら……謝ってみようか。

 許されなくてもいい。ーーでもいい。

 叶うならば、もう一度あの温かさを感じたい。


「わがままやなぁ……私も」


 自嘲の笑みを浮かべ、未来は首を横に振った。

 自分から捨てておいて、何をいまさら。

 大好きな人たちを守るために離れたんだろう?そう、心に言い聞かせた。

 禁忌。ガラス玉を一気に五つ割る。

 未来の青い瞳が更に深くなる。


 視界に──ノイズ。


 死人を思わせるその碧眼は、目の前にいる死人でさえも畏怖させた。


『ねぇ、ユー。ユーは、人間……で、いいんだよね?』


 死人からのその問い掛けに、同じ目を持つ未来は、妖艶な笑みを携えて答えた。「さぁね」と。

 以降、己の意識は消失した。


 ◇


 あまりにも、壮絶すぎたんだ。

 すぐ戦闘に加わることができなかったのは。


「あはっ、あはははっ!」


 奇怪な笑い声。

 やっと見つけた、会いたかった人物は笑っていた。

 小柄な背中。艶やかな黒色のポニーテール。

 自分がつけた、白い花はまだそこに健在している。

 知ってる。彼女は相沢未来。俺の幼なじみだ。

 でも、あそこにいるのは誰だろう?

 見慣れない、いつもよりも青い瞳。

 なぜあんなにも青いのだろう。

 なぜあんなにも笑っているんだろう。

 なんでこんなにも、違う人に見えるんだろう。


「つっちー……あれ……」


 長谷川がーー


『ちっ、いてぇんだよ!!』


 死人の大砲から銀のエネルギー弾が放たれた。

 未来の足先が、百八十度、変わる。

 視点を転換。奴に振り向きながら、手の形状を変えた。

 一撃。未来の渾身、一つの弾が死人へ向かう。こちらに迫っていたエネルギー弾を相殺するよう放ったはず。


「──」


 誰かが何かを言った。

 誰だったかわからない。その光景から目を離せなかった俺には、誰の表情も見えなかったから。

 少し前に長谷川が言いかけていた言葉が脳裏を過ぎった。


 ──


 当たらない。残り、一センチが。


「っぎ……!!」


 未来の叫びが俺の耳を触る。

 だけど、苦しみの顔から一瞬でーーな表情に変わる。

 まるで痛みを喜んでいるように。

 持っていかれてしまった右肩から、血が溢れる。

 体力ゲージが七割を超えて減少していた。


 舌を出して、口の端についた血を舐める。

 そうして年齢にそぐわない表情をした未来は、ガラス玉から得た跳躍力で死人に急接近、足を振り上げた。

 動きが大きすぎる。

 針が未来へ向けられる。

 本来なら避けるべき。だが


「知らないなぁ」


 そのまま振り下ろす。

 足が、ふくらはぎが、針の餌食になる。


『な……っ!』


 針に刺さったまま未来は死人へかかと落としをした。




「あはっ、あはは!」


 ケタケタと笑う。まるで死人のように。

 痛みを感じていないのか感じていないフリをしているのかわからない。

 ただ、刺さった針を力任せに引き抜いて、後ろへ投げた。

 傷口から溢れ出すはずの血が、すぐに止まる。急速に治癒していく。体力ゲージが回復する。

 数秒の間に今受けた傷をなかったことにしてしまった未来へ、俺は恐怖を覚えた。


 誰だ? 今、未来の体を動かしてるのは。

 お前は……だれだ?


『ユーは……いったい?』


 死人は同じように問う。恐怖を顔面に貼り付けて。


「さぁ。でも、あなたたちはこう呼んでるんでしょう?」


 一呼吸置いて、未来は言った。


「『ハズレ』ってさ」




(全方位、ーー!?)


 逃げられない。

 盾も作れない。


 その瞬間、俺は未来に抱き寄せられた。


 一度俺を離して、頬に手を添えて未来の顔が寄ってくる。

 近距離で俺を見た未来の瞳から、不思議な青色が消えていく。

 しばらく見つめられる。何を言うでもなく。

 そうして、ある時。未来は微笑んだ。


「……み、く?」


 ぽふっ、なんて、可愛らしい表現ができたらどんなに幸せだろう。

 ただ甘えてきただけならどんなに良かっただろう。

 異常だと瞬間にわかるほどの熱さ、喘鳴。

 脱力した未来が、俺にもたれるようにして倒れていた。



『あーれ皆さんお揃いで。良かったねハズレ、追いかけてきてもらえて嬉しいね?』


『じゃあ纏めてっ!ぶっ飛びな!!』



 俺たちを地面に押し込んだ未来が、上から覆いかぶさっていた。

 さすがに全ては守れない。

 多分俺だけじゃない、みんなも多少なりと怪我をしてる。

 だけど、ほぼ全てのーーの攻撃が。俺たちを庇った未来の背中によって守られていた。



 立ち上がった未来は俺たちへ背を向ける。

 背中と腕に刺さったーーを、躊躇なく引き抜いた。

 傷口から血が流れる。だけどすぐに穴が閉じて、ボロボロになった服の隙間から、鍛えられた筋肉と綺麗な肌が見えた。


「やめろ……」


 立ち上がる。

 禍々しいオーラを纏ってゆっくりと死人がいる方へ歩き始める未来へ、小さな声で呼び止めた。

 だけど止まる様子はない。歩みを進めるたび、未来の体が変わっていく。

 長谷川にもらったパッドから見える色白の腕がーー色に。左腕はーーに。

 ガラス玉を通して死人の力が使えると知っている俺でも、今まで以上にそれに頼っているとわかった。


「未来、もういい。それ以上その力を使うな!」


 そもそも、未来はどうしてこの力を使えるのか?

 前提として


「戻ってこい。戻ってきてくれ、未来……ッ!!」


「……隆?」



 刺さったーーに毒?いや、それなら俺たちだって


「時間……」


 天井を見上げる


 怪我で、リミットが早まった!?


 ──パン、パン。

 死人が手のひらを叩く。


『はいはい、仲良しごっこはそろそろ終わりにしてくれる? メイは今そいつと命のやり取りをしてるんだよ?』


『でも、バカだよねぇキミたちも。キミたちが来たせいで、ハズレはメイを殺せなくなった。邪魔をしなければハズレが勝っていただろうにね』


『まあその場合……ハズレがまた人間としてやっていけたかどうかは別の話だけど』


『ま、どっちでも構わないさ。もうこの殺し合いは終わりだから』

『ハズレが戦闘不能になった時点で、キミたちに勝ち目はない』

「……わかんねぇだろ、んなの」


『ふふっ、わかるよ』

『だってメイは、キミたちマダーの上の組織。精鋭部隊に飼われていた死人だからね!!』


 精鋭部隊……!?



 retake.2


 俺たちを地面に押し込んだ未来が、上から覆いかぶさっていた。

 さすがに全ては守れない。

 多分俺だけじゃない、みんなも多少なりと怪我をしてる。

 だけど、ほぼ全てのーーの攻撃が。俺たちを庇った未来の背中によって守られていた。


「……なんで、来たの?撤退しろって言ったよ」


 体を離しながら、未来は低い声で問い詰める。

 どうやって抜け出したのかなんて無駄なことは聞かない。ただ、なぜまだゲーム内にいるのかと、いつもより青い瞳で見つめ、俺たちを責めた。


「早く出てって。邪魔」


 立ち上がった未来は俺たちへ背を向ける。

 背中と腕に刺さったーーを、躊躇なく引き抜いた。

 傷口から血が流れる。だけどすぐに穴が閉じて、ボロボロになった服の隙間から、鍛えられた筋肉と綺麗な肌が見えた。


(再生力……体を強化する系統の死人の力か)


 キューブの技が使えないこの部屋において、相性のいいガラス玉からの能力。

 刺さって減ってしまった未来の体力ゲージが、傷の再生とともに回復していった。


「……やめて」


 ふらりと、立ち上がる長谷川。

 禍々しいオーラを纏ってゆっくりと死人がいる方へ歩き始める未来へ、小さな声で呼び止めた。

 だけど止まる様子はない。歩みを進めるたび、未来の体が変わっていく。

 長谷川にもらったパッドから見える色白の腕がーー色に。左腕はーーに。

 ガラス玉を通して死人の力が使えると知っている俺でも、今まで以上にそれに頼っているとわかった。

 元から知っていた長谷川と違って、未来のこの姿を斎や秀は知らないだろう。


「止まれ。未来」


 命令。多分自分にしては珍しいくらい、静謐な。

 未来がぴたり。止まる。

 それでも振り向きはしない未来へ、転けそうになりながら長谷川がーーし、抱きしめた。


「放して凛ちゃん。そろそろあの子へかけた技が解ける。早くしないと……」

「アタシさ、戦場で未来ちーに邪魔って言われるの、二回目なんだよね」

「初めてあなたに会ったあの日……同じように、キューブを使わないで死人に向かっていく姿を、アタシはーーで見てたよ」

「このままじゃいけない。早く、加勢しなきゃって思って、いそいでキューブを取りに帰った」

「戻ってきたあの瞬間、食べられそうになってるあなたを見て、ーーね。嫌だって、思ったよ。誰かが死んじゃうの、見るのはさ」

「お願いだから……もう、全部自分でどうにかしようとするのはやめて」

「誰も失いたくないってさっき未来が言ったように、アタシらだって、未来が大事なんだよ。失いたくないんだよ?」


「……凛ちゃん?」


 未来が驚いたような声で、長谷川を呼ぶ。

 さっきまで強気だった長谷川が、泣いていた。


「一緒なんだって……ひっく、気付いてよ、ばかぁ……っ!」



 retake.3

『あー、痛かった』

『ねぇキミたちさ。よくそいつと一緒にいられるね』

『怖くないの? そんな……バケモノとさぁ』


「未来は未来だ。普段の少し抜けてるところも、死人の力に当てられて、強気になりすぎるのも」


「こいつをーーするのは許さない。二度とその言葉を口にするな」


『ふぅん……まぁいいや。メイはメイのやるべきことをするだけだから』



 retake.4

「未来ちー!?」


 急に未来から力が抜けた。


「どうした!?」

「わかんない、急に……っ!」


「あっつ……!」


「熱……?」


 刺さったーーに毒?いや、それなら俺たちだって


「時間……」


 天井を見上げる


 怪我で、リミットが早まった!?


 ──パン、パン。

 死人が手のひらを叩く。


『はいはい、仲良しごっこはそろそろ終わりにしてくれる? メイは今そいつと命のやり取りをしてるんだよ?』


『でも、バカだよねぇキミたちも。キミたちが来たせいで、ハズレはメイを殺せなくなった。邪魔をしなければハズレが勝っていただろうにね』


『まあその場合……ハズレがまた人間としてやっていけたかどうかは別の話だけど』


『ま、どっちでも構わないさ。もうこの殺し合いは終わりだから』

『ハズレが戦闘不能になった時点で、キミたちに勝ち目はない』

「……わかんねぇだろ、んなの」


『ふふっ、わかるよ』

『だってメイは、キミたちマダーの上の組織。精鋭部隊に飼われていた死人だからね!!』


 精鋭部隊……!?


『ステージ、ーー。反転(オセロ)


 部屋がモノクロになる。

 心臓が呼吸が、自分の意思に関係なく、止まる。


『バイバイ少年少女。ハズレもろとも、生と死が逆になる世界へ……生きることを許さぬ絶対の死の世界へ、行ってらっしゃい』

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