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元・俺の答えは②

挿絵(By みてみん)



 校舎の本館が、少女の死人が暴れたためにミシミシ音を立てて崩れ始めていた。全容が見えなくなるほどの砂埃と、それを運ぶ強い風が鳴り響く。


「どうやら一筋縄ではいかなさそうだね」

「大丈夫、しっかり補助する!」


 いつものお調子者口調ではなく、真剣な声で死人のいる方へ視線を向ける長谷川と彼女を見る阿部。


「ありがとな、来てくれて」


 未来は来れないとはいえ、頼もしい助っ人が来てくれたな。


 死人に吹き飛ばされて出来た自分の体中の傷はもう塞がっていて、痛みも感じなかった。

 長谷川のキューブで割り当てられた文字は『風』だから、回復が出来るようなイメージは俺の中には無いし、恐らく阿部が『解放』の方から何か連想してくれたのだろう。

「助かった」と礼を言うと、彼女は照れたように笑った。


「情報が欲しい。相手はどんなやつ?」


 長谷川がぴょんぴょんと大きく真上に跳んだり回って跳んだりしながら俺に聞いた。

 準備運動かそれ。


「とにかく速さが尋常じゃない。しかも攻撃にもかなり重みが乗っててパワーもハンパねぇ。

 速さがある分、力が分散して流れんじゃねーかと思ったんだけど、逆にその勢いを利用してパワーアップしてるような感じだな」


 話しながら瞼のあたりにある閉じた傷口の周りの血を手で拭う。


「マトモに喰らえば即終了……ね」

「そういう事だ」

「あっちには秋月君と谷川君がいるんだよね。なら早く助けに行かなきゃ」


 阿部が「【プロテクション】」と一言言い、俺と長谷川にいわゆる防御力アップの力を付けてくれる。

『解放』からの連想で、元々持つ俺たちの能力値の上限の解放をしてくれているのだ。


「あとは、奴の速さについていけるように頼む」

「それと早めに決着をつけたいね」


 俺たちの要望に、阿部は笑顔で応えてくれた。


「おっけー!【クイック】【アビリティ】アップ!」


 防御、速さ、力の底上げ。

 全員の左腕に展開して張り付いているキューブの模様が更に深く濃く刻まれ、俺たちが少し強くなったことを示した。


「注意して。身体能力極限まで上げてるから、無理しすぎると元の体にダメージが残るからね!」

「「了解」」


 阿部の心配に同時に短く返事をして、ドッ! と音を立て死人の方へと跳ぶ。

 20メートルは離れた学校の本館の、俺の吹き飛ばされた体が開けてしまった穴を見据え、その奥にいる死人に向かってふたりで手を広げる。


「「【炎風(えんぷう)】!」」


 俺と長谷川の連携攻撃。炎を纏った強風を巻き起こし、奴の体へと放つ。

 今までに一緒に戦ったことはないけど、両方が容易に想像がつく技ならすぐさまでも作り出せるものだ。

 すんでのところで攻撃に気付いたらしい死人。その青い瞳の視線の先が、俺と一瞬交わったように見えた。


 ボンッ!!


 炎が風に煽られ爆破する音がして、目の前が火で赤く染まり、驚いてこちらを見る秀と斎を照らす。


「土屋……!」


 俺たちが着地したすぐそばでくっつくように身を屈めていたふたりは、安心したような顔をしてこちらを見上げた。


 さっと見る限りは、無傷みたいだな。


「無事かふたりとも」

「僕らは大丈夫。斎のメカが守ってくれてる」


 そう言う秀と斎の周りには、いつだったか斎が自慢していた最新の小型防御兵器の丸い球体があった。名前は確か『まもるくん』だっただろうか?

 その丸い球体を中心として、若干水色っぽく光るシールドの様なものが、マテリアルを壊すほどの猛攻から彼らの体を守ってくれていたのだ。


 相変わらずスゲェもん作るやつだな。


 でもさすがにもうそろそろ限界だったと弱音を吐く斎に、感謝を込めて礼を言う。


「ありがとな。あとは俺らでどうにかするから」


 阿部の付加能力のおかげで力が漲っている自分の体は、先程までの俺の恐怖も焦りも吹き飛ばすには十分だった。

 すぐ近くにある手洗い場の鏡に映るのは、笑っているようにも見える自分の顔。自信に満ち溢れていて、これから先の事を不安に思う様子は微塵も感じられない。


 仲間がいるってのは、心強いもんだな。


「はーっ間に合った! 秋月君も身体能力解放するね!」


 遅れてやってきた阿部が、笑顔で秀にもサポートを付ける。


「助かる。ふたりは隠れてて、できるだけ安全な所に」


 殺されかけ、瀕死の状態で青くなっていた秀の顔は、完治薬で完全に回復したようで肌に赤みが戻っていた。

 死にかけたことを恐れもせずに立ち上がる秀は、自分はこの場で共に戦うものとして、斎と阿部に逃げるよう指示をする。


「凛ちゃんたち、全員通信機持ってるよね? それ絶対着けてて! 音を拾ってサポートにまわるから!」


 口速に言ってから斎に行こうと声をかける阿部は、もう崩れてしまいそうな校舎から急いで外へと走っていく。

 そのうしろを少し遅れながら追いかける斎の顔は、一瞬だけしか見えなかったけどそれでもわかってしまったほど、死人への恐れと煮え立つような怒りで溢れていた。

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