表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/176

パラレル・お怒り&バグ搭載③

 真っ直ぐ向かってきているように見せかけて、絶妙な角度が付けられた殴打。これに当たれば、俺の首が飛ぶ可能性があって、未来が止めてくれた拳だ。


(直線の攻撃じゃない時は、必要な分だけ距離をとること)


 避けるために体勢を崩さない。自分へのダメージは最小限に、反撃の機会を作る。


「直せ、癖」

 避けるために体勢を崩さない。自分へのダメージは最小限に、反撃の機会を作る。

(距離、勢い、長さ、向き)


 攻撃範囲を瞬時に判断、一歩後ろへ。

 顔面めがけて放たれた蹴りは空を切る。

 俺には当たらない。


(必要な分だけ距離をとる。回避で体勢を崩さない)


 ノートに書いた気付きを頭の中で復唱。勢い任せになりがちな自分にストップをかけた。

 一ヶ月やり合ってわかったのは、凪さんはこちらの攻撃をあまり避けていないということ。

 狙われている箇所を正確に読み取って、流れるような美しい動作であしらう。できないと判断した時のみ最低限の動きで躱すのだ。

 無駄を徹底的に削ぎ落とした戦法。

 おそらくそれが、弥重凪が持つ最大の強さ。


 腹に鈍痛。最後の一撃だけモロに受けた。


(ほんっとにもう、わけわかんねぇ強さ……!)


 顎を蹴られそうになって、咄嗟にバク転で回避する。

 わかってる。避けたつもりでも当たってしまうのは、あの人の柔軟性によるものだってことくらい。

 拳も脚も、ロボ凪さんは力任せに振り抜いたりしない。

 絶対に当てられるよう直前で軌道を変えるのだ。


「意地悪なんだよ……おししょーさまッ!」


 蹴る。足払いされそうになって、そうはいくかとジャンプしたままロボ凪さんの側頭部を。

 運良くクリーンヒットしてロボ凪さんは床へ倒れ込む。

 結構な勢いで頭をぶつけたんだろう。マテリアル特有の甲高い音が鳴る。

 さらにダメージを加えるべく着地と同時に拳を振り下ろした。



「ちょっと、隆! なんでここにいるの、休んでって私お願いしたでしょ!?」


 バンッ! と扉を開ける大きな音と同時に飛んできた未来の怒声。耳には入るのだが、俺は謝ることはおろか反応すらできない。

 思いきり蹴ったことで壁に叩きつけられたロボ凪さんから、パッパラパーラーラーなんて大袈裟な音楽がなる。課題クリアの証拠。おめでとうの音。

 ……いや、おめでたくない。

 やめろそのパッパラパーラーラー。

 やめてくれ、その体勢で鳴らさないでくれ。


「あ、あの。隆? おめでとうって言えないくらい顔が真っ青なんだけど……」


 クリアのメロディーに怒りは吹っ飛んだのか、いつもの声色に戻った未来は心配そうに俺を覗き込む。

 ありがとな、気づかってくれて。でも大丈夫だ。あちこち怪我はしてるけど、顔面蒼白になってる理由は痛みじゃないから。


「隆?」

「やらかした……」

「うん?」

「わざとじゃないけど、やらかした」


 それ以外言わない俺を●した未来は、答えを知るべくピクピクしたまま動かないロボ凪さんに近寄って……理解したのだろう。顔の下半分を手で隠して●の勢いで戻ってきた。

 つまり何が起きたのか。冷静になる。

 蹴ってしまったのだ。男の弱点を、思いっきり。


「ね、ねぇ? あれ、報告するの?」

「あれとか言うな。分身だけど、凪さんだぞ」


 とはいえ、どうすればいい。課題の結果として伝えなきゃだけど、あの人を怒らせない報告の仕方ってなんだろう。隠蔽するにはどうしたら。そう悩んでいると。


「おじゃましまーす」


 ああ、神様どうして。

 凪さんの声が扉越しに聞こえる。母さんが玄関まで迎えに行く足音が聞こえる。

 待ち望んでいたはずの、久しぶりに聞く本物の凪さんの声なのに。どうしてここに来ませんようになんて祈らないといけないんだろう。


「どうにかしてくれ未来。お前ならなんとかできんだろ」

「無茶言わないで。やったのは隆でしょ」

「共犯だろうが。隠すか怒られるかの二択だ、さぁ選べ。さん、に、いち──」


 ガチャ。

 下りてくるの、早いですね。おししょーさま。扉を開けるためのカウントダウンじゃなかったんですが。


「音楽が聞こえたから、もしかしてと思って急いで来たんだけど。……とりあえず、説明してもらえる?」


 言いたくありません。

 説明したらあなたのお説教が飛んでくるから。

 背中を向けたまま黙り込む。中に入ったらしく扉が閉まる音がして、それが一層恐怖を沸き立たせる。


「りゅーうーちゃん? ……ねぇ。こっちを向いてみようか」


 真後ろからかけられる、抗えないその言葉。

 ゆっくりゆっくり振り向けば……にこり。

 いつもの優しい笑顔じゃない。冷たい空気を感じるような凪さんがそこにいた。


「お……おかえりなさい、凪さん」

「うん。ただいま」

「ちょっと早めに帰ってこれたんですね。お疲れ様でした」

「うん。りゅーちゃんもお疲れ様」

「帰ってきてくれて嬉しいです」

「うん。僕も会いたかったよ」


 にこにこ。にこにこ。

 その言葉の中に真実はありますか。

 なぁ未来。助けてくれ。なんで首振ってんだよ。お前も共犯だろ、一緒に怒られようぜ。


「こちょこちょと、お説教と……そうだなぁ。全く同じことをしてあげるのも、可愛い可愛い弟子にとってはいい経験か……」


「ご、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい許してください、わざとじゃないんです、お願いしまっ……!!」


 ビシィッ!! ああ、凪さんはやっぱり大人だ。

 全力のデコピンで済んだよ。良かったな、俺。

 起きたら説教が待ち構えているんだろうけど、とりあえず今は無事に眠りにつける。

 平日だからせいぜい二時間程度で済むだろう。良かったな、起きてからの俺。あとは任せたぞ。

 意識が途切れる寸前、細い布みたいなものを右手に巻かれたのがわかった。応急処置をしてくれたのが未来なのか凪さんなのか、俺には知る由もない。

 だけど、とてつもなく丁寧で。

 目を閉じていてもわかるくらい、綺麗な仕上がりだった。


 課題をもらった時、凪さんに言われた言葉を思い出した。

(ああもう……次から次へと!)

 一ヶ月かけて()()とあの人は言いたかったのだ。

 怪我をしない凪さんと、ボロボロになる俺の違いに気付かせるため。危険と向き合い続けて得たもの全てを、俺に叩き込むために。


 体に切り傷が増えていく。

 動くたび空気に触れて、内部より外側の痛みが優勢になってきた。

 慣れとか習得とか、そういう次元の話じゃない。

 ──隆一郎だけが持ってる能力と、努力を考えての課題だ。自分の強みを活かしなさい。

 体に切り傷が増えていく。

 動くたび空気に触れて、内部より外側の痛みが優勢になる。

 脳が危険を訴える。

 だって凪さん、この国最強の人じゃないですか。

 俺が倒せるわけがないんだから。

 無傷じゃなくていい。

 全ての攻撃を無力化するなんて俺にはまだできないから、凌げる分は凌いで、できるだけダメージを軽減する。

 次に狙われる場所を絞り込めるようになれば、ロボ凪さんだけじゃなく死人相手でも有利に戦えるようになるはずだ。

 さらにダメージを加えるべく着地したと同時に拳を振り下ろした。

 何をされたかわからないが、指の第二関節から血がぷくぷくと滲み出てくる。あのまま続けたら手の半分が吹っ飛んでいた。

 目を見開いて攻撃を中断。すぐに距離を取る。

 指の第二関節から血がぷくぷくと滲み出てきた。

「必要な分だけ距離をとる。回避で体勢を崩さない」


 声で命令して、勢い任せになりがちな自分にストップをかけた。


(わかってんだよ。キューブ無しの限られた攻撃で、どうしてこんなにも差があるのかくらい!)


 慣れるとか奪うとか、無理。

 だってこの国最強の人だから。

 俺程度のやつが倒せるわけがないんだから。


 顎を蹴られそうになる。それだけは絶対に回避しなければならないと必死に横へ転がり避けた。

 もうわかってるのだ。避けたつもりなのに、凪さんの攻撃がどうして

 マテリアルをぶっ壊せる凪さんの拳は、

 凪さんの手刀が拳よりも避けにくいのは、ギリギリまで指を引っ込めてるから。反射的に避けても少しだけ曲げていた指を伸ばせば、数センチ距離と威力を増せる。


 正面突きか、足払いか。わからない。

 ただ何が来たとしても逃れられる方法。

 ロボ凪さんの服を両手で掴む。

「たしかこれが、背負い投げ……ッ!!」


 幾度となく打ち込まれる拳と蹴り。その中で、俺の鼻めがけて突き出された一撃を利用。避けて腕を掴み、後方へ投げ飛ばした。

 確信する。戦えていると。

 敢えて攻撃を体験したからこそわかる、何がなんでも避けるべき攻撃と、こちらが利用できる力の流れ。

 加藤が教えてくれた技法も身についてる。

 成果が目に見えた。


(集中。もっと深く、広く丁寧に)


 五感を研ぎ澄ませる。

 双方が動くたび揺れる鍛錬場の空気。音。

 目と耳、肌も使って、ロボ凪さんだけじゃなく周囲も捉えていく。

 柱の角に叩き付けられことがあったな、なんて思い出しながら、自分の立ち位置

 キューブを使う想定で造られた鍛錬場は素体で戦うには広すぎるけど、わざと壁に近付いて

 幾度となく打ち込まれる拳と蹴り。その中で、俺の鼻めがけて突き出された一撃を躱して腕を掴んだ。会得した柔道を使ってロボ凪さんを後方へ投げ飛ばす。

 目と耳、肌も使って相手を把握するよう試みた。それでも。


「ぐっ……!」


 頑張れば頑張るほど力量の差を思い知らされる。

 マテリアルをぶっ壊せる凪さんの拳は、

 凪さんの手刀が拳よりも避けにくいのは、ギリギリまで指を引っ込めてるから。反射的に避けても少しだけ曲げていた指を伸ばせば、数センチ距離と威力を増せる。



 この国最強の資材、マテリアルを素手でぶっ壊せる凪さん。なのに俺へ突き出す拳は内臓や骨に損傷があっても貫通したりはしない。


 脳機能が全て戦闘モードへ置き換わる寸前。課題を渡された時に凪さんから言われた言葉を思い出した。


 ──隆一郎だけが持ってる能力と、努力を考えての課題だ。自分の強みを活かしなさい。


 その二つを駆使すれば、きっとクリアできるからと。

 あの時は、何を言っているのかよくわからなかった。でも、今ならわかる。


 キューブ無しでの体術戦。攻撃手段は限られているのに、見切れずいくらか体に受けてしまう。

 行くなら今しかない。


 増えていく体の痛みとともに、積み上がっていくのは凪さんに対する心からの尊敬だった。


 避けたつもりでも掠ったり直撃したり、なぜだろうと疑問に思った。


 痛感する。凪さんの強さを。

 一ヶ月弱へばりついてもわからなかったあの人の戦法は、たった六時間程度じゃ俺には理解できない。

 わかっていたはずなのに、間にあるでっかい壁に打ちのめされそうになる。


 幾度となく打ち込まれる拳と蹴りを躱しながら、鍛錬でよく言われる言葉──考えるな、感じろ。と頭の中で復唱した。


 避けて反撃できれば言うことなしだけど、隙のない相手へ無理に仕掛けてもやられるだけ。立て直す方が重要だ。


 手刀が拳よりも避けにくいのは、ギリギリまで指を引っ込めてるから。反射的に避けても少しだけ曲げていた指を伸ばせば、数センチ距離と威力を増せる。

 速すぎて、指が伸びきっていないことに気付けなかっただけ。

 広い可動域もしなやかさも俺には無いし、

 マテリアルを素体で壊せる凪さんの手は、鍛えられてがっしりしているにも関わらず、動きはとてもしなやかだ。

 力任せに真っ直ぐ突き出す俺と違って、最後の最後まで方向が読めない。攻撃の可動域を増やすためのトレーニングで得られたもの。


 凪さんの手刀が拳よりも避けにくいのは、ギリギリまで指を引っ込めてるから。反射的に避けても少しだけ曲げていた指を伸ばせば、数センチ距離と威力を増せる。


 間近で見た凪さんの手のしなやかさ。あれは、攻撃の可動域を増やすためのトレーニングで得られたもの。

 力任せに突き出す俺と違って、ぶち抜く最後までいくつかの◼️を残せるやり方だ。


(マテリアル、拳ひとつで壊しちゃうんだもんな。普通にやったらさすがにできねぇか)


 笑えてくる。理解できないものを『凪さんだから』と決めつけて、区別していた昨日までの自分が。

 常に己を磨いていると知っていたはずなのに、どうして疑問を持たなかったんだろう。どうして、知ろうとしなかったんだろう。


 ──隆一郎だけが持ってる能力と、努力を考えての課題だ。自分の強みを活かしなさい。


 遠征へ出る前に言われた言葉を、今になって思い出す。その二つを駆使すればきっとクリアできるからと、忙しい中で伝えてくれた凪さん。

 あの人はきっと、俺が思ってるよりもずっと俺を信じてくれてる。

 もし、期待してくれているとだとしたら。


「応えるしかねーよなぁ」



 視線は飛んでくる拳とロボ凪さんの体

 目の前の拳につながる手首を掴んだ

 ロボ凪さんのこちらへかかる力を利用して、後ろへ投げ飛ばした。

 宙に浮いたロボ凪さんが落ちてくる。

 無防備になった腹へ、拳をぶっ放す!

 入った感触がしてあと一発。蹴り上げようとした。


 手刀が拳よりも避けにくいのは、ギリギリまで指を引っ込めてるから。反射的に避けても少しだけ曲げていた指を伸ばせば、数センチ距離と威力を増せる。

 速すぎて、指が伸びきっていないことに気付けなかっただけ。

 マテリアルをキューブ無しでぶっ壊せるくらい強力な拳なのに、しなやかで美麗な手も同じ。

 攻撃の可動域を増やすためのトレーニングで得られたもの。

 力任せに突き出す俺と違って、ぶち抜く最後までいくつかの□を残せるやり方だ。

(マテリアル、拳ひとつで壊しちゃうんだもんな。普通にやったらさすがにできねぇか)


 笑えてくる。理解できないものを『凪さんだから』と決めつけて、区別していた昨日までの自分が。

 常に己を磨いていると知っていたはずなのに、どうして疑問を持たなかったんだろう。どうして知ろうとしなかったんだろう。

 ロボ凪さんの動きは不規則。縦横無尽、どこからでも飛んでくる拳と蹴り。

 思いもよらないところから攻撃を繰り出せるのはおそらく、この人の柔軟性によるものだと思う。

 避けたつもりでもその次にくる攻撃にこの三つの要素が含まれるから、いっぱい見て吟味して、先を想定しながら動くべき。

 正面突きか、足払いか。わからない。

 ただ何が来たとしても逃れられる方法が一つ。

 ロボ凪さんの服を両手で掴み、ふらつきを緩和して腹部を蹴った。

 めり込む音がする。手を離してロボ凪さんだけを思い切りぶっ飛ばした。

 凪さんの戦い方が頭じゃなくて体で感じられるようになれば、もっと余裕も生まれるはずだ。


 凪さんは俺の攻撃をあまり避けようとしない。代わりにこちらの攻撃を往なすのが上手い。

 今からくる攻撃がどこを狙っているのか、それを判断して、自分の体に受けない程度の最低限の動きでとどめるのだ。


(避けるために体勢を崩さない。自分へのダメージは最小限に、反撃の機会を作る)


「隆……今のはヤバいよ」

「わかってる。わざとじゃない」

「わざとじゃなくてもヤバいよ……」


 急に声をかけた手前、わるいと思っているんだろう。顔の下半分を手で隠した未来はロボ凪さんへ一歩近付いた。

 だけど、ダメだ。ピクピクしたまま彼は動かない。

 つまり何が起きたのか。冷静になる。

 蹴ってしまったのだ。男の弱点を、思いっきり。


「隆……これ、報告するの?」

「これとか言うな。分身だけど、凪さんだぞ」


 とはいえ、どうすればいい。課題の結果として伝えなきゃだけど、あの人を怒らせない報告の仕方ってなんだろう。隠蔽するにはどうしたら。そう悩んでいると。


「おじゃましまーす」


 ああ、神様どうして。

 凪さんの声が扉越しに聞こえる。母さんが玄関まで迎えに行く足音が聞こえる。

 待ち望んでいたはずの、久しぶりに聞く本物の凪さんの声なのに。どうしてここに来ませんようになんて祈らないといけないんだろう。


「どうにかしてくれ未来。お前ならなんとかできんだろ」

「無茶言わないで。やったのは隆でしょ」

「共犯だろうが。隠すか怒られるかの二択だ、さぁ選べ。さん、に、いち──」


 ガチャ。

 下りてくるの、早いですね。おししょーさま。扉を開けるためのカウントダウンじゃなかったんですが。


「音楽が聞こえたから、もしかしてと思って急いで来たんだけど。……とりあえず、説明してもらえる?」


 言いたくありません。

 説明したらあなたのお説教が飛んでくるから。

 背中を向けたまま黙り込む。中に入ったらしく扉が閉まる音がして、それが一層恐怖を沸き立たせる。


「りゅーうーちゃん? ……ねぇ。こっちを向いてみようか」


 真後ろからかけられる、抗えないその言葉。

 ゆっくりゆっくり振り向けば……にこり。

 いつもの優しい笑顔じゃない。冷たい空気を感じるような凪さんがそこにいた。


「お……おかえりなさい、凪さん」

「うん。ただいま」

「ちょっと早めに帰ってこれたんですね。お疲れ様でした」

「うん。りゅーちゃんもお疲れ様」

「帰ってきてくれて嬉しいです」

「うん。僕も会いたかったよ」


 にこにこ。にこにこ。

 その言葉の中に真実はありますか。

 なぁ未来。助けてくれ。なんで首振ってんだよ。お前も共犯だろ、一緒に怒られようぜ。


「こちょこちょと、お説教と……そうだなぁ。全く同じことをしてあげるのも、可愛い可愛い弟子にとってはいい経験か……」


「ご、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい許してください、わざとじゃないんです、お願いしまっ……!!」


 ビシィッ!! ああ、凪さんはやっぱり大人だ。

 全力のデコピンで済んだよ。良かったな、俺。

 起きたら説教が待ち構えているんだろうけど、とりあえず今は無事に眠りにつける。

 平日だからせいぜい二時間程度で済むだろう。良かったな、起きてからの俺。あとは任せたぞ。

 意識が途切れる寸前、細い布みたいなものを右手に巻かれたのがわかった。応急処置をしてくれたのが未来なのか凪さんなのか、俺には知る由もない。

 だけど、とてつもなく丁寧で。

 目を閉じていてもわかるくらい、綺麗な仕上がりだった。


「未来ーっ! 雨が降るらしいから三階の洗濯物取り込んでー!」


 母さんの声で顔を上げる。

 こんなに良い天気なのにと思いつつ、未来の「はーい」という返事とともに階段を駆け上がる音を聞く。

 今しかない。ダッシュして玄関へ。ドアを開けた。


「あっ、土屋ー! 相沢ー!!」

「俺!! できた!! できたぞー!!」


「わるいっ、今から挨拶回り行ってくるから!! また明日来てくれー!!」


「……こりゃ、負けてらんねぇな」


 呟いて、短く返信する。

 添付された写真と本文は、斎と秀がずっと頑張っていた新キューブ完成の報告だった。

 報告は改めて二人にしてもらうとして、泣いて抱き合っている感動の瞬間をダイジェストにお送りしますとのこと。

 勝手なイメージだけど、冷静に書いてる阿部も涙で顔をボロボロにしてそうだ。


 最後の最後まで自分の力でやる。

 一ミリの世界を大事にしたい。


「よろしくお願いします」


 ロボ凪さんの前へ立ち、開始前の挨拶をする。

 いつもと同じ佇まい。隙のない構え。すぐにでも戦える状態で待ってくれていた彼も、ぺこりと礼をした。


 さっきまで受けていたロボ凪さんの攻撃を脳内で再生して、分析。痛みに悶絶して気付いた点を書き連ねる。


(待て。これって確か……)


 立つ。勉強机に移動して、積み重ねたノートの中から数冊引っこ抜く。今書いた自分の文と照らし合わせた。


「──やっぱり、違う」


 ロボ凪さんの攻撃を避けて分析した数日前と、今回体験してわかった内容。わずかだけど、認識にズレがある。


「体感より、もっと内部。……中枢(ちゅうすう)の破壊か」


 修正してインプット。

 ペンを進める。

 自分の体で動きを再現しながら、細かな情報と対処法を書けるだけ書いていく。


「足りねぇな」


 部屋の一角から山積みのノートを持ってくる。

 これは、凪さんや未来との鍛錬、戦ってきた死人の種類と能力、倒し方や反省。これからに繋げられるようにと、日課のように書いている自分の記録。

 本当なら並べて格納しておきたいけど、一ヶ月につき四冊、場合によっては五冊ずつ進むから棚だけじゃ収まらない。

 心強いこれまでのデータを読み返して、六時間じゃ補えない部分の解決策を探す。

 インプットとアウトプットを繰り返した。


 コン、コン。


 机にかじりついて数時間。聞き慣れた音がして、作業は止めないまま「はい」と返事をする。

 扉を開けて静かに歩み寄って来た人物は、机の端に俺のキューブを置いた。


「いいのか? お前の目を盗んで、こっそりやってるかもだぞ、俺」

「信用してる。自力でここまできた隆のこと」


 声から優しさを感じて、顔を上げた。

 机に広げたノートをじっと見つめていた未来は、俺の視線に気付いたのかこちらに目を向ける。そして、微笑んだ。


「隆の強みは、慣れの早さ。だけどそれ以上に、こうして努力して、頑張り続けられるのがすごいなって、私は思う。誰にでもできることじゃない。隆のすごいところなんだよ」


「上手く言えないけど」なんて、ちょっと照れたように笑う未来。その表情があまりにも可愛らしくて、俺の顔もついほころんだ。

 今までは時間こそ耐えられても数回の反撃しかできなかったが

 頬に入れようとした拳。片足を一歩後ろへ、大きく状態を捻って拳を握る。反動を利用してぶち抜いた。


(──入った)


 確信する。


 戦えてる。今までは時間こそ耐えられても数回の反撃しかできなかったのに。

 敢えてロボ凪さんから離れていた時間と、学びの成果が目に見えた。


「がっ!」


 すぐ戻ってきたロボ凪さんに顎を殴られた。

 立て直しが早い。くらくらする。


(視界が歪もうと足がおぼつこうと、動きを止めるな)

 頬に入れようとした拳。片足を一歩後ろへ、大きく状態を捻って拳を握る。反動を利用してぶち抜いた。


(──入った)


 確信する。


 戦えてる。今までは時間こそ耐えられても数回の反撃しかできなかったのに。

 敢えてロボ凪さんから離れていた時間と、学びの成果が目に見えた。


「がっ!」


 すぐ戻ってきたロボ凪さんに顎を殴られた。

 立て直しが早い。くらくらする。


(視界が歪もうと足がおぼつこうと、動きを止めるな)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ