使わなかったヘンメイシリーズ
retake.1
「斎、水の塊ちょうだい!」
「えっ!? けど相沢、さっき大きな技は使うなって!」
「大丈夫、今ならきっと……!」
「【椿オイル】」
手に◼️が。
retake.2
『なるほど……そういう手もアリですか』
先生の小さなため息。聞いてくださいと前置きして、俺たちの意識を向けさせる。
retake.3
一対四になっても◼️をヘンメイは、目に見えないスピードで纏めて全員に刃を振るう。
死なないとわかったからなのか、みんな斬撃を受けることに躊躇していない。
だけど、《ヒット》と表示されるだけでもう血は出なかった。プロテクションのおかげだろう。
『反転を封じるのに必要かと思って、一応持ってきてはいましたが……いらぬ心配だったようですね』
『みなさん、ヘンメイは一緒に遊んでくれる人に懐きます。つまり今広げているゲーム……将棋で遊んであげるのが、この場における彼女にとっての喜び。心の声を聞こうと言うのなら、その駒の力を使いながら戦うのがベストとわたしは思います』
ルールに厳しいヘンメイと、親しくできる人は数えるくらいしかいなかったらしい。そんな少し寂しいエピソードを聞かされながら、一番近い位置、数メートル先にある《銀将》の駒へ飛び乗る
「うぉっ!」
聞いてはいたが、乗った瞬間勝手に動く感じに驚いた。
カツンッと乾いた音を出して前へ。俺が乗ったままでいると今度は右斜め前へ。行く方向へ選べないらしい。
『どの駒を使っていただいても構いませんが、注意してほしいのは先程の衝撃で駒の向きがバラバラになっている点。何度も言いますがヘンメイはルールを守らない者への当たりが厳しくなります。本来の向きへ戻した上で乗ってください。決して、避けようとはしないでくださいね』
最後の一言に未来がうっと声を出したような気がする。
いや、気のせいかもしれないが。
「ん、当たらないっ!」
『焦らないでください。ヘンメイは素早いので、百パーセント狙い通りに打てる人でも躱されるのが普通です。攻撃中はその場を離れられないと言っても、全く動けないわけではありませんから』
「右へ二ミリ、下に三ミリ。相沢、追加して五発撃ち込んで!」
「ラジャ!」
「うん!」
最善が見える瞳の力を借りて、数秒先の景色を長谷川に伝える。そして、それに最も近づけるよう風を未来の弾丸の側面に当てて、細かく軌道修正。
『大丈夫です、進んでください! 攻撃と防御を同時にはできません、できるなら扉を消したりしないはずです!』
『駒が揃いました』
『では始めましょうか。詰め将棋を』
『なるほど……あなたが、ヘンメイを』
retake.4
死人の大砲から銀のエネルギー弾が放たれた。
未来の足先が、百八十度、変わる。
視点を転換。奴に振り向きながら、手の形状を変えた。
「【木製銃】……ッだん!!」
一撃。未来の渾身、植物のエネルギーを凝縮した一つの弾が死人へ向かう。こちらに迫っていたエネルギー弾を相殺するよう放った。が。
もとより苦手な遠距離攻撃、そこに追加された焦りと、痛みで上がらなくなった腕。
照準がズレているのが打った瞬間にわかった。
当たらない。残り、一センチが。
出したくもない小さな悲鳴が漏れる。
銀のエネルギー弾が右腕に接触、肩からもぎ取られた。血が吹き出る。体力ゲージが減少する音がする。
全員体力を半分以上削られる
未来に至ってはほぼゼロに近い。
『ステージ、ーー。反転』
部屋がモノクロになる。
心臓が呼吸が、自分の意思に関係なく、止まる。
『バイバイ少年少女。ハズレもろとも、生と死が逆になる世界へ……生きることを許さぬ絶対の死の世界へ、行ってらっしゃい』
そう言った直後、死人が素っ頓狂な声を上げた。『え?』と。
俺たちも同じような声を出す。目の前で起きている不思議な現実に。
一面の、海。
『……なんで。オセロは、反転の技だよ?キミたちに関わるもの全てを反対にするステージだ。なのに……』
見開いた青い瞳で何度も俺たちを下から上へと見る。
一人ずつ。
そうして未来を抱えたままの俺へ近づいてきた。
『……はん。これか』
死人がーーする。未来を見て。
「花言葉は、もう一つ。海の恵みだ」
知識人の秀がーー
反転……本来なら、地獄の海とかにでもなりそうなところだけど。この作用はきっと、未来だからだ。
ーーーと考えている未来が、海に対してーーだと思うはずがないのだ。
『腹が立つよ』
retake.5
「……思い出したよ、ピーマンの花の、もう一つの花言葉」
「『海の恵み』。……人は、海から生まれたって説がある。
「絶対的な海の力を前に、あなたの殺しの技は効かない」
理性を失ってしまった死人へ、未来は説明する。
相手は言葉まで失ってしまったらしい。なんの返答もせず、瞳孔を■にして未来を睨んでいた。
(反転……全てを逆にする。水の中で呼吸ができなくても、相手のわあが発動してる場合それすらも逆になるから呼吸ができる)
今の一瞬で、相手の新たな技を理解して、俺たちを守った。
想像力、理解力、対応力。
体はもう疲弊し切ってるはずなのに。
「下がって」
未来が俺たち後ろにして、左手で髪を一度梳く。
不思議な光景だった。未来の手が髪に触っただけで、周りの水を弾くように
撥水。
下から未来の片手が球状の海を持ち上げる。
投げた。
「……お前、やっぱすげぇわ」
「みんながいる方が、私は強くなれるみたい。
「……ヘアオイル、だな。さっきの」
「こいつが普段つけてるやつ。髪質に最大限合わせて調合した、植物から抽出した油でさ。すっげぇ撥水力があんの」
「えへ……技として使うとまた死人化されちゃうかもって思って。上手くいって良かった」
「俺とやった時もつけてた?」
「うん。髪まとめたときにね」
「なんだ、母さんに断ってまで水使う必要なかったじゃねでか……」
「うん?」
「なんか素手で水どうにかできるやり方があるんだと思ってさ、ずーーっと水流して研究してた。けど一向にできなくて、なんでだろってずーーっとやってたんだぞ」
「……隆。さすがに超能力者でもなくちゃそれは無理だと思う……」
「……バカにそんなこと言われるとは」
retake.6
「あれ……?」
使えない、想像できないとのくだり
上手くいかない
「……未来、お前」
熱
「未来を外に出したら」
「ダメだよ、狙いは相沢なんだから。外にあいつが出たらどうなると思う?」
「ごめん、俺が失敗したから」
「違うと思うよ。隆、ちゃんと斬ってくれてた」
「……あの子、もしかしたら、普通の死人じゃないのかも」
「ウミツキに力をもらったって言ってた」
「支配が別にいるってことか?」
「……わかんない、けど」
るるる
凪さんからの連絡だった。
『斬るだけじゃヘンメイの再生力で』
『粉砕して粉々にしないといけない』
「大丈夫ですよ。倒し方さえ教えてもらえたら、どうにかします」
本音を言うと、手助けしてもらいたかった。
だけど電話の向こう側の声や戦闘の音。あと、数日前に凪さんと話した時のことを思うと、俺たちが苦戦するからといってこちらへ戻ってきてもらうのは、気が引けた。
「……俺、」
「実はさ、今朝、新しいキューブ一応完成して」
「相沢の熱とって、体力も回復できたら」
「アタシらはどうする?」
「……私じゃ斬れなかった。アクセルモードを使っても。だから、多分……」
ちらと、未来は俺を見る。
「……俺が切り刻む、もしくは爆破させて粉々にする。くらいか」
「土屋のパワーを考えるなら、切り刻む方が可能性が高いと思う」
「じゃあ作戦立てよう」
斎視点
「谷川!大丈夫か、そっちでは何が起きとるんじゃ、みんなはっ、無事か!?」
「す、すまん。つい」
「……阿部は?」
「あっちじゃ。頸動脈〜、しばらく絶対安静じゃ」
「薬様様だな……」
「たに、かわ君……」
「いいよ、阿部。起き上がるな」
「大丈夫か」
「……ごめんなさい、私……なんにも」
大きな瞳から涙か溢れる。
この子は本当に、ーーだと思った。
「……阿部の力を借りたいんだ」
「やっぱり俺ら、お前がいないとダメだよ」
してんもどる
『ねぇ、イケメン少年とお嬢さん。天才少年はどこに行ったの?』
「さあね、アタシは知らなーい」
『あっそ』
『水流、水流、水流!』
『すっごーい。さっきまで避けられなかったのにどうして急に?』
ちらり
『へぇ……イケメン少年、キミってばサポートもできちゃうんだね』
【アイスコンタクト】の存在に気付かれた。
「鬱陶しいっ、近づくことすらできないじゃん!」
「遠距離から攻撃しても 。どうしようか」
それはまるで乱舞のように。
風を纏って踊る二人の長谷川が
「ぐっ……!」
「大丈夫か!?」
「うっさい! 平気に決まってんでしょ!」
双子側の、腹に刺さった
箱の炎で燃やされる。
もしくは氷点下冷凍される
「……僕に炎で対抗するなんていい度胸だね」
出てくる
「僕の相方が、最高に強い炎使いだってこと忘れてない
自分と相性の悪い相手への対処法ぐらい、考えてない訳ないでしょう」
アイスコンタクトの説明改めて
相手の表情読み取るいきる
「勝った。そう思ったでしょう?」
「勝利を確信した顔……このギリギリのせめぎあいの中でそんな顔ができるとしたら、ここしかないよね」
CPの表情の変化など無に等しい。しかし 鍛錬の成果と、最善を見せる【可視化】の効果が、秀を神の領域へと導いた。
「王手だよ」
ただ──
『バッカじゃないの?』
それさえも覆してしまうのが、強敵と呼ばれる存在である。
retake.7
成金。そんなもの俺は知らない。
将棋のルールなんて未来と同じでよくわからない。
だけど本能が、戦闘の経験が、頭ではなく体を先に動かしていく。
着地した瞬間の僅かな揺れ、沈み込みの深さ、文字から気付くなんとなくの方向。
(──来る)
側転していくつかの駒を渡り、勝手に動くその性質を利用して躱しきる。そして最後に乗った駒は、香車。
「真っ直ぐ、前進」
死人の目の前まで行けるはずだった駒が、ピタリと止まる。
未来の困惑などよそに、真横にいた死人に殴り付けられた。
床に体が横倒、歩の駒によって一マス前へ。上から針が降り注ぐ。
相手のスペースから三枠目。
成金と呼ばれる特殊ーーを、未来の意思ではなく駒が勝手に行ったのだ。
「しまっ……!」
刀が当たる音がした。
「……ありがとな、秀」
「時間かかってごめん」
「インプット、完了だ」
retake.8
『キィああアアアアアアアアッ!!』
甲高い咆哮。
そろそろだろう。目を閉じる。
耳だけで聞いていると、死人の声はやっぱり独特だなと思ったりした。
電話越しの、本人の声を真似た電子機器みたいな音。いくつもあるデータのうち、近い音階より作られた、偽物の旋律。
(セーブデータから生まれた死人……ヘンメイ。お前の本当の声って、どんなのだったんだろうな)
何のゲームかまでは知らないが、それでも、正気だった頃の声の方が近かったはず。
頭に血が昇っていたからもうなんとなくしか思い出してやれない。こうして忘れていくことも、きっとお前らの哀しみを助長するんだよな。
もう少し、寄り添ってやるべきだった。ごめんな。
retake.9
『……主君』
死人が、涙を流した。
(今なら、もしかしたら……!)
retake.10
『メイの……負けだね』
「ヘンメイ。お前のこと、聞かせてくれ」
『鍵を差して。それは、そのためのものだろう?』
『ようこそ。メイの中へ』




