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元・遠征《三日目》③

挿絵(By みてみん)


『うふふ。あなたおひとりでワタクシの相手をするおつもりですの? あまり舐めないでいただきたいですわ』


 余裕そうな顔をする死人は僕に掴まれた鞭の先を分離し、ギュンと伸ばして一直線にこちらの頭を貫こうとする。


「長さに制限なしか」


 襲いかかる2つの鋭い鞭を首を(ひね)ってギリギリで躱し、チリッと頬のすぐ近くを通ったのを感じながらその1本を両手で掴む。それと同時に背中を反らして後ろへと大きく投げ飛ばした。


『くふっ力強くていいですわ!』


 数メートル先へと投げ飛ばされても焦りを見せない彼女に追い討ちをかけるべく、吹き飛んでいく彼女の体に向けて僕は右手を大きく開いた。


「【光線(レイ)】」


 ドパッ!


 手のひらに作り出した丸く光る玉。そこからビーム状の光線を勢いよく放つ。


『無駄よ』


 すると彼女は空中で体勢を立て直した直後、鞭を素早く回転させることで光線を弾いてきた。空へと飛んでいく光線は、そこにあった雲をかき消してから細くなって消えていく。


 彼女の身を守った鞭はさらに分裂して、体を引き裂かれそうな爪の形に収束して形を変えたかと思えば、今度は僕めがけて真っ直ぐこちらへと襲いかかる。

 ならばそれを利用しようと後ろに飛びのいてから光の剣で切ろうとした。

 だがメリッと弾力のようなものに邪魔をされ、切る事は叶わず力で押し返すだけになる。


『ワタクシの鞭はそう簡単には壊せなくてよ。ただの鞭ではありませんもの』


 押し返した鞭はそのすぐそばから数を増していく。


『元より頑丈ではありましたけど、死人になってからこれまでに随分の人間を殺しましたもの。その度強くなり、切れ味も、耐久力も、再生力もあの時とは比べ物にもなりませんわ!!』


 彼女の口から出た1つの言葉に、僕は少し違和感を覚えた。


「説明ありがとう。じゃあこれはどう?」


 剣で切れないのであれば焼き切ればいい。剣を投げ捨て、彼女が反応する瞬間すら与えず格子状の光るレーザーで鞭を微塵切りにする。

 それにより量産された多くの鞭がズバッと音を立ててサイコロ状に刻まれバラけるも、パズルのピースのように組み合わさって急速に元の状態へと戻っていく。


 何事もなかったかのように……

 糸がくっついてるみたいだ。


「なるほどね。確かに再生力が凄まじいわけだ」

『ええ、とても美しいでしょう』


 どうやら鞭は攻撃しても痛みはないらしいね。本体を叩けば少なからずダメージになるんだろうけど、彼女がその教師のことを思うがために殺し乗っ取ったと言うのなら、あまり傷つけたくはないな。


 自身の尻尾に惚れ込んでいるように彼女はニンマリと笑ったかと思うと、また更に更に鞭を分離した。

 どうしたものかと頭を回転させる中、数が数えられないほどに増やされ僕の頭上を丸く覆うようにして、鋭い切先がこちらを狙う。


『あはははっ! さあ、ワタクシの自慢の鞭でズタボロにしてやりますわ!!』


 高らかに笑う彼女はそれを目にも止まらぬ速さで連続で振り下ろしてくる。


「【光速(こうそく)】」


 スパンシュパンと立て続けに鳴り響く、槍を思わせるような攻撃を光の速さを利用して躱していく。こちら目掛けて飛んできたそれらは僕の体を捉えることはできない。そこにいた光る残像だけを捉え空を切る鞭は、そのまま地を勢いよく叩きつけ、その凄まじい力によってビシィッと長く深くヒビが入った。


「【(つるぎ)】」


 襲いくる鞭を右へ左へ跳びながら駆け抜け、敵を見据えながら手にもう一度光の剣を作り出す。

 地に着く足に目一杯力を込め、大きく砂埃を巻き上げながら跳び上がったとき。


 ズドォォォォン!!


 跳んだ僕の真後ろで、地面が鞭の猛攻に耐えかねて地割れを起こしていた。巨大な断層が出来て山のように盛り上がるのも目に留めず、剣を彼女の胸元に突き刺そうとした瞬間。またあの手ごたえのないメリッという音が鳴る。


『ふふ。今日はとても力が漲りますわ。どこか遠いところでいじめがあったようですわね』


 小さく笑う彼女の心の臓に向けられた剣は、気付かぬ程の速さで舞い戻ってきた幾多の鞭が盾を作るように密集して阻まれていた。


 速いな。心臓を一突きするだけなら沢山傷付けなくて済むと思ったのに、そう単純には終わらせてくれないらしい。


 (たぎ)るものを感じたとき、彼女は思いついたように僕に耳打ちをする。


『しかもその悪意の矛先は、相沢未来だったようですわよ』


 その出てきた名前に一瞬戸惑いを見せた僕を、彼女は見逃さなかった。

 剣を持つ手は鞭で弾かれ、増えて莫大な量になっていたそれらを1本にまとめ上げた瞬間僕の腹を叩きつけた。


「そういうやり方好きじゃないなあ」


 当たる寸前全身に光の盾を薄く覆ったために直接それが当たることはなかったけど、僕はあえて衝撃に身を任せ吹き飛ばしてもらう。

 彼女が告げたその情報について考えたかったからだ。

 だけど、みんなが隠れているマテリアルのそばまで飛んだ自分の体は思ったよりも速く、壊れたマテリアルなんて簡単に突き破ってしまいそうな勢いだ。

 すんでのところでくるっと一回転して壁に足と手をついて受け身を取ったとき、ピシピシと周りにヒビが入る音が聞こえた。


「弥重、大丈夫か」


 僕のほぼ真下にいるらしい流星が、全く心配なんてしてなさそうな平坦な声で僕の様子を伺ってきた。


「大丈夫。問題ない」


 わざとだからね。

 短く返事をしたとき、体が大きく揺れた。

 いや、僕らのいる建物自体が揺れていた。


「新手だね」


 僕の位置からは敵の全容は見えないけど、どうやらこちら側と反対の方から建物自体を投げ飛ばそうとしているようだ。

 そちらも戦闘の対象として適当に相手をしないとなと考えながら、数メートル下にある地面にふわりと降りたとき、流星が首をポキポキと鳴らして建物から出てきた。それはそれは面倒そうに。


「弥重、あっちは俺がやる。てめぇはそっちに集中しろ」

「口が悪いよ星ちゃん。悪いけど頼むね」


 ありがたい申し出だったけど、ついくすりと笑ってしまう。


 うっせぇと吐き捨てながらその相手のところへと飛ぶ流星を見送ってから、崩されそうなマテリアルからみんなを【拘引(こういん)】で避難をさせてくれる湊にありがとうと伝える。


『もっとも、今回は暴力ではなく悪口だったようですけれど』


 すぐに戦闘に戻ってこない僕に痺れを切らしたのか、彼女はバラした鞭を足のように使い四足動物を思わせる動きでこちらへと真っ直ぐに走ってきた。


「何が言いたいの?」


 瞬く間に僕の間合いに入った彼女は鞭を握り拳の形に集め形成した直後。


『ふふっワタクシは正義の死人ですわよ? いじめがあるところに正義あり、いじめがあるところに居場所あり!! いじめがあるたび正義の心は燃やされ強くなる。つまり』


 僕の顔面めがけて殴りかかる。


『いまのワタクシは、いつもよりもっと強いということですわ!!』


「凪! 下!!」


 そう思わせた刹那、ボコォッ! と多大な量の土を巻きあげる音とともに地面の中からも這い上がる鞭。


 大丈夫だよ湊。わかってるから。


 目の前に迫った拳も下から心臓を狙ってくる鞭も、どちらも獲物を捉えさせることなく格子状のレーザーでスパッと焼き切った。


 少し遠くにいる湊からは、相手の動きがよく見えるみたい。

 僕の視界からは見えなかったけど、目ではなく感覚を頼りに戦う癖をつけているからその点については案外問題にならないんだ。

 そうだ、この感覚も隆一郎に教えてあげないと。


『うふふ、何度やっても同じことですわ。ワタクシの鞭は』

「再生力が強い、だよね」


 僕の言葉に、彼女の口が耳まで引き裂かれそうなほどニヤリと笑う。

 焼き切られてサイコロ状となって吹き飛ぶ破片が勢い余って僕の頬を掠めたそのとき、また急速に集まって元の形を取り戻そうとした。しかし彼女の思惑とは反対にそれらは一切収束する様子を見せず、あろうことか地へとバラバラに落下していく。


『な……!?』


「強いってことは、認めてあげるよ」


 驚く彼女は何が起きたのか、まだ把握ができていないだろう。

 見た目は同じように刻んだだけに見えるだろうけど、今回はさっきとは少し違うことをしてみたのだ。

 それは、ほとんど視認できないほど薄く張った光の膜。再生するとき、糸がついているようだと思った。それはつまりお互いが引き合うことで元に戻るということだから、その合間に異質なものを挟んでやればその力を軽減あるいは消滅することができる。単純な話。

 だけどそれは説明してあげない。


「聞いてもいいかな」


 焦って動揺している彼女。今なら、心のうちが覗けるかもしれないから。

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