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パラレル・お怒り&バグ搭載⑦

ロボ凪さんの視線や関節の向き、肩の上がり方から次に狙われる位置を瞬時に判断。


五感を研ぎ澄ませる。


飛び上がり、斜めに回転しながら狙いを定め、なぐる。

しかし、いない。

ロボ凪さんはどこにも。代わりに、マテリアルでできた床が割れて、俺の手がめり込んでいた。


(──壊せた。爆破でも壊れないこの国最強の素材を、キューブ無しで)


代わりに出血量が酷くて未来から心配の声をかけられる。だけど、答えられなかった。



「始め」


未来の合図で先に動こうとした、けど。


「いっ……!?」


仰け反る。今まで俺の頭があった場所にロボ凪さんの強力な殴りが飛んできた。


(初っ端からこのキレの良さ……マジで尊敬する!)


間一髪で躱したが、こちらの体勢が崩れているのを利用して追撃。避けられないだろう位置を狙って再度拳を突き出される。

だけどそれは想定済み。

踏ん張って上体を起こす。ひねりを加えて頬を掠るだけにとどめた。


「粘れよ、俺」


言い聞かせる。見切る必要はないのだと。

全ての攻撃を無力化するなんて俺にはまだできないから、全身を柔軟に使ってできるだけダメージを軽減する。

覚えてきた凪さんの戦い方が頭じゃなくて体で感じられるようになれば、僅かでも希望が持てる。

だから粘れ。俺!


幾度となく拳の◼️

攻撃の向きを読んでロボ凪さんの手首を払うようにして、強力なパワーの行き先を変える。


頬に入れようとした拳。片足を一歩後ろへ、大きく状態を捻って拳を握る。反動を利用してぶち抜いた。


(──入った)


確信する。

「お、らぁっ!!」


ロボ凪さんの腕を掴み、ハンマー投げの要領でぐるぐる回してからぶん投げた。

宙を舞う時間を使って全力で走り、距離を詰める。

片手を床についてバク転、勢いを軽減して着地するロボ凪さんへ、助走をつけた拳をぶっぱなした。

前のめりになった胴体に深く入る。

声を発さず吹っ飛んだ彼は鍛錬場の壁に激突。大きな振動と砂ぼこりを引き起こす。


「がっ!」


すぐ戻ってきたロボ凪さんに顎を殴られた。

立て直しが早い。


(くらくらする……けど!)


視界が歪もうと足がおぼつこうと、動きを止めるな。

学びの中から次にくる攻撃の候補を一瞬で導き出す。

正面突きか、足払いか。わからない。

ただ何が来たとしても逃れられる方法。

ロボ凪さんの服を両手で掴む。


「さー、せんっ!!」


蹴る。腹部を右足で、自分の体がふらつくのは凪さんに掴まることで解決。蹴った瞬間に手を離してロボ凪さんをぶっ飛ばす。


飛び上がり、斜めに回転しながら狙いを定め、なぐる。

──いない。

ロボ凪さんはどこにも。代わりに、マテリアルでできた床が割れて俺の手がめり込んでる。血がダラダラ流れ出す。


(やらかした。切ったか)


一度拭ってみるも、またすぐに溢れてきた。かなり広範囲なのかもしれない。

未来がいる方から心配そうな声が聞こえるが、手首じゃなくてまだ良かった。そう切り替えて戦闘に戻ろうとした瞬間。


「くっ……!?」


肩に鋭い痛み。鈍痛じゃないことに違和感を覚える。

理由はすぐにわかった。ロボ凪さんが手に持っているもの。あれは、今俺が壊したマテリアルの破片。武器を使い始めたのだ。


「卑怯だぞロボ凪さん! 体ひとつでやる課題だろ!?」


反抗するも彼は破片を捨てない。むしろわかりやすく振り回して、これも避けてみろといわんばかりに振り回してくる。

考えてみれば、ここが戦場で相手が倒すべき相手なのだとしたら、俺も使えるものは使うだろう。ルールなんて野暮なわけだ。


 掠るだけでも皮膚が裂ける力のかけ方。流れ。

体格を武器にした攻撃範囲。

周りの空気を利用する拳の連打。


遠心力を利用して普段よりも大きめに、かつその後の動きに支障が出ない程度に反らして躱す。

成果が出てる。

敢えてロボ凪さんから離れていた時間と、学びの◼️が。


 


 脳の揺らしすぎ。酔いにも似た気持ち悪さの中。凪さんの右手が迫っていた。


(なんだろ。この流れ、一回見た気がする)


あと少しで顔面にぶつかるというのに、吐きそうなのに、やけに冷静な思考。

真っ直ぐ向かってきているように見せかけて、絶妙な角度が付けられた殴打。これに当たれば、俺の首が飛ぶ可能性があって、未来が止めてくれた拳だ。


「後退」


一歩だけ後ろへ。俺の顔面があった位置で急に軌道が上向きに変わったロボ凪さんの拳は、俺には当たらない。


(直線の攻撃じゃない時は、必要な分だけ距離をとること)


避けるために体勢を崩さない。自分へのダメージは最小限に、反撃の機会を作る。


「直せ、癖」


声で命令して、勢い任せになりがちな自分へストップをかける。


手刀が拳よりも避けにくいのは、ギリギリまで指を引っ込めてるから。反射的に避けても少しだけ曲げていた指を伸ばせば、数センチ距離と威力を増せる。

速すぎて、指が伸びきっていないことに気付けなかっただけ。


相手へ悟らせないこと。

ギリギリまで待って、急旋回。

間近で見た凪さんの手のしなやかさ。あれは、攻撃の可動域を増やすためのトレーニングで得られたもの。

力任せに突き出す俺と違って、ぶち抜く最後までいくつかの◼️を残せるやり方だ。


(マテリアル、拳ひとつで壊しちゃうんだもんな。普通にやったらさすがにできねぇか)


笑えてくる。理解できないものを『凪さんだから』と決めつけて、区別していた昨日までの自分が。

常に己を磨いていると知っていたはずなのに、どうして疑問を持たなかったんだろう。どうして、知ろうとしなかったんだろう。


 ──隆一郎だけが持ってる能力と、努力を考えての課題だ。自分の強みを活かしなさい。


遠征へ出る前に言われた言葉を、今になって思い出す。その二つを駆使すればきっとクリアできるからと、忙しい中で伝えてくれた凪さん。

 あの人はきっと、俺が思ってるよりもずっと俺を信じてくれてる。

もし、期待してくれているとだとしたら。


「応えるしかねーよなぁ」


勝負を始めて、どれくらい経ったのか。

初めて見えた一つの道筋。

決めに入る


 視線は飛んでくる拳とロボ凪さんの体

 目の前の拳につながる手首を掴んだ


「──掴まえた」


どうやら俺は、笑ってるらしい。

 ロボ凪さんのこちらへかかる力を利用して、後ろへ投げ飛ばした。

 宙に浮いたロボ凪さんが落ちてくる。

 無防備になった腹へ、拳をぶっ放す!

 入った感触がしてあと一発。蹴り上げようとした。


「り、隆っ!! キューブできたって! いまっ、斎から連絡!」

「えっ!? なんて、もう一回……あっ!」


 瞬間、悟る。


「あ」


 ちーん




それでも火傷のような痛みが走った。


マテリアル製の壁は強固で、穴はおろかヒビすら入らない。だからこそ、勢いを肉体で吸収する。


幾度となく拳の◼️

初手は反射的に避けてしまったが、基本的には攻撃から逃げないようにしたい。

相手から距離を取る分、反撃の機会を失うから。

攻撃の向きを読んでロボ凪さんの手首を払うように押し返す。

強力なパワーの行き先を変える。


ページをめくる。

今までにも頑張って見切ろうとしてきたけど、どうにもならなかった疑問点と解決策がちょっとずつ結び付いていく。

「一ヶ月かけてやれってお達しのはずなんだけど。意地悪凪さんのせいで一日でやる羽目になったな」

やってきた、俺たち『マダー』と呼ばれる殲滅者がもっとも活発に動ける時間──深夜。

未来の声を受けながら、鍛錬場の前で深呼吸をした。

「預かってほしい」

「……帰ってきて、最初にするのがお説教だとは思わなかったよ」

 一ヶ月。それだけかけて、学べと凪さんは言いたかったんだろう。


未来の後ろをついて、もう一度鍛錬場へ向かう。

 階段を一段ずつ下りて、ロボ凪さんの動きを脳内で精密に再現。


「もう怪我しない。絶対、心配かけないから」

窓から入り込む日差しの量が変わるのを感じながら、「あっ……ちょ、未来!」


最低限だけ伝えて部屋を出ようとした未来を慌てて呼び止める。ギリギリまで付き合ってくれたこと、怒ってくれてありがとうと、さっきは言えなかった感謝を伝えた。


「あと、夕方。もう一回課題見てほしい」

青い瞳がまんまるになる。

お礼を言われるとは思ってもいなかったのか、少し考えるようにしばらく視線が上を向いて、次いで俺を見て。

微笑した。


「お昼になったら呼びに来るね」


小さく手を振って、扉がまた閉まる。

わざわざ応援したりしないのは、言わなくてもいいと思ってるからか、それとも……信じてもらえてると思ってもいいのかな。


「っし……頑張ろうぜ、俺」


意気込んで、もう一度ペンを持つ。

ロボ凪さんとやり合って過ごすことが多かった一ヶ月。部屋にこもるのは久しぶり。

だけど、焦りはない。

窓から入り込む日差しの量が変わるのを感じながら、手と頭を動かす。


未来の部屋の前へ。

扉をノックする。

出てきた未来は、おキクを肩に乗せて、寝ているケトを抱っこしていた。


ロボ凪さんの攻撃を避けて分析した数日前の自分が書いたことと、今回体験してわかったこと。わずかだけど、認識にズレがある。


おにぎりに片手を伸ばして頬張る。うまい。やっぱり俺はこれ。塩にぎりが至高だと思うのだ。

一旦ペンを置いて、食事に集中する。小さく見えても俺仕様に作られた卵焼きは結構大きめだった。幸せの味。


真っ白なおにぎりが二つ乗った皿を添えられる。不器用な未来の頑張りが垣間見える、なんとか三角に見えるかな、ぐらいの特大おにぎり。

追加で置かれたほうれん草のお浸しと卵焼きがやたらと小さく見える。


「ありがと」

「ん。適度に休憩してね」

「ああ」


「体感より、内部。……中枢(ちゅうすう)の破壊か」


修正して再度インプット。

ペンを進める。


 掠るだけでも皮膚が裂ける力のかけ方。流れ。

体格を武器にした攻撃範囲。

周りの空気を利用する拳の連打。


「ギリギリで避けてもダメージになる。途中から劣勢になるのは……小さいダメージの積載のせい」


呟きながら、項目の細かな情報、対処法を出せるだけ出して書いていく。

 反撃はできれば言うことなしだけど、隙がない凪さんに無理に掛かってもやられるだけ。無茶をしないスタイルは継続すべきだろう。

ページをめくる。

今までにも頑張って見切ろうとしてきたけど、どうにもならなかった疑問点と解決策がちょっとずつ結び付いていく。

書いて、書いて、書いて、違いを上書きする。


「ダメだ……足りねぇ」


インクの切れたペンを持ち替えて、再度、紙を黒くしていく。

痛感する。凪さんの強さを。

一ヶ月弱へばりついてもわからなかったあの人の戦法は、たった六時間程度じゃ俺には理解できない。

わかっていたはずなのに、間にあるでっかい壁に打ちのめされそうになる。


(もう一回だけ未来に頼むか? 絶対これで最後にするからって頭下げて、もっとしっかり補完して……)


遮断。無茶な行動を取りたがる自分の思考に未来の「あほ」をぶつけ、貴重な朝の体験を取りこぼさないように書き留める。

足りないなら補うまで。

立ち上がり、部屋の一角から山積みのノートを持ってくる。本当なら並べて収納しておきたいけど、一ヶ月につき一冊、場合によっては二冊ずつ進む自分の記録は、棚に入り切らない。既に部屋を圧迫し始めている。

心強いこれまでのデータを、一冊ずつ開いて読んでいく。

凪さんとの鍛錬、未来との鍛錬、これまでに戦ってきた死人の種類と能力。倒し方、反省──これからに繋げられるように、覚えている間にと、書き殴った文字の羅列。


(懐かしい。でも、やっぱ全部は覚えてないな)


数年前、数ヶ月前。当時の俺がそうと理解していた戦闘や敵の能力。今だからこそわかる対策と相違。

左に積んだノートを丁寧に丁寧に読み進める。書き込む。右は重ねる。

もう一列を取りに行って、そちらもめくる。文字を追う。

一つ一つ、見落とさないように。これまでの経験を今一度読み返して、忘れていたこと、なんとなくで理解していたことをはっきりさせる。


若干の眠気がくる。でももう少し。

睡眠阻害ガムの力を借りて、もう一山取りに行く。

同様にインプットとアウトプットを繰り返す。


コンコン。


ノックの音がして、作業は止めないまま返事をする。

躊躇いがちに扉が開いて、静かに俺の横へ来た人物は、机の端へキューブを置いた。



「……お昼ご飯」

「キューブはご飯じゃないぞ」

「おにぎり作った」


キューブの横へ、真っ白なおにぎりが二つ乗った皿を添えられる。不器用な未来の頑張りが垣間見える、なんとか三角に見えるかな、ぐらいの特大おにぎり。

追加で置かれたほうれん草のお浸しと卵焼きがやたらと小さく見える。


「ありがと」

「下、降りる? 由香さん心配してる」

「いや、ここでいい。大丈夫だって言っといて」


おにぎりに片手を伸ばして頬張る。うまい。やっぱり俺はこれ。塩にぎりが至高だと思うのだ。


「ごめんな未来。つらいことさせた」


飲み込めば、自然とそんな言葉が出た。

一旦ペンを置いて、食事に集中する。小さく見えても俺仕様に作られた卵焼きは結構大きめだった。幸せの味。


「こっちの方が、私は安心する」




「終わったら、少し寝て。整理できると思う」


伝え終わったのか、未来は俺の返事を待たずに部屋を出ていった。

俺が口いっぱいにおにぎりを詰め込んでいるのを上手く使って、何も言えないまま。まさかこのデカ盛りおにぎりは俺に何も言わせないためだったんじゃないか。


(あいつ、頑張れとは言わねぇんだな)


おにぎりも言葉も、どちらもしっかり咀嚼する。

わざわざ応援したりしないのは、言わなくてもいいと思ってるからか、それとも……信じてもらえてると思ってもいいのかな。

飲み込む。エネルギーを取り込んで、ペンを持つ。




凪さんの攻撃は不規則。

縦横無尽、どこからでも飛んでくる拳と蹴り。

思いもよらないところから攻撃を繰り出してくるのはおそらく、あの人の柔軟性。




「……ケトは?」

「まだ寝てる。今はおキクが見てくれてるからいいけど、あんまり目は離せないかな」

「刀?」

「そう」


簡単に倒せるわけがなかった。

凪さん本人でないとはいえ、これはあの人の分身なんだから。


「お願いします」


頭を下げる。


「……キューブは禁止」


「素体でやって。これ以上の怪我は許さない」

「──はい」


新しいページにペンを走らせる。

「……守りたいものがあるなら、相応の力を持たないといけない。全部を守ろうと人一倍、努力してるのをわかってるから、司令官は隆の考え方を認めて、自信を持たせるために『それでいいんだ』って、何度も言ったんだと思うよ」


今度は携帯を渡される。

鍛錬場に置きっぱなしになっていた俺の携帯には、メールが一件入っていた。


「凪さんだって同じ。隆を信じてるからこそ、あの課題を出した」


返事は不要と書いたはずのメールへの返信に、未来が言いたいことが短文で綴られている。


 おかえり。

 自分の在り方を大事にしなさい。


「私の方にも来てた。必要なら助言してあげてって。……でも、大丈夫だね」


最新のノートの表紙を見て微笑む未来。

自分のことを書いているのは見えなかったのか見なかったフリをしているのか。それだけ言って、もう一度俺に顔を向けた。


冗談にもそれなりに返答してくれる。ちょっとは怒りが収まったのかもしれない。


言葉はきっと、未来が【治癒(ノコギリソウ)】を使いたがらない理由の大部分に当たる。今言った言葉は、未来が【治癒(ノコギリソウ)】を使いたがらない本当の理由なんだろう。


キューブを失って抵抗できなくなった俺を、未来の【朝顔(あさがお)】で強制的に鍛錬場から追い出した。

いつもだけど、この小柄な体のどこにこんな力があるのかと言いたくなる。


朝顔(あさがお)】で鍛錬場から追い出そうとする未来に、俺は必死で抵抗する。扉の取っ手を掴めばなんとかなるかもしれないが、体に巻きついた蔓は行動を許してくれない。


だけどキューブを失った俺に為す術なんてない。


朝顔(あさがお)】で鍛錬場から追い出そうとする未来に俺は抵抗する。それはもう、必死に。


強行突破も行き過ぎだ。俺の皮膚返せ。


「良案ってなんよ。なんも良くない。絶対怪我するからそのたび治してくれってなに? なぁ、なに?」

「怖い。言い方怖いです未来さん」

「知らんわ。怒らせる隆がわるい」


ごもっとも。


「目、さわるで。痛かったら言って」


あほ。また言われた、あほって。

なんだろうこの気持ちは。関西人のあほなんて可愛い罵りじゃないか。結構誰でも言うような言葉じゃないか。

なんだこれ、未来だからか? 未来に言われたから俺こんなにダメージ受けてんのか? 悲しい。悲しすぎる。


「ホンマに無理なら戦場でも使うよ。でも、普段から使おうとは、私には思われへん」


「良案ってなんよ。なんも良くない。なんでこんなやり方しか思いつかんの?」

「お前、方言……」

「いいから。なんでこんな危険なことするんかって聞いてんの」


話を折るなと睨まれる。そういえば怪我を治してほしいってお願いしただけで、理由はきちんと伝えてなかったかもしれない。

鋭くなっても綺麗な青い瞳につい引き込まれながら、これ以上怒られないように説明した。


「ロボ凪さんの攻撃さ、避けるのはもうできるんだよ。けど、最終的には絶対負ける。なんでかなってずっと疑問だったんだ」


何時間も耐えられるようになって、課題を始めた頃より強くなった実感はある。けど、それだけじゃダメだ。

避けられても倒せなきゃ意味がない。

押し切るための何かが、俺には必要なんだ。


右目に未来の手が伸びてくる。機能をほぼ失っていた俺の眼球が徐々に修復されて、半分しか見えていなかった視界が広がる。

両目で見えるようになった未来は、瞳を潤ませていた。


「怪我しても大丈夫やって思いながら戦うのは、危ないんよ。一度の攻撃が致命傷になるかもしれんやり合いで、そんな不確かなもの信じるべきちゃう」


全身にある傷も一つずつ丁寧に治してくれる。

優しい触れ方に、未来に、感謝しながらそう説明した。


睨まれる。そういえば怪我を治してほしいってお願いしただけで、理由はきちんと伝えてなかったかもしれない。

鋭くなっても綺麗な青い瞳につい引き込まれながら、これ以上怒られないように説明した。


「良案って、なんよ。なんも良くない。怪我しても大丈夫やって、思いながら戦うのがどんだけ危険か、わからんの?」


腕に置かれたままの手が、震える。

ノコギリソウの花言葉で怪我を治せるはずの未来が、戦場では使いたがらない理由が言葉の中にあった。

一度の攻撃が致命傷になるかもしれないやり合いで、そんな不確かなものを信じて戦うべきじゃない。

だからこそ、今の俺のやっていることが嫌で、つらいんだろうと思う。ごめんって、心の底から思う。


「どうしよおぉおおおおお!!」


 ピクピクしているロボ凪さんを見ながら、本物にいうべきなのか言わないべきなのか、真剣に考えた。



凪ちょっと早めに帰ってきた


「ぶっふ!!」


 未来が笑う。


「わざとじゃない」

「うん、わざとじゃなかったね、でも……ふ」


 笑うな。笑うな。

 痛いんだぞバカヤロウ。


「お願いします」


頭を下げる。


「……返さないよ。キューブ」


「素体でやって。これ以上の怪我は許さない」

「──はい」


ほんの端っこを俺の腕に置いて、ギリギリ恩恵を受けられる程度の力になったところで、未来はブツブツ言いながら治療を始めてくれた。

今日何度目かわからない、未来の【治癒(ノコギリソウ)】による傷の回復。

肉が見えかけた腕の皮膚が再生して、痛みが一気に引いていく。


「……怒ってる?」

「怒ってる。怒らんと思うん?」


青い瞳に射貫かれる。



デスゲームが凪帰ってくる3日前

次の日はクタクタで動けなくて、今日が前日


よく聞け隆一郎。キミに奴らを倒せる技量はない。操られていただけのメイでさえ、ゲームの力を借りなければ対等に立てなかった。

その通りだ。結局、自分の力だけではどうにもできなかった。

けど、

乗り越える。

何度でも戦って、戦って、覚えていく。

体が自然と、強く、自由に動けるように。

柔道使う


何月何日。凪さん帰還予定、前日。


「そこまでっ!」


「隆、一旦休もう。」

隆みくの会話

戦闘から始まる

隆のかち


母さん、ごめん。水道代のことなんだけど……

あやまる

なにかわかった?

……やり方は、いっぱいあるってことしか

やり方と考え方を変える。日常を戦闘に使えるかもしれない?

そう、ならよし!


「まだまだ届かねぇけど……頑張るっきゃねーもんな」


それしかできなかった自分に腹が立った。

今の俺じゃ、ここに書いた目標なんて何ひとつ届かない。

足りてない。時間も量も、多分、思いも。


(明後日……凪さんが帰ってくる予定の前日か)


ふと課題の期限が迫っていることに気付いて、リュックのポケットから四つ折りの紙を取り出した。


「お? 課題の紙じゃろ、それ。持ち歩いとったんか?」

「別に無くてもいいんだけど、持ってないとなんか落ち着かなくてなー」


返事をしながら開いて、中の文字を見る。

 課題をこなせそうになかった俺に、相手が強い理由を考えろとアドバイスをくれた未来。あの時は答えが出せなかったけど、みんなとやり合った今日ならハッキリとわかる。

間違いなく、戦術の幅と経験だ。


「戦術の幅と、経験」


 俺には長谷川みたいに経験もないし、秀みたいに多彩な技を使う技術もない。

 どれだけ勉強しても戦いの知識は未来に劣るし、斎みたいに

 阿部のように、人を救える力もない。


 技術も、体づくりも、体が自然に動く感覚も。

 経験年数が違うのだから、当然のこと。

 ならそれを埋めるにはどうしたらいいのか。

 遠征へ出る前に凪さんに言われたことを、今更ながら思い出す。


 ──隆一郎が持ってるその力を、最大限に引き出すための課題だ。自分の強みを活かしなさい。


 強みをしっかりと活かすことができたなら、きっと課題はクリアできるからと。

 あの時は何を言っているのかよくわからなかった。だけど、今ならその意味も理解できる。


「僕を倒してごらん……か。凪さんらしいな」


書かれた八文字に、自然と口角が上がる。

 一ヶ月。それだけかけて、自分の動きを完全に理解しろと彼は言いたかったのだ。

 凪さんが普段どんな戦い方で前線に立ち続けているのかを覚えさせるために。五年もある経験の差を力ずくで埋めて、自分の力として吸収させるために。


(けど……『慣れるのが早い』と『対応できるか』はまた別の話なんだけどなぁ)


俺がわかっているつもりでいた、凪さんの攻撃。微妙な認識のズレ。その二つを百パーセント知るためには、実際に体験してみるのが早い。


 理解した。

 未来が強い理由。

 凪さんが強い理由。


 ずっとわかってたことだ。

 技術も、体づくりも、体が自然に動く感覚も。

 経験年数が違うのだから、至極当然のこと。

 ならそれを埋めるにはどうしたらいいのか。


次の日はDeath game(デスゲーム)に一日はいってヘンメイCPでやりあい、勝てた

「……よし!」

帰ってきた

ちょっと、昨日の今日でこんなに遅くなったら心配するでしょう!?こら、隆!

ごめん母さん、お説教は後で聞くから先にアウトプットさせてくれ!

ロボ凪倒す


「なんか、謎ばっか増えるよなー」

「今に始まったことじゃないよ」

「あ、でも。土屋が気にしてた『譲』の子ならわかったぞ」

「朱雀紫音」

「あかむらさき」

「やめてやれ」

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