パラレル・思い出を胸に
retake.1
『あー……あああもうっ!』
「うおっ!?」
ガシガシ、わしゃわしゃ。急に頭を掻きむしり出してびっくりする。
整っていたおかっぱの髪が爆発したように乱れてしまって、ハッとしたのか、またせっせと手ぐしで直していく。初めて会った時のヘンメイを思わせた。
『どう? 戻った? カッコよくなった?』
「え? お、おう」
『あーっ!! ダメじゃん服がデロデロ!』
至る所についた泥や返り血を見ては、何度も「うわー」と唸り声を上げる。服の破れは体の再生と一緒に修復されていたが、付着物はどうにもできないのか。
retake.2
至る所についた泥や返り血を見ては、何度も『あ〜!』と唸り声を上げるヘンメイ。服の破れは体の再生と一緒に修復されていたが、付着物はどうにもできないらしい。
retake.3
至る所についた泥や返り血を見ては、何度も唸り声を上げる。
しょんぼりと項垂れる様子に、素顔が見えた気がした。
retake.4
「わかった」
濡れた頬に、伝う涙。
彼女が決めた結末に。最大限、寄り添おう。
retake.5
『言おうと思ってたけど……ふふっ、秘密にしとこうかな。メイと主君の思い出は、メイたちだけのものだから』
『でも覚えておいて。二人とも』
『誰かのセーブデータは勝手に消しちゃダメだよ。データの中には、そのプレイヤーの思いや◼️が込められてるんだから』
『愛情を持って育てたキャラクターを、他人の手によって消されてしまったら、プレイヤーだけじゃなくそのキャラクターも哀しくてつらいんだ』
『メイみたいに生まれてしまわないように。友だちから借りたものは、きちんと同じ状態で返してあげて』
『ふふ、何言ってるかわからないか』
『なんでもいいよ。メイはただ、主君と再会できて、ともに過ごせて幸せだった。それだけさ』
retake.6
『つい、泣いてしまったから。やばいと思って、通常でないフリをした。正気に戻ったように見えただけ、やっぱり討伐しなければ。……キミには、そう思ってほしかったんだ』
『今、殺れ。そうでなければこのゲームは終わらない。己に課せられた義務を間違えるな』
『やれ!!』
retake.7
『……キミは、不思議だな』
ヘンメイの頬に、雫が一つ落ちる。
そこで初めて、俺は今泣いているのだと自覚した。
槍を持つ手は震えて、心臓を刺すはずの穂が焦点を合わせてくれない。
次第に視界が歪んでくる。目が熱くなってくる。
『なぜ泣いているんだ。メイとキミは、友だちでもなんでもないじゃないか。つい数刻前に初めて顔を合わせて、自分の意思でないとはいえ、キミの大事な子を殺そうとした。たくさん、たくさん……傷つけたんだよ』
ヘンメイの手が、槍の柄を持つ。
ぐっと自分の腹へ引っ張り始めた。
「おいっ……」
『わからないよ、何年経っても。なぜ死人に同情する? どうして自分たちを襲いに来る者を理解しようとする? なにゆえ……わかりあえると信じるのか』
『そうさ。わかりあえないなんて嘘だよ。メイたち死人と、人間が共に暮らせるのなら。お互いが本当にわかりあえるのだとしたら。メイたちは幸せだ』
赤い涙が溢れてくる。
頬を伝う雫が銀色の髪を濡らしていく。
retake.8
最近、『優しい』と言われることが増えた。
最初は特に何も思わなかった。俺の中ではごく当たり前のような言動でしかなかったから。
だけど今、自覚した。
『優しさ』だけでは、救えないものもある。
その『優しさ』が、誰かを滅ぼす種になり得る。
──それでいい。それでいいんだ。
そうか。司令官、あなたがあの時泣きそうなかおをしていたのは、その事実に気付かない俺を哀れに思って。
それでいて……周りと違う俺に、それでもいいと自信を持たせたかったからなんですね。
retake.9
赤く、赤く、燃え上がる槍を押し込む。
ピキピキとひび割れる音がする。パキッと音がする。
泣きわめくヘンメイは、ひびに対抗して再生を始める。
割れて再生してを繰り返す。
槍の先へ、龍を模した炎を作り出す。どこまでも気高き炎の龍は、青い心臓の中心に生を宿す。
芯から焚きつけるように、再生の◼️に負けないように。
「ヘンメイ、ありがとう」
感謝を忘れたりしないように。
痛くて、苦しくて。泣き続けていたヘンメイの瞳が揺れて。俺と未来をゆっくりと見て。
そうして、微笑んだ。
瞼が閉じる。
再生する速度が急に落ちる。
全てを託すように、全身から力が抜けた。
retake.10
一思いにやってくれと言いたげに、瞼を閉じて、仰向けのまま腕を開いてみせた。
しかしなかなか刺してもらえないと不思議に思ったのか、
『隆一郎?』
「俺は、仲間を殺せない」
『お前……この期に及んでッ!』
「しっかり覚えとけよヘンメイ。俺はお前や凪さんが言ってたみたいな優しさの権化でも◼️でもない」
「ただの、わがままなクソガキだ」
『……は?』
ヘンメイは素っ頓狂な声を出す。
当たり前だよな、
『このっ……、これだからガキは嫌いなんだ! 言うこと聞かない、ルールは破る、ケンカしたからって勝手にひとのセーブデータを消す! その後のことなんて知ったこっちゃない!』
『主君はカッコイイんだ! 物静かだけどしっかりしてるし、強くて優しい大人なんだ!!』
『お前らみたいなガキじゃないんだからな! バーカ、バーカ!!』
retake.11
「「黙祷……」」
感謝の気持ちを添えて、願う。
どうか彼女の死後に、来世に──幸あれ。
「【炎神】!」
剣先に龍を模した炎を作り出す。思いを込めた炎の龍は、青い心臓を芯から焚きつけた。
再生の限界を迎えた体が粒子になって、ゆっくりと集結。赤い朱雀の紋様が入ったガラス玉へと変化する。
寄り添うように置かれたドロップアイテムが、淡い光を零していた。




