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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

現実世界百合小説[短編集]

冬の一幕。愛を貴女へ。

作者: 彩音

2020/03/19 内容を書き換えました。作者の勝手をお許しください。

申し訳ありません…。

 夜。先程設置を終えたそれを見て私は意気揚々と鼻息を荒くした。

 これを見たら彼女は何と言うだろうか。

 きっと少し大袈裟なくらいに褒めてくれるに違いない。

 愛してやまない私の可愛い彼女。

 彼女のことを思い出しただけで頬が緩む。

 外にいる時の彼女はいわゆるできる女。

 彼女がわが社に齎した利益は一体どれ程のものであろうか。

 部署が違う私は彼女の活躍を聞くたびに破願して、この人が私の恋人なんだぞ! って鼻が高くなる。

 自慢したい。それが許されるならば会社中に私たちのことを惚気て回りたい。

 けれどそれは許されない。というか私が勝手に自粛してる。彼女は別にいいのにって言ってくれてるけど、もし言ってしまったら彼女の仕事を邪魔してしまうような気がして、だから私は自分の胸の内だけに二人の関係を留めているのだ。


"ガチャッ"と玄関の扉に鍵を刺す音が聞こえた。

 待望の彼女が帰って来たに違いない。

 今日は二十時か。繁盛期が終わったおかげか、どうやら残業もその時よりは短めで済んだようだ。

 

「よしっ」


 いそいそと彼女を玄関まで出迎えに行く。

 私の彼女は一歩家の中に踏み込むと外での仮面が剥がれて途端に甘えたがりな人になる。

 私にハグを求めて来て、「成分吸収」とか言って私の匂いを嗅いだりするのだ。

 一歩間違えば変態的だけど、私はそれが可愛いって思ってる。

 だって心底嬉しそうな顔をして恋人の私を抱き締めるんだよ。

 恋人の私の匂いに癒されるんだよ。

 そんなの可愛いに決まってるじゃないか。


「ただいまー」


 彼女の掛け声より少しだけ遅く玄関到着。

 靴を脱いで揃えている彼女の背後に声を掛ける。


「おかえりなさい」


 振り向く彼女。私は両手を広げて受け入れ態勢をとる。


「栞」

「おいで。美也」


 名前を呼ぶと私の胸に飛び込んでくる彼女。

 抱き締めると頬擦りを始めるのが可愛い。

 片手は彼女の腰にやったまま、もう片方の手で頭を撫でる。

 気持ちよさそうに瞳を蕩けさせる彼女。

 この可愛い生き物。どれだけ私を魅了すれば気が済むのか。


「栞、栞、栞~」

「はいはい、美也の恋人の栞はここにいるよ。今日もお疲れ様、美也」

「うん! 私頑張ったよ。また一つ契約取れたよ。前に担当したクライアントさんがね、私なら間違いないって紹介してくれたんだ~。ねぇねぇ、これって私の人徳だよね。褒めて褒めて」

「ふふっ、相変わらず凄いね、美也は。よく頑張りました。偉い偉い」

「ふへへ~。栞に褒められた~」


 まったく。これが会社内の荻野美也と同一人物とは思えない。

 会社内の彼女は行動も喋り方さえも違う。

 クールで知的な女性。それが本当の彼女を知らない人たちの彼女の評価。

 真の彼女を知ったら皆はどう思うだろうか。

 まぁ、彼女のことは誰にも見せるつもりはないけどね。

 私だけが知っていればいい。可愛い彼女を私が独り占めするんだ。


 暫く頭を撫でていると彼女は日課の私の匂い嗅ぎを始める。

 汗臭いとかはない筈だ。制汗スプレーをちゃんと吹き付けたし、シトラス系の香水を手首と膝の裏側に吹き付けているから。


「はぁ~。栞の匂い。癒される。女の子の匂い」

「女の子っていう年齢ではないけどね」

「え~。でも栞って出会った頃からずっと同じ匂いだよ?」

「え? そうなの?」

「うん、甘い女の子の香り」


 それは知らなかった。私と彼女が出会ったのは中学の時。

 部活で知り合って仲良くなっていくうちに彼女の側から告白をしてきた。

 実は最初は戸惑った。女の子同士なんて私の意識内には無かったから。

 それは彼女も承知の上だったのだろう。

「三ヶ月。三ヶ月だけ私と仮の恋人として付き合ってみて。三ヶ月過ぎる頃には…。ううん、それより早く栞を私に夢中にさせて見せるから」

 そんなことを私に言って仮の恋人期間を作った。

 それを了承した私が彼女に堕ちるのはあっという間だった。

 部活で私が悩んでいたら驚く程的確なアドバイスをしてくれるし、勉強だって見てくれるんだ。

 デートに行けば自分は道路側を歩いて私には歩道側を歩かせる。

 私の手を引いて私のしたいことを優先してくれる。

 かと思えば自分のしたいこともさり気なく言って来て私と一緒にそれをする。

 心地よい距離感、空間。彼女がくれる、作り出すそれに私はどっぷりと嵌って一ヶ月半もする頃には今度はこちらから告白をした。

 今でも覚えてる。あの時の彼女の嬉しそうな顔。

 ああ、本当に私が好きなんだなって胸の奥が温かくなった。


 その頃から私は変わってないらしい。

 香水なんかもあの頃と違って大人っぽいものを使っているのに何故なのか。

 自分で自分の匂いを嗅いでみる。分からない。

 彼女に聞くと彼女は「香水なんて上辺な物私には通じないよ。私が嗅いでいるのは栞自身の香りだからね!」って自信満々にそう答えた。

 それが本当ならそれは凄いことなんじゃないだろうか。

 普通なら胡散臭いと思うところだけれど、彼女なら本当にできそうな気がするから私はそれ以上何も言えない。


 

 いつもの儀式を終えてリビングに行く。

 そこにあるものを見て目を輝かせる彼女。

 ほらね、絶対そういう反応すると思ってたんだ。

 思い切って通販で頼んで設置を済ませた私。グッジョブ。


「炬燵だ~。栞、栞、炬燵がある」

「うんうん。美也が喜ぶかなって思って通販で頼んでたんだよ。それが今日届いたから設置したの。どうかな? 嬉しい?」

「冬って言ったらやっぱり炬燵だよね。もう、さいっこう!! 早速入ろ」

「うん。そうしたいけど、私はご飯持ってくるから美也は先に入ってて。今日は炬燵で食べましょう」

「炬燵でご飯。気が利くし、優しいし、可愛いお嫁さんを娶ることができて私は世界一の幸せ者だ~」

「な、何言ってんの。もう~。……美也、お酒も飲むよね?」

「うん!」

「じゃあ用意するね」


 ぱたぱたとキッチンへ。

 その前にちらっと彼女を見ると彼女は炬燵に「これからよろしくね」なんてお辞儀している。

 可愛い。それにさっきの言葉。お嫁さんだなんて頬がとても熱くなる。


「お待たせ、今日はおでんだよ」

「やった。大根ある?」

「あるよ。さっき一つ割ってみたけど、中までしっかり色ついてたよ」

「いいねいいね。おでんはやっぱりそうじゃないとね」

「うんうん。私もそれくらいが好き」


 食事準備完了。お酒も用意して乾杯。

 彼女はカシスソーダ、私はスクリュードライバー。

 カクテル言葉の意味は「貴女は魅力的」「貴女に心を奪われた」。

 わたしたちは()()()それを選んだ。


「うまっ。卵も大根も味染み染み~」

「それは良かった。餅巾着もあるよ」

「ほんと? 頂戴」

「んっ。一つでいい?」

「うん!」


 彼女と楽しく食事をして、そして終える。

 それから何気なくテレビをつけると、何かの医療ドラマ。

 なかなか面白そうだったので見ることにする。

 と、患者が生きるか死ぬかドキドキする一番いいところで入るCM。

 彼女がポツリと言葉を漏らす。


「私思うんだけど、昨今のテレビ離れってこうやって一番いいところでCMに入るのが原因じゃないかって思うんだよね。何か萎えるっていうかさ。ハッキリ言って高まってたものを落とされる感じ? ある種冷静になっちゃうっていうかさ、だからせっかく面白い番組でも最後まで面白かった~ってなれないっていうか、CM入れるなら中盤位に入れたらいいのにって思う。起承転結の承のところ。承と転、転と結の間に入れたりするからダメなんだよ。いいところでCM入れるからスポンサー企業の印象も悪くなってる気がする。視聴者の邪魔して」


 それは私も思う。

 確か昭和時代からの名残りなんだっけ?

 もう二つも元号が変わってるのに、いつまでも局が昭和体勢だからテレビ離れとか起きるんじゃないかな。勿論、ネットの影響も少なからずあるだろうけど。


「ねぇ、栞」


 CMが終わる前に彼女が炬燵から出て私に迫って来る。

 その目の色は【したい】の色。


「一応言っとくけど、明日も仕事だよ?」

「大丈夫。一回だけで終わらせるから」

「そう言って終わらせてくれたこと今までにあったっけ? 絶対終わった後追加するじゃない」

「ダメ?」


 う…。そんな潤んだ目で見られると。


「しおりぃぃっ」


 ううぅ…。分かったよ。分かりましたよ。

 なんだかんだで私は彼女のお願いを聞いてしまう。

 彼女に弱い。それもこれも彼女が可愛すぎるから悪いんだ!!


「もう、分かったよ。でも片付けとお風呂終わってからね」

「片付けは明日でいいよ。お風呂は終わってからにしよ?」

「えーーー。でも汗が」

「さっきも言ったじゃん。栞は甘い女の子の香りだよって」

「ん~~」

「栞、キス…しよ」


 彼女の顔が近づいてくる。

 悲しいかな。私はそれに反応して今先程の悩みを忘れてしまう。

 目を閉じ、彼女のことを受け入れる。

 触れる唇。彼女とはこれまで何度もキスをしているが、でも変わることなく甘く感じる。


「栞、愛してる…」

「私も愛してる。美也」

「どれくらい?」

「この世界の砂粒を一つ一つ集めて大きな一つの塊にしてもまだまだ全然足りないくらいにかな」

「それ私のこと大好きすぎない?」

「大好きだよ? そんな当たり前のこと今更聞いてどうするの?」


 私は彼女の言葉で小さく笑う。

 大好きすぎるなんてそんなの本当に今更だ。

 っというか、私の想いは彼女に伝わり切れてなかったということか?

 それは一大事だ。私がどれだけ彼女のことを愛しているか外ならぬ彼女に伝えてあげないと。


「美也」

「んっ?」


 私は彼女の顔を引き寄せて唇を奪う。

 大人のキス。いきなりで驚いた顔をした彼女だったがすぐに私の愛を受け入れてくれる。


「いきなりでびっくりしたよ」

「だって私の愛が伝わり切ってなかったみたいだから」

「栞の愛…。じゃあさっきのが栞の全部?」

「そんなわけないでしょ。もっともっとこれからたっぷり私がどれだけ美也を愛しているか教えてあげるから覚悟してね」

「うん。教えて。栞の愛全部私に教えて」

「美也」

「栞」


 彼女と見つめ合う。

 そして私は彼女に愛を伝える。

 彼女もお返しに私に愛を伝えてくれた。

 気怠くも幸せな時間。

 彼女はここにいて、私もここにいる。

 

「ねぇ、栞」

「うん、何?」

「私、今すっっごく幸せだよ」


 そう言ってはにかむ彼女は物語の妖精のように可愛かった。

 私と彼女。愛は永久に――――。

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