パラレル・INクマ
retake.1
「ワシはマダーじゃないから今回は出られんのう」
チョコを口の中に入れながら、加藤は悲しそうに呟いた。勝負に参加することはできないが、どうやら観戦目的で来たらしい。
「見てて飽きはしないと思うぞ。こないだ家でやってたのとは違って、技バンバン使うから見応えあると思う」
「おお、まことか。楽しみじゃなぁ」
歯を豪快に見せて笑いながら言う加藤に、「時間的にも映画見てるくらいの長さだしな」と補足する。
retake.2
「でも今日でそれも終わり。恵子ちゃんに言ったんだ、縁を切ったって」
「そうなのか?」
「うん。次の繁忙期は世良らんが入ってくれる予定だよ」
「世良らん……」
いいのか、吉住。世良らんで。
「この間お祓いを一度させてみたんだけどさ。あの子すごく筋がいいよ。いい子紹介してくれてありがとうって、未来ちゃんに伝えておいてくれる? 後で私からも改めて言うから」
retake.3
「しかし大変そうだな。ボランティアなんだろ?」
「ふふふ、残念。お小遣いみたいな感じではもらう予定だよ」
retake.4
「でも意外だ。みんな結構バイトとかしてんだなぁ」
「あは。裏方っぽい役割の私たちは、土屋君たちほど鍛錬の時間を必要としないからね。マダーだからって報酬が支払われるわけでもないし、時間がある分は生活を潤すために使いたいんだよ」
「命張ってるのにおかしな話だよね」と苦笑する瀬戸を、後ろから大声で呼ぶ人物。
「茜!! 早く業務戻って、忙しいんだから!!」
伊崎はそう瀬戸に促してから、俺を見て舌打ちをした。
retake.5
「土屋君は優しいね」
微小ではあるがその声に震えがあったような気がして、俺は慌てて首を横に振った。
「最近よく言ってもらえるけど、実際そうでもねーよ。俺怒ってばっかだし」
「ふふっ、その怒るのも誰かのためでしょ? だからみんなそう言うんだよ」




