パラレル・ハズレ⑥(それでも一人で戦おうとした場合)
retake.1
『あはっ、あははははっ!!』
気持ちよさげな笑い声の主は未来の頬を蹴る。
ああそういうことか、と唐突に理解した。
優越感がほしいわけだ、この子は。己が相手を支配している、己よりも弱いものが抵抗できず痛みに耐える様を見て楽しんでいるわけだ。
色が変わって腫れ上がった頬だとか、武器を持てなくなった腕だとか。
体の中心を殴れば出てくるカエルみたいな声も……そう、全て全て、弱者への痛ぶりなんだ、と。
だけど決まって足にはほとんど何もしてこないのは、こちらが這ってでも逃げようとする無様な光景を見たいから。
足があれば最悪、腕が無くなっても逃走できる。逃げ切れるかどうかは関係ない。ただ、そうして自分の命に執着する人間のーーに快感を覚えているのだ。
(茶番……)
──はらり。
何かが落ちた。
焦点が定まらない中で、未来はその何かを認識しようとーー。
それは、白くて小さな、厚みのないなにかだった。
ピーマンの花びら。隆一郎が髪につけてくれていたものだった。
どうやら髪留めが切れてしまったらしい。纏めていた髪が落ちてきた。
よくここまで耐えていてくれたなぁと未来は思う。
もちろん自然に生えた植物よりも枯れにくいし花びらも切れにくいけれど、それでもよく耐えたなぁと。
「……隆」
白い花びらを手に抱え、混濁し始めた意識の中。
大好きな幼なじみの名を呼んだ。
「──あいよ」
頭に、温かくて大きな手の感触。
隣を通って、静かに手が離れる。
「【炎拳】」
retake.2
「なん、で……?」
目の前にいる大きな背中へ、掠れた声で聞く。
絶対樹木の盾を突破してくるとわかっていた未来は、ここに来るまでの道をーーにしていたのだ。
全ては、大事な人たちを巻き込まないために。
なのにどうしてここまで来られたのだろう。
「助けてくれって、お前の心の声が言ってたぞ」
こちらへ向いた隆一郎は、もう一度、未来の頭に手を置いてくしゃっと撫でた。
「道はぜんっぜんわかんなかったけど、戦ってる音はずっと聞こえてた。未来にしちゃあ、珍しく激しい戦い方してんなって思ってさ」
「でかい音出すわ、揺れるわ。無意識に自分の居場所知らせてくれてた」
「……遅くなってごめんな」
温かい手が、腫れた頬にそっと触れる。
「私の方がごめん、やよ。勝手に、あんな、私、勝手にっ!!」
言葉が上手く出てこない。
謝りたかったのだ、未来は。
「……けて」
「助けて……」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、隆一郎に願う。
たまに見せる優しい微笑で「おう」と答えてくれた。
「てなわけで、増援です」
立ち上がって◼️言うーー
すると、みんなが周りにいた。
「全く……最初から素直に言えばいいのにさ」
「それができねーのが相沢だからなー。ちょっとくらい許してやれよ、秀」
「」
「……アタシさ。ここに来るまで、未来ちー見つけたら殴ってやろうって思ってたの」
「けどさ……殴れないじゃん。こんな、ボロボロじゃ」
「らしくないよ。アタシの知ってる未来ちーは、」
「未来がーー言ったように、アタシらもみんな未来が大事なんだよ。失いたくないんだよ?」
「ま、進歩だけどな。あれだけーーと思ってた未来が、失いたくないって言ってくれたのはさ」
retake.3
痛みを我慢して、天を見る。
時刻は正午を超えた。彼らはもう、外に出てくれただろうか?
隆一郎たちなら、どうにかしてあの樹木の盾も破って出てくるだろう。そう確信していた未来は、今いるここに至るまでにーーで迷路にしていた。
絶対に来させないため。
初めに隆一郎が庇ってくれたあの時、確信したからだ。この死人は強いと。
皆で協力すれば、倒せるか?その考えに答えが出せないほどに。
「はは……参るわぁ、ほんまに」
つい方言に戻る。
酷く目が回る。相手の力でもないのに周りが歪んで見えた。
ガラス玉で戦うのもそろそろ限界。体力の方が先に尽きる。
それまでに、動ける間に敵を討たねば。
足に力を入れる。
未だにほとんどダメージを与えられていない死人へ視線を突き刺し、ガラス玉を新たに一つ手に取った。
retake.4
反撃の手段を奪う上腕への異常な執着。
顔を殴れば血も出やすい。




