パラレル・帰還と夢の声(隆元気バージョン)
ヘンメイを討伐したことで、能力で変えられていた部屋が元の状態に戻り始めた。
華やかだった天井や壁、自然に近い地面も関係なく全てが小さな長方形に区切られて、一マスずつ裏表をひっくり返していく。
マス目の形も相まってか、流れるように変わっていく光景がトランプの神経衰弱みたいに見えて、最後の最後までゲームっぽいなと思う。
「未来、見つけたらすぐ言えよ! 一人で戦闘なんて怒るからな!」
『わかってる。隆こそもう体力無いんだから気を付けて。産月はもちろん、空間の歪みもね』
「言われなくても、よっと。自分から突っ込むほどバカじゃねぇっての!」
通信機に返事をしながら眼前のブラックホールを避けて、急加速。
変化の最中だからか亜空間への入口がいくつもある。間違って入ってしまわないよう注意しながら、俺は【花火】で、未来は【羽状複葉】で火山エリアの巡回を急ぐ。
産月という組織。そのうちの今回の事態を招いた張本人を見つけ出すために。
未来が言うには現実へ戻った斎と秀が先にゲーム内を調べてくれていて、ヘンメイ以外の死人がいないのは既にわかっているとのこと。
でも身を隠すくらい高位の死人であればできるだろうから、五感を使ってしっかり見て回ろうという話で合点した。
(他のエリアは国生先生がデータを完全削除、空間自体を無くしたから探さなくて済む。結衣博士の補佐だけあって、機械いじりの腕は斎といい勝負してるな)
研究員総出での的確な対応。それが全て司令官の指示だと聞いたからだろうか。見てもいないのに向こうの光景が映像になって脳内で繰り返し再生される。
リスペクトが止まらない。
「つか、お前ほんとに体調良くなったんだな? 何度も言うけど無理はすんなよ」
『ありがとう。さっき説明した通り、今は加奈子が【精神の解放】を使ってくれてるから平気。むしろ絶好調だよ』
体調が良くなったからか、『ふふん』と笑うところから長谷川の真似をする未来。
『現実の体をすこーしリラックスさせてやれば、あら不思議。完全回復した未来ちーの出来上がり! だってさ』
「似てる、似てる」
緊張感長谷川の自信満々な顔が想像できるほど似ていた。
『研究所の空気を軽くするための技がさ、こんな形で助けてくれるとは思わなかったよね』
「だな。さすが長谷川、どう対処すればいいかすぐに思いつくとこマジで尊敬する」
いったん会話を切り上げて、ほぼ元に戻ったエリアを飛びながら観察。
柔らかかったはずの土は岩石になって、その下にはマグマがあるらしく隙間から見える色は妙に赤い。光源は細っこい三日月が務めるも、厚い雲に覆われてしまってほとんど役割を果たせずにいる。
ヘンメイがいた頃の華やかさとは打って変わって、怖さを前面に出した独特なステージだ。
「んっ!」
視線を前に戻した瞬間、目に入る小さな影。
「【大賢の槍】!」
「【木刀・改】!」
声が重なって、互いにハッとする。
槍と刀がぶつかった瞬間に体重を前方へ移動、くるりと一回転。
未来を飛び越えて数メートル先で着地した俺は慌てて振り向いた。
「わるい! 怪我しなかったか」
「大丈夫。私もごめん、つい……」
敵ならすぐ切り掛らないと、という意識が強くて、どちらも反射的に攻撃してしまったことを詫びる。
どうやらエリア内を全部回り切ったらしく、ヘンメイを討伐した辺りで数分前に別れた未来と再会した。
「可能性は元から低かったけど……やっぱりいないか」
「自分で手を汚そうとしない子だからね。操るだけ操って、その子自身はゲーム内に入ってなかったのかもしれない」
「一番嫌な戦い方。ぶん殴りてぇ」
「どうする? ゲーム内にはいないんだったらここいても意味ないよな」
「うん。ちょうど隆と通話終えた後にあいか先生から連絡が来てね。もしいなかったらガラス玉から痕跡を辿るから、早めに戻ってきてくださいって」
「んなことできんのか?」
「結衣博士ができるらしい。さすがに時間はかかるみたいだけど……」
「俺さ、結衣博士も哲郎博士も名前と斎の両親なのは知ってるんだけど、面識はないんだよな。どんな人?」
「実は私も会ったことないんだよ」
「マジか」
「ん。基本的にはあいか先生を通してやり取りしてるから、顔も性格も全然わからない」
意外だった。司令官とのやり取りを見てたら
「ん?」
《時間切れにより消失:ヘンメイの記憶》
「……消えちゃった」
「だな。俺はそれでいいと思うよ」
現実世界へ帰るために、体力ゲージの真下にある《帰還》と書かれた文字に触れる。
《帰還申請を受け付けました。リアルワールドへの接続中。暫くお待ち下さい》
待ちながら、隣の未来に目を向ける。
【精神の解放】の効果が強いのか、単純に俺と同じで疲れたのか。眠そうにあくびをして、睡魔に頑張って逆らっている最中だった。
「ちなみに未来さんよ。結衣博士、どんなひとだったら嬉しい?」
「……あいか先生より怖くないひと」
「素直だな」
ほわほわしてるように見えて、実はトゲトゲな国生先生。怖いと思うのは俺だけじゃなかったらしい。
現実へ戻るまで、お互い目を閉じて体を休ませる。
空間の歪みがまだ残っているからか、いつもよりかなり長いカウントダウンの音。
チッ……チッ……と。同じ感覚で刻まれるその音が、家の自室にある青い目覚まし時計の秒針の音と重なる。
あの日見た夢の内容を呼び起こす。
──ウヅキよ。今回は、お前に託す。近々ゆくといい。
──かしこまりました。かならずや、相沢未来の首を獲って帰還いたします。
火山エリアに入った時に思い出した、夢の会話の一部分。他の部分は相変わらず膜が張ったような違和感でよく思い出せないけど、その話し声だけはハッキリと思い出した。
未来を殺しにきたのは、ヘンメイ。だけど実際に操っていたのは、産月って組織のうちの一人。
ウヅキ。そう呼ばれていた、あの死人が今回探し出すべき相手なんだろうか?
いや、ただの夢だった可能性だってある。
なんとなく未来の身が危ないような気がして、本能がお告げのように夢に出した。それだけかも。
(頭、痛くなってきた)
おでこに手を添えて、
俺だけじゃわからないし、まとまらない。
凪さんが帰ってきたら、今回の件も含めて夢の話をしよう。予知夢なんて、そんなことあるわけないって笑い飛ばしてもらえたら




