パラレル・トレース
retake.1
「先生。未来のこと、ありがとうございます」
ぺこりと一例して感謝を伝えるも、ほぼ間を空けずに先生に両肩を掴まれる。
荒々しく前に向かせた先生は俺の顔を覗き込んで言った。
「爽快だったろ?」
ニカッと歯を見せて笑って。
つられてこちらも笑ってしまう先生の笑顔。
安心した俺は今日一番の声で返事をした。
retake.2
「生徒を守るのも教員の務めだ。礼なんていらない」
強制的に姿勢を起こされ、荒々しく俺を前に向かせた先生は「それに」と顔を覗き込んで言った。
retake.3
加藤の感心する声に同意しながら、そういえばこいついつの間に戻ってきたんだと疑問に思った。
「なぁ加藤? お前さっきの休憩中いなかったじゃんか。どこ行ってたんだ?」
retake.4
「ちょっと怖かったけど、今はもう大丈夫。心配させてごめんね」
retake.5
「ねぇつっちー見てた?」
「え?」
「さっきの未来ちーの『ぼてっ』よ! 可愛かったねぇー」
「やだ、凛ちゃんわざわざ言わなくていいよ! 隆も忘れよう? ねっ?」
「お、おう?」
長谷川が悶えながら未来の頬をぷにぷにと触っているが、俺には何があったのかさっぱりわからない。
未来の全力の抵抗に合って喋れない長谷川の代わりに、なぜかしょげている加藤がこっそりと教えてくれた。
「ちょっと無茶な動きをしてな。体勢を崩して顔から思いっ切りこけたんじゃ」
「えっ」
「すぐ起き上がっとったけど、ありゃかなり痛そうじゃったよ」
状況を思い出したらしく、加藤は手で顔を覆った。
「未来ちーのダサい姿見るの新鮮だったわぁ」
「ダサいって言い方は酷いよ」
からかわれて口を尖らせる未来へ、買ってきたスポーツドリンクを差し出しながらとりあえず大丈夫かと聞いてみる。
加藤が話したのだと瞬時に察した未来は落胆。恥ずかしさからか、少し俯いてペットボトルを受け取った。
「ありがとう。ちょっと痛かった」
「擦りむいたりは?」
「ううん、それは大丈夫」
喉が乾いていたらしく、蓋を開けて勢いよく飲んでいく。ボトルの半分ほどまで喉を通した未来は、口を離して
「あと、その……さっきのはね。ちょっと怖かったけど、もう大丈夫だから。それも心配しないで」
ふいに未来
どうやら別の意味でも心配していたとバレてしまったらしい。もう一度へっちゃらだと笑う。
「そっか。なら良かった」
「……で、加藤は何をそんなにしょげてんの?」
「そりゃぁっ! ワシがチーム内におったなら全力で助けたったのにと!!」
「女子に交ざるつもりかお前は」
心配して損した。いつも通りだ。
「よーし全員水分補給したなー? 後半やるぞー」
「あっ、世紀末先生!」
「あの、さっきの未来のこと。ありがと……って、おい! 何すんだよ!?」
「爽快だったろ?」
急に頭をわしゃわしゃと撫でられて抗議しようとした俺へ、先生は自信満々にそう聞いた。
優しく手を置かれる。
「っはい!」
ニカッと歯を見せて笑う世紀末先生。
ほんとにこの人は、生徒第一だ。
「ほいほい、そろそろ後半を始めないと本当に次の種目に差支えるんだ。わかったらとっととコート内から出て、全力で応援する!」
もう一度「ほいっ!」と掛け声とともに背中を押され、強制的に壁際へ移動させられた。
「いって! 荒くたいな、まったく……」
「あはは。」
retake.6
加藤から聞いたと瞬時に察した未来は、照れ隠しなのだろう。少し俯いて受け取った。
「ありがとう。ちょっと痛かった」
「擦りむいたりは?」
「してない。それは大丈夫」
俺を安心させようとしてくれているのか、普段はしないおっけーマークを指で作る未来。
さっきの木岡先生の言葉に気を病んではいないかと心配だったけど、どうやら平気そうだ。
「ちょっと怖かったけど、もう大丈夫だから。それも心配しないで」
ふいに未来
どうやら別の意味でも心配していたとバレてしまったらしい。もう一度へっちゃらだと笑う。
「そっか。なら安心した」
retake.7
長谷川の「未来ちーのダサい姿見るの新鮮」という苦笑混じりのからかいに、「ダサいって言い方は酷いよ」と口を尖らせる未来へ、スポーツドリンクを差し出しながら大丈夫かと聞く。
加藤から聞いたと瞬時に察した未来は、照れ隠しなのだろう。少し俯いて受け取った。
retake.8
「あの、さっきの未来のこと。ありがとうございます」
「迷惑かけてごめんなさ……って、おい! 何すんだよ!?」
「いやぁ、らしくないなーと思ってな? なんだそのしおらしさは。いつものツンケン土屋はどこいった?」
「おーい」と通常運転の俺を呼びながら、持ち前の剛力で頭をぐりぐりと撫でる世紀末先生。
どうも楽しそうな先生は、
「生徒を守るのも教員の務め。相沢にも言ったが、若き者同士の一生懸命な姿を否定されるのが、先生は嫌だっただけだ」
retake.9
表情に出てしまっていたらしく、二つの意味合いでそう聞いたのだと察した未来は、こくんと大きく頷いた。
「ちょっと怖かったけど、もう大丈夫。ありがとう」
俺を安心させようとしてくれているのか、普段はしないおっけーマークを指で頬の横に作り、はにかんだ。
「そっか、よかった」
retake.10
「未来ちーのダサい姿見るの新鮮だったわぁ」
「ダサいって言い方は酷いよ」
苦笑混じりのからかいに、ほんのり口を尖らせて返す未来のやりとりに頬が緩む。
retake.11
「ああ、保井。足の件、一応家の方に連絡しておいた。終わったら迎えに来てくれるそうだぞ」
「ええっ! 大袈裟だよ恥ずかしい……」
「まあそう言わず。この試合を見届けたらノーマで治療すること。いいな?」
「むぅ……ガッテン承知」
retake.12
「えと、ごめん。飲むだろうと思って、これ買いに行ってて見てなかった。どした?」
未来にスポーツドリンクを差し出しながら問いかけると、長谷川からの「もったいない」と未来の「良かった」が被った。
「ちょっと無茶な動きをしてな。体勢を崩して顔から思いっ切りこけたんじゃ」
「えっ」
表情に出てしまっていたらしく、二つの意味合いでそう聞いたのだと察した未来は、微笑んで頷いた。
「大丈夫。心配かけてごめんね、ありがとう」
そう笑う未来の手は、俺が渡したペットボトルを軽く握っていた。
ダメな時は右腕を隠すように手を添える未来。だから本当に大丈夫なんだろう。
retake.13
下げようとした頭に力のこもった手を置かれ、持ち前の剛力でぐりぐりと撫でながら、「うりうり」と笑う。
「先生も青春したかったなぁ」といつもの調子でハッハと笑う。
「よっちゃん先生、青春無かったんですか?」
「うん、聞いて驚け。小中高と勉強、勉強、勉強! 昼夜問わず勉強だらけの毎日を過ごしたよ」
「もしかして小学校の頃から教員になりたかったんですか?」
「そうそう。なんと言うか、誰かの成長を見るのが昔から好きでな。将来は絶対教師になるって思ってたよ」
ふぅんと皆が感心している中、「だけどなぁ」と今度は顔を手で覆って泣き真似をし出す先生が本音を漏らす。
「あまりにも勉強に明け暮れすぎて、彼女ができないまま二十八歳になったという事実だけが残ったんだよ……」
「彼女欲しいの?」
「何なら嫁さんが欲しい。だから毎年言ってるだろう? 『可愛い奥さん募集中のぴっちぴち何歳だ』って……」




