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パラレル・未来VS凛子があれば?

 海が荒れる音が聞こえる。

 衝撃波で揺れて波が立って、また海水へ着地するのを繰り返す音が。

 未来と長谷川が互いのHPを削るために小さな拳を振り上げ、振り下ろす。

 それだけで起こる衝撃波はここ一帯の海を荒れさせた。


「すっげ……」


 あまりの光景に言葉がうまく出てこないでいると、キィンッ! と一際高い音が鳴った。


 《ヒット:1》

 《ヒット:3》


 武器同士がぶつかった音であったにも関わらず、二人のHPゲージからほんの少しだけ体力が減少へ動く。

 その身には当たらなくても衝撃だけで互いのHPを削りあっているのだ。


「はは……つっちーもつっちーだったけど、未来ちーも本当にすごいね。これ、今日初めて使った武器なんじゃないの?」


 長谷川は焦りを隠せていない声色で未来に聞いた。

 今未来が持っているのは、いつもの【木刀(ぼくとう)】ではなく木製の手刀だった。サイズは長谷川の【鉄扇(てっせん)】とそう変わりない。


「そうそう。さっき隆と戦ってるのを少し見させてもらっててね。私の【木刀(ぼくとう)】も隆の【火炎(かえん)(つるぎ)と同じくらいの大きさがあるから、きっと私もうまく立ち回れないだろうなあと思って」

「じゃあ考え出したのついさっきってこと? よくそれで互角にやり合ってくれる……!」


 手に持った【鉄扇(てっせん)】を押し込もうと力を入れる。


「ふふ、感覚が狂って嫌になるよ」


 そう言いながらも未来余裕を見せていた。

 実際未来が押し切れるわけでもないから余裕ではないのだろうけど、多分、何らかの状態を引き出すためにあえてそうしているんだと思う。


「【木製短刀(もくせいたんとう)】……か。いいよねぇ未来ちーは。木で再現してしまえば大抵のものはなんでも作り出せちゃうんだからさ」

「そう言われるとかなり便利かも。でも私からしてみたら凛ちゃんだってかなり色々できると思うよ?」

「だってさ。例えば風を凝縮してできた刀を思い描いてみてよ。実態の無い刃なんだからこちらからその武器を取り上げようとしたところでどうにもできないし、壊される心配もない。どう?」


「中心を見定める。一番弱いところ、強いところの真ん中を。風圧、風速。自分の持ってるところは実体化してる方がきっと使いやすいから、手に風を固定してあげて」


「……未来ちー、敵に有益な情報教えちゃってどうすんの?」

「間違いました」


 ふと笑う。


「今回はこれは使わない。そのうち、うまく扱えるようになるまでは」


 そう言って長谷川は【鉄扇(てっせん)】を再度作りだす。それを未来へ叩き付け、再戦の意を表した。


「楽しみにしてるね」


 未来は長谷川に【木製短刀(もくせいたんとう)】を押し付ける。押しやられる【鉄扇(てっせん)】に長谷川が苦渋の表情を見せた。


「くっ……! ていうかさぁ、海の上ならまだ勝機があるんじゃないかと思ってこっちに来たんだよ?」

「海風は凛ちゃんに味方をしてくれるもんね」

「そうそう、アタシは【】で飛べるから、特にね。なのにさぁ」

「ふふ、残念でした。凛ちゃんみたいに風を利用したりはできないけど、私も飛ぶ技術はあるからね」


 背中に生やしたソテツの葉。それは未来に海上での自由を与えていた。

 俺は二人のHPを表示する。


 未来が残り954、長谷川は928と記載された数字は、二人ともまだお互いに決定的なダメージを与えられていないからこそ。

 お互いに一撃も入れられていないのにこうして少し差ができてしまっている理由は、おそらく相手の攻撃による反動を逃がせているか、だと思う。つまり、長谷川は未来に比べて少し反応が遅れ気味であると言うことだ。


「【木製短刀(もくせいたんとう)(かい)】」


 ぴくりと、長谷川の身が強ばった気がした。

 きっとあいつは知っているからだろう。未来が技名に『改』とつけるその武器が、いったいどんな変化をもたらすのか。


「ああ……ほんっと、やだわぁ」

「まあまあ、そう言わずに」


 戦闘中にしか見せない未来の、気持ちが高ぶってきた強気な笑みをして、形状が変わった武器を更に押し込んだ。


『改』の言葉をつけたことによって切れ味を増した、 のようになったら木製の短刀を。


「【葉脈(ようみゃく)・アクセルモード】」


 自身の素体のエネルギーを、キューブに移行する力。

 鍛え上げている未来だからこそできる技。アクセルモードによって赤く染まった鋭利な手刀は、より一層のパワーを持つ。


 逆手に持って振り抜いた。


 《ヒット:70》


 腹を切られた長谷川は声を上げずに勢いで海へ突き落とされる。

 初めてしっかりと削り取ったダメージだ。


「ごめん隆、急所は避けられた」


 未来が陸地にいる俺の横に着地して、赤い短刀を確認する。


「かなり押し込んだつもりだったんだけど、さすがだね。最低限で抑えられたみたい」


 刃の一部分に風の渦巻きがついている。


「直前で【風壁(たて)】を使われたか」

「多分ね」


 分析をしているような未来を見ていると、空から風を切るような音。


「【回禄(かいろく)】」


 咄嗟に炎で未来ごと囲い、その飛んできた何かから身を守った。

 勢いよく放たれたのは、風邪を切る『もの』ではない、『風自体』だった。

 極限まで圧縮して殺傷力を増した風の刃は、最も簡単に【回禄(かいろく)】を突き破る。

 やばいと思った瞬間、服の襟を後ろからグイッと力強く引っ張られて尻餅をつく。


「当たったら多分一発だよ」

 間一髪で助けてくれた未来が真剣な声色で言った。


「わるい、サンキュ」




「【風壁(ふうへき)】!」

「あっ、未来!」


 未来が風の密集体の中へ取り込まれ、捕獲された。

 長谷川が【風前(ふうぜん)(ともしび)】をする動作を見せた。


(やばい、あっちからは長谷川の動き見えないんじゃないか!?)


 その技を使われてしまっては体力を大幅に削られてしまう。

 そして今彼女が纏っている【風壁(ふうへき)】は風の密集体であるために、未来が得意とする刀や【玄翁(げんのう)】で押し切ったところですぐに復活されるしそもそも破れないかもしれない。


「ねぇ凛ちゃん」


 そうわかっているためか、未来は敢えて長谷川へ話しかけた。


「服、透けてるよ」

「いっ!?」


 こいつは何を言い出すのか。

 俺が真正面にいる長谷川の動きがぴたりと止まり、顔だけがばっと下を向く。

 自分の服を確認するために視界から俺たちが外れた瞬間を、未来は見逃さない。


「【(はぐく)生命(いのち)よ】


 手を開いて前に出し、呟いた。

 その瞬間海から這い出てくる木。それを一気に成長させて数をどんどん増やしていく。


「ちょっと未来ちー! 透けてないじゃんっ!」

「だって、『使えるものは全部使う』のが凛ちゃんの得意分野でしょ? なら私もそうさせてもらわなきゃ」


 にこりと笑われ、長谷川はわなわなと唇を震わせる。


「なんなのもー! 戦闘中の未来ちーってやっぱり意地悪だ!!」

「あははっ、楽しいねぇ」

「楽しいのは認めるけど! 【風前(ふうぜん)(ともしび)】!」


 遮られた蝋燭の炎を作る動作を再度見せた長谷川から距離を取るべく、未来は手のひらに作り出した小さな木から【接木(つぎき)】で海の木へ瞬時に移動し、【風壁(ふうへき)】の外へ出る。


「未来、大丈夫か!」

「平気。こっちきて!」


 未来に呼ばれ俺は瞬時に未来のもとへと飛ぶ。


「【増殖(ぞうしょく)】」


 知らない技。だけど、周囲にある枝が一気に伸びて、あたり一面を蜘蛛の巣のように覆う。


「な……っ!?」


 ステージが海であるにも関わらず森林のようになった。

 やっぱりこいつ……すげぇ。

 俺の前に立つ未来は、手のひらを上に向けた。


「では凛ちゃん。同様に──お覚悟を」


 手のひらに一つの種が作り出される。


「【朝顔(あさがお)】」


 朝顔の目が急速に発芽して、未来の手から周囲に伸びて周りの木々たちに絡みつく。

 すると、枝の一つ一つがミシリと音を立てて動き始めた。


「ちょ、ちょっと待って!? それ、アタシの【双子(ツインズ)】の比じゃないんですけど!?」

「えへへー。楽しそうだったんだもん、二人の凛ちゃん」

「私もできるかなあと思ってかんがえてたら、思いついちゃって」


 周りにある全ての気を自由に動かせるようになった未来は、枝先を凛子に向けた。

 そんな木々を見ながら凛子は焦りを顔いっぱいに広げ、震えた声でまさかと未来に聞く。


「アタシの技見て、今考えたの?」

「ふふふ。いろんな人の知らない技が見られるの、いいね」


(かわいいなぁ、凛ちゃん)


 自分が高揚してるのがよくわかる。やはり強い相手を欺く瞬間というのは心地よい。


「意地悪……か。ふふっ、そうかもね」


 独り言のように呟いて、手を凛子に向けた。


「ロックオン」


 その言葉の刹那、朝顔の芽に『リンコ』の文字浮かび上がり、標的を認識した【朝顔(あさがお)】が木の枝を全て凛子へ襲い掛からせた。

 未来の意思ではなく、凛子がいる場所を瞬時に把握する朝顔が、彼女へと枝で殴りにいく。


「こん、の……! 何これ、キツすぎでしょ!?」


 文句を言いながらも楽しそうな凛子は【風壁(ふうへき)】を纏ったまま体を翻して躱す。だけど数があまりにも多すぎた。


 《ヒット:20》

 《ヒット:10》

 《ヒット:35》

 《ヒット:5》

 《ヒット:23》


 ヒットの文字が表示され続ける。

 風の盾に守られていても少しずつダメージが入る。

 未来が作り出した木々たちは止まることを知らない。

 そこ強靱なパワーで微弱ではあるがダメージを与え続ける。


 木々の対応に手いっぱいになる凛子を見ながら、未来は弓矢を作り出した。

 力一杯引いて、引いて、構える。

 凛子は気付かない。

 不規則に狙われているように見せかけて、その枝たちは()()()()()へ誘導していることを。

 そして、彼女が気づいた。だがもう遅い。


「なっ!?」


 唐突に動けなくなった凛子。何をされたと周りを急いで見回すが、彼女には何も見えないだろう。

 理由は簡単。

朝顔(あさがお)】での攻撃の最中に未来が作り出していた【秘密(ひみつ)花園(はなぞの)】という技によるものだ。

 花の咲く、草木の多くある園をいう花園。それを隠密に隠すのがこの技。つまるところ、目に見えない拘束のための花畑。


「模擬大会をするためにいくつか技を新調してきてよかったよ。これがなかったら倒せなかったかも」


「ありがとう凛ちゃん。遠距離攻撃、教えてくれて」

「  」


「【しなれ、一ノ矢(いちのや)】!」


 寸分の狂いもなく凛子の胸部へと飛ぶバルサの木でできた矢。

 体を突き抜けない程度に柔らかい木が、放たれた。


「はは……教えるのも教えられるのも、大概にしないとなぁ」


 《ヒット: 》



 《WINNER:未来》

 《ポイント総計:  獲得》

 ・


 ・


 ・


「だってアタシ未来ちーに十ポイントすら入れられなかったんだよ!? この怒りのやり場をどうしてくれるのよ!!」

「つっちーもつっちーよ! 勝てると思ってたのにギリギリだったし、取り逃がすし!!」

「いやっ、俺だって簡単に負けるわけにいかねーから! これでも凪さんに教え受けてんだからな!?」

「きぃいいいっ! ずるいっ、ずるいっ!! 身近に強い人が二人もいるなんてつっちーはずるい!!」


 拳を振り回し出すからぶん殴ってくるのかと思いきや、全く痛くもなんともないぽかぽかと遊んでるような優しさで胸を何度も叩かれた。


「ど、どうしたお前! らしくねぇぞ!? そんなに勝てなかったのが悔しいのか?」

「ちょっ、隆! 凛ちゃんにその言い方は」

「言ったな、つっちーのくせにぃいいい!!」

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