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元・それぞれの成長

挿絵(By みてみん)



 時は××30年。機械、医療、建物、食物。目に入る物全てが発展していた。だがその一方で必要ないと判断されたものは急速に衰退していった。ゴミを捨てる場所が無い日本では、不必要な物を小さく細かく圧縮する所謂巨大なゴミ箱が造られ、衰退した何かは全てそこへ入れられた。そしてそれらは静かに、寂しく、哀しく、ひとりでに魂を宿らせていった。人々はこの魂を死人(しびと)と総称し、これを狩る者をマダーと呼んだ。つまり、人殺しだ。


 ー××36年ーーー ー ー ー


 時間は夜中の0時。人の気配は全くない。死人に狙われるのを恐れ、殆どの住民がマテリアルと呼ばれる爆破してもビクともしない超頑丈な建物の中へ避難しているからだ。


 そしてその閑静な街を、彼らは今日も悲しき化け物たちから守っている。


 そして……××37年ーーー ー ー ー



「嫌だッ死にたくない! 嫌だ嫌だ……ッ」



 目に涙を浮かべながら叫ぶ男の子の声。



「死にたくない! 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないッ!!」


 何度も何度もそう叫びながら、彼は左手に刻まれた『水』の文字が見えるぐらい手を大きく開いて、水流を作り死人を押し返していく。



「無理! 無理無理無理!! 助けてよ相沢あああっ!!」


「あははっ! 大丈夫大丈夫。ほら、あともう少し!」


 懇願する彼を助けることなく近くにいる死人を瞬殺していくのは、長い黒髪をポニーテールにした碧眼が特徴的な女の子、相沢(あいざわ)未来(みく)


「あああもう知らねーーー!!」


 渾身の力で叫んだ谷川(たにかわ)(いつき)は、泣きながら【津波(つなみ)】を起こす。水流で流されていた死人はその大きな波でいとも簡単にガラス玉へと変わっていった。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「ね。大丈夫だったでしょ」


 ドサッと尻もちをついて全身で息をする斎に、未来は笑顔で語りかけた。


「ぜ、全然大丈夫じゃない! 練習とは全然違う!」

「それはもちろんだよ。何が起こるかわからないのが本番ってものでしょ?」


 くすくす笑う未来。彼女は自分が初めて死人の討伐にでた時、こんな感じだったのかもしれないなと過去を思い返していた。


 斎は自分の左の手のひらを見て、更に泣きそうな声で嘆いた。


「なんで俺なんかがキューブに好まれたんだ……。臆病だし、運動苦手だし、キモイのもグロいのもてんでダメなのにぃ……」

「キューブの創設者が何言ってんの」

「俺は自分がマダーになるなんて思ってなかったのーーー!!」


 半ばキレるように言い返す斎。


「俺……絶対すぐ死ぬ……」

「大丈夫だよ」


 間髪入れずに未来が言う。


「絶対大丈夫」


「ぜ……ったい?」


「うん。絶対」


 自信を無くして剥がれそうなキューブを押さえ、斎の手を握る。




「絶対私が守るから」




 優しく微笑んで彼女はそう言った。


「……そのうち、おかしくなって何もわからなくなる。恐怖も、気持ち悪さも、死にたくないその気持ちも、生きることへのこだわりも。でも、斎にはそうなって欲しくない」


 キューブが少しずつまた張り付いていく。


「だから、斎がその気持ちのまま、まっすぐ強くなれるように」


 キューブがしっかりと、張り付いた。



「私が、絶対守るよ」




 彼女は笑顔で言った。

 斎はその笑顔に口をぽかんと開く。


「相沢……よく笑うようになったな」

「えへへ。おかげさまでね」


 照れたように笑う未来の笑顔に、斎は少し顔を赤くした。


 和やかな雰囲気の中、ぞわりとした空気がふたりの肌を撫でた。


「新手か」

「んー全方位囲まれてるね。今日はやたら多いな」


 上手く隠れているようで姿は見えないが、感覚で状態を把握する。


「あ、相沢……」


 斎がゆらりと立つ。


「俺はまだ、まだ周りのこととか、見ながら戦えないから」


 未来の背中側へと回る。


「正面。正面だけ、頑張る」


 自信の無い声だけど、目はキリリと前を向いていた。


「……うん。横と後ろは任せて」

「う、うん。ありがと」

「じゃあ、いくよ!!」



 -----------------------------



「だああああぁッ」

「はい、僕の勝ちだね」



 赤っぽい茶髪を隠すキャップの帽子がバシュっと音を立てて飛んでいった。


「あーーー。凪さん、まじで人間じゃない」

「失礼な事を言うね。毎日弟子の修行に付き合ってやってるんだからもう少し感謝して欲しいよ?」

「……いつもありがとうございます」

「よろしい」


 人を虜にする笑顔でニコッと笑う爽やかイケメン弥重(みかさ)(なぎ)。その明るいほぼ金髪のような茶髪は、黒いキャップ帽で覆われている。

 土屋(つちや)隆一郎(りゅういちろう)は毎朝2つ年上の凪に付き合ってもらい、特訓の日々を重ねていた。


「さてタイマーは……おっと」


 凪の笑顔が、一瞬驚きに変わる。


 被ったキャップ帽をキューブを使わずに相手からもぎ取るゲーム。今まで隆一郎は一度も勝ったことは無いが……。


「頑張ったね、りゅーちゃん」


 凪がまた笑顔を隆一郎に向け、タイマーの数字を見せた。


「30分。……よく耐えたね」


「っ! はいッ!」


 キューブを使っても数分しか耐えられなかった凪との鍛錬の日。

 あの日から、怒涛の成長ぶりを見せていた。



 -----------------------------



 しんと静まり返った空間を、ポンポンと透明のキーボードを叩く音だけが鳴り響く。

 キューブの研究の補佐として、毎日学校と討伐以外の時間は研究所に通い詰める、伸びかけの黒い髪に黒ぶちの眼鏡をかけた秋月(あきつき)(しゅう)

 彼の周りには山積みになった資料と本と、ひとつのキューブが置かれている。


「秋月君。またクマができてるよ」


 そこに温かそうなミルクココアが追加された。


「……ありがとう」

「少し休まない? このところ家に帰ってないんじゃないの?」


 そう心配するのは阿部(あべ)加奈子(かなこ)。去年の冬頃から研究所に出入りしている。

 彼女のキューブの能力、『解放』。それは息が詰まりそうなこの部屋で、癒しの効果があるとして大抜擢されたのだ。


「まあ、しばらくね。でも早くキューブを一般の人が使えるようにしたいから」


 そう言いながら秀はココアを持って、座っているキャスター付きの椅子を動かし加奈子と距離をとった。


「キューブに好まれる必要がなくなったら、皆が自分を守る術を手に入れられるんだもんね。ていうか、わざわざそんなに離れていかなくてもいいんじゃないのー」


「しょうがないでしょ。女の子苦手なんだよ」


 少ししかなかった距離は、3メートル程の距離まで離れていた。


「……でも、前は『怖い』って思ってたけど、今は『苦手』ぐらいになったよ」


「んん、少し前に進んだかな?」


「多分ね」


 ココアを少し飲む秀。


「……ねぇそれって、私にも可能性があるって事でいいのかな?」


 ゴキュッ!

 その問いに、彼は口に入ったココアを吐き出しそうになりながら無理やり飲み込んだ。


「……ッ! ぼ、僕は今は研究が第一だから!」


 冷静な彼らしくない、焦ったような答えに加奈子は笑った。


「ふふ。分かってるよ」


 恨めしそうに彼女を見る秀は、少しだけ心臓の音を速くして、ココアを再度口へと運んだのだった。



 -----------------------------



「ちょっとじーちゃん! これ配分間違えてるってばー」

「おぉ? 違ったか?」

「全然違う! これじゃあ怪我を治す薬じゃなくて爛れる薬になっちゃうよ!」


 齢70になる祖父に言うのは長谷川(はせがわ)凛子(りんこ)。彼女は長谷川薬店の一人娘で、代々受け継がれる最強の治療薬のレシピのほとんどを習得していた。


「じーちゃん。もうそろそろ配合するのはアタシに任せてよ。もう大体の薬は作れるからさあ」


「いんや、まだまだその役目はやれねぇなぁ」


 ぼんやりとした顔の祖父は、認知症に侵され始めていた。それでもまだ、その役目を子どもである凛子の父にも、嫁の母にも、孫の凛子にもわたしていなかった。


「そりゃ店に並べる前に100パーセントの検査があるからもし間違ってたらすぐにわかるよ? でもさぁ」


「凛子。私がどうして任せないか教えよう」


 閉じかけの目が少し開く。


「こんな薬は、無い方がいいからだ。……消えゆく命を再生させるような、悪魔のような薬に頼る世の中に、これ以上なって欲しくないからだ」


「じーちゃん……」


 少し考えてから凛子は祖父の手を取った。


「それでもね。アタシたちはこの薬のおかげで戦える。死から遠ざける悪魔みたいな薬でも、それがあるからアタシたちは自分の身を投げ出せる」


 そして彼女は笑顔で言った。


「だから、もしそんな世の中じゃなくなった時は、アタシが責任をもってこの薬を廃棄する。その後は絶対作らない。それでどう?」


 祖父はしばらく考えた。考えていたか、ぼーっとなっていたのかはわからないが、納得して凛子の手を握り返した。


「それが前線で戦っている人間の答えなら、仕方ないのかもしれんなあ……」


 それは、長谷川凛子がこの店の店主になった瞬間だった。


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