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元・答え合わせ

挿絵(By みてみん)



 だいぶ空が暗くなり、ボロボロになった校舎がキチンと修復された頃。溢れかえっていた体育館から、恐かったとか、やっと帰れるとか言いながら大体の生徒が下校した後のこと。

 俺は土屋と阿部さんから返して貰った赤いキューブを手に持って見つめながら、ある人を捜して校内をぐるぐると巡回していた。


 あの惨劇の中、誰よりも一目散に駆け付けてきそうなのに、影ひとつ見せなかった青い目の女の子を。


 ときどき気持ちを落ち着けようと、前髪に付けている星のゴムを取っては括り直しをしながら。


 今どこにいるか聞くのを忘れたという土屋の代わりに、率先して捜しに来たのだ。……いや、そう言われなくても捜しに来ていた。


 土屋と秀は、阿部の付加能力の使いすぎでまだ動けないから、ふたりきりで話せるのは今ぐらいしかない。あいつらは、多分知らない方がいいと思うから。


 だけどどこを捜してもあの子の姿は見えなかった。教室も、図書室も、体育館とか、物置になってる多目的室にも。


「いや、まだ見に行ってないところ、あるな」


 本来昼休みしか開いてない場所。でもキューブを使えば、鍵なんて簡単に開けられる。

 もしかしたらと思って、職員室で鍵を借りてから一番近い階段を駆け上がる。

 3階まで登って、今上がってきた階段とは少し離れたところにある3段の階段を上がって、ゆっくり外に繋がるドアを開いた。




「……やっぱり、ここにいた」


 屋上のドアを閉める。一応邪魔されないように、外から鍵をかけた。


 フェンスに全体重を預けて座り、しんどそうに呼吸をしている彼女に向き直って、ゆっくりと歩み寄る。

 こちらに気付いた碧眼の少女は目を大きく見開いて、後ろ手にフェンスを掴もうとする。


 ガシャン!


 勢い余った手は大きな音を立ててフェンスを殴るように掴んでいた。


 彼女の荒い呼吸がしっかりと聞こえる位置まで俺は近付いて、その場にしゃがむ。多分葉っぱで作ったらしいその服は、ボロボロだった。()()()ような跡と、()()()()()()()()()()()()()()()

 俺を見る彼女の目は、睨んでいるようにも、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える。色んな思いが頭の中を交差しているんだろう。

 だけどおそらく、この言葉が一番しっくり来ると思う。


 彼女は


 怯えているんだ。





「……相沢さん」


 小さく声をかけるが、返答は無い。ただ、その印象的な瞳が小刻みに動くだけ。それに伴って、瞼が少し震えているだけ。


「怖がらないで。何もしないから」


 聞きたいことも、言いたいことも、色々、本当に色々あるけど……こんな状態のこの子に、今すぐに暴力的な言葉を言えるほど俺は鬼にはなれなかった。


 何気なく目を泳がせると、右腕のケガかくしのパットが少しずれていた。本人は気付いていないみたいだけど、チラッと中身が見えてしまった。


 その事実が悟られないよう、自分の腰に巻いていた夏用のカーディガンを慎重に掛けようとしたとき、ふと、首から少し大きな水晶のネックレスが付いていることに気が付く。

 細かいチェーンが布にひっかからないよう、強ばった肩へとカーディガンを羽織らせた。


「綺麗なネックレスだね。誰かからの贈り物?」


 離れた方が落ち着いてくれるかもしれないと、少しだけ距離を置いて隣に座る。


「……凪さんが、大阪からこっちに来る時にくれたの。会う度にここに加護の力を注いで、何かあったときにこの力が私を守ってくれるようにって」


 小声で答える彼女は、左手で右腕をそっと掴んだ。


「へぇ。弥重先輩、やっぱりカッコイイなあ……」


 ジーンとくる俺に彼女は少し笑った。






 そのまま、無言の時間が過ぎていった。

 何を喋るでもなく、ただただふたり揃って暗い空を見上げていた。

 言うべきか、言わざるべきか。

 知らないフリをするべきか、はっきりとさせるべきか。


 しばらく経って、右にいる相沢さんの呼吸が落ち着いた頃、彼女はぽつんと言った。


「どうして怒らないの」


 不意をつかれた俺は、こちらに体を向け覚悟を決めたような鋭い瞳を、まっすぐに向けている彼女に言葉を失う。


「わかってるよ。谷川君が、全部わかってて何も言わないの。谷川君勘がいいんだもん。今日の事だって、気付かないわけないもんね」


 確信を持った言い方に、自分も覚悟を決める。

 彼女の答え次第で、もしかしたらもう、友達でいられなくなるかもしれなかったから。


「……怒ってた。ちょっと前まで」

「……」


 心の内を、隠すこと無く話そう。お互いに。


「俺の大事な幼なじみで、親友で、研究の良きパートナーだから。俺が血まみれになった秀を見つけて駆け寄ったあの時、あの瞬間に全て悟ったよ。やったのは、相沢さんだって」


「……早いね。そんなにすぐ気付いてたの?」


「知ってたから、死人は日の出てる時間は動きが鈍くなること。だからイレギュラーで時々昼間に出てくる事はあっても、その(ことわり)を知らない雑魚ばっかりだって」


 ここから、ここから、きっと君は傷付いた顔をするかもしれない。

 俺はそうさせてしまうのかもしれない。

 でも、君はそれを望んでるんだよね。


「あまりにも出来すぎだと思ったんだよ。

人型で、目は青くて、体から自由に能力を扱うことが出来る。哀しい気持ちから魂を宿らせ、人間を殺すことに快楽を覚えて、命を奪うことに悦びを感じる。凄まじい身体能力で人間を撹乱させて、この世のものとは思えない奇怪な声を上げる。

……こんな所謂『死人』が、昼間に、しかもゴミ箱じゃなく学校で、最初に手をかけるのが秀。それでいて最初から最後まで殺しにかかっていたのは、秀と、土屋だけ」


「……考えすぎだって、思わなかった?」


「思った。でも、相沢さんならできるだろうし。それに電話口で言った大男2人。あれは秀と土屋の事でしょ? アリバイなんてしっかり考えてなかったから、咄嗟に''印象''が出ちゃったんだよね」


 相沢さんの目が揺らぐ。


「最初はもちろん怒ってたよ。なんでって。でも落ち着いて見てたら、全部ふたりの為かもしれない事に気付いた。

ケンカしてどうにもならないあいつらを、仲直りさせて、チームとしても上手くやっていけるようにわざとふたりだけで戦わせた。

阿部のパワーアップは良いにしても、ふたりじゃないと意味が無いから、折を見て長谷川は追い出してね」


「……」


「チームで協力出来ないマダーはすぐに死ぬ。だから死ぬかもしれない極限まで追い込む事で、無理矢理成長を促した。力の把握が出来ている人なら、そんな悪魔みたいな方法が使えるからね」


 緊張する空気の中、自分の唾を飲み込む音が大きく聞こえるような気がした。


「……これが、俺が考えた君の行動の真実。心の底からあいつらを思ってくれているから。本当なら今折角楽しく過ごせてるこの関係を無くしたくないだろう。だからこんな危ない橋を渡るようなことしたくなかったはず。……だから、信じたいんだ。相沢さんのこと」



 その為の……真偽を確かめる為の、君を傷付ける一言。








「相沢未来さん。君は、死人しびとなのか?」








 麗しい碧眼が少し見開かれた。こちらを真っ直ぐと見ていた目に、瞬きが増える。


 ……マダーとして。マダーとして、そうしたのならそれでいい。ふたりを殺そうとしていたのが、『相沢未来』だと知られたくなかった、それだけなら。

 だけど、もしかしたら。可能性のうちの0.01パーセントでも、その可能性があるうちは、俺は君を心の底から信用してあげられない。

 だから言って。人間だって。死人なんかじゃないって。転校してきたあの日と同じように、生まれつき碧眼で、正真正銘人間だって。


 応えて。俺の気持ちに。


 俺は、俺は君を信じたい。


 だから、だから言って。人間だよって。




 言って……。









「────そうだよ」






 長い沈黙の末、彼女の口から出た、言葉。


「私は、谷川君の大事な人を殺そうとした。血がぶぁって出て、すぐに治療しなきゃ絶対死ぬのがわかってた。隆も本気で殺そうとした。学校もぐちゃぐちゃにした」


 目がこちらを真っ直ぐ見た。


「全部わかっててやった。あなたの言う''悪魔みたいな方法''で。関係ない人も巻き込んで。皆がいるこの学校を、私が()()()()戦場に変えたんだよ」


 声がこちらに真っ直ぐ刺さった。


「ふたりが協力できなかったら、学校は壊滅。そしたら関係ない人も殺してた。あなたも、殺してたかもね?」


 笑顔がこちらに真っ直ぐ向けられた。


「楽しかったよ? 心の底から」









「……だったらどうして泣いてるの」





 その綺麗な青い目は、言葉とは反対に沢山の大きな粒を流していた。

 慌てて目を擦る。手につく液体に、彼女は驚きを、いや、戸惑いを隠せなかった。


「なんで……」


「ねぇ、相沢さん。()()()のはもうやめよう?」


 俺はその濡れた手をとった。


「わかってるんだよ。君はめちゃくちゃな事をしているように見えて、本当はとても繊細に動いてた。秀を殺そうとなんてしてない。だって、土屋が薬を持っていたのを君は確認していただろ」


 あの口論になっていた昼休み。あの後悪くなった空気を変えるためにしていた、何気ない会話の中で、相沢さんはこっそり探りを入れていた。


「でも万が一に備えて、秀への攻撃だって危なくないようにしてた。急所が絶対に当たることが無いように絶妙な角度で、深さで。それに朝顔の種が落ちてたよ」


 あの朝顔の種。もしも土屋の気が動転して、薬を使えなかったときの予防線だろう。土屋が意思のない状態で受けたあの体育の時間みたいに、どうにかしてでも薬を使えるように仕向けた。


 相沢さんの顔が、焦りを見せ始めた。


「土屋も殺そうとしてたなら、どうしてマテリアルに()()()()()()()の? 土屋は穴を開けたのは自分の体だと思ってたけど、俺見てたよ。直前に穴を開けたのは、相沢さんだった。土屋は、ただ吹っ飛ばされただけだ」


 手が、震え始めた。


「学校だって、コトの重大さにいち早く気づかせる為だろ? 一般の生徒を巻き込まない為に、わざと()()()()()()()()()()大きく破壊した。だから皆遅れを取らず逃げられた」


 やめて。小さな声が聞こえる。


「だけど君の思ってもみないことがあったとすれば、何も考えずにいたクラスメートを巻き込んだこと。でもあれだって、手をあげた()()だ」


 やめて。また声が聞こえる。


「衝撃で吹き飛ばして、少し激しくコケたようなもの。誰も気付いてなかったけど、あの赤い色は……血糊だった。植物から抽出できるから、大怪我したように見せるのなんて君には容易いことだろ」


「やめて……」


「君がしていたのは、全部」

「言わないで!!!」





 俺の言葉を遮る声。震える手は、腕を伝って、体ごと震え始めていた。




「言わないで、もう、それ以上は……」


「……」


 こちらを見ていた顔は、地面へと視線を落としていた。

 地面にはポタポタと丸い液体が落ちる。

 俺は相沢さんの手を、ギュッと、力を込めて握る。

 相沢さんは手から逃れようとする。でも俺は放さない。ここで放したら、この子はきっと()()()しまう。


「大丈夫」


 俺は自分でも驚くほど優しい声で彼女に言った。

 彼女は目に涙を沢山溜めて、俺の顔を見上げた。


「相沢さん。君がしていたのは、全部、()()()()()する為の演技だろ」


 青い目が、八の字になった眉に押されて細くなる。耐えきれなくなった涙がボロボロと零れる。


 ……ああ、そうか。この子は気づいて欲しくなかったんだ。

 自分は化け物と罵られる存在なんだって、そう自分に()()()()()()()()ことに。

 自分は化け物なのだから。化け物は化け物らしくしていないといけないんだって。

 だから『相沢未来』としてじゃなくて、『死人』を装う事で本気であのふたりと向き合っていたんだ。


 ……難しすぎるよ。


「意地悪なことを聞いたね」


「……ダメだよ、優しい言葉なんてかけちゃ。私は、()()()()()()()として、ひとりで生きていかないといけないんだから」


「誰がそんな事決めたの? 今までに会ってきた人たち? それとも、自分? どうしてそう思うの?」


「……」


 ボロボロ涙を流す彼女は、それには答えてくれなかった。


 ''化け物''

 そう、言われ続けてきたらこう思うようになるのかもしれない。俺には分かってあげられない。

 これは、悪意にまみれた世界で生きてきた、この子にしかわからない深い闇なんだ。


「土屋がいるでしょ」


 その言葉の鎖を、どうにかして解いてあげたい。


「長谷川と、阿部がいるでしょ?」


 人間なのに、自分から死人だと、化け物だと思い込んで生きていくなんて。


「俺も、秀も。みんなそばにいるよ」


 そんなの悲しすぎる。


「もう孤独なんて感じなくていい。自ら関係を避ける必要なんてない」


 気が付けば、彼女を強く抱きしめていた。

 だれより傷ついて、悪意に心を蝕まれて生きてきて。自分自身で気付けないぐらい、心が病んでる事に気付いてしまったから。

 だから、だからこの子がこれ以上孤独の闇に落ちていかないように。


「……もうひとりじゃないんだよ」


 心の底から、この子の近くにいてやりたいと思った。


 黙りを続けていた相沢さんの、小さく嗚咽する声が聞こえた。震える手が、ゆっくりゆっくり、俺の背中へとまわされる。怯えながら、恐れながら。邪険にされるのを怖がるこどものように。


「相沢さん。もう一回聞くよ」





 もう、頑張って答えないでね。





「君は、死人?」


「……がう」


 肩が、大きく揺れる。


「ち、がう。違う。私は、うぁ、私は、人間です……ッあぁ……。うぁ、うああぁぁ……ッ!」


 腕の中の彼女は、タガが外れたように大声で泣きはじめた。


「そうだね。君は人間だ。忘れないで」


 泣き叫ぶ彼女の頭をゆっくり撫でた。


「なんで、なんで責めてくれないの……! こわい、こわいよぉ……うああ」


「うん……こわいね」


 この子には、愛情も、友情も、優しさも、温かさも……全部全部、足りてない。


 悪意の中で生き続けたこの子は、逆にその悪意に()()するようになってしまったんだ。自分が生きていく上で、悪意のサンドバッグにされること自体が、唯一自分にある()()であると思い込んできた。その為に、化け物であり続けなければいけなかった。


 だから、今の幸せが怖いんだ。友達がいるのが怖いんだ。仲間がいるのが怖いんだ。優しさが怖いんだ。守りたい絆が増えたのが怖いんだ。仲違いして戻れなくなるのが怖いんだ。孤独に戻るのが怖いんだ。


 それでいて自分で壊す可能性がある事が、怖いんだ。



 全部全部、君は心の底から怯えているんだ。




「大丈夫」



 今まで以上に強く、抱きしめる。



「その''こわい''は、相沢さんが前に進んだ''証拠''だ」



 体を引き寄せる。



「だから怖がらないで。誰かと共に生きていく事を」



 人の温もりが、少しでも感じられるように。



「ひとりじゃないことを」



 この世界の、優しさを知ってほしい。



 俺でよければ。

 君が感じてこれなかった分俺が伝えるから。

 教えるから。

 だから知って。

 君はもっと、愛されるべき人間なんだって。

 もっともっと、大事にされるべきなんだって。



「怯えないで。大丈夫だから」



 泣きじゃくる彼女に、俺はどれだけのことを伝えられたかはわからない。


 もしかしたら泣くことに必死で、俺の言葉なんてひとつも届いていないかもしれない。


 でもそれでもいいよ。


 泣きたいときは、我慢しないで泣くんだ。


 本当に苦しいときは、大声で泣けばいいんだ。


 今までみたいに周りを気にして小さく泣くんじゃなくて、誰かの胸を借りて、全力で泣いたらいいんだよ。自分の代わりに、その人に涙を受け止めてもらえばいい。



「俺でよければ、いつでもこうするから」



 俺でよければ、いつでも君の心をわかってあげられるから。






 -----------------------------







「落ち着いた?」



 しばらくして、相沢さんは縋り付くようにしていた腕を解いた。離れて見えた彼女の目は、涙でパンパンに腫れ上がっていた。



「ごめんなさい……制服びしょびしょにしちゃった」



 申し訳なさそうに俺の肩から胸あたりを見る。そこは涙で大きなシミができていた。


「問題ないよ。寧ろ嬉しい。ちゃんと相沢さんの声が聴けて」


「まさかこんなに奥底まで知られるなんて思わなかったよ。心の中覗きこまれたみたいだった」


 じっと俺を見る相沢さん。

 も、もしかして不味ったかな?


「でも、もしかしたら気付いて欲しかったのかもね」


「……なら、良かった」


 ホッとした。


「ほんとにもう、さすがというか」


 苦笑する相沢さん。

 ……初めて見る、柔らかい表情。


「でも残念。ひとつだけ間違いがあったよ」

「え?」


 そう言う相沢さんの背中から、ひょっこりと30センチぐらいのヘビが顔を出した。


「え……キクザトサワヘビ!?」


 その背中の模様が特徴的なヘビは、相沢さんの肩を滑らかに移動して、首に頭を擦り付ける。その様子は、懐いている、としか言いようがなかった。


「少し前に死人化したこの子に会って、あんまり危険じゃなさそうだったし、生前を知ってたからついキューブの中の空間に家を作っちゃったの。そしたらすごく懐かれちゃって。だからこの子にお願いして、力を借りたんだ」


 そのヘビの頭を指で撫でる相沢さん。


「確かに『死人らしく』してたのは私だけど、『家族の語り』はこの子がしてくれていたの。だから、『全部』じゃなくて、『ほとんど』、が正解」


 そう微笑んでゆっくりとこちらを向いた。


「私も明治に取り残されそうになったから、慌てて【接木(つぎき)】で逃げようとしたら、ついてきちゃったんだよねこの子。……家族と一緒に行けば良かったのに」


 ヘビは目を閉じてされるがままになっている。


「そうか、俺が死人か疑う要因になったひとつに『見た目』があったんだけど、死人化した魂が乗り移っていれば見た目もそっちに寄っていくんだね」


「そう。隆の意思が死人化したときみたいにね」


 微妙にズレていた違和感が、全て繋がった瞬間だった。


「ちなみにその子どうするの? 存在としては『死人』……になるんだろ?」

「そうだね。でも家族の魂が出て行っちゃってるから、もう全く力はないんだよ。だから」


 俺を見て、笑って言った。


「育てる!」


「……は!?」


「何も悪いことしてないもんねー?」


 頭の上に移動するそのヘビに語りかける相沢さん。

 計り知れない。


 死人を育てるなんて、そんな怖いこと普通誰もしないだろ!?


 戸惑う俺に声を低くして言った。


「大丈夫。おいたが過ぎるようならすぐに消すから」


 びくっ!

 俺もだけど、俺以上にそのヘビは体を硬直させていた。


「いい子だからしないよ。大丈夫」


 焦り出すそのヘビに安心させるよう語りかける相沢さん。

 その顔は、心の底から笑っていた。

 初めて見る、彼女の満面の笑みだった。

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