第4話【H.E.A.V.E.N.で体力作り】
俺は酒場から出ると辺りを見渡す。
本当に無法なのか、柄の悪そうな美青年や美女がたむろっている。
俺はなるべく、そう言う人達に関わらず、門番をしている兵士や市場を開く商人と話す。
先の船長と同じでNPCとは思えない会話の仕方である。
まるでキャラクターの一人一人が本当の人間の様に振る舞っている。
「こんにちは」
『おや、こんにちは。私達に話し掛け回るって事は初心者さんだね?』
「え?ええ。そうなります」
果物を売っているお婆さんに話し掛けると俺は頷く。
『礼儀はわきまえているようだね。
それで何が聞きたいんだい?』
「その、どうやったら強くなれるかを……」
『それなら他のプレイヤーを倒しな。
そうすれば、レベルアップするからね』
またである。他の住人に聞いても、その方法以外、教えてくれない。
出来れば、見も知らぬ人と戦うのは控えたいんだけどな。
「あの、他の方法はありませんか?」
『手っ取り早いのはその方法さ。
しかし、それ以外の方法かい。
かなり、地道な作業になるが良いかい?』
「相手を無闇に襲うよりはマシです」
『なら、教えよう。此処から左へ曲がった所へ行きな。
そうすれば、訓練所があるよ』
「本当ですか!?」
『ただし、かなり厳しいから覚悟しな』
俺は頷くとその訓練所へと向かう。
訓練所には練習用の様々な武具やかかしが置かれていた。
そして、その奥には腕を組んで佇む厳つい顔の男性が眠っていた。
「すみません」
『……グー……グー』
「あ、あの……」
『……んお?……あ、いや、すみません。
いや、寝てませんよ?』
いや、今、バッチリと寝てたじゃないか……しかも誰に言っているんだろう?
まあ、それに対してツッコむのは野暮なので敢えて黙って置く。
『それで何の用ですか?』
「此処で訓練させて頂きたくて来ました」
『訓練ですか。別に構いませんが……あ、私、この訓練所でトレーナーをやっているスズキと申します』
なんか滅茶苦茶、本名っぽい。
しかもキャラと話し方が今、一致しないようだ。
『では、貴方の職業を教えて下さい』
「拳闘士になります」
『ふむ。拳闘士ですか……。
なら、此処で学ぶ事はありませんね』
「え?」
いきなり、学ぶ事がないと言われて目を丸くしているとスズキさんが丁寧に教えてくれる。
『拳闘士、もといボクサーについて教わるなら専門のジムで鍛えた方が良いですよ』
「え?専門のジム?」
『H.E.A.V.E.N.は現実の身体能力にも左右されますからね。
如何に強靭だろうと動きが伴わなければ、意味がありませんよ。
つまり、現実世界のジムで鍛えた方が効率的って事です』
つまり、H.E.A.V.E.N.ではなく、現実で鍛えた方が良いって事か?
此処の訓練所では無意味だと……。
折角、教えて貰ったのにこれじゃあ、あんまりじゃないか……。
『……ふむ。何か思う所がある様ですね?』
「はい。実は友人を助ける為にH.E.A.V.E.N.を再開しました」
『ほう。それは今時、奇特な方ですね』
スズキさんはそう言うと組んでいた腕をほどき、訓練所の中央へと歩く。
『良いでしょう。折角の入門者を無下に追い返すのも失礼ですし、私が手解きを致しましょう』
「本当ですか!?」
『はい。では、此方へどうぞ』
そう言って頷くスズキさんに近付くと俺は対峙する様に身構える。
『ふむ。ピーカブースタイルですか?
何か漫画かアニメの影響ですか?』
「あ、はい。見よう見真似ですが……」
『ふむ』
スズキさんは何か考え込むといきなり、拳を叩き込んで来て、ガードした俺の腕を弾く。
そんな弾かれて驚く俺の顎にスズキさんはアッパーを繰り出す。
ガードは間に合わない。
そこで俺はバックステップで下がる。
そこでスズキさんの拳が止まる。
『解ったと思いますが、この世界では打たれる前に打たねば、ガードをブレイクする方法は幾らでもあります。
貴方はアウトボクサーを目指した方が良いでしょう』
スズキさんはそう言って構えを解く。
『まずは基本的な体力作りからお教えしましょう。
それから構えや動作についてです。
長く厳しい道になりますが宜しいですか?』
「はい!お願いします!」
俺は深々と頭を下げるとスズキさんは腕を組んで頷く。
『では、軽くスクワットから始めましょう。頑張って下さい』
こうして、俺のH.E.A.V.E.N.でのゲームスタイルが決まった。