第13話【H.E.A.V.E.N.】
メンテナンス終了後、運営からのメッセージが届く。
【メンテナンスの終了のお知らせ】
『今回のメンテナンスはステータスを極端に大きく振り分けると現実世界の肉体にもダメージがある事が発覚したので行われました。
H.E.A.V.E.N.をプレイして頂いているユーザーの皆様には御不便をお掛けしまして、申し訳御座いません。
運営を代表して謝罪致します。
さて、今回、我々が行ったメンテナンスはこれまでのユーザーの皆様方のステータスなどを弱体化させず、如何に能力発揮するかと云う点を修正した次第です。
結果、一定以上の力には制限を加える事となりました。
先程も言いましたが、ステータスの弱体化ではありませんので御安心下さい。
制限は我々、スタッフが実際にテストを行ったH.E.A.V.E.N.での体験を元に設定されています。
内容につきましては以下の通りです。
※ステータスのどれかが35を超えますとそのステータスで全力を発揮出来る時間は5分となります。
更に60を超えた段階で3分、90を超えた段階で1分となり、その間、制限による安全装置が作用する様になっております。
※この制限は無論、強制ではありませんが、制限時間を超えますと安全装置が外れてしまい、現実の身体に負荷が生じます。
制限時間が迫って来た際はアラームとメッセージが出る仕組みになっていますので御注意下さい。
※それ以上を過ぎますと申し訳ありませんがユーザー様の自己責任となりますので我々は一切の責任を負いません。
上記に関しましては御容赦下さい。
※再度、全力で行動するにはユーザー様御自身の肉体的な負荷にもよりますので、個人差がありますが、最低でも3分は全力での行動は御控え下さい。
ーー以上となっております。
何度も申し上げますが、長期間に渡るメンテナンスでH.E.A.V.E.N.をお楽しみのユーザーの皆様方には大変申し訳御座いませんでした。
今後ともH.E.A.V.E.N.を宜しく御願い致します。
ーーH.E.A.V.E.N.運営代表取締役より』
俺はその内容を読んで顎に手を添えて考え込む。
現時点での俺のレベルは40。
H.E.A.V.E.N.のステータス上の極振りした素早さは127ポイントにもなる。
ーーと言う事は安全装置の作動している1分以内しか全力での行動が出来ないのか。
ただ、この内容からするにそれ以上の時間も動けるらしい。
しかし、警告を無視すると現実での肉体のダメージがダイレクトに来るのだろう。
インターバルを取れば、連続使用も可能らしいが……。
それにしてもH.E.A.V.E.N.の運営はどうやって今、出回っているキットに安全装置を取り付けたのだろう?
回収した訳でもないし、H.E.A.V.E.N.の設定で何らかの作用があるのだろうか?
そんな事を思いながら、俺は彩菜ちゃんにメッセージを送り、H.E.A.V.E.N.の訓練所で合流する。
H.E.A.V.E.N.に入った感じでは特にこれと言った変化はない。
俺は彩菜ちゃんことカエデちゃんと合流するとスズキさんに尋ねた。
「スズキさん、お久しぶりです。
早速なんですが、今回のメンテナンスで、どうやって安全装置なんて物を取り付けたんですか?」
『お久しぶりですね、クレハさん。
その内容に関しましては企業秘密ですが、原理としてはH.E.A.V.E.N.の体感機能を更新しまして制限と言うクッションを設けると言う形で現在、市販されているキットでも問題なく楽しめる様にした次第です。
まあ、言葉で説明するよりも実際に体験して頂ければ、解るでしょう』
スズキさんはそう言うとミットを俺に構える。
『また全力で打ち込んで見て下さい。
H.E.A.V.E.N.の運営スタッフが実際にテストした結果がありますので、また身体に負荷が掛かる事はないでしょう』
そう言われて、俺は全力でスズキさんに向かって踏み込む。
再び、時が止まった瞬間、視界の右上に時間が表示され、カウントダウンが始まる。
俺はとりあえず、30秒を目処にスズキさんのミットに打ち込み続ける。
そして、30秒が経過した段階で俺は再び平常運転の速度に素早さを戻す。
すると前回同様にスズキさんのミットを弾いたが、以前の様な肉体的なダメージはない。
これが最先端技術によるアップデートか……凄いな。
俺が自分のグローブをはめた手を見ていると不安そうに見守っていたカエデちゃんが俺に近付く。
「先輩。なんともないですか?」
「うん。大丈夫そうだよ、カエデちゃん」
俺はカエデちゃんに頷くとスズキさんを改めて見詰め、頭を下げる。
「お心遣いありがとうございます」
『お気になさらず。ユーザーがH.E.A.V.E.N.を思う存分、楽しめる様にするのが、私達の仕事ですから』
スズキさんがそう言うとカエデちゃんがある事を問う。
「どうして、そこまでしてくれるのに運営さんの人達はこんなゲームを作ったんですか?」
「カエデちゃん」
俺がたしなめる様にカエデちゃんに声を掛けるが、スズキさんはにこやかな表情で俺に手を掲げて制す。
『ご不満ですか?』
「だって最初にあんな体験をしたり、こんな無法者はびこるルールを作ったり、人を殺さないとレベルアップしないと表面上で言ってたり、おかしいじゃないですか?
何かあると思うのが、当然でしょう?」
『貴女の言う通りですね』
スズキさんはそう言うと遠い目をする。
『本来、このH.E.A.V.E.N.と言うゲームはある医学研究部が開発した身体的に障害のある方に向けた仮想空間なのです。
まあ、これは最初の項目をきちんと読んでいれば、ご存知だと思われますが』
「えっ!?そうなんですか、先輩!?」
そう叫ぶとカエデちゃんが此方を見る。
そう言えば、カエデちゃんこと彩菜ちゃんはH.E.A.V.E.N.の危険性を自分のお父さんである会長に伝える為だったっけ?
ーーとなると項目を読んでないのも当たり前か。
俺はカエデちゃんに問われて真剣な表情で頷く。
「そうだよ、カエデちゃん。
このゲームは本当の目的は人生を終わらせる事ではなく、人生の価値感を変える事が目的なんだ」
「それがなんだって、こんな人殺しをさせるゲームに?」
『昨今、現実と仮想の壁は消失しつつあります。
つまり、死と言うものが軽く見られ、人を殺すと言うその意味を子供をはじめとする大人達の現代に上手く伝わってないのです。
そこで我々はチュートリアルから死の恐怖を植え付ける事から始めました。
結果として、その試みは成功しましたが、それが都市伝説となってH.E.A.V.E.N.は人生を終わらせるゲームと呼ばれる様になったのです。
無論、実際にゲームでショック死した方もいますし、このゲームがトラウマになった方もいる位です。
当然、そんなゲームの商品化などは本来ならば、出来ません。
ですが、知っての通り、H.E.A.V.E.N.は商品化されました。
何故だと思われますか?』
そう尋ねられて俺とカエデちゃんは首を捻る。
そんな俺達にスズキさんは意外な言葉を口にした。
『H.E.A.V.E.N.が欲望の願望器となったからです。
無論、これに深い意図はありません。
ただ、現実の体感を追究した結果、この様な結果になったのです。
そして、このゲームが人を殺めねば、レベルを上げられない使用になっているのは現実の欲求を満たし、現実と仮想の壁を作る為です。
此方の試みはご存知の通り、失敗に終わりましたが、それ故にコアなユーザーを手に入れた訳です。
こうして、現在のH.E.A.V.E.N.に至る訳です。此処までは宜しいですか?』
「ごめんなさい。全然解りません」
カエデちゃんがスズキさんの言葉に頭を悩ませる中、俺は簡潔に彼女に説明する。
「要はH.E.A.V.E.N.は医学研究部が作った現実に近い欲望をぶつける願望器って事だよ」
「それは解るんですが、なんで、そんなゲームを今でも開発し続けるのか解らなくて……」
『現代の医学の研究費になるからですよ』
頭を悩ませるカエデちゃんにスズキさんはそう告げると話を続けた。
『体感されるユーザーの五感のデータを通して、我々は様々な医学の発展に貢献して来ました。
例えば、80%は眠っていると言う脳に生じる覚醒の促しや仮想と現実の身体的なデータの分析などですね』
「えっ!?それって四六時中、監視されているって事ですか!?」
『どうやら、カエデさんはH.E.A.V.E.N.の項目をご覧になってないようですね?
まあ、最後まで項目を読まれない方の方が多いのも事実ですがね?』
スズキさんはそう言うとカエデちゃんから俺に視線を移す。
かく言う俺も項目を流し読みしただけで、スズキさんが説明してくれるまで詳しくは知らなかった。
『お喋りが過ぎましたね。
改めて、H.E.A.V.E.N.をご理解した上でクレハさん達なりに楽しんで頂ければ、何よりです』
スズキさんはそう言うと笑みを強めて、ミットを手にする。
『さて、それで今日はどうなさいますか?
トレーニングをなさいますか?
それとも、別の事をされますか?』




