元・勝利への確信
「じゃあ、今回の作戦の再確認をするよ」
バスケのコートに入って味方と相手の両チームがそれぞれ固まって円陣を組む。私の横にいる世良ちゃんは、先程までとは一変して強く前向きな瞳で、目の前の静かに話すキャプテン、七瀬ちゃんを見ている。
今回のバスケットボール試合形式はスリーオンスリー。三人一チームで前半十分、後半十分の合計得点を争うルール。審判が入ったりするときはその時間は止めていてくれるとのこと。
相談して前半後半で同じ人が出るのは許されているけど、通常の五人試合の時と同じサイズの広いコートの中を二十分もの間走り回れるかといったところは、少々考えなければならない。
シュートの点数は通常のルール通りで、スリーポイントシュートの位置からのゴールは三点、そこ以外からのゴールは二点入る。だけど、わざわざ遠いところからシュートして外すよりは、確実に決められる位置から打つのが得策といえる。
あとの細かいルールはほとんど無くて、ボールを持ったまま移動するトラベリングだけは反則としてアウトだけど、その他は大目に見てくれるらしい。……危ないことでなければ。
そしてこの学校の場合、球技大会や体育祭は学年統一のクラス対決で行うらしい。
つまり、一、二、三年生の一組がひとつのチーム、二組は二組でチームというかたちで、全クラス二、三人ずつ出場し、その集まった人たちでチームになる。
だから当然、顔を合わせたことがない人や学年の違う人と一緒にチームになっている、なんてこともあるということ。
全学年三組まであるから、その状態で三チームに分かれることになる。
各競技には順位によって貰えるポイントがあって、それの合計得点が一番高かったクラスの勝利。
ただ、三チームでは試合にならないバスケやバレーなどの団体競技だけは、ひとつのチームから二組ずつ出場する事になっている。つまり、このバスケにおいては六チームで競い合うというわけだ。
それでも一回戦を終えたら三チームになってしまうから、敗者復活戦という枠が設けられるそうで、負けた人たちの中で得点を多く稼いでいた二チーム同士で五点マッチの試合をさせ、勝った方のチームも二回戦に出場できるらしい。
「クラス別での勝負だから、今回一年生組は一緒に戦えないね」
「世良が同じ一組で良かったよ」と笑う七瀬ちゃんが続ける。
「基本的には、経験が長い私と世良が全試合出る。そこに未来と保井が前半後半で交代で入ってもらう。だけど私たちの体力の問題もあるから、その時々でメンバーチェンジ。攻め方は練習通りに行くよ。おーけー?」
「はいッ!!」
キャプテンからの確認に、全員が大きな声を出して答える。
力を発揮したいときに、腹の底から力いっぱい叫ぶ事で大きな力を出すシャウト効果というものがあって、それを期待しているらしい。
だから今までの練習でも、特にかなり遠くからシュートを打つときや、ダンクをするときみたいな力を要求する場合、できるだけ叫ぶ事を心掛けてきた。
力の程度はよくわからないけど、一致団結という点ではかなり良くなったんじゃないかな。
「両チーム前へ」
ピッというホイッスルの音とともに指示をする、審判とジャンプボールの投げ役を担当しているのは、私たちのクラスの担任である世紀末先生。
凛ちゃんから聞いた話によると、どうやら私が出る種目の審判は全て世紀末先生が担当してくれることになっているらしい。
同学年の皆はそろそろ知っていると思うけど、違う学年、特に一年生は、私の目が青いことを知らない人がいるから、公平に楽しめるようにと職員会議で掛け合ってくれたのだとか。
常々思う、真面目な人だなあと。そして、私は心の底から感謝している。その真面目さと優しさは、先生が思っているよりもきっと、ずっとずっと私を救ってくれている。
本当にありがとう、先生。そして、私を必要としてくれているみんな。ありがとう。いつか、恩返しが出来たらいいな。
ピーッ!
「お願いしまーす!」
相手チームにいる一人が少し怪訝そうな表情をしていたが、特になにも言われることも無く、笛の音に合わせてみんなと共に試合開始の礼をしてくれた。
第一回戦のメンバーは、前半戦に七瀬ちゃん、世良ちゃんと私のチーム、後半戦で私と夏帆ちゃんが入れ替わる形だ。
七瀬ちゃんと相手の一人を残して、私達は少し距離を置き、七瀬ちゃんの真後ろと少し離れた後ろへと広がる。
前衛的でないように見えるこの配置は、相手から得点を確実に奪うための、ローリスクハイリターンの作戦。
ジャンプボールで、センターサークルにいる向かい合った七瀬ちゃんと相手チームの子に世紀末先生がボールを真上に投げる。
ふたりは同時にジャンプしたけれど、背が高い七瀬ちゃんの方が圧倒的に早く、落ちてくるボールへと先に手が届いた。
手の向きそのまま前に、つまり相手の後ろに押し込むだろうと思わせていたその手の向きは、直前で前ではなく左へと大きく捻られる。
相手チームの誰も予想していないであろう真横に落とされるボールに、一瞬驚いた彼女らの顔がよく見えた。人がいなかったはずの落ちてくるその位置に、七瀬ちゃんの後ろにいた私が瞬時に移動していたからだ。
「いくよ」
ボールを捕まえた私は小さく自分に声をかける。
相手の意表を突いた直後、敵陣地のゴールへと目標を定める。素早いドリブルと、この場にいる全員を置いてけぼりにする全力疾走で一直線に駆け抜け、そのままゴール下で真上に大きく飛び上がり、手に持ったボールをガンッ! という音と共に勢いよくネットへと押し込む。
ゴールのネットがついているリング部分が少ししなり、ボールが通り抜けていく瞬間のバシュッという音と、その後の床を跳ねる軽い音だけがコートに鳴り響いた。
試合開始からわずか三秒程。
誰も話さず動かない女子コート。まだ試合を始めていないらしい男子コートからの無言の視線。誰ひとり声を発さず、ここにいる誰もがこちらを見つめ、広い体育館を沈黙が支配した。
しんとした空気の中、自分の着地する音とともに先生が鳴らす笛の音が聞こえる。
ピッ!
「うぉおおおおッ!!」
「しゃあああッ!」
それと同時に聞こえるのは、観戦している他のクラスの人たちからの、コートが揺れるかのような大きな歓声と味方ふたりの歓喜の声。
「未来ぅううっ!!」
「未来先輩さすがです!」
笑顔で駆け寄ってくる七瀬ちゃんと世良ちゃんに笑顔でハイタッチをして、喜びを分かち合う。
相手チームの人たちの、やばいという声を聞きながら、彼女らを出し抜いてやったとテンションが上がりすぎてしまっているふたりに、私は落ち着いて端的に話す。
「たかがニ点、だよ」
そう笑顔で諭し、舞い上がった空気を引き締めた。
たかがニ点。優勝するためには、それで満足するわけにはいないからね。
ふたりの顔に、真剣みが戻ってきた。気合いを入れ直した七瀬ちゃんが、私の足元に転がったバスケットボールを拾って、相手チームのひとりにふんわりと投げる。
「続けよう!」
そう告げる彼女の顔は、勝利への確信に満ち溢れていた。




