パラレル・お怒り&バグ搭載⑤
「精神論じゃどうにもなんねぇんだよ……なぁ、師匠ッ!」
「──足」
一歩後ろへ。左足めがけて振り下ろしたマテリアルの破片を間一髪で避ける。
ポケットの辺りをマテリアルが掠って、後で食べようと思って取っておいた、二つ目のおにぎりが落ちて転がっていく。
そろそろ栄養補給しない? なんて、語りかけられてる気がする俺はもう、限界が近いらしい。けど。
「見えてきた」
脳が揺れる。
期待してもらえるのは嬉しい。かなり嬉しい。少しは認めてくれてんのかなって思うし、もしそうだとしたら全力で応えたい。
けど、だからって凪さんと同じ動きをする相手に、耐久力だけならその凪さんよりも格上の存在に。俺程度のやつが勝てるなんて、本気で思ってるんだろうか。
(──雑念を捨てろ)
自分へ命令。ネガティブな思考をセルフトークで切り離す。
つい口から出そうになって、喉の奥に引っ込めた。
どんな攻撃をされても全く痛くない。そんな顔で、俺の反撃を体に受け続けるロボ凪さん。逆に自分の手足が痛くなる。
分身を作るために体力を半分にするなんてリスク、俺のために背負わせたくない。必死で説得するも、隆一郎の技量と努力を考えての課題だからと押し切られてしまった。
「自分を信じて頑張りなさい」そう笑って。
相手にはほとんどダメージを与えられないのに、こちらが受ける場合は一丁前に蓄積する。なんだよこれ、不利にも程があるだろ!?
「いっ……!」
……いや。単に俺が、俺自身を信じてないだけかもしれない。
だって、慣れとか奪うとか、そういう次元の話じゃない。
俺がどれだけ頑張っても、完成された師匠の戦法は崩せない。簡単に追いつけはしないんだ。
「──スッキリした」
──本物の僕より丈夫に作ってあるからね。なにも気にせず、やりたいようにしてくれて構わないよ。
遠征に出る前、凪さんに言われた言葉を思い出す。
隆一郎の技量と努力を考えての課題だから、自分を信じて頑張りなさい。そう笑って、ロボ凪さんを押し付けてきた凪さん。ちょっとやりすぎたかも、とか不穏な言葉も追加してたけど……あの、言わせてもらってもいいですか?
(ちょっと、なんてレベルじゃねぇぞこれ!!)
(とんでもねぇもん置いてったな……あのバカ師匠)
つい口から出そうになって、喉の奥に引っ込めた。
期待してもらえるのは嬉しい。かなり嬉しい。ちょっとは認めてくれてんのかなって思うし、もしそうだとしたら全力で応えたい。
けど、だからって凪さんと同じ動きをする相手に、耐久力だけならその凪さんよりも格上の存在に。俺程度のやつが勝てるなんて、本気で思ってるんだろうか。
(──雑念を捨てろ)
自分へ命令。ネガティブな思考をセルフトークで切り離す。
幸い意識は飛ばなかった。けれど、顎を殴られて正常でいられるはずがない。ふらついて、寝不足も相まって目が回る。
休んでって言われたのに聞かなかったんだから、後者については自業自得だ。
体に痣が増えていく。切り傷も多くなる。
視界が回復するまで待ってくれるはずもなく、受け身を取るしかできない俺はズタボロに。
意図せず、無茶をした六時間の二の舞になる。
(また、未来に怒られるな)
ちょうどポケットの辺りをマテリアルが掠って、後で食べようと思って取っておいた、二つ目のおにぎりが落ちて転がっていく。
そろそろ栄養補給しない? なんて、語りかけられてる気がする俺はもう、限界が近いらしい。
けど……どこか楽しい気分になってきたのは、なぜだろう。
そりゃ……聞き慣れてるはずがねぇよなぁ
言葉にならない。
ざっくりと、大きく横に切れている。ナイフで襲われたかのような鋭利な切り口。
脈打つ感覚と同時に服が赤く染まっていくのを見るに、傷はかなり深いのだろう。
(殴られて頬が切れるってのは前にあったけど……こんな刃物じみた攻撃、どうやって?)
記憶を辿っても答えが見つからない。
キューブ無しの体術戦だからほぼ殴り合いになるし、それこそ鍛錬場にある物を武器として使うくらいしか。
……武器?
「ちょっと、隆! なんでここにいるの、休んでって私お願いしたでしょ!?」
おにぎりを取る素振りを見せてから、すぐに両腕を重ねて顔の左側を守った。
自分がどこかおかしかったのは気のせいにしよう。
徹夜明けなんてそんなもんだ。頭のネジの一つや二つ、ぶっ飛んでたって全然おかしくない。
「わ、ちょ、ちょっと、隆!? 隆、大丈夫!?」
「だいじょぶ……丸一日寝かせてくれ」
未来にもたれかかる。完全に脱力して。
目が覚めたら正常になってるはずだ。
ギリギリまで耐えてくれた体に感謝。
おにぎりを拾い上げてから、駆ける。
まだ温かい。じんわりと伝わってくるおにぎりの温度は、戦闘を始めてからそこまで時間が経っていないことを教えてくれる。
攻撃だけが極端に豪快なのだ。
飛び退いて、よく分からない危険から距離をとる
状況を把握しようと痛む右肩に目を向けた。
善意を受け取るのか、それとも切って捨てるのか。どうすればいいかわからないだろう
思い通りにいかなかったロボ凪さんが目を見開く。
もう片方のポケットへ救出してから。
「──癖、みっけ」
それでもズタボロになってる自分の体。
どうも俺は、凪さんみたいに綺麗には戦えないらしい。
そろそろ栄養補給しない? なんて、語りかけられてる気がする俺はもう、限界が近いらしい。けど。
「新感覚……だな」
興奮というか、ぞくぞくするほどの高揚感。どこか楽しい気分になってるのは、なぜだろう。
戦場に巻き込まれたおにぎりが踏まれそうになって、それは良くないと、ふらつきながら救いに行く。
拾おうとすれば俺の頭の位置が下がる。どうぞ蹴ってくださいとお願いしているようなもの。
なんとか立ち続ける。
くらくら、治れ。早くっ!
反撃すらまともにできず、マテリアルが俺の右腕を切り裂いた。
ちょうど、さっきやられた右肩の数センチ下。利き腕を潰しにきてるのがよくわかる。というか、運が悪けりゃ殺される。
(次は、腹か。それとも腕……っ!)
予想が外れる。狙いは、顎。
──ガァンッ!!
直撃した。
避けようにも見切れない。
何をどこにされるのかがわからない。
一ヶ月かけてようやくまともなやり合いができるようになったのに、たった一つ攻撃手段が増えただけでまるで読めなくなった。
着々と積み上げてきたものが全部、崩壊していく感じ。力量の差を思い知らされる。
(くらくら、治れ。早くっ!)
心底、怖いと思う。
おにぎりを支えながら、投げられたマテリアルを側転で避ける。
まだ温かい。猫舌でも食べられるくらいのジャスト温度。口に入れたらきっと幸せが訪れる、美味しい美味しい、塩にぎり。
痛みでおかしくなったのか、ぼんやりとした頭がとある提案をしてきたのだ。
言葉を発さず、表情も変わらない師匠の分身。
ほぼ一ヶ月間ずっと飲まず食わずで俺のために戦い続けている彼に、何かお礼をしなくちゃいけないんじゃないか? と。
(視界はぼやけるし、ふらふらのズタボロだけど……多分、いける)
戦場に巻き込まれたおにぎりを救出。ラップの表面を払ってやる。
体に切り傷が増えていく。今度は太ももが切れる。
ちょうどポケットの下。後で食べようと思って取っておいた、二つ目のおにぎりが落ちて転がっていく。
増えていく切り傷と打撲。
「こんなやり方、また未来に怒られるな」
──ゆっくり研究したらいいよ。ロボ凪さんはなんでこんなに強いのか、なんで隆が勝てないのか。
今度は未来の助言を思い出した。
集中が切れてきたのがわかる。頑張れと自分の五感へ訴えるも、体に怪我が増えてきて、それに伴って頭もぼんやりとし始める。視界までぼやけてきた。
「綺麗……だよな。凪さんは」
ふと、そんな言葉が俺の口から出る。
──ゆっくり研究したらいいよ。ロボ凪さんはなんでこんなに強いのか、なんで隆が勝てないのか。
今度は未来の言葉を思い出す。
頑張れと自分の五感へ訴えるも、体に怪我が増えてきて、それに伴って頭もぼんやりとし始める。集中できなくなってきた。
(ごめん未来。俺、本当は知ってた)
俺が勝てない理由。凪さんが強い理由も。
顎を蹴られそうになって間一髪で横へ回避。
ぼやけた視界で認めたロボ凪さんの蹴りは、キレが良くて、つい見入ってしまうような美しさ。
無駄のない洗練された動き。
凪さんは、いつだって綺麗だ。
着々と積み上げてきたものが崩壊していく感じ。心底、怖いと思う。
(こんなのあいつに見られたら、また怒られるな)
増えていく切り傷と打撲。寝不足も相まって目が回る。
休んでって言われたのに聞かなかったんだから、自業自得だ。
今度は太ももが切れる。
ちょうどポケットの真下。後で食べようと思って取っておいた、二つ目のおにぎりが落ちて転がっていく。
そろそろ栄養補給しない? なんて、語りかけられてる気がする俺はもう、限界が近いらしい。
──ゆっくり研究したらいいよ。ロボ凪さんはなんでこんなに強いのか、なんで隆が勝てないのか。
頭がぼんやりとしてきて、思い出した未来の言葉。
集中が切れ始めたのがよくわかる。
猫舌でも食べられるくらいのジャスト温度。口に入れたらきっと幸せが訪れる、美味しい美味しい、塩にぎり。
マテリアルが俺の太ももを切り裂いた。
ちょうどポケットの真下。後で食べようと思って取っておいた、二つ目のおにぎりが床へ落ちて転がる。
そろそろ栄養補給しない? なんて、語りかけられてる気がする俺はもう限界らしい。
戦場に巻き込まれたおにぎりを救出。反対のポケットに入れてやる。
「補給は……あと、数分後」
あの人はきっと、俺がクリアできると思ってこの課題を出したんだろう。
一ヶ月もあれば、怪我をしない凪さんとボロボロになる俺の違いに気付くはず。何度も見て経験して、インプットを繰り返せば自力で倒せるくらい強くなるだろう。そんな期待があったのかもしれない。けど。
(んな、簡単な話じゃねぇよ)
歯を食いしばる。
慣れとか奪うとか、そういう次元の話じゃない。
だってこの国最強の人なんだから。どんなに危険な土地からでも、平気な顔で帰ってくるような人なんだから。
俺がどれだけ頑張っても、完成された師匠の戦法は崩せない。簡単に追いつけはしないんだ。
殴ってぶち破るならまだ良かった。壁じゃなくて床だったけど、前に一度見ているのだから驚きはしない。
でも指の力でってのは想定外だ。
わけわかんねぇし、真似できるとも思えない。先に手の方がやられるだろ。
応急処置をしていない右肩も、空気に触れて激痛を引き起こす。
(まずいぞこれ、完全に振り出しじゃねぇか!)
攻撃手段が増えて以降、ロボ凪さんの動きがまるで読めなくなった。躱したと思っても絶対に掠る。場合によっては思いっきりやられる。
あの瞬間にいくつ作り出したのか、切るだけじゃなく投げつける分まであるらしい。
一ヶ月かけてようやくまともなやり合いができるようになったのに、たった一つの武器で積み上げたもの全てが崩壊していく恐ろしさ。これをなんて言葉に表せばいいだろう?
動くたび空気に触れて、思考より痛みが優勢になる。
頭がぼんやりとしてきた。
有り得ない。誰に聞いても有り得ないって言う。
──本物の僕より丈夫に作ってあるからね。なにも気にせず、やりたいようにしてくれて構わないよ。
遠征に出る前、凪さんに言われた言葉を思い出す。
隆一郎の技量と努力を考えての課題だから、自分を信じて頑張りなさい。そう笑って、ロボ凪さんを押し付けてきた凪さん。
あの人はきっと、俺がクリアできると思ってこの課題を出したんだろう。
一ヶ月もあれば、怪我をしない凪さんとボロボロになる俺の違いに気付くはず。何度も見て経験して、インプットを繰り返せば自力で倒せるくらい強くなるだろう。そんな期待があったのかもしれない。けど。
笑いが込み上げてくる。
飛び退いて、よくわからない危険から距離をとる。
状況を把握しようと痛む右肩に目を向けた。
俺を単発でダウンさせられるような、鍛錬場の中で最も強い武器を作るため。
どこから手に入れたのかと思えば、ロボ凪さんがさっきぶつかった位置に妙な跡がある。例えるなら……糊で貼った紙を無理やり剥がしたみたいな。一部分だけデコボコの壁。
視界に入ったロボ凪さんは、ぶつけたおでこだけじゃなくて指までなぜか真っ赤になっていて。
ピンときた。
「ガードし切れなかったんじゃなくて……敢えてしなかったってか」
恐怖。笑いが込み上げてくる。
有り得ない。誰が見ても有り得ないって言う。
つまり、わざと頭をぶつけて衝撃を加えることで、壁にヒビを入れたのだ。
鍛錬場の中で最も強い武器を作るため。
指でマテリアルを剥がすなんていう、誰が見ても有り得ない行動に出た!
「くそっ!」
攻撃手段が増えて、ロボ凪さんの動きが全然読めなくなった。
拳や蹴り、手刀も。躱したと思っても絶対に掠る。場合によっては思いっきりやられる。
あの一瞬でいくつ作り出したのか、切るだけじゃなく投げ付ける分まであるらしい。
(まずいぞこれ、完全に振り出しじゃねぇか!)
あの一瞬でいくつ作り出したのか、切るだけじゃなく投げ付ける分まであるらしい。
文句も、ひとりごとも。あんなに言ってたのに急に何も言えなくなる。
殴って壊すならまだわかる。前にも一度見ているのだから、今さら驚きはしない。
でも指の力でってのは想定外だ。
わけわかんねぇし、真似できるとも思えない。先に手の方がやられるだろ。
体に切り傷が増えていく。
動くたび空気に触れて、思考より痛みが優勢になる。
頭がぼんやりとしてきた。
殴られて頬が切れるってのはあったけど、いくらロボ凪さんでも刃物じみた攻撃は見たことがない。
キューブ無しの体術戦だからほぼ殴り合いになるし、それこそ鍛錬場にある物を武器として使うくらいしか……武器?
発生源らしいロボ凪さんがゆらりと動く
表情を持たない師匠の分身が、笑うはずがないのに笑ったように見えた。
狙いは腹部だったが、さすがロボ凪さん。考えを読み取ってガードされる。
でも体が浮いた状態では踏ん張りがきかない。衝撃を吸収し切れず頭から壁に衝突。マテリアル製特有の甲高い音が響き渡った。
確信する。戦えていると。
敢えて体験したからこそわかる、何がなんでも避けるべき攻撃と、反撃に使える力の流れ。
加藤に教えてもらった技法も身についてる。
大丈夫。無駄なものなんて一切ない。
この一ヶ月でもがいたこと、経験したこと。わがままを言った今日の六時間。
全部俺の力になってくれる。
努力した分だけきっと、結果にも繋がるはずだ。
「日常にあるもの……身の回りのもんを、味方に!」
お返しとばかりに俺もぶん投げられて、運良く朝置きっぱなしにしていたタオルの辺りに着地。拾い上げる。
攻撃を仕掛けてきたロボ凪さんの顔に投げ付けて、ほんの一瞬だけ視界を奪った。
そして、蹴る!
体当たり。ロボ凪さんを全力で奥へと押し返す。
可能性がある
凝縮した空気の渦が見えた気がした。
鍛錬でよく言われる言葉が頭に流れてくる。
当たれば俺の首が飛ぶ可能性があるほど強力で、それだけはダメだと未来が止めてくれた拳だ。
さっきは目前まできてもその危険性がわからなかったけど……二回目を見れば、あいつが怒るのもよくわかる。
ありがとな、未来。
口角が上がる。
今初めて見たのなら、俺は確実に死んでいた。
未来が刻んでくれた危険の記憶と、繰り出される攻撃の僅かな違いを感じ取れた自分に、少し胸が踊る。
──楽しい。
周囲に意識を向ける。
天井、壁、床。全てがマテリアルで作られた、広い広い鍛錬場。
その中にいる自分とロボ凪さん。互いの僅かな動きが、今までよりもハッキリと感じ取れる。
すっげぇ、クリア。気持ちがいい。
伝えなきゃいけないことが増えた。
不安にさせてごめん。助けてくれてありがとう。
おかげでほんのちょっと、成長できたよって。
今のは確か、今朝の鍛錬を切り上げるきっかけになった拳。当たれば俺の首が飛ぶ可能性があったから、それだけはダメだと未来が止めてくれた一撃だ。
「後で、しっかり謝らねぇとな」
これ以上やらせたら本当に死にかねない。そう思わせた。
反省とともに
キューブを剥ぎ取るほど
今のは確か、今朝の鍛錬を切り上げるきっかけになった拳。当たれば俺の首が飛ぶ可能性があったから、それだけはダメだと未来が止めてくれた一撃だ。
(そりゃ、あいつも怒るよな)
口角が上がる。
今初めて見たのなら、俺は確実に死んでいた。
未来が刻んでくれた危険の記憶と、繰り出される攻撃の僅かな違いを感じ取れた自分に、少し胸が踊る。
──楽しい。
今と同じ、急に軌道が変わるロボ凪さんの殴り方。これも体験してみようと動かないでいると、それだけは絶対にダメだと未来に必死で止められた。
朝になるまで俺のわがままに付き合ってくれていたあいつが、キューブを剥ぎ取ってまで切り上げるきっかけになった拳。
これ以上やらせたら本当に死にかねない。そう思わせた。
「後で……しっかり謝らねぇとな」
反省とともに、周囲に意識を向ける。
天井、壁、床。全てがマテリアルで作られた、広い広い鍛錬場。
その中にいる自分とロボ凪さん。互いの僅かな動きが、今までよりもハッキリと感じ取れる。すごく、クリアだ。
少し冷静になる。
伝えなきゃいけないことが増えた。
不安にさせてごめん。助けてくれてありがとう。
おかげでほんのちょっと、成長できたよって。
この一ヶ月でもがいたこと、経験したこと。わがままを言った今日の六時間。どれも無駄にはしない。
全部出し切って、勝つ!!




