パラレル・お怒り&バグ搭載⑪
実際に体験して改めて思った。
凪さんの攻撃は、一つひとつが意味がわからないくらい強力なのだと。
俺がどんなに長い時間戦えるようになっても結局やられてしまうのは、その重い一撃に耐えられないから。
俺みたいに力任せにやってるんじゃなくて、体の使い方が違う。しなやかで、なのに力強い。見ていて惚れ惚れするような美しい体術。
それに加え、こちらの狙いを正確に読み取って、流れるような美しい動作であしらい、反撃する。できないと判断した時のみ最低限の動きで躱すのだ。
無駄を徹底的に削ぎ落とした
おそらくそれが、凪さんが持つ最大の強さなんだと思う。
俺もかなりパワーはある方だと思うけど、まったく比較にならない。
何を今さらと自分に言いたくなるが、だけどやっぱり、頭より体で理解するというのは大事だった。
絶対に
ロボ凪さんを倒せたら未来に言おう。
心配かけてごめん。それと、ギリギリまでやらせてくれてありがとう、って。
この辺はおそらく、見て学ぶよりも体験する方が早いと思う。
一度食らっているからこそわかる、今の攻撃の危険さと一度食らっているからこそわかる。もう一発やられたら動けなくなると。
(奪え。凪さんの持つ強さ。経験。俺に足りない部分を補完しろ!)
五感をフル活用して、ロボ凪さんの視線や動き、重心を把握する。
一つひとつ確実に躱していく。
「……ありがと」
「怪我に気をつけて」
「うす!」
足についた砂や土を拭いて、タイミングがあれば母さんにもありがとうって伝えてとお願いする。
腹が減っては戦ができぬ。地下へ続く階段を下りながら、もらったおにぎりを一つ食べた。
大きな怪我はできない。素体じゃ未来に治してもらうのは不可能だし、鍛錬で使いすぎたから手持ちの薬はゼロ。
あんな高いもんぼったくるわけにいかないから、さっき未来に使わせちゃったぶんはお小遣いが入り次第返すと決める。
鍛錬場の前に筆記具と携帯を置いて、もう一つのおにぎりはポケットに。
準備運動を念入りに行って、大きく深呼吸をしてから扉を開けた。
「ですよねっ!!」
飛んでくる。ロボ凪さんの長いながーい脚が。
突然戦闘に入るところ、おししょーさま本人にそっくりだ。
(距離、勢い、長さ、向き)
攻撃範囲を瞬時に判断、一歩後ろへ。
顔面めがけて放たれた蹴りは空を切る。
俺には当たらない。
「とりあえずっ、中へ入らせてください!」
突撃する。相撲取りみたいな状態でロボ凪さんを奥へと押し返した。
体格差もあって吹っ飛ばすなんてできないけど、ある程度は後退させて鍛錬場に入ることを許される。
けれどまた距離を詰められた。
僅かな遅れが命取りになるような連撃を、時折ぞわりとしながら躱して、守って、反撃に出る。
(奪え。凪さんの持つ強さ。経験。俺に足りない部分を補完しろ!)
五感をフル活用して、ロボ凪さんの視線や動き、重心を把握する。
模擬大会中に長谷川が教えてくれた俺の強みは、正直に言うと実感がない。
凪さんが遠征に行って、代わりにロボ凪さんとの鍛錬を始めてからもうすぐ一ヶ月。本当に俺の洞察力が鋭くて他人より慣れるのが早いのだとしたら、そろそろ課題はクリアしていてもおかしくないと思う。
なのに俺が倒せるような兆しはまだ見えず、どうしたら勝てるかなんて想像すらつかない。それでも。
「多分これがっ、内臓破壊の拳……ッ!!」
ドゥンッ! 鈍く大きな音。
足の指先まで意識して、強く床を蹴ってからロボ凪さんの腹へ右拳をねじ込んだ。
これまで優雅に戦っていた彼が初めて目を見開く。
まさか。と言いたげな顔をした。
「んで、こっちが! 渾身の蹴りッ!!」
蹴る。前かがみになったロボ凪さんの肩付近を。
本当なら頭を狙いたかったけど、顔へ攻撃したらくっそ痛いチョップが返ってきたことがあるからここは敢えて外しておく。
大振りな攻撃で予想がしやすかったのか、二度目はないとばかりに腕で防御されてしまった。
からの──
「ぐっ……!?」
足払い。「どこを見ている」と怒られそうなほど綺麗なカウンターを受けた。
自分がすっ転ぶ音にやられたと思いながら、しかし、口の端に笑みが零れる。
俺に拳を振り下ろそうとしているロボ凪さんの顔に、焦りが見えた。
「気付くの遅ぇな、俺」
転がり避ける。俺が今までいたところから甲高い破壊音が鳴って、床に穴が空いたのだと知る。
爆破しても壊れないマテリアルで作られてるのに、いとも簡単にぶっ潰すあの人の●(真下に打ち込む拳)
危険要素として脳内にインプット。ロボ凪さんの真下に入らないことを前提に疾走する。
逃げてるわけじゃない。
壊したマテリアルの破片が手頃なサイズだったらしく、武器として使い始めたロボ凪さんに応戦するため。
防衛に利用できそうな物──フックで壁に掛けてあるタオルを勢いよく取った。
(破片、くる!)
振り向きざまに投げる。
ふわりと広がったタオルが、俺を突き刺そうとしていたマテリアルによって引き裂かれる。
ロボ凪さんの目線で舞った。
「一点、集中ッ!」
殴る。布地によってできた死角から、『内臓破壊』の拳を再度打ち込んだ。
助走はついてないけど、俺がよくやる力任せの突きじゃなくて角度を意識した殴り方。深く入る音がする。
言葉を持たないロボ凪さんは呻き声こそ上げないが、表情だけはとても豊か。本物の凪さんなら絶対に見られないだろう青白い顔をして、体を痙攣させる。
力が入らなくなった手から破片が落ちて、マテリアル同士がぶつかる甲高い音を響かせた。
「ロボ凪さん。これ、朝やられた時、すっげぇ痛かったです」
拳をゆっくり離して、伝える。今の殴り方は、今朝あなたからもらった拳を俺ができる範囲で再現したものだと。
完治薬ですぐに治してもらえたけど、俺の内臓をズタボロにした超強力な殴り方。
記憶と感覚頼りだから全く同じ威力にはできないし、自分の指先から手首にもびりびりと痺れるような痛みが返ってきてるから、正しいやり方じゃないんだとは思う。
改善点は山ほどある。だけど、ロボ凪さんの動きを止められた自分に、未来から制止がかかるまで粘ってくれた自分の体に。ほんの少しだけ……拍手を送りたい。
「前にあいつから言われたんです。凪さんが強い理由、俺が勝てない理由を考えろって」
未来がせっかくくれたアドバイス、答えは出ないままだった。
何度も挑んで、考えて、ロボ凪さんの動きを見切ろうと必死に頑張ったけど、最後はやっぱり倒せなくて、耐えられる時間だけがのびた。
数回しか反撃できないのに、時間だけがどんどんのびていった。
ロボ凪さんの目が俺を射抜く。
まるで、だからなんだと。何が言いたいのかと催促するように。
的外れなことを言えばぶっ飛ばされる。そんな冷たい空気を感じながら、絶対に殴られるだろう答えを俺は口にした。
「凪さんが、綺麗だからです」
刹那、視界がゆがむ。
頬を蹴られたと認識した時にはもう床を勢いよく転がっていた。
左腕に鋭い痛み。さっき破壊した穴から飛び出ていたマテリアルに引っ掛けたんだろう。血が飛び散った。
「わかってます!! 何を言ってるのかって、ふざけるなってあなたが言いたいのはわかる! けど!!」
戦闘を再開されて、余裕なくロボ凪さんに伝える。それ以外に表現のしようがないのだと。
凪さんは俺の攻撃をあまり避けようとしない。こちらの狙いを正確に読み取って、流れるような美しい動作であしらい、反撃する。できないと判断した時のみ最低限の動きで躱すのだ。
無駄の無い、洗練された●。
おそらくそれが、凪さんが持つ最大の強さなんだと思う。
「対して俺はっ! 相手がどう動くか、どんな攻撃をしてくるかはわかっても、それを活かせてない。『殴られる。避けよう』じゃなくて、」
「俺は、凪さんみたいに綺麗な戦い方はできないけど!」
「ロボ凪さんの動き……もう、ほとんど見えてるんです。何時間も耐えられるようになって、課題を始めた頃より強くなった実感もある。でも、それじゃダメだ」
右手
幾度となく打ち込まれる拳の中で、俺の鼻へ突き出された一撃を利用。避けて腕を掴み、加藤が教えてくれた柔道を使って後方へ投げ飛ばす。
ロボ凪さんが宙へ浮いた。
こちらに突き出されていた破片を躱してから
ロボ凪さんの視野を狭め、死角から反撃した。
振り向きざまに投げ付けた。
(破片、くる!)
真っ直ぐ突き出された鋭利な武器を躱して、殴る。タオルで作った死角から反撃した。
最初と同じ『内臓破壊』の拳。
一瞬できたロボ凪さんの死角に入って反撃した。
壊したマテリアルの破片が手頃なサイズだったらしく、武器として使い始めたロボ凪さんに応戦するため壁に掛けてあるタオルを勢いよく取った。
こちらに突き出されたマテリアルの破片にタオルは引き裂かれ、同時にできたロボ凪さんの死角に入って反撃。
から生まれるロボ凪さんの死角に入って、反撃。
最初と同じ『内臓破壊』の拳を全力で打ち込む。
助走はついてないけど、俺がよくやる力任せの突きじゃなくて角度を意識した殴り方。
甲高い音がする。ロボ凪さんの手から力が抜けて、マテリアルの破片が床に落ちた音。
広い鍛錬場に響いて、消えて、静寂が訪れる。
タオル
破片は俺の服まで掠る。冷たい空気が肌を撫でた。
こちらに突き出されたマテリアルの破片がタオルを引き裂いた。
真っ二つになって、ひらりと舞う。
布地という意図的に作り出した死角から、再度『内臓破壊』の拳を打ち込んだ。
意図的に作り出した死角から、
(やべ……思いっきりやられた)
くらくらする。視界がぼやけてよく見えない。
おそらくさっき破壊した穴から飛び出ていたマテリアルに引っ掛けたんだろう。
「さっき、焦ったロボ凪さんの顔を見てようやくわかった。」
戦術の幅と、経験です
「わかってます! 何を今さら、そんなことずっと前から知っていただろうってあなたが言いたいのはわかる! けど!!」




