パラレル・後始末
斎と秀は、火事という理由で全校生徒の避難を行った。
その判断が功を奏し、被害者は一人も出なかった。
実際、火元は特定できないが火事が起きている現状から、校長の放送や先生の協力の力も大きかっただろう。
だからこそ、火が消え安全になった確認を終えてから、全員集まって、時々実施される避難訓練がどれくらい重要であるかの再認識とみな無事で良かったと話をされた。
消防の人たちも駆けつけてくれたが、火は未来が消してしまったから消火活動は必要なく、改めて同じように、身を守るための話がされた。
教員と、大体の生徒はそれを信じた。
今回の騒動は、何かしらで起きた火事が原因であると。
ただ、うちの教室にいたやつらはそうはいかない。
俺がクラスメートを連れ去っているのを見ている人がいる。
異様な雰囲気を纏う俺を見られている。
隠すつもりなんて毛頭ない。包み隠さず話して、みんなを巻き込んでごめんなさいとしっかり謝るつもりでいた。
だけど、一般人を巻き込まないのがまず第一優先のマダーの仕事において、敢えて混乱を招くような話はしたくないという未来の意志もあって、考えを少し改めさせられる。
だから、保健室にいた時に長谷川が提案してきたのだ。
演技だったふうにしたらいいんじゃないかと。
そもそも今日の今朝から寝っぱなしだったのはこの昼休みのための下地準備であったとして、俺がおかしくなってクラスメートを誘拐、それを見つけた長谷川、阿部が窮地に追いやられ、そこへ未来がヘルプに入って俺を倒し、事なきを得る。
そういう、元から練られていたストーリーがあるかのように見せかければ納得できるでしょ? と。
『でもどうしたらいいのかなぁ? 口で説明しても信じて貰えないかもしれないよねぇ』
阿部の疑問は当然で、俺も未来も顔を合わせるしかなかった。
そこでにひひと笑い始めた長谷川は、とんっと胸に手を当てたのだ。
『アタシを誰だと思ってんの? 割となんでもできる凛子さんですよ?』
調子よく鼻高にそう言った長谷川は、俺たちを連れ向かった先はパソコンルーム。
学校中を飛び回ってる鳥型の防犯カメラ、監視鳥が映していたものなのだろう、俺と未来の戦闘中の映像をいじくった。
作業最中に見た内容から、未来がどうやって俺を助けてくれたのかを知る。
そうして完成したのが、一つの動画だ。元の映像を使って、カッコよく、美しく、ドラマティックに修正が施された一つの動画。
映像は所々抜き取られていて、俺が死人だと思われるであろうシーンは完全カットされていた。
未来が俺を刺した瞬間も、上手くカメラの位置を切り替えて隠し、突きの攻撃でノックアウトという形で終わった。
それを教室に戻ってから、俺たちのクラスのやつらにだけスクリーンを使って見せ、今回の事態で何がしたかったのかと伝える。それが、未来の歓迎会。
なんだかんだやってないから、せっかくならかっこいい未来をみんなに見てほしい。そんな長谷川の気持ちに未来が応えてくれたのだと。
クラスは大盛り上がりを見せたが、世紀末先生だけは怒りを顕にした。
それなら先に言いなさいと。
そう叱る先生に長谷川がするりと言い訳で出した理由は、『ド迫力映像のために、みんなに緊張感を持ってほしかったから』。
なるほどなるほど、そりゃ知らずにいたら混乱も甚だしいよ。
リアルな映像が撮れるだろうよ。
俺たちはその理由に上手いと思ったが、当たり前だろう、更に怒られた。
先生側にだけはきちんと言っておきなさいと。
俺が攫ってしまったクラスメートに謝った後、斎と秀も一役買ったとして、俺たちはそろって生徒指導室に呼び出され、校長も横に座って世紀末先生に再度こんこんと叱られて現在に至る。
「わかった。ありがとう、しっかり理解できた」
怪我の具合を聞いた先生は俺たち一人一人に順に視線を合わせていく。
そして、最後に未来を見た先生は、なんだか申し訳なさそうな顔で再度聞いた。
「相沢、隠していることはないか。長谷川が言うように、本当にお前の歓迎会をするべくした行為で、間違いないんだな?」
その問いは、先生が俺たちを怒る原因になった話を確認するためのもの。
だけど、未来に聞いた、隠していることはないか、という先生の最後の質問は、何か違う理由があったのではないかと勘付いているようにも見える。
未来をチラと見た。
質問を投げかけられた未来は、全く動揺せずに、はいと肯定した。
「凛ちゃんが歓迎会したいって言ってくれてすごく嬉しくて、つい……」
はにかむ未来の表情は、多分だけど演技じゃない。
あの動画を見たクラスのやつらから、改めて多くの歓迎の言葉がかけられたのだから。
「……そうか。ならいい、話は終了! みんな気をつけて帰れよ」
「ひゃっほーい! お説教おーわり! 自由の身だー!」
「こら! 長谷川!!」
わざと大きく伸びをして悪気なさそうに見せる長谷川を叱る世紀末先生は、この後校長から怒られるんだろう。悪いことをしてしまった。




